保釈中の生活ルール|仕事・転居・旅行はどこまでできるか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

保釈が認められて自宅に戻った後、「どこまで普段どおりに過ごしてよいのか」がわからないまま日々を送っている方は少なくありません。仕事に行ってよいのか、引っ越しはできるのか、法事や出張で遠方へ行けるのか。判決までの期間が数か月に及ぶこともあるだけに、生活の実務は切実な問題になります。

 保釈中にできることとできないことは、一律の決まりで決まっているわけではありません。判断のもとになるのは、裁判所が出した保釈許可決定書に書かれた条件です。この記事では、条件がどのような考え方で付けられているのかを整理したうえで、住まい・仕事・旅行といった場面ごとに、どこまでが条件の範囲内で、どこからが裁判所への申出や許可を必要とするのかを解説します。

保釈中の生活を決めているのは「指定条件」

 保釈が許可されると、被告人が守るべき事項が決定書に書き込まれます。これを指定条件と呼びます。刑事訴訟法は、保釈を許す場合には被告人の住居を制限し、その他適当と認める条件を付することができると定めており(法93条3項)、実務では住居の指定を軸に、いくつかの条件が組み合わせて付けられます。

 条件の内容は事案によって異なります。同じ罪名でも、被害者との関係、共犯者の有無、勤務先が事件と関わるかどうかによって、付く条件は変わってきます。他の方の体験談や一般的な解説をそのまま自分に当てはめることはできませんので、まず手元の決定書を読み、わからない部分を弁護人に確認するところが出発点になります。

条件が置かれている2つの目的

 条件は罰として付けられているものではありません。保釈を認めるかどうかは、被告人が逃げるおそれと、証拠を隠したり関係者に働きかけたりするおそれをどう見るかによって判断されます(法89条、法90条)。条件は、この2つのおそれを小さくするために置かれています。

 この見方は、日常の判断でも役に立ちます。ある行動をしてよいか迷ったときは、裁判所が自分の所在を把握できなくなる方向の行動か事件の関係者や証拠に近づく方向の行動かを考えてみると、確認が要るかどうかの見当がつきます。どちらかに当たりそうであれば、動く前に弁護人に相談しておくとよいでしょう。

よく付けられる条件と、日常で問題になる場面


条件の内容条文上の位置づけ日常で問題になりやすい場面
指定された住居に居住する法93条3項の住居の制限引っ越し、実家への転居、入院、寮への入居
許可なく一定の日数を超えて住居を離れない法93条4項の条件旅行、帰省、出張、遠方の法事
召喚を受けた日時に出頭する公判期日への出頭の確保期日と仕事や通院が重なったとき
逃亡や証拠隠滅と受け取られる行為をしない法96条1項2号、3号の裏返し関係者への連絡、資料の処分
被害者や共犯者と接触しない法93条3項のその他の条件勤務先や生活圏が重なるとき、SNS
生活上・身分上の事項の変化を報告する法95条の4の報告命令転職、退職、転居、通学先の変更


 右の列は、ご相談の場面で実際に問題になりやすいところを挙げたものです。どの条件が付いているかは決定書で確認できます。付いていない事項について許可を求める必要はありませんし、逆に、一般には付かない条件が個別に加えられていることもあります。

住まい|制限住居に「居続ける」ことではない

 制限住居とは、保釈中の生活の本拠として裁判所が指定した住居のことです。ここで押さえておきたいのですが、指定された住居に居住するという条件は、その場所から出てはいけないという意味ではありません。日中に外出すること、通勤や通学をすること、買い物や通院に出かけることは、この条件と矛盾しません。問われているのは、生活の本拠がその住居にあるかどうかです。

 制限住居には、本人の自宅やご家族の住まいが指定されることが多く、身元を引き受ける方の住居が選ばれることもあります。裁判所からの書類はこの住居に届くため、郵便を受け取れる状態にしておくことも条件と結びついています。

外泊と「指定された期間を超えて離れない」条件

 住居の制限に加えて、裁判所の許可を受けないで、指定された期間を超えて当該住居を離れてはならないという条件が付けられることがあります(法93条4項)。この期間は、被告人の生活の状況その他の事情を考慮して指定するとされています(同5項)。実務では3日と定められる例が多く、その場合は2泊3日の外泊は許可を求めずに行える一方、それを超える外泊は許可が要るという整理になります。

 もっとも、期間が何日かは事案ごとに決まり、決定書に書かれています。3日より短い期間が指定されることもありますので、一般的な説明ではなく手元の記載で確認してください。

転居|引っ越し以外も同じ手続になる

 制限住居を変える必要が生じたときは、書面で裁判所に申し出て許可を受けるという形が一般的です。決定書にも、住居を変更する必要ができたときは書面で申し出て許可を受けるべき旨が書かれていることが多くあります。

 ここで見落とされやすいのが、転居として扱われるのは引っ越しだけではないという点です。家庭の事情で実家に戻る、療養のため親族の家に移る、入院が長引く、勤務先の寮や単身赴任先に入る。いずれも生活の本拠が移る以上、同じ手続を考える必要があります。契約や入院の手配を先に確定させてしまうと、後戻りが難しくなります。

申出で説明することになる事柄


  • 変更後の住居の所在地と、そこに住むことになった理由。
  • 誰と同居するのか、身元を引き受ける方が変わるのかどうか。
  • 変更後も期日に出頭でき、連絡と書類の受取りができること。
  • 被害者や共犯者とされる方との距離が近くならないかどうか。
  • 勤務先や通院先との関係で、その場所である必要があるかどうか。


 保釈の条件は、その後に事情の変更があったときには、裁判所が変更することができるものとされています。転居の必要が生じた段階で弁護人に伝え、申出の準備を進めるのが現実的な進め方です。

仕事|通勤も転職もできるが、働き方によって確認が要る

 制限住居から通って働くことは、住居の制限と矛盾しません。復職することも、新しく職を探すことも、保釈中にできます。判決までの期間が長くなる事案では、生活の立て直しに取りかかっておくこと自体が、後の審理で説明できる事情にもなります。

 一方で、働き方の形によっては条件と衝突する場面があります。住み込みの仕事や住居付きの寮に入る形は、生活の本拠が制限住居から離れるため、そのままでは条件と両立しません。遠方への出張や、数日にわたる現場常駐も、住居を離れる期間の条件に触れる可能性があります。海外出張は、渡航に関する条件の問題になります。

勤務先が事件と関わっている場合

 職場でのトラブルが事件になっているときや、被害者・共犯者とされる方が同じ職場にいるときは、接触しない旨の条件と出社が正面からぶつかります。この場合、出社してよいかどうかを自分だけで判断するのは避けたほうがよく、会社側との調整も含めて弁護人を通して進めることになります。休職や配置の変更など、会社との間で整理しておくべき事柄が出てくることもあります。

転職・退職と「報告命令」

 裁判所は、被告人の逃亡を防止し、または公判期日への出頭を確保するため必要があると認めるときは、住居、労働または通学の状況、身分関係など、裁判所の定めた事項について報告することを命じることができます(法95条の4第1項)。報告の仕方は2通りで、裁判所が指定した時期にその時点の状況を報告するものと、その事項に変更が生じたときに速やかに変更の内容を報告するものです。指定された日時と場所に出頭して報告するよう命じられることもあります(同2項)。

 この命令が出ている場合、転職や退職、勤務形態の変更、通学先の変更などは、報告の対象になり得ます。正当な理由なく報告をしなかったり、事実と異なる報告をしたりしたときは、保釈の取消しの理由になります(法96条1項5号)。仕事の変化はご本人にとっては私的な出来事ですが、手続の上では届け出るべき事柄になっている場合がある、ということです。

旅行・帰省・出張|目的ではなく日数で決まる

 旅行という言葉からは観光を思い浮かべやすいのですが、条件との関係で問題になるのは目的ではなく、制限住居を離れる日数です。帰省も、遠方の法事も、仕事の出張も、指定された期間を超えて住居を離れるのであれば、同じように許可の対象になります。

 許可を求めるときは、行き先、日程、同行者、目的、連絡先といった事柄を書面で示すのが通例です。裁判所が許可をする場合には、住居を離れることを必要とする理由その他の事情を考慮して、離れることができる期間を指定しなければならないとされています(法93条6項)。必要があれば期間が延長されることもあり(同7項)、逆に離れる必要がなくなったと認められれば期間が短縮されることもあります(同8項)。

 注意しておきたいのは、許可を得た後も期間の管理が続くという点です。許可を受けて住居を離れた場合であっても、指定された期間を超えて帰らなければ、それ自体が問題として扱われます(法95条の3第2項)。天候や交通機関の乱れで戻れなくなりそうなときは、その日のうちに弁護人へ連絡し、対応を相談してください。

海外への渡航

 海外に出る場合は、あらかじめ裁判所に申し出て許可を受けるべき旨の条件が付けられているのが通常です。国内の移動に比べると、許可が得られる場面は限られます。仕事の都合で必要となる出張や、逮捕前から決まっていた予定などについては、その必要性と、期日までに戻ることをどのように説明できるかが検討されることになります。

人との連絡|接触しない条件はどこまで及ぶか

 被害者や共犯者とされる方と接触しない旨の条件は、直接会うことだけを対象にするものではありません。電話、手紙、メッセージアプリ、SNS上の反応など、方法を問わず接触として扱われるのが一般的です。共通の知人を介して伝言する形も、間接的な働きかけと見られる可能性があります。

 示談や謝罪の意向を伝えたい場合も、ご本人が直接動くのではなく、弁護人を介して行うことになります。条件の文言でも、弁護人を介する場合が例外として書かれていることが多くあります。連絡を取りたい相手がいるときは、まずその方が条件の対象に含まれるかどうかを確認してください。

書類の受取りと期日

 裁判所からの書類は、制限住居に送られます。期日の呼出しに関する書類が届かなければ、出頭の準備そのものができません。不在で受け取れなかったときは、そのままにせず速やかに再配達を受けるようにしてください。同居のご家族が受け取れる場合もあります。

 期日は、他の予定より先に固定して考える必要があります。体調不良などで出頭できない事情が生じたときは、当日に黙って欠席するのではなく、事前に弁護人へ連絡し、裁判所へ届け出る形を取ります。事後の説明と事前の連絡とでは、受け止められ方が変わってきます。

迷ったときの確認のしかた

 日常で判断に迷ったときの手順を整理しておきます。

  1. 手元の保釈許可決定書を読み、その行動に関係する条件があるかどうかを確かめる。
  2. 条件がある場合は、期間や許可の要否がどう書かれているかを確認する。
  3. 書かれていない事柄でも、所在の把握や事件の関係者に関わる行動であれば弁護人に相談する。
  4. 許可や申出が要るときは、予定を確定させる前に相談し、書面の準備にかかる日数を見込んでおく。
  5. やむを得ず予定が変わったときは、その日のうちに連絡する。


 許可や申出には、書面を作り、裁判所の判断を待つ時間がかかります。出発の前日に相談しても間に合わないことがありますので、予定が見えた段階で早めに伝えておくと、選べる方法が増えます。

まとめ


  1. 保釈中に何ができるかは、保釈許可決定書に書かれた指定条件で決まる(法93条3項)。
  2. 条件は罰ではなく、逃亡と証拠隠滅を防ぐために置かれている(法89条、法90条)。
  3. 指定された住居に居住する条件は、その場所に居続けることではなく、生活の本拠を置くことを求めるもの。
  4. 許可なく指定された期間を超えて住居を離れない条件が付くことがあり、期間は決定書に書かれている(法93条4項、5項)。
  5. 転居は引っ越しに限らず、実家への移動や入院、寮への入居も同じ扱いになる。
  6. 通勤や転職はできるが、住み込み、長期の出張、海外渡航は条件との関係を確認する。
  7. 住居や労働・通学の状況などの変化について、報告を命じられている場合がある(法95条の4)。
  8. 旅行や帰省は目的ではなく日数で判断され、許可の際には離れられる期間が指定される(法93条6項)。


保釈中の過ごし方に迷ったときは

 弁護士法人若井綜合法律事務所は、池袋と新橋に事務所を構え、刑事事件のご相談をお受けしています。保釈中の生活は、期間が長くなるほど、当初は想定していなかった予定が出てくるものです。仕事の変更、ご家族の事情、遠方への移動など、条件に関わりそうな場面が生じたときは、動く前にご相談ください。全国から24時間・年中無休で無料相談を受け付けています。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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