【親子問題】身元引受人になることの意味と責任
家にあったはずの時計やアクセサリー、ゲーム機、カメラなどが見当たらず、子に確かめたところ「売った」と言われた――。親子問題のご相談では、子が親の物を無断で持ち出し、リサイクルショップやフリマアプリで換金していたという話が少なくありません。この記事では、売られた物を取り戻せるかどうかが何によって分かれるのか、警察に相談した場合の見通し、子に対して求められることを順に整理します。
本記事は、成人した子が同居している、または実家に出入りしている家庭で、親の所有物を無断で売却したケースを主に想定しています。個別の事案での結論は、物の種類や売却先、経緯によって変わります。
まず確かめたいのは「その物は誰のものか」
取り戻せるかを考える前提として、売られた物が親の所有物だったかを確かめておく必要があります。親が自分で購入し使っていた物であれば、所有者は親です。一方で、以前に子へ買い与えた物や、「使っていいよ」と渡した物は、すでに子の物になっていると評価されることがあります。家族で共用していた家電なども、誰が購入したかによって扱いが分かれます。
後で売却先と話をする際にも、所有者が親であることを示せるかは重要になります。購入時のレシートや保証書、クレジットカードの利用明細、箱や付属品、親が身に着けている写真などは、捨てずに残しておきましょう。
売られた物を取り戻せるかは、誰に売られたかで分かれる
事情を知らずに買った人は、原則として保護される
民法には、売主が本当の持ち主だと信じて、そう信じたことに落ち度なく動産を買い受けた人は、その物の権利を取得するという定めがあります(民法192条・即時取得)。買い手から見れば、子が親の物を勝手に売っているとは分からないことが多いため、この原則のもとでは、親が「返してほしい」と求めても応じてもらえない場面が出てきます。
盗まれた物であれば、2年間は返還を求められる
ただし、持ち主の意思によらずに持ち去られた物(盗品)については例外があり、被害者は盗難の時から2年間、物を持っている人に返還を求めることができます(民法193条)。子が親の部屋から無断で持ち出して売った場合、刑事上は後で述べる親族間の特例により刑が免除されますが、窃盗にあたる行為であること自体は変わらないため、民事上も盗品として扱われると考えられています。
もっとも、買い手がその物と同じ種類の物を扱う店などから事情を知らずに買っていた場合には、買い手が支払った代金を弁償しなければ返還を受けられないとされています(民法194条)。
リサイクルショップ・質屋に売られた場合
買取業者は古物営業法に基づく許可を受けて営業しており、買い取りの際に売主の本人確認を行い、取引の記録を残すことが義務づけられています。そのうえで、古物商が買い取った物の中に盗品があった場合には、盗難の時から1年以内であれば、被害者は古物商に対して無償で返還を求めることができるとされています(古物営業法20条)。質屋に質入れされた物についても、質屋営業法に同じ趣旨の定めがあります。
買取店がまだ商品を保管しているか、すでに店頭に出たか、別の客に売れたかによって対応は変わります。売った時期と店名が分かっていれば、早めに店へ問い合わせることが大切です。
フリマアプリ・ネットオークションに出品された場合
個人間の取引では、買い手が誰なのかを親の側から把握するのが難しいという問題があります。出品がまだ続いていれば、運営会社に事情を伝えて対応を求めることが考えられます。すでに取引が終わっている場合、運営会社が買い手の情報をそのまま親に伝えることは通常ありませんので、弁護士会照会など法的な手続を通じた確認を検討することになります。
預けていた物を売られた場合は、扱いが変わる
親が子に貸していた車や、保管を頼んでいた物を子が売ったケースは、持ち主の意思で子の手元に渡っていた物であるため、盗品ではなく「預けた物を処分された」場面として扱われます。この場合は2年間の返還請求の例外が使えず、買い手が事情を知らずに買っていれば、取り戻すのが難しくなることがあります。なお、自動車のように登録制度がある物は、即時取得の原則が当てはまらないため、名義がどうなっているかの確認が先になります。
| 売却先・場面 | 取り戻しの見通し | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 買取店・質屋(盗難から1年以内) | 無償での返還を求められる | 古物営業法20条など |
| 同じ種類の物を扱う店(上記以外) | 代金の弁償と引き換えに返還を求められる | 民法193条・194条 |
| 個人の買い手(盗難から2年以内) | 返還を求められる。ただし相手の特定が課題 | 民法193条 |
| 預けていた物を売られた | 買い手が事情を知らなければ難しいことがある | 民法192条 |
取り戻すには、時間との関係を意識する
上の表のとおり、返還を求められる期間には区切りがあります。また、時間が経つほど転売が重なり、物の行方をたどるのが難しくなります。子を問い詰める前に、次のような事実を書き留めておくと、売却先への問い合わせや弁護士への相談がスムーズになります。
- なくなった物の品名・特徴・購入時期と購入額。
- 最後に家にあるのを確認した時期と、なくなったと気づいた時期。
- 子が話した売却先(店名・アプリ名)や売った時期、受け取った金額。
- 購入記録・保証書・写真など、親の物であることを示す資料。
- これまでにも持ち出しがあったかどうかと、そのときのやり取り。
子が売却を認めている場合は、売った店や時期を聞き取ったうえで、その内容をメモやメッセージで残しておくと後の確認に役立ちます。
子が「もらった」「借りただけ」と言う場合
子に確かめると、「前にくれると言われた」「少し借りてお金を作っただけで、後で買い戻すつもりだった」といった説明が返ってくることがあります。贈与があったかどうかは、親子の間では口頭のやり取りで済まされていることも多く、後から争いになりやすい点です。
親として渡した覚えがない場合は、その旨を早めにはっきり伝え、子の説明の内容もあわせて記録しておくことが大切です。買い戻すと言っている場合でも、期限や方法を決めずに待っていると、返還を求められる期間が過ぎてしまうおそれがあります。子の言い分にかかわらず、売却先への確認は並行して進めておくことが考えられます。
警察に相談した場合の見通し|親族間の特例
刑法には、配偶者・直系血族・同居の親族の間で起きた窃盗については刑を免除するという定めがあります(刑法244条1項・親族相盗例)。親子は直系血族にあたるため、同居しているかどうかにかかわらず、子が親の物を盗んで売った行為について、子が処罰されることは通常ありません。そのため、警察に相談しても「家族の問題」として被害届の受理に慎重な対応をとられることがあります。
ただし、特例が及ぶのは窃盗や横領などの財産をめぐる罪に限られます。持ち出しをめぐって暴力や脅しがあった場合には、別に扱われる余地があります。また、警察への相談記録が残ること自体には、後の手続で経緯を示す材料になるという意味があります。被害届を出すかどうか迷う場合は、【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えることもあわせてご覧ください。
子に対して求められること
刑が免除される場合でも、民事上の責任まで免除されるわけではありません。売られた物が戻らない場合や、戻すために親が代金を弁償した場合には、子に対して、その物の価値や負担した金額の支払いを求めることが考えられます(不法行為に基づく損害賠償や、売却代金の返還請求)。
もっとも、子に収入や資産がなければ、請求が認められても実際に回収するのは難しいことがあります。また、親から子へ請求すること自体が関係を悪化させるきっかけになる場合もあります。お金を取り戻すことを最優先にするのか、持ち出しを止めることを優先するのかを、家族の状況に合わせて考える必要があります。返済の約束を交わす場合は、【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界で、書面にしておく意味と注意点を解説しています。
これ以上持ち出されないための備え
一度売って換金できたことで、持ち出しが繰り返されることがあります。貴重品は鍵のかかる場所や貸金庫に移す、身分証・印鑑・通帳を子の手の届かない場所で管理する、といった備えを早めに整えておくことが考えられます。子が親の身分証や印鑑を持ち出している場合は、物の売却とは別に悪用への手当てが必要になります。
持ち出しの背景に、借金やギャンブル、交際相手からの金銭要求などがあることも少なくありません。物を売ることが止まっても、現金やカードの無断利用に形を変えることがあるため、家計の管理もあわせて見直すことをおすすめします。
弁護士に依頼した場合にできること
弁護士が親の代理人となることで、買取店や運営会社への問い合わせ、返還の交渉、子との話し合いの窓口を担うことができます。親が直接子と向き合うと感情的な衝突になりやすい場面でも、第三者が間に入ることで、事実関係の整理や今後の約束事を落ち着いて進めやすくなります。
当事務所では、家庭内暴力や金銭の無心に悩む親御さんからのご依頼について、自立支援カウンセラーと役割を分担して対応しています。物の持ち出しが子の生活の行き詰まりから起きている場合には、取り戻しの交渉とあわせて、子の生活の立て直しを含めた支援を検討することもできます。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
関連する解説記事
- 【親子問題】親の預貯金を勝手に引き出された|刑事と民事の分かれ道
- 【親子問題】子が親の実印や権利証を持ち出した|悪用を止める手続の順序と、使われていた場合の対応
- 【親子問題】子が親のカードで課金・通販をしている|成人した子の無断利用と、支払い・返還の整理
- 【親子問題】通帳・カードを取り上げられた場合の対応
- 【親子問題】家計を分ける実務|口座・光熱費・保険をどう切るか
- 【親子問題】金銭要求に応じ続けた記録は、後で意味を持つか
子が親の物を売っていたと分かったとき、すぐに取り戻せるかどうかは、売却先や時期、物が親の手を離れた経緯によって変わります。期間の区切りがあるため、まずは分かっている事実を書き留め、早めに売却先の確認に動くことが、取り戻せる可能性を残すことにつながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


