借りた金を返せないと詐欺になるのか|借入時の欺罔の有無
この記事は2026年9月時点の法令に基づいて書いています。2023年12月に施行された更生保護法の改正(勾留中の被疑者についての生活環境の調整、更生緊急保護の対象拡大)と、2024年5月に施行された監督者制度の内容を反映しています。
「身元引受人を立ててください」と言われたものの、頼める家族がいない。あるいは、家族はいるけれども頼める状況ではない。刑事事件のご相談では、この場面で行き詰まる方が少なくありません。
身元引受人は同居の家族が引き受けるのが典型だと説明されることが多いため、家族に頼めないとそれだけで打つ手がなくなったように感じられます。ただ、捜査機関や裁判所が見ているのは続柄そのものではなく、身体拘束を解いた後の生活がどのように成り立つのかという点です。この記事では、家族に頼めない場合に何を代わりに示せるのか、住まいや福祉の側にどのような受け皿が用意されているのかを整理します。
身元引受人は法律上の要件ではない
刑事訴訟法に「身元引受人」という言葉は出てきません。実務の中で使われてきた呼び名であって、資格や制度があるわけではないのです。
勾留するかどうかは、住居が定まっているか、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるか、逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるかという刑事訴訟法60条1項の三つの入口と、そのうえでの勾留の必要性で判断されます。起訴された後の保釈も、同法89条と90条に沿って、逃亡や罪証隠滅のおそれの程度などをふまえて判断されます。身元引受人は、これらのおそれが小さいことを説明するための材料の一つという位置づけです。
いないと出られない、という決まりはない
したがって、引受人がいないことが、そのまま身体拘束が続く理由になるわけではありません。もっとも、説明に使える材料が一つ減ることは事実ですから、代わりに何を示すかを早めに考えておく意味はあります。引受人に求められる役割そのものについては保釈の身元引受人になれる人・求められる役割で整理しています。なお、起訴される前の段階には保釈という手続はなく、使える手段が異なる点は起訴前に『保釈』はない|起訴前にできる身柄解放の手段をご覧ください。
家族に頼めない事情はいくつかの型に分かれる
| 事情の型 | 起こりやすい場面 | 代わりに補うもの |
|---|---|---|
| 身寄りがない | 親族が既に亡くなっている、単身で長く生活してきた | 釈放後に帰る場所と日常の連絡先 |
| 現実に監督できない | 家族が遠方に住んでいる、高齢や病気で動けない | 期日への出頭を確保する仕組み |
| 関係が絶えている | 長く連絡を取っていない、頼んだが断られた | 引き受ける意思を示せる人 |
| 家族が事件の関係者 | 家族が被害を受けた側にあたる、同じ事件に関わっている | 関係者と接触せずに暮らせる場所 |
| 家族に知らせたくない | 事件のことを家族に伏せておきたい | 家族以外に置く連絡先と受け皿 |
「頼めない」と「頼みたくない」は切り分ける
この二つは、対応がまったく違ってきます。物理的に頼める相手がいないのであれば、人以外の材料や公的な受け皿を探すことになります。一方、家族はいるけれども知られたくないという事情であれば、まずは家族以外の候補を当たり、それでも見つからないときに受け皿の話へ進む、という順序になります。どちらなのかを最初にはっきりさせておくと、その後の準備が無駄になりません。
家族以外で引き受け手になれる立場
引受人は同居の親族に限られません。実務では、同居していない親族、交際相手、勤務先の上司や雇主、住み込み先の管理者、長く付き合いのある友人などが引き受ける例があります。
見られているのは続柄ではなく立場
判断されているのは人柄や近さというより、釈放後に付く条件と両立できる立場かどうかです。たとえば住む場所を制限する条件や、事件の関係者に接触しないという条件が付いた場合、その条件を壊さずに日常の連絡が取れる位置にいるかが問われます。事件に関わった人や、被害を受けた側と近い立場の方は、この点で適さないと見られることがあります。
お金を出す人と引き受ける人は別でよい
保釈保証金は、保釈を請求した本人以外の方が納めることもできます。つまり、費用を工面してくれる人と、生活を見守る人は同じである必要がありません。手元に現金がない場合の選択肢は保釈保証書発行事業の使い方|手元に現金がない場合にまとめています。
人ではなく環境の側で示せるもの
引受人が立てられないときほど、生活の側の材料が意味を持ちます。書面として整えやすいのは、次のようなものです。
- 継続して住んでいる住居があり、家賃や公共料金の支払いが続いていること。
- 勤務先や取引先があり、身体拘束が解かれれば戻れる見込みがあること。
- 通院や通所の予定があり、受け入れ先が確認できること。
- 呼び出しの連絡が届く電話番号や住所があり、本人が受け取れる状態にあること。
- 事件の関係者と生活の動線が重ならないこと。
新しく作った体制よりも、以前から続いている事実のほうが説明しやすい傾向があります。住民票があるというだけでは住居が定まっているとは限らない点も含め、生活環境の整え方は勾留を避けるための材料|身元引受と生活環境の整え方で詳しく扱っています。
帰る場所そのものがない場合
住まいがない、戻れる家がないという場合には、更生保護施設や自立準備ホームといった受け皿があります。更生保護施設は全国に置かれている民間の施設で、行き場のない方を一定期間受け入れ、生活の立て直しを支える役割を担っています。自立準備ホームは、法務省に登録した民間の事業者などが一時的な宿泊場所を提供する仕組みです。
更生緊急保護という枠組み
これらの利用の入口になるのが、更生保護法85条1項の更生緊急保護です。条文は、身体の拘束を解かれた後に「親族からの援助を受けることができず」、または公の機関からの保護を受けられない場合などを対象として挙げています。家族に頼れないという状況が、はじめから想定に入っている仕組みだといえます。
対象となるのは、刑の執行を終えた方、保護観察の付かない執行猶予となった方、起訴猶予となった方などです。2023年12月の改正では、処分保留のまま釈放された方のうち検察官が罪を犯したと認めたものも加えられました。宿泊場所の提供や金品の給与貸与などが、原則として身体拘束を解かれてから6か月以内の範囲で行われます。利用には本人からの申し出が必要で、保護観察所の長が必要と認めたときに実施されます。処分保留での釈放という状態については処分保留で釈放された|終わったわけではない状態をあわせてご覧ください。
勾留されている間から調整を始める仕組み
2023年12月には、更生保護法83条の2という規定も設けられました。保護観察所の長が、勾留されている被疑者のうち検察官が罪を犯したと認めたものについて、本人の同意を得たうえで、釈放後の住居や就業先といった生活環境の調整を行うことができるという内容です。調整にあたっては担当の検察官の意見を聴く必要があり、捜査に支障が生じるおそれがあり相当でないという意見が述べられたときは行えません。
検察庁の内部の取り扱いを定めた規程でも、本人が希望する場合に、勾留中の生活環境調整に関する通知書によって保護観察所の長へ通知する手順が定められています。釈放されてから住まいを探し始めるのではなく、身体拘束の間に動き出せる道が用意されているということです。
身体拘束を解くための制度ではない点に注意
この仕組みは、釈放後の社会復帰を円滑にするためのものであって、勾留を解くための手続ではありません。調整が進んだ結果として生活環境が整い、それが判断の材料として示されることはありますが、利用すれば身体拘束が解かれるという性質のものではない点は押さえておいてください。
高齢や障害がある場合の窓口
本人が高齢であったり、障害があって福祉の支援が必要だったりする場合には、各都道府県に置かれている地域生活定着支援センターが関わることがあります。矯正施設を出る方の支援から始まった機関ですが、2021年度からは、刑事手続の入口の段階にある被疑者や被告人を対象とした支援も行われています。
保護観察所や検察庁のほか、弁護人からの相談を受け付けているセンターもあります。身体拘束中の面会から、釈放後の福祉サービスの申請支援、受け入れ先の調整までを一続きで扱う点が特徴です。ご家族が関わる場合の動き方については本人が高齢で手続を理解しきれない|家族が支えられる範囲や家族としてできること|身元引受・治療・監督体制の組み立てもご参照ください。
2024年5月に加わった監督者制度
保釈や勾留の執行停止の場面では、監督者という制度が使えるようになりました。裁判所が適当と認める方を、その方自身の同意を得て監督者に選任し、監督保証金を納めてもらうという仕組みです。監督者には、本人と一緒に期日へ出頭することや、住居や就労の状況などを報告することが命じられます。
こちらも家族に限られているわけではありません。ただ、運用が始まってからの期間が短く、選任された例はまだ多くないとされています。金額の目安もはっきりしていないため、使えるかどうかは事件ごとの検討になります。釈放後に付く条件の全体像は保釈の条件(制限住居・接触禁止・渡航制限)に違反したらどうなるかで整理しています。
弁護人に引き受けを頼めるか
弁護士が身元引受人になることもあります。家族や勤務先に知られたくないという事情がある場合に検討されることが多い選択肢です。もっとも、引き受けるかどうかの方針は事務所によって異なり、別途の費用が生じることもあります。身近に適した方がいる場合と比べて結果が大きく変わらないこともありますので、まずは候補の有無を整理したうえで相談されるとよいでしょう。
家族以外が引き受ける場合の書面
引受人が家族でない場合、書面には関係の説明を加える必要が出てきます。どのような経緯で知り合い、普段どの程度顔を合わせているのか、連絡はどう取っているのかといった事情です。名前と続柄だけで足りる家族の場合とは、書く分量が変わってきます。記載事項や文例は身元引受書は誰が何を書くのか|記載事項と文例にまとめました。
まとめ
- 身元引受人は法律上の資格ではなく、いないことがそのまま身体拘束の理由になるわけではありません。
- 家族に頼めない事情は、身寄りがない、監督できない、関係が絶えている、家族が事件の関係者である、知らせたくない、といった型に分けて考えると整理しやすくなります。
- 引受人は同居の親族に限られず、見られているのは続柄よりも釈放後の条件と両立できる立場かどうかです。
- 保釈保証金を出す方と生活を見守る方は、別の人であって構いません。
- 人を立てられない場合は、住居、就労、通院、連絡手段といった生活の側の材料を書面で示すことになります。
- 帰る場所がない場合には、更生保護施設や自立準備ホームの利用につながる更生緊急保護という枠組みがあります。
- 勾留されている間に釈放後の住居や就業先の調整を始められる規定も設けられています。
- 高齢や障害がある場合は、地域生活定着支援センターが勾留中から関わることがあります。
引受人が見つからないという状況は、それ自体で解決の道が閉ざされたことを意味しません。どの材料なら今の状況で用意できるのか、どの窓口が使えるのかは、事件の段階や本人の生活状況によって変わります。ご本人が身体を拘束されていると自分で候補を探すことも難しいため、周囲の方や弁護人が代わりに動く場面が多くなります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


