被害者と連絡が取れない|性犯罪で示談ができない場合の弁護活動
この記事は、2026年10月13日時点の法令と公表資料にもとづいて書いています。刑法は2023年の改正(不同意わいせつ罪・不同意性交等罪の新設など)を、教員については「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」(2022年4月施行)を、保育士については2023年4月施行の改正児童福祉法を反映しています。いわゆる日本版DBS(こども性暴力防止法)は2026年12月25日の施行予定として扱っています。運用の細部は自治体や学校法人・園ごとに異なるため、個別の事情は弁護士にご確認ください。
「児童の保護者から学校に申し出があり、明日から自宅待機と言われた。何があったのかも詳しく知らされていない」。教員や保育士の方からは、このようなご相談が寄せられます。反対に、保護者の側からは「学校に伝えたが、その後どうなるのか分からない」という声も聞かれます。
教員や保育士の性犯罪については「早く弁護士に相談を」「示談が重要」と説明されることが多く、それ自体は誤りではありません。ただ、子どもと関わる職種には、一般の会社員とは異なる仕組みがあります。疑いが生じた時点で、学校や園の側には法律にもとづく報告・通報・調査の手順が動き出し、それが刑事手続や懲戒、免許・資格の扱いと並行して進みます。この順序を知らないまま動くと、意図せず不利な状況を招くことがあります。
この記事では、教員・保育士が性犯罪を疑われた段階に絞り、職場の側で何が起きるのか、本人として最初に何をし、何を控えるべきかを整理します。懲戒処分と刑事処分の関係の詳細は公務員・教員の場合|身分上の処分と刑事処分の関係で、日本版DBSの制度全体は日本版DBS(こども性暴力防止法)で何が変わるのかで扱っています。
疑いが生じた時点で学校・園の側では何が動くのか
教員・保育士の場合、職場は「疑いを把握したら対応しなければならない」立場に置かれています。まずその仕組みを確認します。
教員の場合|教員性暴力等防止法が定める学校の措置
教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律(以下「教員性暴力等防止法」)は、学校が児童生徒性暴力等の疑いを把握したときの対応を定めています。学校は、学校の設置者(公立なら教育委員会、私立なら学校法人)に通報し、事実の有無を確認する措置をとり、その結果を設置者に報告します。あわせて、被害を受けたと思われる児童生徒と、疑われた教職員との接触を避けるなど、保護に必要な措置を講じます(同法18条)。
また、犯罪があると認めるときは、学校は直ちに所轄警察署に通報し、警察と連携して対処することとされています。相談を受けた教職員についても、犯罪の疑いがあると思われるときは速やかに警察に通報するものとされています。つまり、学校が「内々で事情を聞いて終わらせる」ことは制度上想定されておらず、校内の調査と警察への通報が並行して進む可能性があります。
ここでいう「児童生徒等」は、在籍する幼児・児童・生徒に加え、18歳未満の者を含みます(同法2条2項)。勤務先の子どもに限られず、他校の生徒や卒業生であっても18歳未満であれば対象になり得ます。
保育士の場合|児童福祉法の改正で加わった報告と登録取消
保育士については、2023年4月施行の改正児童福祉法により、教員と同様の仕組みが整えられました。保育士を雇用する事業者は、雇用する保育士が児童生徒性暴力等を行ったと思料するときは、速やかに都道府県知事に報告することとされています。
あわせて、保育士登録の取消事由に「児童生徒性暴力等を行ったと認められる場合」が加わりました。登録を取り消された人の情報はデータベースに記録され、再登録には都道府県の児童福祉審議会の意見を聴くなどの審査が行われます。保育士の場合、刑事手続とは別に、都道府県による資格の手続が動く可能性がある点が、一般の会社員と大きく異なります。
「同意があった」「犯罪には当たらない」が通りにくい理由
教員性暴力等防止法の「児童生徒性暴力等」は、刑法上の性犯罪より広い概念です。性交等やわいせつな行為に加え、衣服の上から身体に触れて著しく羞恥させる行為や、性的羞恥心を害する言動なども含まれ、児童生徒等の同意や暴行・脅迫の有無は問いません(同法2条3項)。
刑法の側でも、2023年の改正により、16歳未満の者に対するわいせつな行為は、相手の同意の有無にかかわらず処罰の対象となりました(13歳以上16歳未満の場合は、行為者が5歳以上年長であることが要件です。刑法176条3項)。さらに、経済的・社会的な地位にもとづく影響力によって不利益を心配させ、拒否しにくい状況にあることに乗じた場合も、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪の対象として明記されています(同条1項8号、177条1項)。教員・保育士と子どもの関係は、この類型が問題になりやすい関係です。
そのため、疑われた行為が刑事事件として成立するかどうかとは別に、職場の手続では「児童生徒性暴力等に当たるか」という基準で判断が進むことがあります。この二つの基準を分けて考えることが、初動の前提になります。
職場への影響はどの順番で現れるのか
疑いが生じてからの職場への影響は、おおむね次のような段階で現れます。実際の順序や期間は、事案や自治体・学校法人・園によって異なります。
| 段階 | 学校・園の側で起きやすいこと | 本人の側で考えること |
|---|---|---|
| 疑いの把握直後 | 管理職への報告、設置者・自治体への報告、子どもとの接触の遮断 | 指示の内容と理由を記録する |
| 調査期間 | 本人への事情聴取、客観資料の確認、警察への通報・相談 | 聴取に臨む前に事実関係と方針を整理する |
| 捜査が始まった場合 | 警察からの呼出しや任意の事情聴取、場合により逮捕・捜索 | 弁護人を通じた対応、職場への説明の範囲 |
| 処分の検討 | 懲戒処分の審査、公立では起訴後の休職の可能性 | 刑事手続の見通しと並べて判断する |
| 処分後 | 教員免許の失効・取上げ、保育士登録の取消、データベースへの記録 | 再就職や資格への影響を確認する |
自宅待機・担当からの外し|懲戒処分とは別の措置
疑いが生じた直後に命じられることが多いのが、自宅待機や担任・担当クラスからの外しです。これは被害を訴えた子どもを保護するための措置として行われることが多く、それ自体は懲戒処分ではありません。
自宅待機を命じられた段階では、処分が決まったわけではありません。一方で、命令に従わず出勤したり、事情を確かめようと子どもや保護者に接触したりすると、そのこと自体が服務上の問題や、後の手続で不利な事情として扱われるおそれがあります。待機の指示には従いつつ、指示された内容・期間・連絡方法を記録しておくことが、最初の段階でできる現実的な対応です。
なお、公立学校の教員が刑事事件で起訴された場合には、地方公務員法にもとづく休職(起訴休職)の対象となることがあります(地方公務員法28条2項2号)。
懲戒処分と免許・資格の扱い
文部科学省は、児童生徒性暴力等を行った教員は原則として懲戒免職の対象となるとの考え方を示しており、多くの教育委員会の懲戒処分の基準もこれに沿っています。公立学校の教員が懲戒免職となると、教員免許状は失効します。私立学校の教員でも、同様の理由で解雇された場合には免許状の取上げの対象となります(教育職員免許法10条・11条)。拘禁刑以上の刑が確定した場合も、執行猶予の有無にかかわらず免許状は失効します。
児童生徒性暴力等を理由に免許状が失効したり取り上げられたりした人は「特定免許状失効者等」としてデータベースに記録され、免許状の再授与は、都道府県の審査会の意見を聴いたうえで、改善更生の状況などから適当と認められる場合に限られます。
ここで重要なのは、懲戒の判断は刑事処分の結果を待たずに進むことがあるという点です。不起訴になったから懲戒も行われない、とは限りません。反対に、職場の調査で事実関係を争う材料を示せれば、処分の判断に影響することもあります。刑事と懲戒の関係については、公務員・教員の場合|身分上の処分と刑事処分の関係もあわせてご覧ください。
2026年12月以降|こども性暴力防止法で加わる要素
2026年12月25日に施行が予定されているこども性暴力防止法(いわゆる日本版DBS)は、学校や認可保育所などに、従事者の性犯罪前科の確認や、性暴力のおそれがある場合の防止措置を義務づけます。
この法律の前科確認は、有罪判決が確定した「特定性犯罪」の前科を対象とする仕組みです。疑われた段階で前科として扱われるわけではありません。ただし、同法は前科の確認とは別に、子どもからの相談などで被害が疑われる場合の調査や、性暴力のおそれがあると判断される従事者を子どもと接する業務から外すなどの措置も事業者に求めています。施行後は、疑いの段階でも配置転換などの雇用管理上の措置がとられる場面が増えると考えられます。制度の概要は日本版DBS(こども性暴力防止法)で何が変わるのかで解説しています。
疑われた直後に控えたいこと
疑われた直後は、「誤解を解きたい」「早く元に戻りたい」という気持ちから、かえって状況を難しくする行動をとってしまうことがあります。特に次の三つは控えることをおすすめします。
子どもや保護者に直接連絡しない
事情を説明したい、謝りたいという気持ちから、子どもや保護者に連絡をとろうとする方は少なくありません。しかし、教員・保育士と子どもには立場の差があり、本人からの連絡は、内容にかかわらず口止めや働きかけと受け取られるおそれがあります。
刑事手続では、被害を訴える側への働きかけは「罪証隠滅のおそれ」の判断材料となり、逮捕や勾留の判断に影響し得ます(刑事訴訟法60条1項2号)。威迫にあたる言動があれば、証人等威迫罪が問題になることもあります(刑法105条の2)。職場の手続でも、接触の遮断を指示されているなかでの連絡は、別の服務違反として扱われる可能性があります。保護者から連絡が来た場合も、その場で話し合いに応じず、弁護士を通じて対応する形に切り替えることが無難です。この点は性犯罪の示談交渉を弁護人に任せる意味|本人が連絡してはいけない理由でも詳しく扱っています。
端末のデータやメッセージを消さない
子どもや保護者とのメッセージ、写真、連絡帳アプリのやり取りなどを「誤解されそうだから」と消してしまうと、後でかえって不自然な事情として見られることがあります。自分に有利な内容が含まれている場合でも、消去すればその材料を失います。
捜査が始まると、スマートフォンやパソコンの任意提出を求められたり、差し押さえられたりすることがあります。消去したデータが解析で復元されることもあり、消去の経緯そのものが問題にされかねません。端末の扱いについてはスマホ・PCを押収された|いつ返るのか、中身はどこまで見られるのかをご参照ください。
その場で事実を認める書面や反論文を出さない
職場の聴取の場で、経緯書や反省文、あるいは強い反論を書いた文書の提出を求められることがあります。疑われた直後は記憶が整理されておらず、表現の一つひとつが後で事実の認定に使われることがあります。
教員性暴力等防止法のもとでは、学校の調査と警察との連携が並行することが想定されています。職場に出した書面が、結果として捜査機関の手に渡る可能性も念頭に置く必要があります。提出を求められた場合には、内容を整理する時間をとってよいかを確認し、可能であれば弁護士に目を通してもらってから提出するのが望ましいでしょう。
初動で整えておくこと
控えるべきことと並んで、疑われた直後だからこそ整えておけることもあります。
時系列のメモと客観的な資料
まず、疑われている場面について、日時・場所・その場にいた人・子どもとのやり取りを、思い出せる範囲で時系列のメモにしておきます。記憶は時間とともに薄れ、後から思い出した内容は信用性を疑われやすくなります。
あわせて、自分の行動を裏づける客観的な資料を確認します。勤務表や出退勤の記録、時間割、保育日誌、連絡帳、行事の記録などが典型です。校舎や園舎の防犯カメラ映像は、一定期間で上書きされることが多いため、残っている可能性がある場合は早めに保存を求めることが考えられます。ただし、本人が職場の記録を持ち出したり複写したりすることは服務上の問題になり得るため、保存の求め方は弁護士と相談して決めるのが安全です。
職場の事情聴取に臨む前に
職場からの事情聴取は、公立学校であれば職務上の調査として行われ、基本的に応じることが求められます。私立学校や民間の園でも、就業規則にもとづく調査として求められるのが一般的です。
聴取に臨む前には、何があったのか、何がなかったのか、記憶があいまいな点はどこかを分けて整理しておくことが大切です。あいまいな点を推測で埋めて話すと、後で説明が変わったときに「供述が変遷した」と受け取られるおそれがあります。聴取への臨み方は、会社の内部調査(ヒアリング)に呼ばれた|話す前に整理すべきことでも整理しています。撮影の疑いが発端となっている場合は、職場・学校での撮影が発覚した|内部調査と刑事手続の順序もあわせてご確認ください。
子どもの話がどのように聞き取られるのかを知っておく
子どもの供述は、聞き方によって内容が変わりやすいとされています。そのため、学校や園での初期の聞き取りは最小限にとどめ、詳しい聴取は、警察・検察・児童相談所が連携して行う「代表者聴取」(いわゆる司法面接)に委ねる運用が広がっています。
この聴取は録音・録画されるのが通常で、2023年の刑事訴訟法改正では、一定の要件のもとでその録画記録を証拠とできる規定が設けられました(刑事訴訟法321条の3)。疑われた側にとっては、録画を通じて質問の仕方や誘導の有無を後から検討できる面もあります。校内での聞き取りの経過(誰が、いつ、どのように聞いたか)も、後に供述の信用性を検討するうえで意味を持つことがあるため、分かる範囲で記録しておくとよいでしょう。
弁護士に相談するタイミングと役割
教員・保育士の性犯罪の疑いでは、刑事手続、職場の懲戒、免許・資格の手続が並行します。弁護士に相談するのは、警察から連絡が来てからではなく、職場で疑いを告げられた段階が一つの目安になります。
職場・警察との窓口を整理する
弁護士が代理人として入ると、職場からの連絡や聴取の日程調整、提出書面の確認などを、刑事手続の見通しと照らし合わせながら進められます。警察から任意の事情聴取を求められた場合の対応も、事前に方針を立てたうえで臨むことができます。任意同行への対応は「任意同行」は断れるのか|断った場合に起きることで、相談のタイミングについては弁護人を頼むタイミング|捜査段階で差がつく理由で解説しています。
なお、捜査や処分が報道につながるかどうかは、事案の内容や職種によって異なります。報道への備えについては実名報道は避けられるのか|報道の判断と弁護人ができることもご参照ください。
被害を訴える側との話し合いをどう考えるか
事実関係に争いがない場合や、一部を認める場合には、被害を訴える側との示談が検討されます。相手が未成年であれば、話し合いの相手は親権者となり、書面の当事者や同意の取り方にも注意が必要です(未成年の被害者と示談する|親権者の同意と書面の当事者)。
ただし、示談が成立しても、それで職場の懲戒や資格の手続が止まるとは限りません。教員性暴力等防止法の基準は、被害を受けた側の意向とは別に判断される仕組みだからです。反対に、事実を争う場合に、示談を急ぐことが「認めた」と受け取られる懸念もあります。示談をするかどうかは、刑事・懲戒・資格の三つの見通しを並べたうえで判断することが大切です。
退職を考える前に確認したいこと
疑われた段階で「迷惑をかけたくない」と退職を申し出る方もいます。しかし、退職は刑事手続の進行を止めるものではありません。また、私立学校などで処分前に退職する事例が問題視され、処分前の退職への対応を求める国会の附帯決議もあるなど、退職によって懲戒や免許の手続が必ず回避できるとは言えない状況です。
退職の時期や形式は、退職金、失業給付、今後の就職先での経歴の説明にも関わります。退職届と懲戒解雇|刑事と労務が同時に動くときの順序もあわせてご覧のうえ、結論を急がず判断されることをおすすめします。
よくあるご質問
事実無根なのに自宅待機を命じられました。従わなければいけませんか。
自宅待機は、子どもの保護のための措置として命じられることが多く、職務命令や業務命令として従うことが求められるのが一般的です。待機の命令に従ったからといって、疑いを認めたことにはなりません。命令の内容や期間、賃金の扱いを確認し、記録に残したうえで、事実関係を争う準備を並行して進めるのが現実的です。
保護者から「直接会って話したい」と連絡が来ました。応じてよいですか。
応じることはおすすめしません。立場の差がある関係では、話し合いの内容にかかわらず、圧力をかけたと受け取られるおそれがあります。また、職場から接触を控えるよう指示されている場合は、その指示にも反することになります。連絡が来たことは記録に残し、弁護士を通じて対応する旨を伝えるにとどめるのが無難です。
不起訴になれば、教員免許や保育士資格への影響はなくなりますか。
不起訴になれば、拘禁刑以上の刑の確定による免許の失効や、前科を対象とする日本版DBSの確認には該当しません。ただし、懲戒処分や保育士登録の取消は、刑事処分とは別の基準で判断されます。職場や都道府県の手続で児童生徒性暴力等にあたると認められれば、懲戒免職や登録取消に進む可能性は残ります。刑事手続と並行して、職場の手続でも事実関係を丁寧に示していくことが重要です。前科と前歴の違いについては前科と前歴はどう違い、どこに残るのか|期間と照会される場面をご参照ください。
まとめ
- 教員は教員性暴力等防止法により、学校が設置者への通報・事実確認・子どもの保護を行い、犯罪があると認めるときは警察に通報する仕組みになっている(同法18条)。
- 保育士は改正児童福祉法により、雇用主の都道府県への報告、登録取消、データベースへの記録、再登録の制限が整えられている。
- 児童生徒性暴力等は刑法上の性犯罪より広く、同意の有無を問わない。刑法でも16歳未満の者への行為や地位にもとづく影響力の利用が明記されている(刑法176条・177条)。
- 懲戒の判断は刑事処分を待たずに進むことがあり、懲戒免職や有罪の確定は教員免許の失効・取上げにつながる(教育職員免許法10条・11条)。
- 疑われた直後は、子どもや保護者への直接の連絡、データの消去、整理前の書面提出を控える。
- 時系列のメモ、勤務記録などの客観資料、聞き取りの経過を記録し、職場の聴取に臨む前に事実関係を整理する。
- 示談や退職は、刑事・懲戒・資格の三つの見通しを並べてから判断する。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。教員・保育士など子どもと関わるお仕事の方が疑いをかけられた場合、刑事手続と職場の手続、免許・資格の手続を見渡しながら、初動の方針を一緒に整理します。
職場から事情を聞かれた、自宅待機を命じられた、警察から連絡があったなど、状況が動き始めた段階でのご相談をお待ちしています。ご家族の方からのご相談もお受けしています。


