【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録
本記事は、2025年6月施行の改正刑法(懲役・禁錮を「拘禁刑」に一本化)を反映した内容です。個別のご事情によって判断が変わるため、具体的な対応は専門家にご相談ください。
「この家に火をつけてやる」「全部燃やしてやる」。同居している子からこうした言葉を向けられたとき、本気なのか、怒りに任せた言葉なのか、親としては判断がつかず、眠れない夜を過ごしている方もいらっしゃると思います。実際に火が出れば、家族だけでなく近隣の住まいや命にも影響が及ぶため、「言葉だけだから」と受け流してよいのか迷うのは自然なことです。
この記事では、子が放火をほのめかしたときに、言葉の受け止め方、法律上の扱い、その場での動き方、住まいの備え、相談先の使い分けを順に整理します。お子さんが成人している場合を主に想定していますが、未成年の場合にも共通する部分が多くあります。
「火をつける」という言葉をどう受け止めるか
放火をほのめかす言葉は、家庭内の口論の中で突発的に出ることもあれば、繰り返し口にされ、準備をうかがわせる行動を伴うこともあります。言葉だけで実際の危険の大きさを測ることはできませんが、一般的には「言葉が出た」という一点よりも、その前後にどのような行動があるかが判断の手がかりになります。
大切なのは、本気かどうかを親が一人で見極めようとしすぎないことです。火災は一度起きると取り返しがつきにくく、ご家族だけでなく近隣にも被害が広がるおそれがあります。そのため、迷った段階で外部に相談することは、決して大げさな対応ではありません。
言葉だけの場合と、準備が伴う場合
たとえば、口論の最中に一度だけ口にし、その後は落ち着いているという場合と、灯油やライターを自室に集めている、家の中の特定の場所を気にしている、日時を口にするといった行動が伴う場合とでは、取るべき対応の急ぎ方が異なります。後者のように具体的な準備がうかがえる場合には、その日のうちに警察へ相談することを考えてよい段階といえます。
法律上はどのように扱われるのか
家族の間のことであっても、刑法上の犯罪が成立しないわけではありません。放火をほのめかす言葉や行動に関係する主な規定は、次のとおりです。
| 行為の段階 | 問題となりうる罪 | 法定刑の概要 |
|---|---|---|
| 「火をつける」と告げて怖がらせる | 脅迫罪(刑法222条) | 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 「燃やされたくなければ金を出せ」と迫る | 恐喝罪(刑法249条) | 10年以下の拘禁刑 |
| 放火の目的で灯油などを準備する | 放火予備罪(刑法113条) | 2年以下の拘禁刑(情状により刑の免除あり) |
| 人が住んでいる家に火を放つ | 現住建造物等放火罪(刑法108条) | 死刑または無期もしくは5年以上の拘禁刑 |
脅迫罪は、生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加えることを告げて人を脅すことで成立しうる罪で、「家に火をつける」という言葉は、財産だけでなく、住んでいる人の生命や身体への害の告知と受け止められることがあります。どのような言葉が脅迫罪として扱われるかの考え方は、【親子問題】「殺す」と言われた|脅迫罪として扱われる線引きでも解説しています。
また、親名義の家であっても、子自身が住んでいる家であっても、現に人が住んでいる建物に火を放てば、現住建造物等放火罪という重い罪の対象になります。「自分の家だから」「家族の家だから」という理由で扱いが軽くなるわけではありません。
家族間の特例が及ぶもの・及ばないもの
刑法には、同居の親族の間で起きた窃盗などについて刑を免除する特例があり、恐喝罪にもこの特例が準用されます(刑法251条・244条)。そのため、放火をほのめかして金銭を要求された場合、金銭の問題としてだけ見ると、刑事手続での扱いには限界が出ることがあります。
一方で、脅迫罪や放火に関する罪には、この特例は及びません。言葉による脅しや、放火の準備そのものは、家族間であっても捜査の対象となりえます。金銭の要求と身の安全の問題が重なっている場合には、両者を分けて考えることが大切です。お金をめぐる言動との関係は、【親子問題】「金を出さないと死ぬ」と子に言われた|命の問題と金銭の問題を分けて考えるでも整理しています。
危険の度合いを見分ける手がかり
次のような事情がある場合には、言葉だけの場合よりも慎重な対応が必要になります。
- 灯油、ガソリン、ライター、着火剤などを自室に持ち込んでいる。
- 同じ言葉を何度も繰り返し、時期や場所を具体的に口にしている。
- 過去に物を燃やしたり、火遊びのような行動をしたりしたことがある。
- 家族に対する暴力や器物の破損が、以前より頻繁になっている。
- 飲酒や薬物の影響、または精神的な不調が強くうかがえる。
- 親が家を出ようとすると、引き止めたり行き先を問い詰めたりする。
これらに当てはまるかどうかは、その時点の印象だけでなく、ここ数週間から数か月の変化として見ていくと判断しやすくなります。
その場でできること
言葉が出たその場で、親が取れる行動には限りがあります。まずは身の安全を優先し、次の順で考えてみてください。
- 火を使う準備をしている、刃物を持っているなど差し迫った様子があれば、ためらわず110番通報をします。火が出た場合は、消火よりも避難と119番通報を優先します。
- 差し迫った様子がなければ、言い返したり挑発したりせず、子と距離を取ります。別の部屋や屋外など、すぐに外へ出られる場所に移ります。
- 落ち着いた後、日時・言葉・行動をできるだけそのまま書き留め、警察の相談窓口(#9110)や最寄りの警察署に相談します。
110番をためらう方も少なくありませんが、通報するかどうかの判断や、電話口で何を伝えればよいかは、【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで詳しく解説しています。子が刃物を手にしている場面については、【親子問題】子が刃物を持ち出した|その場での判断と通報もあわせてご覧ください。
火元になりうる物の管理と住まいの備え
放火をほのめかす言葉が続いている間は、家の中の環境を見直しておくことも、危険を小さくする一つの方法です。
- 灯油やカセットボンベ、ライターなど燃えやすい物・火をつける道具を、子の手の届きにくい場所へ移す。
- 住宅用火災警報器が作動するかを確認し、消火器の置き場所を家族で共有する。
- 親の寝室を、玄関や窓などの出口に近い部屋に移すことを検討する。
- 夜間でも持ち出せるよう、財布・携帯電話・常備薬などを一か所にまとめておく。
- 火災保険の契約内容と、家族の行為による火災がどのように扱われるかを確認しておく。
ただし、子の自室に無断で立ち入って物を持ち出すことが、かえって子を刺激し、衝突のきっかけになることもあります。物の管理をどこまで行うかは、子の状態を見ながら慎重に判断する必要があります。
身の危険を感じる状態が続く場合には、親の側が一時的に家を離れることも選択肢になります。考え方や準備については、【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択で解説しています。
警察・保健所・医療への相談の使い分け
放火をほのめかす言動の背景には、強い怒りや金銭の問題のほか、精神的な不調が関係していることもあります。相談先は一つに絞る必要はなく、状況に応じて組み合わせて考えるとよいでしょう。
| 相談先 | 主に相談できること |
|---|---|
| 警察(110番・#9110・警察署) | 差し迫った危険への対応、脅迫などの相談、相談記録の作成 |
| 保健所・精神保健福祉センター | 精神的な不調がうかがえる場合の相談、受診や支援へのつなぎ方 |
| 医療機関(精神科など) | 診察・治療、入院の要否の判断 |
| 弁護士 | 警察や医療との連携の整理、親の代理人としての対応、家を出た後の生活の調整 |
精神保健福祉法では、精神障害のために自身を傷つけたり他人に害を及ぼしたりするおそれがあると認められる場合に、警察官が都道府県知事などへ通報する仕組みや、家族を含む一般の方が診察と必要な保護を申請できる仕組みが定められています(同法22条・23条)。ただし、これらの手続が取られるかどうか、入院につながるかどうかは、医師の診察などを経て判断されるもので、家族が希望すれば必ず進むものではありません。医療につなぐ判断の考え方は、【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断もご参照ください。
夜間や休日に相談先が見つからないときの窓口は、【親子問題】夜間に子が暴れたときの相談先|時間帯別の窓口でまとめています。
記録を残しておく意味
放火をほのめかす言葉は、その場限りで消えてしまうため、時間が経つと「どのくらいの頻度で、どのような言葉だったか」が曖昧になりがちです。日時、言葉の内容、そのときの子の様子、準備をうかがわせる物の有無などを、メモや日記の形で残しておくと、警察や医療機関、弁護士に相談するときに状況を正確に伝えやすくなります。
また、警察に相談したこと自体が記録として残ることには、後の手続で意味を持つ場面があります。この点は、【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続で詳しく解説しています。録音をする場合は、子を刺激しないよう、無理のない範囲にとどめることが大切です。
してしまいがちな対応で気をつけたいこと
親としては、何とかその場を収めようとして、次のような対応を取ってしまうことがあります。いずれも気持ちとしては自然なものですが、結果として状況を長引かせるおそれがあります。
- 「やれるものならやってみろ」と言い返し、感情をぶつけ合ってしまう。
- 火をつけると言われるたびに、要求された金銭を渡してしまう。
- ライターなどを無理に取り上げようとして、もみ合いになる。
- 近所や親族に知られたくないという思いから、誰にも相談せずに抱え込む。
特に、要求に応じることで一時的に言葉が収まると、「言えば通る」という形が家庭の中に定着してしまうことがあります。警察に相談すると家族関係が壊れてしまうのではないかという心配がある場合には、【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えることも参考になると思います。
弁護士に相談するとできること
警察は差し迫った危険や事件への対応が中心となり、行政の窓口も決められた範囲での支援が基本になるため、家庭ごとの事情に合わせた継続的な関わりは難しいことがあります。弁護士が親の代理人として関わる場合には、子との連絡の窓口を親から弁護士に移す、警察や医療機関との連携の段取りを整理する、子が家を出て生活を立て直すための条件を話し合う、といった対応を検討できます。
当事務所では、自立支援カウンセラーとチームを組み、弁護士が親の側の保護を、カウンセラーが子の日常生活の立て直しを担う形で、親子の問題に取り組んでいます。暴力や危険な言動がある事案では、警察と連携を取りながら、安全に配慮して進めることを基本にしています。サービスの内容は、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
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子が「家に火をつける」とほのめかす状況では、言葉の重さをどう受け止めるかに迷いながら、毎日を過ごしている親御さんも多いと思います。本気かどうかを一人で見極めようとするより、身の安全を確保したうえで、記録を残し、警察や医療、弁護士といった外の力を早めに組み合わせていくことが、ご家族全員を守ることにつながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


