【不貞慰謝料】三者間で示談する場合の設計

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

「不倫相手と示談書を作ることになったのですが、配偶者にも署名してもらったほうがよいのでしょうか」。「請求してきた方から、あなたと私と私の配偶者の三人で合意書を作りたいと言われました。応じてよいものか判断がつきません」。慰謝料の話し合いがまとまりかけた段階で、こうしたご相談をいただくことがあります。

 三者で示談すれば求償の問題を残さずに済む、という説明はよく見かけます。それ自体が誤りというわけではありません。ただ、三者で合意するかどうかは求償の一点だけで決まるものではなく、書面に何をどこまで書くかによって、決めておくべきことも、集めるべき署名も変わってきます。人数を一人増やす話として受け止めると、途中で行き詰まることがあります。

 この記事では、三者で示談する場合に何をどう組み立てるのかという設計の部分に絞って整理します。求償権を放棄する条項そのものの書き方、清算条項の文言の読み方、接触禁止や口外禁止の条項の効き方と限界、分割払いの取り決めや公正証書、慰謝料の金額の水準については、それぞれ別の記事で扱っています。

「三者間の示談」と呼ばれているもの

 不貞の慰謝料をめぐる話し合いには、通常三人が関わります。請求する配偶者、不貞をした配偶者、そして不貞の相手方です。このうち三人全員が当事者として一つの書面に署名する形が、一般に三者間の示談と呼ばれています。

二者間との違いは人数ではない

 示談は、争いをやめることを互いに約束する和解の契約です(民法695条)。この点は二者で結んでも三者で結んでも変わりません。違いが出るのは、その書面がどの人とどの人の間の取り決めまで含んでいるかという点です。契約は署名した当事者を拘束するものですから、書面に名前のない人との関係については、そこに何が書かれていても取り決めをしたことにはなりません。

 三者にするかどうかを考えることは、人数の問題ではなく、決めておきたい事柄が誰と誰の間の話なのかを整理する作業だと考えると分かりやすくなります。

W不倫では四者になることがある

 双方が既婚である場合には、二組の夫婦の四人が関わることになり、四者で一つの書面を作る形も見られます。考え方の枠組みは三者の場合と共通しますが、請求が両方向に生じる点で調整の難しさが増します。W不倫に固有の論点は別の記事で扱っています。

一枚の書面に載る関係は三つある

 三者の示談書を一枚の紙として眺めると条項が並んでいるだけに見えますが、中身は三つの別々の関係についての取り決めが同居しています。ここを分けて考えることが、設計の出発点になります。

書面に載る関係その関係で決めること二者だけの書面では届きにくいところ
請求する側と不貞相手慰謝料の額と支払方法、今後の接触の扱い、口外の扱い不貞相手が配偶者に対して何かを求めることまでは取り決められない
請求する側と配偶者夫婦の間での金銭の扱い、今後についての約束不貞相手が関わる部分には及ばない
配偶者と不貞相手二人の間で金銭を求め合わないこと、今後連絡を取らないこと請求する側と一方だけが署名した書面では取り決められない


どの関係まで書面に載せるかは選べる

 三人が署名するからといって、三つの関係すべてについて詳しく書かなければならないわけではありません。慰謝料の支払だけを取り決め、夫婦の間のことは書面に載せないという組み立ても成り立ちます。逆に、支払は不貞相手だけが行うとしたうえで、不貞をした二人の間の約束を中心に据える形もあります。

 どの関係を書面に載せるかによって、必要な署名も、話し合いにかかる時間も変わります。

三者にすることで置けるようになるもの

 二者だけの書面では取り決めにくく、三人がそろって初めて書面に載せられる事柄がいくつかあります。

不貞をした二人の間の取り決め

 支払をした側がもう一方に負担を求めるかどうかという問題は、本来は不貞をした二人の間の話です。請求する側と不貞相手の二人だけが署名した書面にその点を書いても、そこに名前のない配偶者との関係では取り決めが成立したとは言いにくくなります。三人がそろえば、この部分を書面の中に直接置くことができます。求償の権利を放棄する条項の書き方や、二者間で同じ結果に近づける工夫については、別の記事で詳しく扱っています。

二人が今後連絡を取らないという約束

 連絡を取らないという約束は、片方だけが守っても実現しない性質のものです。不貞相手に対してだけ接触を控えるよう求める書面では、配偶者の側から連絡した場合に何を根拠に是正を求めるのかがはっきりしません。三人が署名する形であれば、二人の双方に向けた約束として書面に置くことができます。条項の効き方と限界については別の記事をご覧ください。

同じ事実の記載を三人で確認する

 いつからいつまで、どのような関係があったのかという事実の記載を、三人が同じ文言で確認する形になります。後から食い違いが出にくくなる一方で、その記載は不貞をした配偶者にとっても自らが署名した書面の一部として残ります。夫婦関係をこれからどうするかがまだ定まっていない段階では、この点をどう受け止めるかを含めて考えておく必要があります。

三者にすることで新たに生じること

 置けるものが増える一方で、二者では起きなかった負担も生まれます。三者間を勧める説明の多くはこの部分に踏み込んでいませんが、実際の交渉では時間の大半がここに費やされることもあります。

三人の合意がそろわないと成立しない

 三人が当事者となる合意は、三人全員が同じ内容を受け入れて初めて成立します。二人の間で条件が固まっていても、残る一人が一部の条項に納得しなければ、その書面は形になりません。二者間であれば済んでいた話が、一人分の判断を待つことで長引くことがあります。

書面の中身が三人に伝わる

 同じ書面に署名する以上、金額も、事実の記載も、今後の約束も、三人が把握することになります。不貞相手の側からすれば自分の氏名や住所が相手方夫婦の双方に渡ることになりますし、請求する側からすれば、決めた条件を配偶者にも示すことになります。誰に何を知られたくないかという事情がある場合には、設計の段階で考えに入れておく必要があります。

一人の事情で全体が止まる

 署名の日程が合わない、一人が代理人を立てて確認に時間がかかる、といった事情でも進行が止まります。話がまとまってから署名がそろうまでの間に気持ちが変わることもあり、合意に達した時点と書面が完成する時点の間に生じる時間差は、三者の場合ほど長くなりがちです。

お金の流れをどう定めるか

 三者で合意する場合、誰が誰にいくら支払うのかという書き方が一通りではなくなります。どの形を選ぶかによって、後に残る問題も変わります。

定め方書面上の形考えておきたいこと
不貞相手だけが支払う支払義務を負うのは不貞相手とし、配偶者は支払をしないことを確認する不貞相手から配偶者への求償をどう扱うかを併せて決めておく
二人がそれぞれ支払うそれぞれの支払額と期日を分けて記載する一方が支払わなかったときに他方へどこまで求められるのかを決めておく
総額を定めて内訳を示す総額を掲げたうえで各自の分担を記載する夫婦関係を続ける場合、配偶者の分担は同じ家計から出ていく


総額から決めるか、各自の額から決めるか

 不貞をした二人は、請求する側に対して連帯して賠償の責任を負う関係にあります(民法719条1項)。そのため、三人で話し合う場合には総額を先に定めてから内訳を割り振るという進め方が取りやすくなります。一方で、交渉の実際では不貞相手との間で先に金額が固まっていることも多く、その場合は各自の額を積み上げる形になります。どちらから決めるかによって、話し合いの争点が総額の妥当性に向かうか、二人の間の分け方に向かうかが変わります。

夫婦関係を続ける場合の見え方

 夫婦関係を続けるのであれば、配偶者が支払う分は同じ家計から出て同じ家計に戻ることになります。金額として意味を持ちにくい一方で、支払の約束を書面に残すこと自体に意味があると考える方もいます。何のために書くのかをはっきりさせておくと、条項の書き方も決めやすくなります。

清算はどの組み合わせについて行うのか

 示談書の末尾には、この件について書面に定めたほかには互いに請求しないという趣旨の条項が置かれるのが通例です。三者の場合、この条項が誰と誰の間で働くのかを意識しておく必要があります。

誰と誰の間の清算なのかを書き分ける

 三人が当事者であっても、清算の対象を三つの関係すべてとするか、一部にとどめるかは書き方の問題です。請求する側と不貞相手の間だけを清算し、夫婦の間には及ぼさないという設計もあり得ます。夫婦関係の先行きが定まっていない段階では、どこまでを終わらせる合意なのかを取り違えないことが大切です。条項の文言の読み方と射程については別の記事で扱っています。

夫婦の間の清算は将来の話と重なる

 夫婦の間まで広く清算する書き方をすると、後に離婚を考える段階で、この書面がどこまでを終わらせたものなのかが争点になることがあります。離婚に伴って取り決める事柄はこの記事の範囲を超えますが、三者の書面を作る時点で夫婦の間の記載をどうするかは、慎重に決めておきたい部分です。

離婚するかどうかで設計が変わる

 同じ三者間の示談でも、夫婦関係をどうするかによって、書面に求める役割が変わります。

夫婦関係を続ける場合

 関心の中心は、二人の関係がこれ以上続かないようにすることに向かいがちです。連絡を取らないという約束を二人の双方に向けて置けること、家計から余分な支出が生じない形に整えられることが、三者にする理由になりやすい場面です。

離婚が決まっている場合、まだ決めていない場合

 離婚することが決まっている場合、家計が同じであることを前提とした説明は当てはまらなくなります。配偶者が支払う分は自分の側に戻ってくるお金ではなくなりますし、二人が今後連絡を取るかどうかについても、続ける場合とは関心の置き方が変わります。まだ決めていない場合には、いま作る書面が後の判断を狭めないかどうかという観点から、夫婦の間の記載を絞る選択もあります。

三者にしないという選び方

 三者で合意することがいつでも望ましいわけではありません。相手方が同席を望まない、配偶者が署名に応じない、日程が折り合わないといった事情があれば、別の形を考えることになります。

二者間の書面を二本作る

 請求する側と不貞相手、請求する側と配偶者という形で、二本の書面に分けて作る方法があります。三人が顔を合わせずに済み、一方の話し合いが長引いてももう一方を先に固められる利点があります。他方で、不貞をした二人の間の取り決めは、そのままではどちらの書面にも収まりません。

二本の内容をそろえておく

 二本に分ける場合、金額の前提や事実の記載が食い違うと、後に一方の書面がもう一方の場面で持ち出されたときに説明がつかなくなります。二本を同時期に、対応する内容で整えておくことが、後の争いを避けるうえで役に立ちます。三者で結ぶ場合と同じ結果に近づけるための工夫については、求償の扱いを扱った記事で触れています。

成立までの段取り

 契約は、内容を示した申込みに対して相手方が承諾したときに成立し、書面の作成そのものは成立の要件とはされていません(民法522条1項、2項)。三者の合意でも同じで、書面は成立したことを後から示すための記録という位置づけになります。もっとも、三人が関わる場面では、どの時点で合意ができたのかが分かりにくくなりがちです。

同席するか、持ち回りにするか

 三人が同じ場に集まって署名する方法と、書面を順に回して署名を集める方法があります。同席は一度で終わる反面、顔を合わせること自体が負担となる場合があります。持ち回りは負担が軽い一方で、最後の一人が署名するまで時間がかかり、その間に事情が変わることもあります。代理人が入っている場合には、代理人を経由して書面をやり取りする形が取られます。

一人が修正を求めると前の段階に戻ることがある

 署名を集めている途中で一人が文言の修正を求めた場合、修正後の内容について改めて三人の了解を取り直すことになります。細かな字句であっても、すでに署名した人がその修正を受け入れるかどうかは別の話です。順番を組むときは、条件について異論が出やすい人から先に確認しておくと、後戻りの回数を抑えやすくなります。

 書面の通数や日付、押印の扱いといった形式面については、別の記事で整理しています。

請求を受けた側から見た三者間の合意

 三者での合意を提案されるのは、請求を受けた側であることも少なくありません。提案そのものが不利益を意味するわけではなく、判断の材料は書面の中身にあります。

応じるかどうかは条項の中身で決まる

 三者にすること自体は、支払う金額を増やす方向にも減らす方向にも働きません。実際に効いてくるのは、支払の定め方、二人の間の取り決めの有無、清算の範囲といった個々の条項です。三者だからという理由で身構えるよりも、提示された書面のどこが自分に関わるのかを確かめるほうが実際的です。

相手方夫婦の内部の取り決めに関わることになる

 三者の書面には、夫婦の間の事柄が含まれることがあります。自分が判断できる立場にない部分について署名を求められていないか、自分に関わりのない条項に巻き込まれていないかを見ておく必要があります。

署名した書面は相手方夫婦の双方の手元に残る

 三者の書面には自分の氏名と住所が記載され、その書面は相手方夫婦の双方が保管します。記載する情報の範囲について希望がある場合は、署名の前に伝えておくことになります。記載内容に納得できない部分があるまま署名すると、後から差し替えを求めることは難しくなります。

よくあるご質問


三者で合意する場合、書面は何通作るのですか

 当事者の数と同じ通数を作り、各自が一通ずつ保管する形が一般的です。通数や押印の方法そのものに法律上の決まりがあるわけではありませんが、後に内容を確かめる場面を考えると、各自が同じ内容の書面を持っておく形が扱いやすくなります。

相手が三者での合意を断った場合はどうなりますか

 三者で合意することを強制する仕組みはありません。断られた場合は、二者間の書面を二本作る、あるいは一本の書面の中で二人の間の取り決めに近い結果を目指す、といった代わりの方法を検討することになります。どの方法を選ぶかは、何を実現したいのかによって変わります。

三者で合意した後に夫婦が離婚した場合、書面はどうなりますか

 成立した合意そのものは、離婚によって当然になくなるわけではありません。ただし、夫婦関係が続くことを前提に置いた約束については、前提が変わったときにどこまで求められるのかが問題になることがあります。将来に向けた条項の効き方については、条項ごとの記事をご覧ください。

まとめ


  1. 三者間の示談とは、請求する配偶者・不貞をした配偶者・不貞相手の三人が一つの和解契約の当事者になる形をいう(民法695条)。
  2. 一枚の書面には三つの関係についての取り決めが同居しており、どの関係をどこまで書面に載せるかを決めることが設計の中心になる。
  3. 不貞をした二人の間の取り決めや、二人の双方に向けた約束は、三人がそろうことで書面に置きやすくなる。
  4. 三者にすると、全員の合意がそろわないと成立しない、中身が三人に伝わる、一人の事情で進行が止まるという負担が新たに生じる。
  5. お金の流れは、不貞相手だけが支払う形、二人がそれぞれ支払う形、総額を定めて内訳を示す形が考えられ、二人は連帯して責任を負う関係にある(民法719条1項)。
  6. 清算の範囲は三つの関係のどこまでに及ぶのかを書き分けて決める。夫婦の間まで広げるかどうかは、離婚をどうするかと関わる。
  7. 契約の成立に書面の作成は要件とされておらず(民法522条1項、2項)、署名を集める順序や時点の管理が実務上の課題になる。
  8. 三者にしない場合は、二者間の書面を二本作り、内容をそろえておく方法がある。


三者間での示談をご検討中の方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。三者で合意するかどうかは、実現したい内容が誰と誰の間の話なのかを整理したうえで判断することになります。書面の形が決まらないまま話し合いだけが進むと、後から署名を集め直すことになりかねません。

 慰謝料を請求される立場の方からは、三者での合意を提案されたが応じてよいか分からないというご相談を、請求する立場の方からは、配偶者にも署名させるべきか判断がつかないというご相談をいただいています。どちらの立場であっても、書面を取り交わす前の段階でご相談いただくことで、選べる形が残ります。お気軽にお問い合わせください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼