相手が18歳未満だと知らなかった|年齢の確認と認識の評価
会社のお金に手をつけてしまったことが明らかになり、返済を求められている。しかし手元にその金額はない。一括で払えと言われているのか、分割でも受け入れてもらえるのか、そもそも話し合いに応じてもらえるのかも分からない。こうした段階でのご相談は決して珍しいものではありません。
この記事では、返済の原資をどのように組み立てるか、一括と分割で何がどう変わるか、そして示談の成否がどこで決まるのかを、支払いを求められている側の視点から整理します。金額の水準や結果の見通しを示すものではなく、判断のための材料を並べることを目的としています。
原資の前に「いくら」「いつまでに」を固める
資金の出どころを考える前に、必要額と期限が定まっていなければ計画は組めません。この二つが曖昧なまま金策だけを急ぐと、集めた資金が足りずに交渉が振り出しに戻ることがあります。
必要額は会社が示した金額と一致するとは限らない
会社が返済を求める法的な根拠は、一般に不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)または不当利得の返還請求(民法703条)です。ここには元本のほかに遅延損害金が加わることがあります。不法行為に基づく損害賠償債務は催告を待たずに遅滞に陥ると解されており(最高裁昭和37年9月4日判決)、法定利率は年3%です(民法404条。2026年4月から2029年3月までの期間も3%で据え置かれています)。長い期間にわたる事案では、この上乗せが小さくない額になることがあります。
一方で、会社が提示した金額の内訳に納得できない場合には、支払いを約束する前に根拠資料の開示を求めるという手順があります。提示された額がそのまま確定額になるわけではないという点は、原資を考えるうえでの出発点として押さえておいてください。
期限は手続の段階によって変わる
いつまでに用意する必要があるかは、事案が今どの段階にあるかで異なります。
- 会社が社内で対応を検討している段階
- 被害届や告訴を出すかどうかを会社が判断している段階
- すでに捜査が始まっている段階
- 検察官が処分を決める前の段階
- 起訴された後の段階
段階が進むほど、間に合わせたい時点は近づきます。もっとも、検察官の判断が出るまでに全額を用意できないことは、実務上珍しくありません。その場合に何ができるかは後述します。
一括と分割は「どちらが有利か」ではなく「何を優先するか」
一括のほうが話がまとまりやすい傾向がある、という説明は多くの解説で見られます。実際、被害を受けた側にとっては回収が確実で早いほど受け入れやすいという面があります。ただし、会社に分割へ応じる義務はありません。分割は交渉によって得られる譲歩であり、条件が付くことを前提に考える必要があります。
| 比較の観点 | 一括 | 分割 |
|---|---|---|
| 話のまとまりやすさ | 条件が整理しやすい | 会社の判断に委ねられる |
| 付けられやすい条件 | 比較的少ない | 連帯保証人・公正証書・期限の利益喪失など |
| 資金調達の負担 | 短期間に大きな額が必要 | 月々の負担が長期間続く |
| 途中で崩れる危険 | 支払い後は残らない | 滞れば残額の一括請求に転じ得る |
| 生活への影響 | 直後に集中する | 数年から十数年に及ぶことがある |
会社が一括を求める理由を知っておく
交渉相手である会社の側にも、分割を避けたい事情があります。
- 支払期間が長くなるほど回収できない不確実性が増す
- 退職後は連絡が取れなくなる懸念がある
- 社内や取引先、株主に対して説明できる形で決着させたい
- 分割の場合、入金管理や督促の手間が続く
- 他の従業員に対する示しという観点がある
これらは感情の問題ではなく、組織としての合理性の問題です。したがって、分割を求めるのであれば、こうした懸念を打ち消す材料をこちらから示すことが交渉の中心になります。頭金の額、支払能力を裏づける資料、担保の提供などがその材料にあたります。
原資の棚卸し――どこから作れるか
①手元にある資産
預貯金のほか、生命保険の解約返戻金や契約者貸付、有価証券、自動車や貴金属などの換価が候補になります。まずは実際に動かせる金額を正確に把握することが先で、概算のまま交渉に臨むと約束と実行がずれます。
一方、すぐには取り崩せない資産もあります。個人型確定拠出年金(iDeCo)は原則として60歳になるまで引き出すことができず、脱退一時金の要件も限定的です。財形貯蓄や社内預金は、会社との関係が絡むため扱いに注意が要ります。
②退職金・未払給与
退職金を充てる案は現実的な選択肢の一つですが、確認すべき点があります。まず、支給されるかどうかは就業規則や退職金規程によります。懲戒解雇の場合に不支給または減額とする定めが置かれていることがあります。
次に、会社が退職金や給与から一方的に差し引く扱いは、賃金全額払いの原則(労働基準法24条1項)との関係が問題になり得ます。本人が同意して相殺する場合についても、その同意が自由な意思に基づくと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかどうかを、厳格かつ慎重に判断すべきものとした最高裁判例があります(最高裁平成2年11月26日判決)。その場で口頭により控除を了解してしまう前に、内容を確認する時間をとってください。
なお、合意に至らず強制執行の段階まで進んだ場合、退職手当は原則としてその4分の3が差押禁止とされ、残る4分の1は対象になり得ます(民事執行法152条2項)。
③家族や親族からの資金
第三者が代わりに支払うこと自体は法律上可能です(民法474条1項)。もっとも、単に親族や友人という関係にとどまる者は「弁済をするについて正当な利益を有する者」には当たらないと解されています。そのため、本人の依頼に基づいて支払うという形を明確にしておくほうが後の争いを避けられます。
あわせて、渡すのか貸すのかを先に決めておくことをおすすめします。返済不要とする場合には贈与とみられる可能性があり、税務上の取扱いについては税理士に確認するのが確実です。また、家族の生活基盤を損なう規模の拠出は、完済前に一家全体が行き詰まる原因になります。援助を受ける場合でも、出せる額の上限を先に決めてから交渉に入るほうが結果的に持ちこたえられます。
④借入
貸金業者からの借入には総量規制があり、年収の3分の1を超える貸付は原則として認められません(貸金業法13条の2)。銀行のカードローンは貸金業法の対象外ですが、審査があることに変わりはありません。
借入で原資を作る場合に見落とされがちなのが、会社への返済と借入先への返済が同時に走るという点です。月々の負担が二重になり、どちらかが滞る事態を招きます。
また、横領による損害賠償債務は、自己破産をしても支払義務が免れられない債権として扱われます(破産法253条1項2号)。「いずれ自己破産で整理すればよい」という前提に立った資金計画は成り立たないとお考えください。
⑤原資にしてはならないもの
資金を集める過程で、状況をさらに悪化させる方法に手が伸びてしまうことがあります。
- 会社の資金にさらに手をつけて穴埋めする
- 他人名義での借入や、事実と異なる申告による借入
- 実際とは違う説明をして第三者から集めた資金
- 実現の見込みが立っていない売却代金や入金の予定を前提に支払いを約束すること
前の三つは新たな法的責任を生みます。四つ目は法に触れるものではありませんが、約束した期日に払えなかったという事実は、それまで積み上げた信用を一度で失わせます。確実に手当てできる範囲で約束するほうが、結果として交渉を守ります。
一括に届かないときに取り得る形
全額を一度に用意できない場合でも、選択肢がなくなるわけではありません。
- 用意できる分を頭金として入れ、残額を分割にする提案をする
- 支払能力を示す資料(源泉徴収票、給与明細、預貯金の状況、毎月の収支)を添える
- 合意の前に一部を入金し、履行の実績を先に作る
- 弁護人が資金を預かり、交渉の成立に合わせて支払う形をとる
- 会社が受領を拒む場合に供託を検討する
会社が正当な理由なく受け取りを拒んでいる場合には、弁済供託という制度があります(民法494条)。手続には要件があり、また相手の氏名や住所が把握できない事案では実際に使えないこともあるため、利用の可否は個別に判断することになります。
いずれの形をとる場合でも、支払う意思と能力を、口頭ではなく資料で示すという点が共通します。会社が判断できる材料がないままでは、分割の可否を検討する土俵にすら上がりません。
分割で合意するときに付いてくる条件
分割が受け入れられる場合、次のような条件が付くことがあります。
- 連帯保証人を立てること
- 執行認諾文言を付した公正証書を作成すること(民事執行法22条5号の執行証書にあたり、判決を経ずに差押えができる形になります)
- 一度でも支払いが遅れた場合に残額を直ちに一括で支払う旨の条項(期限の利益喪失条項)
これらは会社にとっての回収の確実性を高めるものであり、提示されること自体は不自然ではありません。ただし署名する側にとっては、後から条件を緩めることが難しくなる取り決めでもあります。特に連帯保証人を家族に頼む場合、その家族が負う責任の範囲を本人と保証人の双方が理解しているかを確認してください。
もう一点、見落とされやすいのが充当の順序です。元本のほかに利息や費用を支払うべき場合、支払った額が全部を消滅させるに足りないときは、費用、利息、元本の順に充てられるのが原則です(民法489条1項)。払い続けているのに元本が想定ほど減らないという事態はここから生じます。合意によって順序を定めることもできますので(民法490条)、金額と期間だけでなく、何にどう充当されるのかも取り決めの段階で確認しておくとよいでしょう。
支払いを始めた後は、1回ごとに領収書を受け取るか、振込によって記録を残してください。完済したこと自体を後日証明できないと、せっかくの履行が評価されません。
示談が成立するかどうかは何で決まるのか
被害を受けたのが会社という組織である以上、示談の可否は担当者個人の心情だけで決まるものではありません。実際には、次のような点が判断材料になります。
- 支払われる額が被害の全額に達しているか
- 期限内に確実に支払われる見込みがあるか
- 退職や再発防止の扱いが整理されているか
- 社内や取引先に対して説明のつく決着になっているか
処罰を求めない旨の条項(宥恕条項)や、告訴をしない旨の記載を求めたいと考える方は多いですが、これらを入れるかどうかは会社が決めることであり、こちらから条件として押し付けられる性質のものではありません。求めること自体は可能ですが、応じてもらえないこともあります。
また、示談が成立しなかったとしても、被害の回復に向けて実際に行った支払いや供託は、記録として残ります。他方で、支払いをすれば必ず刑事上の処分が軽くなるという関係にあるわけでもありません。起訴するかどうかは、犯罪の軽重や情状、犯罪後の状況を踏まえて検察官が判断するものとされています(刑事訴訟法248条)。被害弁償はそこで考慮され得る事情の一つであって、結果を確約するものではない、という位置づけで捉えるのが正確です。
続けられない返済計画は、かえって不利に働く
交渉の場では、少しでも条件をよく見せたいという気持ちから、実際の生活で維持できない金額を提示してしまうことがあります。しかし分割は、完済まで数年から十数年に及ぶこともある約束です。再就職の状況、住居費、家族の生活費まで含めて成り立つかを確認しないまま署名すると、途中で滞る可能性が高くなります。
滞納が生じれば、期限の利益喪失条項によって残額の一括請求に転じ、公正証書があれば差押えに進み得ます。差押えの対象は、預貯金であれば原則として全額、給与であれば原則としてその4分の1です(民事執行法152条1項2号、2項)。給与が口座に振り込まれた後は預貯金として扱われるため、差押禁止の枠が及ばないと判断されることがある点にも注意が必要です。
最初に組むべきなのは、限界いっぱいの最大額ではなく、続けられる額です。約束を守り続けている事実そのものが、その後の評価につながります。
相談するタイミング
- 会社から金額を告げられ、支払いの約束や書面への署名を求められている段階
- 会社が被害届や告訴を検討している、あるいは提出された前後の段階
- 捜査が進み、検察官の処分が決まる前の段階
いずれの段階でも相談は可能ですが、資金の目処が立ってから相談する必要はありません。むしろ、いくら必要でいつまでに用意するのかという枠組みが定まる前のほうが、原資の組み方や交渉の順序について選べる幅が残っています。金額の内訳に疑問がある場合や、その場で署名を求められている場合も同様です。
返済の原資づくりは、金策の問題であると同時に、その後の生活を再建できるかどうかの問題でもあります。一括か分割かという入口の選択だけでなく、完済までの道筋を含めて検討されることをおすすめします。


