【男女トラブル】相手の家族から借りたお金|交際解消と同時に清算する

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

この記事は、2026年10月時点の民法(2020年4月1日施行の改正後の規定)にもとづき、交際相手の親など家族から借りたお金を、交際の解消にあわせて清算する場面の一般的な考え方を整理したものです。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は専門家にご相談ください。


「別れることになったけれど、彼の両親に借りたお金はどうすればいいのか」「相手のお母さんから、別れるなら今月中に全部返してほしいと言われた」。交際の解消をめぐるご相談の中には、二人の間の問題とは別に、相手の家族とのお金の貸し借りが残っているというものが少なくありません。

 借りたお金は返すもの、という説明はそれ自体誤りではありません。ただ、相手の家族が関わる貸し借りでは、誰が誰から借りたのか、いつまでに返す約束だったのか、返したことをどう残すのかがあいまいなまま進んでいることが多く、そこを整理せずに話を進めると、返したはずのお金をめぐって後から食い違いが生じることがあります。

 この記事では、交際相手の親など家族から借りたお金を、交際の解消にあわせて清算する場面に絞って考え方を整理します。交際相手本人との間の貸し借りは恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?と別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いで、結婚を前提に受け取ったお金や結納の扱いは結婚を前提に渡したお金・結納金は返還請求できるかで取り上げていますので、あわせてご覧ください。

最初に確かめるのは「誰が、誰から借りたのか」

 相手の家族とのお金のやり取りは、交際中の気安さもあって、誰と誰の間の約束なのかがはっきりしないまま行われがちです。ところが、お金を返す義務は、貸し借りをした当事者の間に生じるものです(民法587条)。返す相手を取り違えると、返したつもりでも清算が済んでいないことがあるため、まず「借りたのは誰か」「貸したのは誰か」を一つずつ確かめることが出発点になります。

 よくある形を整理すると、次のようになります。

お金の流れ貸し借りの当事者として考えられる組み合わせ清算で確かめること
相手の親から自分の口座に直接振り込まれた相手の親と自分親との間で、返す金額と時期を確かめる
相手の親のお金を、交際相手から手渡しで受け取った相手の親と自分、または交際相手と自分親が誰に貸したつもりだったのかを確かめる
二人の生活費や引越し費用として、二人で借りた相手の親と、自分および交際相手自分の負担分がいくらなのかを決める
「お祝い」「援助」として受け取った貸し借りではなく、贈与の可能性がある返す約束があったかどうかを確かめる


相手の親から直接受け取った場合

 親から自分の口座に振り込まれ、返す約束をしていたのであれば、貸し借りの当事者は相手の親と自分です。交際相手と別れても、親との約束がそれによって消えるわけではありません。反対に、交際相手から「親の分も含めて自分に返してほしい」と言われても、交際相手が親から受け取りを任されていなければ、交際相手に渡しただけでは親への返済にならないおそれがあります。

交際相手を通じて受け取った場合

 親のお金を交際相手から手渡しされた場合は、親が自分に貸すつもりで交際相手に預けたのか、親が交際相手に貸し、交際相手がそのお金を自分に貸したのかで、当事者が変わります。当時のメッセージのやり取りや、親が「あなたに貸す」と話していたかどうかなどを手がかりに整理します。交際相手や家族が本人の代わりに話をしている場面での確かめ方は、【男女トラブル】相手の家族が代わりに交渉に出てきた|代理権の有無の確かめ方で扱っています。

二人で借りた場合

 同棲を始める際の初期費用などを、二人で相手の親から借りたという場合もあります。複数の人が一緒にお金を借り、負担の割合を特に決めていなかったときは、原則としてそれぞれが等しい割合で返す義務を負います(同法427条)。二人の間で「家賃の分は相手、家具の分は自分」のように使い道ごとの分担を決めていたなら、その取り決めが清算の手がかりになります。共同で買った物の分け方は【男女トラブル】同棲を解消するとき、家具・家電はどう分けるのか|共同で買ったものの扱いをご覧ください。

借りたのか、もらったのか

 相手の親から受け取ったお金については、別れた後になって、受け取った側は「援助してもらった」、親の側は「貸しただけ」と、認識が分かれることがあります。貸し借りであれば返す義務がありますが、贈与であれば原則として返す必要はありません(同法549条)。どちらにあたるかは、お金の名目よりも、受け取ったときに返す約束があったかどうかで判断されます。

返す約束をうかがわせる事情

 次のような事情があると、貸し借りだったと評価されやすくなります。

  • 借用書やメモに、金額と返す時期が書かれている。
  • 「少しずつ返すね」「来月返します」といったメッセージが残っている。
  • これまでに一部を返したことがある。
  • 親が手帳や家計簿に貸したお金として記録している。


 別れ話の最中に「きちんと返します」と送ったメッセージも、借りたことを認める資料として扱われることがあります。援助として受け取ったと考えている場合は、その場の気持ちで認める返事をする前に、当時の経緯を落ち着いて整理しておくことをおすすめします。

贈与と考えられる場合

 誕生日のお祝いや、同棲を始めるときのお祝いとして渡されたお金は、返す約束がなければ贈与と考えるのが自然です。書面によらない贈与でも、すでに渡し終えた部分は解除することができません(同法550条)。一方、結婚を前提に渡されたお金や結納は、婚約が解消されたときの扱いに別の考え方があるため、結婚を前提に渡したお金・結納金は返還請求できるかで確認してください。

別れたら、すぐに全額を返さなければならないのか

 相手の親から「別れるなら今すぐ全部返して」と言われ、慌ててお金を工面しようとする方もいます。ただ、いつまでに返すかは、交際が続いているかどうかではなく、借りたときに返す時期をどう決めていたかによって変わります。

返す時期や分割の約束があった場合

 「毎月2万円ずつ」「来年の3月までに」といった約束があったなら、その期限までは返さなくてよいのが原則です。期限の前に一括での返済を求められるのは、法律が定める限られた場合(同法137条)か、あらかじめ「こういうときは残りを一括で返す」と約束していた場合です。交際の解消そのものは、特に約束していない限り、一括で返す理由にはならないと考えられます。

返す時期を決めていなかった場合

 返す時期を決めていなかったときは、貸した側は、相当の期間を定めて返すよう求めることができます(同法591条1項)。相当の期間は金額や事情によって変わりますが、求められたその日のうちに全額を用意しなければならないという意味ではありません。借りた側は、時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返すことができます(同条2項)。

「結婚したら」「落ち着いたら」と言われていた場合

 「結婚して落ち着いたら返してくれればいい」といった言い方で、返す時期が先送りされていたこともあるでしょう。このような約束は、返す時期をはっきり決めていなかっただけと見られることが多く、別れたことで返す約束そのものがなくなるわけではありません。他方で、結婚にかかる費用への援助として渡された趣旨だったのであれば、評価が変わることもあります。言葉の受け取り方で争いになりやすいところなので、当時のやり取りを残しておくことが大切です。

交際相手との貸し借りと差し引きできるのか

 交際相手の生活費を立て替えていた、あるいは交際相手にお金を貸していたという場合、「彼に貸している分と、彼の親に借りている分を差し引きしたい」と考えるのは自然なことです。

 しかし、法律上の相殺は、二人の人が互いに同じ種類の債務を負っている場合にできるものです(同法505条1項)。相手の親に返すべきお金と、交際相手が自分に返すべきお金は、当事者が異なるため、一方的に「差し引きした」と伝えても、相殺としての効力は認められないのが原則です。

三者が納得すれば差し引きの整理もできる

 一方的な相殺はできなくても、相手の親、交際相手、自分の三者が納得すれば、「交際相手が自分に返す分を親への返済にあてる」といった整理をすることは可能です。その場合は、誰の、どのお金が、いくら減ったのかを書面に残しておかないと、後から親が全額を求めてくるといった食い違いが起きかねません。交際相手のために立て替えたお金の扱いは交際中に立て替えた生活費・プレゼント代は返してもらえる?で取り上げています。

交際の解消と同時に清算する

 交際相手との関係を終える話し合いと、相手の家族への返済の話し合いを別々に進めると、交際相手とは「これで全部終わり」と合意したのに、後から親から請求が届くということが起こり得ます。交際相手との合意は、その場に加わっていない親の権利までなくすものではないからです。関係を区切りたいのであれば、相手の親、交際相手、自分の三者で、一度にまとめて清算する形を検討するのが現実的です。場面は異なりますが、三者で合意するときの考え方は【不貞慰謝料】三者間で示談する場合の設計も参考になります。

合意書に入れておきたい事項

 三者でまとめる合意書には、少なくとも次の事項を書いておくと、後の食い違いを防ぎやすくなります。

項目書いておく内容
当事者貸した人(相手の親)、借りた人、関係する交際相手の氏名
対象となるお金いつ、いくら、どのような名目で受け取ったか
返す金額と方法一括か分割か、振込先の口座、各回の金額と期日
支払いが遅れたとき残りを一括で返すことになる条件
清算の範囲この書面に書いたもの以外に、互いに請求するものがないこと
今後の連絡連絡の窓口や、直接の連絡を控えることの取り決め


 「互いに請求するものがない」という定め(清算条項)は、どのお金までを対象にするのかを具体的にしておくことが大切です。清算条項の意味と限界は清算条項の意味|後から追加請求されないためにで、分割で返す場合の取り決めは分割払いの示談書|期限の利益喪失条項と公正証書で詳しく扱っています。

返したことを記録に残す

 返済は、できるだけ貸した本人名義の口座への振込で行い、振込の記録を保管しておくのが安全です。現金で渡す場合は、返済と引き換えに受取証書(領収書)を求めることができます(同法486条1項)。交際相手に「親に渡しておく」と預けただけでは、親が受け取っていないと言ったときに、返したことを示すのが難しくなることがあります。

交際相手が「自分が代わりに返す」と言った場合

 別れ話の中で、交際相手が「親への分は自分が返しておく」と申し出ることもあります。交際相手が自分の代わりに親へ支払うこと自体は可能です(同法474条1項)。ただし、交際相手が実際に払い終えるまでは、親に対する自分の返済の義務は残ったままです。

自分が返さなくてよい状態にするには

 交際相手に返済を引き受けてもらい、自分はもう親に返さなくてよい状態にするには、親の関与が必要です。親と交際相手との間で合意する方法と、自分と交際相手との合意に親が承諾する方法があり、いずれも親が「今後はあなたには請求しない」と認めることが前提になります(同法472条2項・3項)。交際相手も一緒に返す義務を負うだけで、自分の義務も残る形(同法470条)にとどまっていることもあるため、どちらの形なのかを書面で確かめておきます。口約束のまま別れると、交際相手が払わなかったときに親から請求が届くことになりかねません。

本人同士で話さずに清算を進めるという選択

 別れ話がこじれていると、交際相手やその家族と顔を合わせて返済の話をすること自体が大きな負担になります。相手の家族が強い調子で返済を迫ってきたり、職場や実家に連絡すると言われたりすることもあります。

弁護士が窓口になる場合

 弁護士に依頼すると、交際相手や家族との連絡は弁護士を通じて行うことになり、本人同士で直接やり取りしなくても、貸し借りの当事者や金額の確認、返済方法の取り決め、合意書の作成を進めることができます。返す義務があるお金はきちんと返し、そのうえで関係を区切るという形を、本人が矢面に立たずに整えられる点に意味があります。窓口を移すことで何が変わるのかは弁護士に窓口を移すという選択|代理人通知が効く場面・効かない場面で扱っています。当事務所でも、【解決事例】交際中に受け取った自宅購入資金の一括返金を求められた|条件を確定させ接触禁止条項付きの合意書で解決した事例のように、返す条件を確定させたうえで合意書をまとめた例があります。

返済を求める側の言動が行き過ぎている場合

 貸したお金の返済を求めること自体は、正当な権利の行使です。ただ、返済を求める際に、職場に知らせる、家族に危害を加えるといった言葉で迫ることは、正当な請求の範囲を超えると評価される場合があります。境界の考え方は「金を返せ」と強く迫った|正当な債権回収と恐喝の境界で、相手やその周辺から自分の家族・友人に連絡が来る場合は別れた相手が家族や友人に接触してくる|第三者を巻き込む嫌がらせへの対応で取り上げています。また、婚約に至っていた場合に、婚約を解消したこと自体を理由とする慰謝料を求められたときの考え方は、結婚をやめたい|婚約の解消で慰謝料を払わずに済む「正当な理由」とはをご覧ください。

よくあるご質問

借りたのは何年も前で、ずっと催促されていません。今から返す必要はありますか

 貸したお金の返還を求める権利は、権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年で時効にかかります(同法166条1項)。2020年3月31日以前に借りたお金には改正前の規定が適用されるほか、途中で一部を返したり「返します」と伝えたりしたことで時効がやり直しになる場合もあります(同法152条1項)。時効は期間が過ぎれば自動的に適用されるものではなく、主張する意思表示(援用)が必要です(同法145条)。期間の数え方は男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかで整理しています。

相手の親から「返さなくていい」と言われていたのに、別れた途端に返してほしいと言われました

 貸した側が返済を求めないと伝えていた場合、その発言が債務を免除する意思表示だったと認められれば、返す義務はなくなります(同法519条)。もっとも、「今は気にしなくていい」という程度の言葉は、返す時期を猶予しただけと受け取られることもあります。発言の時期や言い方、前後のやり取りが判断の材料になるため、メッセージなどが残っていれば保管しておきましょう。

相手の家族と直接会わずに、返済だけを済ませることはできますか

 返す場所を特に決めていなければ、貸した人の住所で返すのが原則とされています(同法484条1項)が、振込で返すことに双方が合意していれば、直接会う必要はありません。金額や当事者について食い違いがあり話し合いが必要な場合でも、書面でやり取りする方法や、弁護士を窓口にして進める方法があります。

まとめ


  1. 返す義務は貸し借りの当事者の間に生じるため、まず誰が誰から借りたのかを確かめる(民法587条)。
  2. 返す約束がなかったお金は贈与と考えられ、渡し終えた部分は解除できない(同法549条・550条)。
  3. 返済の期限や分割の約束があれば、交際の解消だけを理由に一括で返す必要はないのが原則である(同法137条)。
  4. 返す時期を決めていなかった場合、貸した側は相当の期間を定めて返済を求めることになる(同法591条1項)。
  5. 交際相手への貸しと相手の親からの借りは、当事者が異なるため一方的には相殺できない(同法505条1項)。
  6. 交際相手が代わりに返すと言っても、親が承諾しなければ自分の返済の義務は残る(同法472条)。
  7. 三者で一度に合意し、返済は振込や受取証書で記録に残す(同法486条1項)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。交際相手の家族とのお金の貸し借りについても、誰と誰の間の約束なのかの整理から、返済条件の取り決め、合意書の作成まで対応しています。

相手の家族から借りたお金の返し方に迷っている方、交際相手やその家族と直接やり取りせずに関係を区切りたいとお考えの方は、お一人で抱え込まず、一度ご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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