【親子問題】独立した子の家賃を払い続けている|いつまで払うのか
この記事は、2026年10月時点の法令(民法、刑法、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律、老人福祉法、困難な問題を抱える女性への支援に関する法律)と、厚生労働省の公表資料をもとに書いています。公的窓口の名称や運用は自治体によって異なることがあります。
「もう疲れました。子の足音が聞こえるだけで体がこわばります」。家庭内暴力やお金の無心が続くご家庭の親御さんから、ご相談の最初にこうしたお言葉を伺うことは少なくありません。一方で、同じ方が「でも、親の私が休むわけにはいかない」と続けられることもよくあります。
家庭内暴力の解説では、警察への通報、被害届、子の自立支援といった「子への対応」が中心に語られます。それ自体は大切なことですが、対応を担う親御さんの心身が先に尽きてしまえば、どの手段も続けられなくなります。この点は、あまり正面から扱われていません。
この記事では、親御さんが「休む」ことを個人の気力の問題ではなく、手配すべき段取りとして整理します。避難先そのものの選び方や、110番の判断基準などは別の記事に委ね、ここでは親が先に休むために何を外に任せ、何を整えておくかに絞ってお伝えします。
「疲れた」「限界」は、手配を始める合図
限界の手前で出やすい変化
子の問題が長引いているご家庭では、親御さん自身に次のような変化が出ていることがあります。
- 夜に眠れない、または子が起きている時間帯に眠れない。
- 子からの連絡や物音に、動悸や息苦しさを感じる。
- 仕事や家事で、以前はしなかった失敗が増えた。
- 要求を断る理由を考える前に、お金を渡してしまう。
- 自分が家を出ることや、すべてを投げ出すことを考える時間が増えた。
こうした変化は、親御さんの意志が弱いから起きるものではありません。緊張した状態が何か月、何年と続けば、誰にでも起こりうる反応です。
親が倒れると、家庭の選択肢が減る
親御さんが「自分さえ我慢すれば」と踏ん張るのは自然なことです。ただ、親御さんが体調を崩して動けなくなると、警察や行政への相談、記録の整理、子との距離の取り方といった判断を担う人がいなくなります。親が先に休むことは、子への対応を続けるための前提条件と考えていただくのがよいと思います。
休むことは、子を見捨てることではない
成人した子への扶養は「親の生活を保ったうえで」
親が休むことにためらいを感じる理由の一つに、「親には子を養う義務があるのでは」というお気持ちがあります。民法上、親子は互いに扶養する義務を負います(民法877条1項)。ただし、成人して働くことのできる子に対する親の扶養は、一般に、親が自分の生活を維持したうえで余力がある範囲のものと理解されています。親御さんが心身を壊してまで子の生活を支え続けることを、法律が求めているわけではありません。詳しくは【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで解説しています。
未成年の子や、日常の世話が必要な子がいる場合
一方、子が未成年である場合や、病気・障害などで日常の世話を必要とする場合は、親が家を離れる前に、代わりの見守りや支援の手当てを整えておく必要があります。刑法には、保護する責任のある者が必要な保護をしない場合の罪(刑法218条)もあるため、ここは慎重に進めたいところです。未成年の子については、児童相談所が相談先となり、状況によっては一時保護が検討されることもあります。
手配① 連絡と要求の窓口を外に移す
「すぐに答える」状態から抜ける
親御さんを最も消耗させるのは、暴力そのものに加え、昼夜を問わない連絡や金銭の要求に、その都度向き合わなければならない状態です。休むための最初の手配は、要求を受ける窓口を親御さん本人から外すことです。要求を断ることの法的な位置づけについては【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけをご覧ください。
弁護士が窓口になると何が変わるか
弁護士が親御さんの代理人となれば、子からの連絡や要求は弁護士が受け、親御さんに直接届く連絡を減らすことができます。親御さんが「判断する人」から「報告を受ける人」に移れることが、休むための大きな助けになります。窓口を代えることの意味は【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で、ご相談の内容が子に伝わるかどうかは【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方で詳しく説明しています。
手配② 短い期間でも、物理的に離れる
親が65歳以上の場合
親御さんが65歳以上であれば、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(以下「高齢者虐待防止法」)の対象になります(同法2条1項)。同居の子による暴力や金銭の持ち出しは、同法の「養護者による高齢者虐待」として扱われることがあり、生命や身体に重大な危険が生じているおそれがあるときは、市町村が老人福祉法に基づく措置で一時的な保護を図ることになっています(同法9条2項)。市町村には、そのための居室を確保する措置も求められています(同法10条)。窓口は市区町村の高齢者福祉の担当課や地域包括支援センターです。行政が動く仕組みは【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで解説しています。
65歳未満の母親の場合
各都道府県には女性相談支援センターがあり、困難な問題を抱える女性への支援に関する法律に基づいて相談と一時保護を担っています。配偶者からの暴力に限らず、家族からの暴力も対象です。厚生労働省の資料(令和8年4月)では、女性相談支援センターと女性相談支援員が受けた来所相談のうち、「子・親・親族からの暴力」が8,061人(約1割)とされています。
父親や、公的な受け皿が合わない場合
父親の場合や、公的な一時保護の対象にならない場合は、親族の家や宿泊施設などを親御さんご自身で手配することになります。数日でも子と離れて眠れる環境があると、その後の判断が落ち着いて行えることは少なくありません。避難先の選び方や、家を離れる際の注意点は【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択をご覧ください。
手配③ 親自身の心身を診てもらう
親御さん自身が受診する
子を医療につなぐことに意識が向きがちですが、まず親御さん自身がかかりつけ医や心療内科を受診することをおすすめします。各都道府県・政令指定都市の精神保健福祉センターでは、家族からの相談も受けています。お勤めの方は、有給休暇のほか、病気で働けない期間について健康保険の傷病手当金(健康保険法99条)が使える場合もあります。子の医療については【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断で扱っています。
同じ立場の人と話す場を持つ
家族会では、同じ悩みを抱える親御さん同士が経験を共有できます。「自分だけではない」と知ること自体が、休むきっかけになることもあります。【親子問題】家族会・当事者会の役割|弁護士に頼む前にできることもあわせてご覧ください。
休む前に整えておきたいこと
手配の全体像
ここまでの手配を、窓口と向いている場面ごとに整理すると次のとおりです。
| 手配の内容 | 主な窓口 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 連絡・要求の窓口を外に移す | 弁護士 | 要求や連絡に追われて休めない |
| 一時的な保護(65歳以上) | 市区町村・地域包括支援センター | 暴力で心身に危険がある |
| 一時的な保護(女性) | 女性相談支援センター | 家族からの暴力で家にいられない |
| 親自身の受診・相談 | かかりつけ医・精神保健福祉センター | 眠れない、体調が崩れている |
| 同じ立場の人との共有 | 家族会 | 孤立していると感じる |
離れる前の確認事項
家を離れる、あるいは窓口を移す前に、次の点を確認しておくと、休んでいる間の不安を減らせます。
- 身の危険があるときの連絡先と、110番を呼ぶ基準を決めておく。
- 暴力や要求の記録、警察への相談の記録を、子の手の届かない場所に保管しておく。
- 通帳、カード、印鑑、身分証を持ち出せるようにしておく。
- きょうだいなど他の家族と、誰が何を担うかを分担しておく。
- 子への伝え方と、誰が伝えるかを決めておく。
110番の判断基準は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるか、記録の残し方は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録、親御さんが動けないときのきょうだいの関わり方は【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときで解説しています。
休んだ後に考えること
「元に戻す」ではなく「距離を前提に組み直す」
親御さんが休んで落ち着きを取り戻した後、以前と同じ距離で同居を再開すると、同じ状態に戻ってしまうことがあります。親と子が近すぎる距離で互いに依存し合っていることが、問題を長引かせる一因になっている場合もあるためです。休んだ期間を、親子の距離を組み直す準備期間として使うという考え方があります。詳しくは【親子問題】親子が離れて暮らすことの意味|距離という視点をご覧ください。
親と子の双方に支え手を置く
当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子と向き合い、民間の自立支援カウンセラーが子の住まい探し、仕事探し、金銭管理などの日常を支える形で対応しています。親御さんだけが子を支える構図から、親と子それぞれに支え手がいる構図へ移すことで、親御さんが休める状態を保ちやすくなります。ご相談から自立までの流れは【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問で紹介しています。
よくあるご質問
親が家を空けたら、子に家を取られてしまいませんか。
親御さんが一時的に家を離れても、家の所有権や賃借人としての立場が子に移るわけではありません。ただし、戻ったときに鍵を替えて子を締め出すといった対応は、別の問題を生むことがあります。子に家を出てもらう方法は、法的な手続や話し合いを通じて検討することになります。
子に黙って家を離れてもよいのでしょうか。
身の危険がある場合は、行き先を告げずに離れることを優先してよい場面があります。成人した子であれば、親が一時的に家を離れること自体が直ちに問題になるわけではありません。未成年の子や日常の世話が必要な子がいる場合は、先に代わりの手当てを整えてください。
夫婦の一方だけが限界に近い場合はどうすればよいですか。
限界に近い方が先に休み、もう一方が窓口や連絡の役割を一時的に担う分担も考えられます。ただ、残る側に負担が集中すると同じことが繰り返されるため、早い段階で弁護士や行政などの外部に窓口を移すことをおすすめします。
まとめ
- 「疲れた」「限界」と感じたときは、休むための手配を始める時期と考える。
- 成人した子に対する親の扶養は、親が自分の生活を維持したうえで余力がある範囲のものと理解されている(民法877条1項)。
- 未成年の子や日常の世話が必要な子がいる場合は、離れる前に代わりの手当てを整える(刑法218条)。
- 連絡と要求の窓口を弁護士に移すと、親は「判断する人」から「報告を受ける人」になれる。
- 65歳以上の親は、市町村による一時的な保護の対象となりうる(高齢者虐待防止法9条2項、同法10条)。
- 65歳未満の母親は、女性相談支援センターで家族からの暴力についての相談と一時保護を受けられる。
- 休んだ後は、元の距離に戻すのではなく、親子の距離を組み直す準備期間として使う。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、子の家庭内暴力、ひきこもり、お金の無心などに悩む親御さんからのご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。遠方の方からのご依頼にも、全国で対応しています。
ご自身が限界に近いと感じている方も、ご家族のどなたかが疲れ切っていると感じている方も、「休むための手配」から一緒に考えることができます。お一人で抱え込まず、ご相談ください。


