【刑事事件】交際相手への傷害で逮捕された、職場への影響は?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

交際相手にけがをさせて逮捕されたとき、ご本人やご家族がまず心配されるのは「会社に知られるのか」「仕事を失うのか」という点ではないでしょうか。逮捕されたこと自体が勤務先に自動的に通知される仕組みはありませんが、身柄拘束が続けば欠勤が重なり、事情を説明せざるを得ない場面が出てきます。また、交際相手との間で起きた事件には、見知らぬ人とのけんかとは異なる事情があり、それが身柄拘束の長さや職場への伝わり方に影響することがあります。この記事では、職場に伝わる経路、職場での処分が決まる考え方、勤務先への連絡の組み立て方、刑事手続の中でできることを順に整理します。

本記事は、2025年6月1日施行の改正刑法により懲役・禁錮が「拘禁刑」に一本化された後の法律にもとづいて記載しています。個別の事件の見通しは、事実関係によって変わります。


逮捕されたことが職場に伝わる経路


警察から勤務先へ逮捕を知らせる仕組みはない

 警察や検察が、逮捕した人の勤務先へ逮捕の事実を知らせる制度はありません。捜査機関には職務上の守秘義務があり、民間企業にお勤めの方であれば、逮捕されたことが警察から会社へ直接伝えられることは通常ありません。
 ただし、知らせる制度がないことと、知られずに済むことは別の話です。実際には、次のような経路で勤務先に伝わることがあります。

  • 逮捕・勾留が続き、出勤できない日が重なります。
  • 報道機関が事件を取り上げ、氏名が報じられることがあります。
  • 捜査機関が勤務先に対し、勤務状況などを問い合わせることがあります(捜査関係事項照会)。
  • 交際相手や共通の知人が同じ職場にいて、そこから伝わることがあります。


 このうち、多くの方にとって現実的な問題になるのは欠勤です。逮捕から起訴・不起訴の判断までは最大で23日間に及ぶことがあり、その間、ご本人は自分で会社に連絡できません。報道については、事件の内容や社会的な関心の度合いなどによって判断され、すべての事件が報じられるわけではありません。報道への対応は実名報道は避けられるのか|報道の判断と弁護人ができることで、勤務先への問い合わせについては【刑事事件】会社に捜査関係事項照会が届いた|従業員として知っておくことで詳しく解説しています。

公務員や資格が必要な職業の場合

 公務員の場合は、民間企業とは扱いが異なります。起訴されると休職とされることがあり(国家公務員法79条、地方公務員法28条2項)、拘禁刑以上の刑が確定すると、執行猶予が付いた場合でも失職につながる定めがあります(国家公務員法76条・38条、地方公務員法28条4項・16条)。医師・看護師・教員など、法律で免許や資格の欠格事由・行政処分が定められている職業でも、刑事処分の内容が資格に影響することがあります。

交際相手への傷害事件で身柄拘束が続きやすい理由

 傷害罪の法定刑は「15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」です(刑法204条)。けがの程度が軽い事件では、逮捕されずに在宅のまま捜査が進むこともあります。一方で、交際相手が被害者となる事件には、身柄拘束の判断に影響しやすい事情があります。
 一つは、被害者との距離の近さです。互いに住所や連絡先を知っており、同居していることもあります。そのため、釈放すれば被害者に接触して供述を変えるよう働きかけるのではないか、同じことが繰り返されるのではないか、と受け止められやすい傾向があります。
 もう一つは、男女間の暴力として扱われることです。交際相手や配偶者からの暴力については、被害者の安全確保を優先して対応する運用がとられており、被害者がその場で「大ごとにしたくない」と話していても、捜査が進められることは珍しくありません。また、生活の本拠を共にする交際関係にあった相手からの暴力には、DV防止法の保護命令の規定が準用されます(同法28条の2)。
 逮捕後の手続は、おおむね次の時間の枠で進みます。

段階期間の上限主な内容
逮捕から検察官への送致まで48時間警察での取調べ
送致から勾留請求まで24時間検察官が勾留を請求するかを判断
勾留10日間裁判官が勾留を認めた場合
勾留延長最大10日間検察官の請求により延長されることがある


 勾留が認められると、起訴・不起訴の判断までに最大で23日間、会社を休むことになります。反対に、勾留が請求されなかったり、認められなかったりすれば、逮捕から数日で職場に戻れる可能性があります。

職場での処分はどう決まるか


逮捕されただけで解雇が決まるわけではない

 逮捕は、罪を犯したと疑うに足りる理由があるとして身柄を確保する手続であり、有罪が決まったわけではありません。会社が従業員を懲戒処分にするには、就業規則に懲戒の理由と種類が定められていることに加え、処分が行為の性質や態様などに照らして相当であることが求められます(労働契約法15条)。解雇についても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は無効とされます(同法16条)。
 多くの就業規則では、「有罪判決を受けたとき」「刑罰法令に違反し会社の名誉を著しく損なったとき」などが懲戒事由とされています。不起訴となれば有罪判決を受けたことにはならず、こうした規定に直ちに当てはまるわけではありません。

私生活での行為が懲戒の対象になる範囲

 交際相手との間で起きた事件は、業務とは関係のない私生活上の行為です。裁判例では、私生活上の行為を理由とする懲戒は、その行為が会社の事業や社会的評価に相当程度の悪影響を及ぼす場合などに限って認められる傾向にあります。行為の内容、けがの程度、刑事処分の結果、報道の有無、ご本人の職務内容などが総合的に考慮されます。
 もっとも、これは最終的に裁判で争った場合の考え方です。実際には、会社から事情の説明を求められ、その場での受け答えが処分の判断材料になることもあります。社内での聞き取りに臨む前の準備については、会社の内部調査(ヒアリング)に呼ばれた|話す前に整理すべきことで解説しています。

退職届を求められたとき

 勾留中や釈放直後に、会社から退職届を出すよう求められることがあります。退職届は自らの意思で提出するものであり、求められたからといって提出する法的な義務はありません。一度提出すると、後から撤回するのは容易ではなく、刑事処分の見通しが立つ前に退職を決めてしまうと、不起訴となった場合でも元に戻せないことがあります。判断の順序については退職届と懲戒解雇|刑事と労務が同時に動くときの順序が、ご家族の立場からは【刑事事件】逮捕された家族の勤務先から退職届を出すよう求められたが参考になります。

勤務先への連絡をどう組み立てるか


欠勤の連絡はご家族が担うことが多い

 逮捕されている間、ご本人は会社に電話をかけることができません。無断欠勤が続くと、それ自体が懲戒の理由とされるおそれがあるため、ご家族が欠勤の連絡を入れるのが一般的です。
 最初の連絡で、事件の詳細まで説明する必要はありません。「本人が事情により出勤できない状態にある」「見通しが分かり次第あらためて連絡する」といった範囲にとどめ、病気や事故など事実と異なる理由を伝えるのは避けたほうがよいでしょう。後で事実が分かったときに、虚偽の報告をしたこと自体が信頼を損ね、処分の判断に不利に働くことがあるためです。段階ごとの伝え方は【刑事事件】逮捕された家族の勤務先へ何と伝えるか|段階ごとの連絡内容と避けたい説明で整理しています。

弁護人を通じて説明するという方法

 会社にどこまで、いつ説明するかは、刑事手続の見通しと切り離して決められるものではありません。弁護人がついていれば、釈放の見込みや示談の進み具合をふまえて、説明の範囲と時期を一緒に検討できます。事案によっては、ご本人の了解を得たうえで、弁護人から会社へ事件の経緯や手続の状況を説明することもあります。

交際相手が同じ職場にいる場合

 交際相手が同じ会社の同僚である場合は、事情が大きく変わります。被害者本人が職場にいるため、事件のことが社内に伝わる可能性は高く、釈放後にどのように働くのかという問題も生じます。釈放後に職場で被害者と接触すれば、処分の判断に不利に影響するおそれがあります。
 このような場合、捜査の過程で被害者との接触を避けるよう求められることがあり、会社にも部署や勤務時間の調整を相談しなければならない場面が出てきます。示談を進める際にも、接触禁止の範囲や職場での扱いをどう定めるかが重要な論点になります。別れた相手と職場が同じ場合の一般的な考え方は、【男女トラブル】別れた相手が同じ職場にいる|職場での接触を減らす方法でも解説しています。

職場への影響を小さくするために刑事手続の中でできること


勾留を避けるための材料を示す

 職場への影響を小さくするうえで、もっとも直接的なのは身柄拘束の期間を短くすることです。検察官が勾留を請求するか、裁判官が勾留を認めるかの判断では、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるかどうかが問題になります。
 交際相手との事件では、とくに被害者に接触しないことをどう裏付けるかが重要です。被害者と別の場所で暮らせるか、ご家族が身元引受人となって生活を見守れるか、被害者に連絡しないことを誓約できるかといった点を、弁護人が意見書にまとめて検察官や裁判官に示すことがあります。具体的な材料は勾留を避けるための材料|身元引受と生活環境の整え方で解説しています。

被害者との示談は弁護人を通じて進める

 傷害罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない罪(親告罪)ではありません。そのため、被害者が被害届を取り下げても、それだけで事件が終わるとは限りません。ただし、被害者との示談が成立し、被害者が処罰を望まない意思を示していることは、起訴・不起訴の判断で重視される事情の一つです。
 交際相手との事件では、ご本人やご家族が「直接謝れば分かってもらえる」と考えて被害者に連絡しようとすることがあります。しかし、捜査中に被害者へ直接連絡すると、圧力をかけたと受け止められ、かえって不利に働くおそれがあります。示談の申し入れは、弁護人を通じて行うのが基本です。示談の内容としては、示談金のほか、今後の接触禁止、別れる場合の荷物や鍵の返還、職場が同じ場合の取り扱いなどを定めることがあります。
 けがの治療が続いている間は、損害の範囲が確定しないこともあります。申し入れの時期については相手がまだ通院している|傷害事件で示談を申し入れる時期の決め方が参考になります。

示談ができない場合に残る手立て

 被害者が示談に応じない場合もあります。その場合でも、治療費などの被害弁償を申し出る、反省の状況や再発防止の取り組み(カウンセリングの受講、生活環境の見直しなど)を示すといった形で、処分の判断に反映させる余地があります。けがの程度や前科・前歴の有無などによっては、示談が成立しなくても略式手続による罰金や不起訴にとどまることもあります。

よくあるご質問


不起訴になれば、会社に事件のことを説明しなくてよいですか

 法律上、従業員が会社に刑事事件の内容を報告する一般的な義務はありません。ただし、就業規則で、逮捕や起訴をされた場合の届出を定めている会社もあり、長期の欠勤があった場合には説明を求められることもあるでしょう。不起訴となった場合は、請求により処分の結果を告げる書面(不起訴処分告知書)の交付を受けられることがあり、説明の資料として使えることがあります。詳しくは不起訴処分告知書は何に使えるのかをご覧ください。

交際相手が「もう怒っていない」と言っています。早く釈放されますか

 被害者の気持ちが和らいでいることは、身柄拘束や処分の判断で考慮される事情になり得ます。もっとも、口頭でそう話しているだけでは、捜査機関が確認できる形になっていないことがあります。また、当事者の関係が近い事件では、被害者の発言が周囲からの働きかけによるものではないかと慎重に見られることもあります。被害者の意思は、弁護人を通じて書面などの形で確認し、捜査機関に示すことが大切です。

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 交際相手への傷害事件で逮捕された場合、職場への影響は、身柄拘束がどれだけ続くか、被害者との関係をどう整理できるか、勤務先にどのように説明するかによって変わります。ご家族が欠勤の連絡や会社とのやり取りに追われる中で、刑事手続の対応も同時に進めなければならない場面は少なくありません。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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