【男女トラブル】「交際中に暴力を受けた」と言われたが身に覚えがない

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

この記事は、2026年10月時点の法令にもとづいて書いています。配偶者暴力防止法は2024年4月1日施行の改正(保護命令の要件の拡大・違反の罰則の引上げ)を、刑法は2025年6月1日施行の拘禁刑への一本化を反映しています。


「別れて数か月たってから、共通の友人に『あなたにDVされたと聞いた』と言われた」「交際中に口論はあったが、手を上げたことはない。それなのに治療費と慰謝料を請求されている」。男女トラブルのご相談では、こうした「身に覚えのない暴力」を指摘された側からのお話を伺うことがあります。一方で、実際に暴力を受けた方が、周囲に信じてもらえないまま声を上げられずにいる場面があることも、私たちは知っています。

 「感情的にならず、証拠をもとに冷静に否定する」という一般的な助言は、それ自体は誤りではありません。ただ、交際相手との関係では、夫婦のように離婚調停という一つの手続の中で争いがまとまることはなく、本人へのメッセージ、周囲への話、金銭の請求、警察への相談、裁判所への申立てと、「言われる場所」がばらばらに現れます。場所が違えば、それを判断する人も、こちらが最初にすべきことも変わります。

 この記事では、交際相手・元交際相手(同棲していた場合を含みます)から、身に覚えのない暴力を指摘された方に向けて、指摘の中身と場面を切り分けて、どこで何をすればよいかを整理します。夫婦間の離婚手続で主張されるDVはこの記事では扱いません。暴力を受けた側の方は恋人から暴力を受けた|暴行罪・傷害罪と慰謝料請求をご覧ください。

「身に覚えがない」を3つに分けてみる

 「身に覚えがない」というご相談をよく伺うと、中身は一つではありません。どの型に当たるかで、争い方の重心が変わります。

型典型的な場面争い方の重心
出来事そのものがないその日は会っていない、その場にいなかった日時と場所を特定させ、当時の記録と突き合わせる
出来事はあったが評価が違う口論中に腕をつかんだ、肩を押した、物を床に置いた勢いが強かった何があったかを正確に認め、それが法的にどう評価されるかを争う
身体への接触はないが、言動を暴力と受け止められた強い口調、連絡の頻度、行動への干渉言動の具体的な中身と、受け止めとの距離を確かめる


出来事そのものがない場合

 最も争いやすく見える型ですが、相手の主張が「交際中に何度も」「いつも」といった形で日時を特定していないと、反論の手がかりがつかめません。まず、相手が「いつ・どこで・何をされた」と言っているのかを、書面などで具体的にしてもらうことが出発点になります。

出来事はあったが「暴力」の評価が違う場合

 ご本人は「暴力ではない」と感じていても、刑法上の暴行は人の身体に向けた有形力の行使を広く含むため、腕をつかむ、押すといった行為も評価の対象になり得ます。この型で「何もしていない」と全面的に否定すると、後から当時のやり取りが出てきたときに、ほかの説明まで信用されにくくなります。何があったかは正確に認めたうえで、程度や経緯を争う方が、結果的にご自身を守ることにつながる場面が多くあります。行為の範囲については押した・つかんだだけで暴行罪になるのか|「有形力の行使」の範囲で詳しく扱っています。

言動を暴力と受け止められた場合

 配偶者暴力防止法は、身体に対する暴力だけでなく、これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動も「暴力」に含めています。ただし、言動の受け止め方には個人差があり、強い言い方があったことと、それが法的な責任を生むことの間には距離があります。どの言葉が、どの頻度で、どの状況で向けられたのかを具体的にすることが、この型の争点になります。

どこで言われたかで、判断する人と手続が変わる

 同じ「DVされた」という言葉でも、どこに向けて言われたかによって、それを判断する人と、こちらが最初に確認すべきことが異なります。

言われた場面判断するのはまず確認すること
本人から直接(LINE・電話など)当事者同士やり取りを保存し、その場で言い争わない
共通の知人・SNSに広められた周囲の人、プラットフォーム誰に、何が、どの範囲で伝わっているか
治療費・慰謝料などを請求された交渉の相手方、最終的には裁判所請求の根拠と金額の内訳、送り主が本人か代理人か
警察から連絡が来た・警告を受けた捜査機関任意の事情聴取か、どの法律にもとづく手続か
裁判所から保護命令の書類が届いた地方裁判所期日の日時と、相手の申立書の記載内容


 複数の場面が同時に進むこともあります。たとえば、金銭の請求に応じなかった後で警察への相談や周囲への話が始まる、という順序で表れることもあり、場面ごとに対応を変えつつ、言っている内容を一貫させることが大切です。

証明するのは「暴力を受けた」と言う側|ただし何もしなくてよいわけではない

 民事で慰謝料を請求する場合も、刑事で処罰を求める場合も、暴力があったことを証明する負担は、それを主張する側(刑事では検察官)にあります。「暴力をしていないこと」をこちらが証明しなければならない、という構造ではありません。

相手の手元にある材料が何かを見極める

 とはいえ、相手がケガの写真や診断書、当時の友人への相談記録などを持っている場合、それらは一定の重みを持ちます。診断書は傷病の内容を記録するものですが、誰によって生じたかは、多くの場合、受診した本人の説明にもとづいて書かれています。診断書があるからといって、直ちにこちらの行為によるケガと決まるわけではなく、受診した日と主張されている出来事の日の間隔、ケガの部位と説明の一致などを、ほかの記録と突き合わせることになります。

交際中のやり取りが持つ意味

 出来事とされる日の前後に、普段どおりの穏やかなやり取りが続いている、相手から次に会う約束を持ちかけている、といった記録は、主張の信用性を検討するうえで意味を持つことがあります。ただし、暴力を受けた人が関係を保とうとして普段どおりに振る舞うことも実際にはあるため、一つのやり取りだけで結論が出るものではありません。全体の流れとして読まれることを前提に、手元の記録を残しておくことが大切です。

手元で整理しておきたい記録

 弁護士に相談する前の段階でも、次のような記録を消さずに残し、時系列に並べておくと、その後の対応が進めやすくなります。

  • 交際中から現在までのLINE・SNS・メールのやり取り(相手からのものを含む)。
  • 主張されている日に自分がどこにいたかを示す記録(勤務記録、交通系ICの履歴、カード決済、写真の撮影日時など)。
  • 交際が終わった経緯と、別れ話のときのやり取り。
  • 相手が暴力を主張し始めた時期と、そのきっかけになった出来事(金銭の話、新しい交際、共通の知人とのトラブルなど)。
  • 相手から届いた請求書面や警察・裁判所からの書類の原本。


 記録の残し方そのものについては、男女トラブルの証拠の集め方|LINE・録音・写真を法的に有効にするで詳しく説明しています。

同棲していた場合|保護命令の申立てを受けたとき

 配偶者暴力防止法の保護命令は、夫婦だけでなく、生活の本拠を共にする交際相手(いわゆる同棲の関係)にも準用されています(配偶者暴力防止法28条の2)。同棲していたこと自体を争う余地がある場合もあるため、まず、どの程度生活をともにしていたかを整理しておくことが必要です。

期日に出て、具体的に反論する

 保護命令は、原則として、口頭弁論または申立てを受けた側が立ち会うことのできる審尋の期日を経てから判断されます。この期日は、こちらの言い分を裁判所に直接伝えられる数少ない機会です。期日まで日数が限られていることが多いため、書類が届いた段階で、申立書に書かれた出来事ごとに、反論と手元の記録を対応させて準備することになります。

発令された後の注意点

 命令が出た場合、内容に納得できなくても、その命令は守る必要があります。保護命令に違反すると、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金の対象になります。不服申立ての手段はありますが、申し立てたことだけで命令の効力が止まるわけではありません。「誤解を解きたい」という気持ちから相手に連絡を取ることが、そのまま違反になり得る点には特に注意が必要です。

 同棲していなかった交際相手の場合、配偶者暴力防止法の保護命令の対象にはならず、ストーカー規制法など別の枠組みで扱われることが多くなります。違いについては交際相手からのDV(デートDV)|保護命令は使える?同棲の有無で変わる対応もご参照ください。

警察から連絡が来た場合

 相手が警察に相談した結果、警察から「話を聞きたい」と連絡が来ることがあります。任意の事情聴取であれば、日時の調整を求めることもできます。説明する内容は、後の手続で記録として扱われることがあるため、記憶があいまいな点を推測で埋めず、覚えていることと覚えていないことを分けて伝えることが大切です。可能であれば、出向く前に弁護士に相談し、何を説明するかを整理しておくことをおすすめします。連絡を受けたときの具体的な対応は警察から呼び出しの電話が来た|任意同行・出頭要請への対応で扱っています。

 同棲していなかった場合には、ストーカー規制法にもとづく警告などの形で連絡が来ることもあります。その場合の見通しは警察から「警告」を受けた|前科はつくのか、次に何が起きるのかをご覧ください。

金銭を求められた場合|払って終わらせるかどうか

 治療費や慰謝料を求められたとき、「身に覚えはないが、早く終わらせたい」と考えて支払いを検討される方もいます。その選択自体が誤りというわけではありませんが、合意の形を整えないまま支払うと、後になって「支払ったのは暴力を認めたからだ」と受け止められたり、別の名目で再び請求されたりするおそれがあります。

支払う場合に書面で確認しておくこと

 支払いに応じる場合には、支払いの名目を「解決金」とし、暴力の事実を認めるものではないこと、これで当事者間の問題がすべて終わること(清算条項)、今後お互いに口外しないことなどを、合意書に明記しておくことが考えられます。条項の作り方については手切れ金を払って関係を終わらせる|口外禁止・清算条項付き合意書の作り方も参考になります。相手が弁護士を通じて請求してきた場合の初動は相手方の弁護士から通知書が届いた|無視のリスクと対応で説明しています。

時間が経ってからの請求

 交際中の出来事を理由とする慰謝料の請求には期間の制限があり、損害と相手を知った時から3年、身体を害する行為については5年とされています(民法724条1号、同法724条の2)。何年も前の出来事を理由に請求された場合には、期間の点も確認しておく必要があります。

踏み外しやすい対応

 身に覚えのない指摘を受けると、誤解を解こうとして動きたくなるものです。しかし、次のような対応は、相手の主張を補強したり、こちらが新たな責任を負ったりするきっかけになりかねません。

  • 否定してもらうために、相手へ何度も連絡したり、自宅や職場を訪ねたりすること。
  • SNSや共通の知人に向けて、相手の名前を挙げて「嘘をついている」と発信すること。
  • その場を収めるために、暴力を認める内容の謝罪文や念書に署名すること。
  • 相手の悪い評判を周囲に広めて、こちらの言い分を通そうとすること。
  • 不利に見えるやり取りを、自分のスマートフォンから削除すること。


 相手に連絡を取る正当な用件がある場合でも、方法によってはストーカー規制法の問題として扱われることがあります。詳しくは【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面を、対応の過程で自分が加害者側に回らないための考え方は【不当要求対応】対応しているうちに自分が加害者にならないためにをご覧ください。

周囲に広められている場合にとれる手段

 事実と異なる「DVをされた」という話が、不特定または多数の人に伝わる形で広められている場合、名誉毀損として、民事での損害賠償や、ネット上の投稿の削除などを求められる場合があります。他方、相手が一人の友人に打ち明けただけといった場面では、名誉毀損の要件である「公然と」に当たらないことも多く、どこまで伝わっているかの確認が先になります。ネット上で広まっている場合の手順は【不当要求対応】拡散された後の順序|削除と発信者特定のどちらを先に動かすかで整理しています。

 なお、虚偽と知りながら処罰を受けさせる目的で警察に申告した場合には、虚偽告訴罪(刑法172条)が問題になります。ただし、事件として立件されなかったことが、そのまま申告が虚偽だったことを意味するわけではありません。相手の申告を「虚偽告訴だ」と決めつけて動く前に、慎重な見極めが必要です。

よくあるご質問

相手は別れ話のもつれから言っているだけだと思います。その事情を説明すれば足りますか。

 相手が主張を始めた時期やきっかけは、主張の信用性を検討する材料の一つにはなります。ただ、動機があることだけで暴力がなかったことになるわけではないため、動機の説明に頼るよりも、主張されている個々の出来事について、日時や状況を記録と突き合わせて反論する方が、判断する側に伝わりやすくなります。

交際中、口論の後に「ごめん、もうしない」と送ったLINEが残っています。

 そのメッセージだけで暴力があったと決まるわけではありませんが、相手側の材料として示されることは想定しておく必要があります。何について謝ったのか、その前後にどのようなやり取りがあったのかを含めて説明できるよう、前後のやり取りも消さずに残しておくことが大切です。

共通の友人に事情を説明してもよいでしょうか。

 親しい友人に自分の状況を話すこと自体が直ちに問題になるわけではありません。ただし、相手を非難する内容や、相手の私的な事情に踏み込む内容を広く伝えると、今度はこちらの発言が問題とされるおそれがあります。説明は、事実を必要な範囲にとどめ、相手を評価する言葉を避けることをおすすめします。

まとめ


  1. 「身に覚えがない」は、出来事がない型、評価が違う型、言動の受け止めの型に分けると、争い方の重心が見えてきます。
  2. 本人・周囲・金銭の請求・警察・裁判所と、言われた場面ごとに判断する人と最初にすべきことが異なります。
  3. 暴力があったことを証明する負担は、それを主張する側にありますが、こちらの記録が判断を左右する場面は多くあります。
  4. 同棲していた交際相手には保護命令が準用されます(配偶者暴力防止法28条の2)。期日に出て具体的に反論し、発令後は命令を守ることが前提です。
  5. 支払いで解決する場合は、解決金の名目、事実を認めない旨、清算条項、口外禁止を合意書に入れることが考えられます。
  6. 慰謝料の請求には期間の制限があります(民法724条、同法724条の2)。
  7. 相手への繰り返しの連絡、名指しでの反論、謝罪文への署名、記録の削除は、状況を悪くするおそれがあります。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。交際相手・元交際相手から身に覚えのない暴力を指摘され、請求や警察・裁判所の手続にどう向き合うか迷っている方は、手元のやり取りや届いた書面をお持ちのうえでご相談ください。

弁護士が窓口となることで、相手との直接のやり取りを減らしながら、事実関係の整理と、場面ごとの対応を進めることができます。暴力を受けたとして請求や相談を考えている方からのご相談も、同じようにお受けしています。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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