【刑事事件】別れ話で相手の腕をつかんだだけでも、暴行になる?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

別れ話の途中で、帰ろうとする相手を引き止めようとして腕をつかんでしまった。殴ったわけでもけがをさせたわけでもないのに、相手から「暴力を振るわれた」「警察に行く」と言われ、不安になっている方もいらっしゃると思います。

 先にお伝えすると、腕をつかむ行為も、刑法上の暴行に当たる可能性があります。ただし、つかんだ強さや時間、その場の状況によって評価は変わり、すべてのケースが直ちに事件として扱われるわけではありません。この記事では、別れ話という場面に絞って、腕をつかんだ行為がどのように評価されるのか、通報や被害届の後にどう進むのか、今の段階で何に気をつければよいのかを整理します。

本記事は2026年10月時点の法令に基づいています。2025年6月の改正刑法施行により、懲役と禁錮は「拘禁刑」に一本化されています。


腕をつかんだだけでも暴行に当たり得る理由

 暴行罪(刑法208条)は、暴行を加えたものの相手にけがをさせるには至らなかった場合に成立する犯罪です。法定刑は、2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料とされています。

 ここでいう暴行は、殴る・蹴るといった行為に限られません。一般に人の身体に向けられた不法な有形力の行使と説明されており、押す、引っ張る、つかむといった行為も含まれ得ます。けがが生じていなくても成立し得る点が、傷害罪との大きな違いです。

 「有形力の行使」がどこまでの範囲を指すのかについては、押した・つかんだだけで暴行罪になるのか|「有形力の行使」の範囲で一般的に解説しています。本記事では、別れ話の場面で問題になりやすい点に絞って見ていきます。

つかんだ強さ・時間・状況で評価は変わる

 腕をつかんだという一言でも、実際の行為にはかなりの幅があります。捜査機関や裁判所が見るのは、次のような事情の積み重ねです。

事情暴行と評価されやすい方向評価が分かれる方向
つかんだ強さ強く握った、爪が食い込んだ軽く手を添えた程度
時間・回数振りほどこうとしても離さなかった、何度もつかんだ一瞬で、すぐに離した
動き引っ張った、壁や車の方へ押しやったその場で手に触れただけ
相手の反応「やめて」「痛い」と言われても続けた嫌がる様子が見られなかった
跡の有無赤みやあざが残った跡が残っていない


 もっとも、表の右側に当てはまれば問題にならないというわけではありません。相手が強い恐怖を感じたと話している場合や、以前にも同じようなことがあった場合には、軽い接触でも重く受け止められることがあります。

あざや痛みが残れば傷害罪が検討される

 腕をつかんだ結果、あざができた、手首を痛めたといった事情があれば、暴行罪ではなく傷害罪(刑法204条)の問題になります。傷害罪の法定刑は15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金で、暴行罪より重く定められています。けがをさせるつもりがなかったとしても、暴行の結果としてけがが生じれば、傷害罪が成立し得ると考えられています。

 当日は何も言われなかったのに、数日後に診断書が提出されるという流れもあります。この場面についてはあとから診断書が出てきた|暴行が傷害に切り替わる場面と対応で詳しく解説しています。

別れ話の場面で問題が大きくなりやすい理由

 別れ話の最中に腕をつかむ行為は、多くの場合「まだ話が終わっていない」「帰らないでほしい」という引き止めの気持ちから出てきます。本人としては話し合いを続けたかっただけでも、相手から見れば立ち去ろうとしたのを力で止められたという体験になります。この受け止め方の差が、後の申告の内容に表れやすい点に注意が必要です。

引き止めが長引くと別の罪名が検討されることもある

 腕をつかんで部屋から出られないようにする、ドアの前に立ちふさがる、車から降ろさないといった状態が続くと、暴行罪にとどまらず、逮捕・監禁罪(刑法220条)が検討されることがあります。また、「別れないと言うまで離さない」などと迫り、相手に意に反する約束をさせたような場合には、強要罪(刑法223条)の問題になることも考えられます。

 実際にどの罪名で扱われるかは、時間の長さや態様、相手がその場から離れられる状況だったかなどで判断されます。一瞬つかんだだけで直ちにこれらの罪に当たるわけではありませんが、引き止める行為が重なるほど評価は厳しくなりやすいと考えておくのが無難です。

交際相手の間の事案は警察が早めに動きやすい

 交際相手や元交際相手の間で起きた暴力は、より深刻な被害につながるおそれがあることから、警察は被害者の安全確保を重視し、早い段階から対応する傾向があります。行為そのものは軽く見えても、通報を受ければ現場で双方から話を聞き、必要に応じて警察署で事情を聴くといった対応がとられることがあります。

 生活の本拠を共にしている交際相手であれば、DV防止法の保護命令の対象にもなり得ます。交際相手から「DVだ」と言われた場合の考え方は、【男女トラブル】デートDVの加害者だと言われた|自分の言動を法的に見直すで整理しています。

暴行に当たらない、または責任が問われにくい場面

 腕をつかんだ行為があったとしても、事情によっては違法性がない、あるいは責任が軽く評価されると判断されることがあります。たとえば次のような場面です。

  • 相手が先に殴りかかってきたため、身を守るために腕を押さえた場合。
  • 相手が車道に飛び出しそうになるなど、危険を避けるためにとっさに腕をつかんだ場合。
  • 相手がこちらのスマートフォンや財布を持ち去ろうとしたのを止めるため、短時間だけ手を押さえた場合。
  • ごく軽く手に触れただけで、相手も嫌がる様子を見せていなかった場合。


 1つ目は正当防衛(刑法36条)が問題となる場面です。ただし、身を守るために必要な程度を超えていれば過剰防衛とされることがあり、相手が手を引いた後もつかみ続けていたような場合には認められにくくなります。3つ目も、自分の物を取り返す目的があったからといって、どのような力の使い方でも許されるわけではありません。

 いずれの場面でも大切なのは、自分の言い分を記録とともに説明できるかという点です。お互いに手を出し合っていた場合の扱いについては、相手も殴ってきた(相互暴行)|被害者でも加害者でもある場合もあわせてご覧ください。

通報や被害届の後はどう進むのか

 別れ話の場で通報された場合や、後日に被害届が出された場合、手続はおおむね次のように進みます。

  1. 警察官が現場または警察署で、双方から事情を聴きます。
  2. 逃亡や証拠隠滅のおそれが低いと判断されれば、逮捕されずに在宅のまま捜査が進みます。
  3. 後日あらためて警察署に呼ばれ、供述調書が作成されます。
  4. 捜査の結果が検察庁に送られ、検察官が起訴するかどうかを判断します。
  5. 処分は、不起訴、略式手続による罰金、正式な裁判のいずれかになります。


 腕をつかんだだけでけががなく、前歴もないケースでは、逮捕されずに在宅で捜査が進むことが多いと考えられます。ただし、相手に連絡を取り続けている、以前にも同じ相手との間で通報されたことがあるといった事情があれば、身柄を拘束したうえで捜査が進められる可能性もあります。

 処分の見通しは、行為の態様に加えて、反省の状況や被害者との示談の有無などによって変わります。事実を認めている場合の処分の分かれ目は、認めた場合の処分の見通し|罰金・略式・不起訴の分かれ目で解説しています。

被害届が出ていなくても終わったとは限らない

 暴行罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪ではありません。その場で警察官から注意を受けて帰された場合でも、その後に相手が被害届を出せば、あらためて捜査が始まることがあります。暴行罪の公訴時効は3年とされており、時間が経ってから警察から連絡が来ることもあります。詳しくは暴行・傷害の公訴時効|時間が経ってから捜査が来る理由で説明しています。

 警察から連絡が来た段階でどう対応すればよいか迷う場合は、【刑事事件】警察から電話が来た段階で弁護士に相談する意味も参考にしてください。

腕をつかんでしまった後に避けたい行動

 相手を怒らせてしまった、事を大きくしたくないという気持ちから、かえって状況を悪くする行動をとってしまうことがあります。特に次のような行動は控えたほうがよいでしょう。

  • 謝罪や弁解のために、相手に何度も電話やメッセージを送ること。
  • 相手の自宅や職場に出向いて、直接話をしようとすること。
  • 共通の知人や相手の家族を通じて、被害届を出さないよう頼むこと。
  • SNSに経緯や相手への不満を書き込むこと。
  • 警察での事情聴取で、記憶と違う内容の調書に署名すること。


 謝りたいという気持ちは自然なものですが、相手が連絡を拒んでいる中での接触は、つきまといや被害者への働きかけと受け取られるおそれがあります。謝罪の連絡がかえって問題になる理由は、【ストーカートラブル】謝りたい|謝罪の連絡そのものが問題になる理由で解説しています。

今の段階でできること


当日の経緯をできるだけ早く書き出しておく

 時間が経つと記憶は曖昧になります。別れ話をした日時と場所、どのような話の流れで腕をつかんだのか、つかんだ強さや時間、相手の言葉、その後の様子などを、思い出せる範囲で書き出しておくと、事情聴取や弁護士への相談の際に役立ちます。LINEなどのやり取りも、削除せずに残しておいてください。別れ話での記録の残し方については、【男女トラブル】別れ話を録音しておくべきか|交際を終える話し合いでの記録の作り方も参考になります。

示談は弁護士を通じて進める

 相手に被害届を出された、または出すと言われている場合、示談が成立しているかどうかは処分の判断に影響し得る事情の1つです。ただ、別れ話の後の当事者どうしでは冷静な話し合いが難しく、直接の交渉はかえって対立を深めることがあります。弁護士が窓口になれば、相手の連絡先を本人に知らせない形で謝罪の意思を伝え、条件を調整することもできます。示談で取り決める内容は、被害届を出された|示談で何を取り決めるのかで紹介しています。

関係の終わらせ方も並行して考える

 刑事手続とは別に、交際関係そのものをどう終わらせるかという問題も残ります。荷物の受け渡しやお金の清算などで、相手とのやり取りが必要になる場面もあるでしょう。本人どうしで会わずに関係を終える方法については、【男女トラブル】別れ話を弁護士に任せるときの流れ|本人と会わずに関係を終えるで解説しています。

よくあるご質問


その場で警察官に注意されただけで帰されました。もう終わったと考えてよいですか

 その場では注意にとどまった場合でも、後日に相手が被害届を出せば捜査が始まることがあります。

相手は「大丈夫」と言っていたのに、後から被害届を出されることはありますか

 あり得ます。その場では落ち着いていても、時間が経ってから怖さを感じたり、家族や友人に相談したうえで被害届を出すことにしたりする場合があります。その場のやり取りだけで判断せず、相手から連絡を拒まれていないかなども含めて状況を見ることが大切です。

前科がつくことはありますか

 略式手続による罰金も含め、有罪となれば前科になります。不起訴となった場合は前科にはなりませんが、捜査を受けた記録として前歴は残ります。両者の違いは、前科と前歴はどう違い、どこに残るのか|期間と照会される場面で解説しています。

 別れ話の場で腕をつかんでしまったという出来事は、行為そのものは一瞬でも、その後の対応によって見通しが変わり得ます。相手との接触を控えつつ経緯を整理し、早めに専門家へ相談することを検討してください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京の法律関連
  4. 東京の男女・夫婦問題
  5. 若井亮
  6. コラム一覧
  7. 【刑事事件】別れ話で相手の腕をつかんだだけでも、暴行になる?

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼