落書き・張り紙は器物損壊か建造物損壊か
交際相手との口論のあとに「DVで被害届を出す」と言われ、どう受け止めればよいのか分からなくなっている方は少なくありません。手を出してしまった自覚がある方もいれば、つかんだ程度のことを大げさに言われていると感じている方、身に覚えがないと感じている方もいるでしょう。
被害届が実際に出されるかどうか、出された後にどう進むかは、何があったのか、けがの有無、同居しているかどうか、その後の言動などによって変わります。この記事では、「被害届を出す」と言われた段階で知っておきたい法律上の位置づけと、その時点で避けたい対応、取れる手立てを順に整理します。
本記事の法定刑は、2025年6月1日施行の改正刑法(懲役・禁錮を「拘禁刑」に一本化)を反映して記載しています。
「被害届を出す」と言われた段階で起きていること
被害届は、犯罪の被害に遭ったことを警察に申告する書面です。「出す」と言われた時点では、まだ警察に何も伝わっていないこともあれば、すでに相談だけは済ませていることもあります。言われた側からはどちらなのか見分けがつかないため、「まだ大丈夫」と決めつけないことが大切です。
また、交際相手への暴力として問題になりやすい暴行罪や傷害罪は、被害者の告訴がなくても起訴できる罪(非親告罪)です。そのため、被害届が出ていなくても、110番通報や周囲の目撃をきっかけに警察が捜査を始めることがあります。反対に、被害届が出された後に交際相手が取り下げたとしても、それだけで手続が必ず終わるわけではありません。被害届はあくまで捜査のきっかけの一つであり、事件として扱うかどうかは警察・検察が判断する、という構造を押さえておくと見通しを立てやすくなります。
交際相手への「DV」として問われうる罪
「DV」は法律上の罪名ではなく、どの罪にあたるかは具体的な行為によって決まります。交際相手との間で問題になりやすいものを挙げると、次のとおりです。
| 行為の例 | 問われうる罪 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 叩く・押す・腕を強くつかむ・物を投げつける | 暴行罪(刑法208条) | 2年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金、拘留または科料 |
| けがをさせた・体調を崩させた | 傷害罪(刑法204条) | 15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 「殺す」など生命・身体等への害を告げた | 脅迫罪(刑法222条) | 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 相手のスマホや持ち物を壊した | 器物損壊罪(刑法261条) | 3年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金または科料 |
| 部屋から出さない・閉じ込めた | 監禁罪(刑法220条) | 3月以上7年以下の拘禁刑 |
暴行罪の「暴行」は、殴る・蹴るに限らず、人の身体に向けた有形力の行使を広く含むと解されています。つかむ、突き飛ばすといった行為も対象になりうる点には注意が必要です。どこまでが暴行にあたるかは、押した・つかんだだけで暴行罪になるのか|「有形力の行使」の範囲で詳しく解説しています。
あとから診断書が提出されると、暴行ではなく傷害として扱われることもあります。けがの程度が分からないまま話が進んでいる場合は、相手にけがをさせた自覚がない|傷害罪の「傷害」はどこからかもあわせてご覧ください。
被害届が出された後の流れ
被害届が受理されると、警察は交際相手から事情を聞き、けがの写真や診断書、やり取りの記録などを集めたうえで、相手方(届けを出された側)に連絡してくるのが一般的です。その後の進み方は、大きく分けて次の2つです。
- 身柄を拘束せず、呼び出しに応じて取調べを受けながら捜査が進む(在宅事件)。
- 逮捕され、勾留を経て、最長で20日あまり身柄を拘束されたまま捜査が進む(身柄事件)。
どちらになるかは、事案の重さに加え、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるかどうかで判断されます。同居している、合鍵を持っている、連絡を取り続けているといった事情があると、被害者に働きかけるおそれがあると見られやすく、逮捕に至ることもあります。逮捕の判断の分かれ目については、逮捕されるケースと逮捕されないケースの分かれ目|通報から立件までに何が起きるかで整理しています。
なお、暴行罪の公訴時効は3年、傷害罪は10年です。その日のうちに警察が動かなくても、しばらく経ってから連絡が来ることはありえます。
言われた直後に避けたい対応
「被害届を出す」と言われた直後は、焦りから相手を説得しようとしたり、記録を消したくなったりしがちです。ただ、次のような行動はかえって状況を悪くするおそれがあります。
- 被害届を出さないよう、何度も電話やメッセージで頼み込むこと。
- 相手の自宅や職場、実家に押しかけて話をつけようとすること。
- LINEやメッセージ、写真などのやり取りを削除すること。
- 共通の友人や相手の家族を通じて、取り下げを働きかけること。
- 言われるままに、金額や条件を確かめずにその場でお金を渡すこと。
繰り返しの連絡や訪問は、被害者への働きかけや証拠隠滅のおそれとして評価され、逮捕の判断に影響することがあります。事件の内容を知る人に対して面会を強く求めたり威圧的な言動をとったりすると、別の罪(証人等威迫罪など)が問題になる場面もあります。また、やり取りの記録は、後で経緯を説明するための大切な材料です。自分に不利に見える部分があっても、消さずに残しておくことをおすすめします。
心当たりがある場合に考えておきたいこと
手を出してしまった自覚がある場合、選択肢の一つになるのが示談です。示談は、被害の弁償や謝罪を行い、相手に許してもらうことを書面で確認するものです。被害届が出る前に示談がまとまれば、警察への申告そのものが見送られることもあり、出された後であっても、検察官が処分を決める際に考慮される事情になります。
ただし、交際相手との示談を本人どうしで進めるのは、あまりおすすめできません。感情的な話し合いになりやすいうえ、「脅された」「無理に書かされた」と受け取られる危険があるためです。示談を持ちかける時期や進め方は、示談を始めるタイミング|被害届前・受理後・起訴前で何が違うかや示談で刑事事件化を防ぐには|被害届提出前の示談がカギになる理由で詳しく説明しています。
示談書には、金額や支払方法のほか、宥恕(処罰を求めない意思)の有無、今後の接触の取り決め、清算条項などを盛り込むのが一般的です。関係を続けるのか終わらせるのかによっても、入れておくべき条項は変わります。
身に覚えがない・お互いに手が出ていたという場合
DVと言われた内容に身に覚えがない場合や、事実が大きく誇張されていると感じる場合は、安易に認める内容の文書に署名したり、謝罪のつもりで事実と異なることを書いたメッセージを送ったりしないことが大切です。その時点の状況を時系列でメモにまとめ、やり取りの記録を保存しておくと、後で説明する際の助けになります。考え方は【男女トラブル】「交際中に暴力を受けた」と言われたが身に覚えがないでも解説しています。
口論の中でお互いに手が出ていたという場合には、自分も被害を受けた立場として申告できる可能性があります。ただし、相手の届出への対抗として出すかどうかは慎重に考える必要があります。この点は相手も殴ってきた(相互暴行)|被害者でも加害者でもある場合をご参照ください。
なお、事実と異なる内容で被害届を出された疑いがあるからといって、すぐに相手を責めるのは得策ではありません。虚偽告訴罪が成立するには、うそであると認識しながら申告したことが必要で、ハードルは低くありません。
「出されたくなければお金を」と言われたら
被害を受けた人が「被害届を出す」と告げること自体は、正当な権利の告知であり、それだけで脅迫にあたるわけではありません。一方で、被害の実態とかけ離れた金額を求めたり、応じなければ勤務先や家族に知らせると迫ったりする場合には、恐喝が問題になる余地もあります。
どちらにあたるかの見極めは難しく、言われるままに支払ってしまうと、後から金額を見直すことは容易ではありません。考え方の目安は、「被害届を出す」と言われた|正当な権利の告知と脅迫の境界で整理しています。
刑事手続とは別に起こりうること
交際相手への暴力をめぐっては、被害届のほかにも動きが出ることがあります。生活の本拠を共にする交際相手であれば、配偶者暴力防止法(DV防止法)にもとづき、裁判所に保護命令を申し立てられる可能性があります。2024年4月施行の改正で、身体的な暴力だけでなく、生命や身体等に対する脅迫によって重大な危害を受けるおそれがある場合も対象に加わり、命令に違反した場合の罰則も重くなりました。同居していない交際相手との間では、ストーカー規制法による警告などが問題になることもあります。
どちらの手続が関わるかの違いは、交際相手からのDV(デートDV)|保護命令は使える?同棲の有無で変わる対応で解説しています。自分の言動がどこまで問題になりうるのかを見直したい方は、【男女トラブル】デートDVの加害者だと言われた|自分の言動を法的に見直すも参考にしてください。
弁護士に相談するとできること
「被害届を出す」と言われた段階で弁護士に相談すると、次のような対応を検討できます。
- 何があったのかを聞き取り、問われうる罪名と今後の見通しを整理します。
- 交際相手との直接のやり取りを控え、弁護士が連絡の窓口になります。
- 心当たりがある場合は、謝罪や被害弁償を含めた示談の申入れを代理人として行います。
- 警察から連絡が来た場合に備え、取調べでの受け答えの注意点を事前にお伝えします。
- 逮捕された場合には、早期の釈放に向けた働きかけを行います。
警察から連絡が来た段階での相談の意味については、【刑事事件】警察から電話が来た段階で弁護士に相談する意味で詳しく説明しています。
関連する解説記事
- 押した・つかんだだけで暴行罪になるのか|「有形力の行使」の範囲
- 逮捕されるケースと逮捕されないケースの分かれ目|通報から立件までに何が起きるか
- 示談を始めるタイミング|被害届前・受理後・起訴前で何が違うか
- 在宅事件になった場合|見えない時間の進み方
- 暴行・傷害の公訴時効|時間が経ってから捜査が来る理由
- 【男女トラブル】デートDVの加害者だと言われた|自分の言動を法的に見直す
まとめ
交際相手から「DVで被害届を出す」と言われた段階は、まだ取れる手立てが多く残っている時期でもあります。その一方で、焦って相手に頼み込んだり、記録を消したりすると、かえって不利な事情として扱われるおそれがあります。何があったのかを落ち着いて整理し、相手との直接のやり取りを控えたうえで、早めに専門家の意見を聞くことが、結果的に負担を小さくすることにつながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


