【男女トラブル】同棲中に相手が勝手に家具や家電を売った

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

この記事は、2026年10月時点の民法・刑法・古物営業法・民事訴訟法にもとづいて書いています。
刑罰の表記は、2025年6月施行の改正刑法による「拘禁刑」で記載しています。


同棲を解消する話が出ていた矢先に、部屋から冷蔵庫やソファがなくなっていて、フリマアプリに見覚えのある家具が出品されていた。ご相談の場では、こうしたお話を伺うことがあります。反対に、売った側の方から「家賃も生活費も自分が多く出していたので、売っても問題ないと思っていた」と伺うこともあります。

 「二人で買った物は相手の同意なく売れない」という説明は、それ自体は誤りではありません。ただ、実際に売られてしまった後は、相手の行為が許されるかどうかとは別に、その物を取り戻せるのか、それとも代金で清算するしかないのかという問題が残ります。この分かれ目は、誰の物だったか、どこに売られたか、売られてからどれだけ時間がたったかによって変わり、期限が関わる場面もあります。

 この記事では、同棲中や同棲解消の前後に、相手が家具・家電を無断で売ってしまった後の対応に絞って整理します。売られる前に家財をどう分けるかは【男女トラブル】同棲を解消するとき、家具・家電はどう分けるのか|共同で買ったものの扱い、相手の荷物が部屋に残っている場合は【男女トラブル】相手の荷物が家に残っている・自分の荷物を取りに行きたい|勝手に処分してよいかをあわせてご覧ください。

最初に確かめたいのは「誰の物だったか」

 売られた家具・家電を取り戻す、あるいは代金を請求する前提として、その物が誰の所有だったかを整理する必要があります。同棲中は物を一緒に使っているため、所有の区別があいまいになりがちです。

代金を出した人の物になるのが基本

 家具や家電は、原則として代金を支払って購入した人の所有になります。同棲前から持っていた物や、自分のカードで購入した物は、相手が日常的に使っていたとしても、それだけで相手の物になるわけではありません。配送先や保証書の宛名と、実際に代金を負担した人が違う場合は、どちらが負担したかが争点になりやすいため、支払いの記録が重要になります。

二人でお金を出した物は共有になる

 二人で代金を出し合って購入した物は、二人の共有と考えられます。持分の割合について特別な取り決めがなければ、持分は等しいものと推定されます(民法250条)。共有物全体を売るには他の共有者の同意が必要と考えられており(同法251条1項参照)、一方が自分の判断だけで売った場合は、相手の持分を侵害したことになります。相手が「共有だから自分にも売る権利がある」と言っても、それだけで売却が正当になるわけではありません。

贈った物・生活費から出した物の扱い

 交際中に相手へ贈った家電は、贈与によって相手の物になっていると評価されやすく(同法549条)、相手がそれを売ったとしても、返還や賠償を求めるのは難しくなります。一方、生活費を一つの口座や財布にまとめて購入した物は、どちらがどれだけ負担したかの資料によって、共有か一方の物かの評価が変わります。贈ったつもりだったのか、二人の生活のために買ったのかで言い分が分かれることもあるため、購入時のやり取りが残っていれば確認しておくとよいでしょう。

売られた物を取り戻せるかは「売られ方」で変わる

 所有者であっても、売られた先にある物をそのまま取り戻せるとは限りません。事情を知らずに買った人を保護する仕組みがあるためです。

事情を知らずに買った人は、原則として保護される

 売り手が所有者でないことを知らず、知らなかったことに落ち度もない買い手は、取引によって所有権を取得できる場合があります(民法192条、即時取得)。リサイクルショップやフリマアプリで買った人は、通常、売り手が同棲相手の物を勝手に売っているとは知りません。そのため、売られた物そのものを取り戻すよりも、売った相手に代金や賠償を求める方向が中心になる場面が多いといえます。

「盗品」にあたる場合の例外と期限

 ただし、売られた物が盗まれた物(盗品)にあたる場合には例外があり、所有者は盗難の時から2年間、買った人に返還を求めることができます(同法193条)。買った人が同種の物を販売する商人などから善意で購入していた場合は、買った人が支払った代金を弁償することが返還の条件になります(同法194条)。さらに、買い取ったのが古物商(リサイクルショップや買取店など)である場合は、盗難の時から1年以内であれば、代金を支払わずに返還を求めることができます(古物営業法20条)。

買い取った・購入した人返還を求められる期間代金の弁償
リサイクルショップ・買取店(古物商)盗難から1年以内不要(古物営業法20条)
リサイクルショップ・買取店(古物商)盗難から1年経過後、2年以内買い手が支払った代金の弁償が必要(民法194条)
フリマアプリなどで購入した個人盗難から2年以内原則として不要(民法193条)


 古物商は、買い取りの際に売り手の住所・氏名などを確認し、取引の内容を帳簿などに記録しておく義務を負っています(古物営業法15条1項、16条)。どの店に持ち込まれたかが分かれば、品物の行方をたどる手がかりになります。もっとも、この記録は個人に開示されるものではないため、警察に相談したうえで確認を進めるのが一般的です。店からさらに別の人へ売られた場合などは扱いが変わることもあるため、期限が迫っているときは早めに専門家へご相談ください。

預けていた物を売られた場合は、例外が使いにくい

 上の例外は、売られた物が「盗品」にあたる場合の話です。たとえば、引っ越しの都合で自分の家電を相手の部屋に置かせてもらっていた、相手に保管を任せていたといった場合、相手がそれを売る行為は、盗みではなく預かった物の横領と評価される可能性があります。横領された物は盗品にあたらないと考えられているため、民法193条や古物営業法20条の例外は使えず、買った人が即時取得によって保護されやすくなります。同棲中の物がどちらの管理下にあったかは事情によって評価が分かれるため、置き場所、鍵の管理、どちらが先に部屋を出たかなどを時系列で整理しておくことが大切です。

売った相手に対して求められること

 物を取り戻せない場合でも、売った相手に対しては金銭での清算を求めることができます。

損害賠償と、売却代金の返還

 売った相手に対しては、所有権(共有の場合は持分)を侵害されたことによる損害賠償を求めることができます(民法709条)。また、相手が受け取った売却代金を、法律上の原因のない利益として返還するよう求める考え方もあります(同法703条、704条)。

 注意したいのは、賠償の基準になるのは購入時の価格ではなく、売られた時点の価値(時価)が中心になる点です。使用年数がたった家電は購入価格より大きく下がっていることが多く、共有物であれば持分に応じた額に限られます。「買ったときの値段を全額返してほしい」という請求は、そのままでは通りにくいことを踏まえ、型番や購入時期、状態が分かる資料をそろえておくと、金額の話し合いを進めやすくなります。

「立て替えた生活費と相殺する」と言われたとき

 売った側から「生活費を多く負担していたのだから、売った代金はその穴埋めだ」と言われることがあります。しかし、悪意による不法行為で生じた損害賠償の債務については、加害者の側から相殺を主張することはできないとされています(民法509条1号)。相手の物と知りながらあえて売ったような場合には、この規定が問題になります。生活費の負担に言い分があるなら、それは別の請求として話し合うべきもので、無断で売ったことを正当化する理由にはなりにくいといえます。交際中のお金の精算については交際中に立て替えた生活費・プレゼント代は返してもらえる?もご参照ください。

相手が話し合いに応じない場合

 請求額が60万円以下であれば、原則として1回の期日で審理を終える少額訴訟を利用できます(民事訴訟法368条1項)。家具・家電の時価はこの範囲に収まることも多いため、選択肢の一つになります。相手と連絡が取れなくなった場合の進め方は、【男女トラブル】相手が話し合いに応じない|連絡が取れないまま清算する方法で解説しています。

刑事事件として扱われる可能性

 他人の物を無断で売る行為は、民事上の責任とは別に、犯罪にあたる可能性もあります。

窃盗と横領のどちらにあたるか

 事情によって、窃盗罪(刑法235条、10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)や、横領罪(同法252条1項、5年以下の拘禁刑)にあたる可能性があります。相手が自分の管理していない物を持ち出したのか、自分が預かっていた物を売ったのかによって分かれ、共同で使っていた物を一方が持ち出したような場合は評価が難しくなります。どちらにあたるかは、前の章で触れた買い手からの取り戻しにも関わります。

同棲相手には親族間の特例が及ばない

 配偶者や同居の親族の間での窃盗・横領については、刑が免除される特例があります(刑法244条1項、255条)。しかし、この特例は内縁の配偶者には適用も類推適用もされないとした最高裁の判断があり(最高裁平成18年8月30日決定)、結婚していない同棲相手は、この特例の対象外と考えられます。家族間の特例については、同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲で詳しく解説しています。

被害届を出すかどうかの考え方

 被害届を出すと、警察が売却先を調べたり、相手から事情を聴いたりする可能性があります。古物商に持ち込まれた疑いがある場合、警察は店に対して品物の保管を命じることもできます(古物営業法21条)。一方で、同棲中の物の帰属は当事者の言い分が食い違いやすく、警察から「まずは当事者で話し合ってほしい」と言われることもあります。品物の行方を早く確認したいのか、相手との金銭の清算を優先したいのかによって、どちらを先に進めるかが変わります。受理されなかったときの考え方は被害届を受理してもらえない|断られたときにできることをご覧ください。

売られたことに気づいた直後にしておきたいこと

 売られたことに気づいた直後は気持ちが乱れやすい時期ですが、次のように記録と確認を進めておくと、その後の選択肢を狭めずにすみます。

  1. なくなった物の一覧を作り、型番・購入時期・購入店・支払方法を書き出す。
  2. レシート、カード明細、通販の購入履歴、保証書など、代金を負担したことを示す資料を集める。
  3. フリマアプリなどに出品されているのを見つけたら、出品画面・出品者名・日時を画面ごと保存する。
  4. 相手とのやり取りは、責める言葉を避け、売ったかどうかや売却先を確かめる形で文字に残す。
  5. 部屋に残っている自分の物を確認し、必要なら置き場所の写真を撮ったうえで先に移しておく。
  6. 仕返しとして相手の物を売ったり処分したりはしない。


 最後の点は特に注意が必要です。相手が先に無断で売ったとしても、こちらが相手の物を勝手に処分すれば、今度はこちらが責任を問われる立場になりかねません。相手の荷物の扱いは【男女トラブル】相手の荷物が家に残っている・自分の荷物を取りに行きたい|勝手に処分してよいか、相手がまだ部屋の鍵を持っている場合は【男女トラブル】別れた相手が合鍵を持っている|返してもらう交渉と、鍵を替える判断が参考になります。話し合いの内容を記録に残す方法は、【男女トラブル】別れ話を録音しておくべきか|交際を終える話し合いでの記録の作り方でも解説しています。

よくあるご質問

内縁関係だった場合は、扱いが変わりますか。

 婚姻届を出していなくても、夫婦として共同生活を送っていたと評価される内縁関係では、解消時の財産の清算に、離婚の財産分与の考え方が類推されることがあります。売られた家財の価値を、清算全体の中で調整する話し合いになる場合もあります。他方で、刑法の親族間の特例は内縁の配偶者には及びません。内縁の解消については【男女トラブル】内縁・事実婚を解消するとき|法律上の夫婦と何が同じで、何が違うのかをご覧ください。

「出ていったから要らない物だと思った」と言われました。

 物を置いたまま部屋を出たことだけで、所有権を放棄したと評価されるわけではありません。放棄といえるには、その物を手放す意思が明らかである必要があります。引き取りの予定を伝えていた、荷物の扱いについて話し合いが続いていたといった事情があれば、それを示すやり取りが判断の材料になります。

相手が売った代金をすでに使ってしまっていても、請求できますか。

 代金を使ってしまったことは、賠償の責任を免れる理由にはなりません。ただし、実際に回収できるかは相手の資力に左右されます。分割での支払いを合意する場合は、支払いが滞ったときの取り決めを含めて書面にしておくことが考えられます。当事者間で作る書面の効力については【男女トラブル】交際相手との間で作った書面|『誓約書』『覚書』の効力で解説しています。

まとめ


  1. 家具・家電は原則として代金を負担した人の物で、二人で出し合った物は持分の等しい共有と推定される(民法250条)。
  2. 共有物全体を一方が無断で売ることはできず、売れば相手の持分を侵害する(同法251条1項参照)。
  3. 事情を知らずに買った人は、即時取得によって保護されることが多い(同法192条)。
  4. 盗品にあたる場合は盗難から2年間返還を求められ、古物商が買い取った場合は1年以内なら無償で返還を求められる(同法193条、194条、古物営業法20条)。
  5. 預けていた物を売られ、横領と評価される場合は、これらの例外が使いにくい。
  6. 売った相手には時価を基準とした賠償や売却代金の返還を求めることができ、悪意による不法行為の賠償債務との相殺は認められない(民法709条、703条、704条、509条1号)。
  7. 結婚していない同棲相手には、刑法の親族間の特例は及ばない(刑法244条1項、255条、最高裁平成18年8月30日決定)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。同棲の解消にともなう家財の清算について、相手と直接やり取りをせずに済むよう、弁護士が窓口となって交渉を進めることも可能です。
家具や家電を勝手に売られてしまった方はもちろん、売ったことについて相手から請求を受けている方も、手元の資料をお持ちのうえでお気軽にご相談ください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼