【交際トラブル】同性カップルの交際解消|同居と財産の清算

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

この記事は、2026年10月時点の法令と、公表されている裁判例・報道をもとに作成しています。同性婚を認めない民法・戸籍法の規定をめぐる訴訟は、2026年3月に最高裁判所の大法廷へ回付され、審理が続いています。その判断や今後の法改正によって、本記事で扱う結論が変わる可能性があります。


「一緒に暮らしていた部屋を出ることになったが、二人で貯めたお金はどう分ければよいのか」「別れた途端、相手名義の口座に入れていた生活費は返さないと言われた」。同性カップルの交際解消をめぐるご相談では、清算を求めたい側からも、清算を求められて戸惑っている側からも、こうした声をうかがいます。

 異性の事実婚(内縁)であれば、離婚に準じて財産分与を求める道があると説明されることが多く、その説明自体は誤りではありません。ただ、同性カップルについては、その道が裁判例の上でまだ確立しておらず、同じ説明をそのまま当てはめると、見込みを誤るおそれがあります。

 この記事では、同性カップルが別れる際の「同居の解消」と「財産の清算」を、一般の民法のルールで一つずつ組み立てる考え方を整理します。内縁・事実婚一般の解消、同性間の関係と慰謝料、家具・家電やペットの分け方の細部は、それぞれ別の記事で解説していますので、必要に応じてご参照ください。

同性カップルの別れに「財産分与」は使えるのか|裁判例の現在地

異性の内縁では、財産分与の規定が類推される

 法律上の夫婦が離婚するときは、婚姻中に協力して築いた財産を分ける「財産分与」を求めることができます(民法768条)。婚姻届を出していない異性の内縁についても、最高裁判所は内縁を婚姻に準ずる関係と位置づけ(最高裁昭和33年4月11日判決)、生前に関係を解消する場合には財産分与の規定を類推適用することを前提とした判断を示しています(最高裁平成12年3月10日決定)。

 この仕組みのもとでは、どちらの名義になっているかにかかわらず、共同生活の中で築いた財産を全体として見て、貢献の度合いに応じて分けることになります。

 内縁・事実婚の解消で何が法律上の夫婦と同じで何が違うのかは、【男女トラブル】内縁・事実婚を解消するとき|法律上の夫婦と何が同じで、何が違うのかで解説しています。

同性カップルの財産分与を求めた事件では、認められなかった

 同性カップルが別れた後に、内縁の解消を理由として財産分与を求めた家事審判では、横浜家庭裁判所が2022年2月、申立てを退ける決定をしたと報じられています。報道によれば、日本法では当事者が異性であることが婚姻の実質的な要件であるとして、同性間では財産分与の前提となる内縁が成立しないと判断されました。

 この事件は東京高等裁判所に抗告されましたが、2024年5月1日の決定でも申立ては認められませんでした。ただし、報道によれば、高裁は二人が外国で婚姻し、その婚姻がまだ解消されていない点を理由としており、日本法の下で同性カップルに財産分与の規定を類推できるかという点には、正面からの判断を示していないとされています。

現時点では、同性カップルが別れたときに「財産分与の手続きで一括して清算する」という道は確立していないため、一般の民法で一つずつ組み立てることを前提に準備するのが現実的です。

慰謝料などの場面では、法的な保護が認められた例もある

 一方で、同性カップルの関係そのものが法的な保護の対象になると判断された例もあります。長く共同生活を送っていたパートナーの一方が不貞行為をしたとして損害賠償を求めた事件では、宇都宮地方裁判所真岡支部が2019年に賠償を命じ、この判断は最高裁判所で2021年に確定しています。また、犯罪被害者等給付金の支給をめぐっては、同性パートナーも「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に当たりうるとする最高裁判所の判断が示されています(最高裁令和6年3月26日判決)。

 ただ、これらは慰謝料や公的給付の場面での判断であり、財産の清算方法を直接定めたものではありません。関係解消をめぐる慰謝料の考え方は、【不貞慰謝料】同性間の関係は不貞行為にあたるのかで扱っています。

財産は「名義」「出したお金」「約束」の三つで仕分ける

一人の名義になっている財産は、原則として名義人のもの

 財産分与の仕組みが使えない場合、財産はまず名義を出発点に考えることになります。一方の名義の預金口座、一方の名義で登録された車、一方の名義で契約した家電の分割払いなどは、原則としてその名義人の財産として扱われます。

 もっとも、名義は出発点にすぎません。たとえば「二人の貯金」として毎月同じ額を一方の口座に入れていた場合、その口座の残高のうち自分の入金分は自分に帰属する、あるいは返還を求められると主張する余地があります。このとき重要になるのは、入金の記録と、何のためのお金かを二人がどう理解していたかを示すやり取りです。

二人でお金を出して買ったものは「共有」として扱われる

 二人でお金を出し合って購入した物や、登記上も共有名義になっている不動産は、民法の「共有」のルールで扱われます。持分がはっきりしない場合は等しいものと推定され(民法250条)、各共有者はいつでも分割を求めることができます(同法256条1項)。話し合いがまとまらないときは、裁判所に分割を求めることもできます(同法258条1項)。

 共同で購入した家具・家電の具体的な分け方は、【男女トラブル】同棲を解消するとき、家具・家電はどう分けるのか|共同で買ったものの扱いで解説しています。

財産の種類ごとの整理

 財産の種類によって、主に問題になる根拠と、確認しておきたい資料は次のように異なります。

財産の種類主に問題になる考え方確認しておきたい資料
一方名義の預金口座名義人の財産が原則。共同の積立なら入金分の返還を主張する余地通帳・入出金履歴、積立について話したメッセージ
共同名義の不動産共有物の分割(民法256条・258条)登記事項証明書、売買契約書、ローン契約書
二人で出し合って買った物共有。持分不明なら等しいと推定(民法250条)領収書、カード明細、購入時のやり取り
相手に貸したお金消費貸借として返還を求める(民法587条)振込記録、借用書、返済を約束したメッセージ
贈った物・渡したお金贈与なら原則返還を求められない渡した経緯が分かるやり取り
パートナーシップ契約書・公正証書契約に清算条項があればそれに従う契約書・公正証書の正本または謄本


同居の解消|住まいの契約と退去

賃貸住宅は、契約の名義人が誰かで立場が変わる

 賃貸住宅の契約は、貸主と契約者との間のものです。一方だけが契約者になっている場合、もう一方は貸主との間で直接の契約関係を持たないのが通常で、退去の時期や敷金の精算は、まず契約者と貸主との間で進みます。二人で負担してきた家賃や、退去時の原状回復費用をどう分けるかは、貸主との関係とは別に、二人の間で話し合うことになります。

 退去費用の分担は同棲解消の敷金・原状回復・退去費用は誰が払う?、契約者でない相手が退去しない場合の対応は【男女トラブル】同棲していた部屋から相手が出ていかない|名義を貸した側にできることで扱っています。

二人でローンを組んだ持ち家は、登記とローンを分けて考える

 近年は、同性カップルを対象に二人での住宅ローンを取り扱う金融機関もあり、共有名義で住宅を購入しているケースもあります。この場合、二人の間で「家を出る側は持分を手放す」と決めても、それだけで金融機関に対する返済の責任がなくなるわけではありません。

持ち家の清算では、登記の持分をどうするかと、ローンの債務者・保証人をどうするかを分けて検討し、金融機関の了承が必要な事項は事前に確認しておくことが大切です。売却して残りを分ける方法や、一方が相手の持分を買い取る方法などがありますが、どれを選べるかは残りのローンの額や収入によって変わります。

荷物・鍵・ペットなど、日常のものの区切り方

 同居を解消する際は、財産の大小とは別に、相手の荷物、合鍵、共に飼っていたペットなどの区切りも必要になります。相手の荷物を勝手に処分することや、一方的に鍵を替えて締め出すことは、かえって新たな争いの原因になりかねません。

 これらの具体的な進め方は、【男女トラブル】別れた後に共通のペット・車・家財をどう分けるかや【男女トラブル】別れた相手が合鍵を持っている|返してもらう交渉と、鍵を替える判断で解説しています。

生活費の負担差・貸し借り・贈ったものの扱い

生活費を多く負担していたことは、それだけでは請求の根拠になりにくい

 「家賃も食費もほとんど自分が払っていた」というご相談は少なくありません。しかし、共同生活の中での負担は、その時々に二人が納得して分担していたものと見られることが多く、別れた後に差額をさかのぼって請求することは、原則として難しいと考えられます。

 例外的に、「立て替えておくので後で精算する」といった約束があった場合には、その約束に基づいて請求できる可能性があります。立替の扱いは交際中に立て替えた生活費・プレゼント代は返してもらえる?で扱っています。

貸したお金と、贈ったお金を区別する

 相手に渡したお金が、返してもらう約束のある「貸付」であれば、別れた後でも返還を求めることができます(民法587条)。一方、返してもらう約束のない「贈与」であれば、原則として返還を求めることはできません。書面によらない贈与は解除できますが、すでに渡し終えた部分は解除の対象になりません(同法550条)。

 どちらに当たるかは、渡したときのやり取りや、その後の返済の有無などから判断されます。詳しくは別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いと恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?をご覧ください。

関係が続くことを前提に出したお金

 相手の名義の住まいの購入費やリフォーム費用を負担したなど、関係が続くことを前提にまとまったお金を出していた場合には、法律上の原因がないまま相手が利益を得ているとして、不当利得の返還(民法703条)を主張する余地もあります。ただし、どこまで認められるかは事案ごとの判断となり、出したお金の目的や、それによって相手がどのような利益を得たかを具体的に示す必要があります。

話し合いと合意書の作り方

清算の対象を一覧にし、合意書で区切る

 財産分与のように全体をまとめて分ける手続きが使いにくい以上、清算は項目ごとの積み上げになります。預金、共有物、住まい、貸し借りなど、対象を一覧にして一つずつ結論を出し、最後に「この合意に定めるほか、互いに何らの債権債務もない」とする清算条項を入れた合意書を作っておくと、後からの蒸し返しを防ぎやすくなります。

 交際中にパートナーシップ契約書や公正証書を作成していた場合は、その中に別離時の清算についての定めがないかを最初に確認します。定めがあれば、それが話し合いの出発点になります。なお、まとまった金額をやり取りする場合は、名目によって税金の扱いが変わる可能性もあるため、必要に応じて税理士にも確認しておくと安心です。

 合意書の作り方は、相手が要求を取り下げても終わりではない|再請求を防ぐ合意書の作り方も参考になります。

性的指向を交渉の材料にしない・されたときの対応

 同性カップルの別れ話では、相手の性的指向を本人の同意なく家族や職場に伝えると示唆するやり取りが生じることがあります。こうした情報を本人の同意なく第三者に明かすことは、プライバシーの侵害として問題になりうるうえ、金銭の支払いを迫る文脈で用いれば、脅迫や恐喝が問題になることもあります。

感情的な対立が強いときほど、性的指向に関わる情報を交渉の材料に使わないこと、そして使われた場合にはやり取りを記録して早めに相談することが、自分の身を守ることにつながります。告知をほのめかされた場合の考え方は、「家族と職場にバラす」と言われた|告知の中身別に見る違法性で解説しています。

話し合いが進まないときの手続

 当事者同士の話し合いが難しい場合は、弁護士が窓口となって交渉する方法のほか、簡易裁判所の民事調停を利用する方法があります。それでも合意できない場合は、共有物の分割、貸したお金の返還、不当利得の返還など、請求の内容ごとに訴訟で解決を図ることになります。

 相手が連絡に応じない場合の進め方は、【男女トラブル】相手が話し合いに応じない|連絡が取れないまま清算する方法で扱っています。

よくあるご質問

自治体のパートナーシップ制度を利用していれば、財産分与を求められますか。

 自治体のパートナーシップ宣誓・証明の制度は、各自治体が独自に設けているもので、民法上の財産分与や相続の権利を生じさせるものではありません。ただし、二人が継続的な共同生活を送っていたことを示す資料の一つにはなりうるため、清算の話し合いでも共同生活の実態を説明する材料として保管しておくことをおすすめします。

長く一緒に暮らしていれば、相手名義の預金の半分を求められますか。

 財産分与の仕組みが使えない以上、共同生活の期間が長いというだけで、相手名義の預金の半分を当然に求めることは難しいと考えられます。共同で積み立てる約束があったか、自分がいくら入金したかといった具体的な事情を積み上げることが必要です。交際期間と清算の関係は、【男女トラブル】交際期間の長さは金銭の清算に影響するのかでも扱っています。

外国で同性婚をしている場合は、扱いが変わりますか。

 一方または双方が外国籍で、外国の法律に基づいて婚姻している場合は、どの国の法律が適用されるかという問題が加わります。前述の東京高等裁判所の事件のように、外国での婚姻が解消されていないことが判断に影響した例もあるため、個別の事情に応じた検討が欠かせません。

まとめ


  1. 異性の内縁では財産分与の規定が類推されますが(民法768条、最高裁平成12年3月10日決定)、同性カップルについては認められなかった裁判例があり、現時点で確立した道ではありません。
  2. 財産はまず名義を出発点とし、出したお金と二人の約束によって修正を検討します。
  3. 二人で出し合って買った物は共有として扱われ、持分が不明なら等しいと推定されます(民法250条)。分割は話し合い、まとまらなければ裁判所に求めることができます(同法256条1項・258条1項)。
  4. 共有名義の持ち家は、登記の持分とローンの債務を分けて検討し、金融機関との関係も確認します。
  5. 貸したお金は返還を求められますが(民法587条)、贈与したものは原則として返還を求められません(同法550条)。
  6. 関係が続く前提で出したまとまったお金は、不当利得(民法703条)として返還を主張する余地があります。
  7. 清算は項目ごとに結論を出し、清算条項を入れた合意書で区切ることが、後のトラブル防止につながります。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、同性カップルの関係解消を含め、交際・同居をめぐるトラブルのご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。同居の解消や財産の清算は、相手との関係や感情が絡むため、当事者同士では話し合いが進みにくいことも少なくありません。

清算を求めたいとお考えの方も、清算や返金を求められてお困りの方も、手元の資料をお持ちのうえで、お気軽にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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