【男女トラブル】別れ話の最中に物を壊された|弁償と被害届の考え方

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

この記事は、2026年10月時点の法令(民法・刑法・刑事訴訟法・民事訴訟法)にもとづいて作成しています。刑法の「懲役」「禁錮」は2025年6月1日から「拘禁刑」に一本化されており、本文の法定刑は改正後の表記によっています。


別れ話の最中に相手が感情的になり、スマートフォンを床に叩きつけられた、部屋の物を投げられて家具が壊れた――。ご相談の場では、「弁償はしてほしいけれど、もう顔を合わせたくない」という声と、「被害届を出すべきか、出したらかえって関係がこじれないか」という迷いを、同じ方から続けて伺うことが少なくありません。

 器物損壊罪の成立要件や法定刑については、多くの解説で丁寧に説明されています。それ自体は正確な内容ですが、交際の終わりに起きた損壊では、壊れた物が誰の物なのかがはっきりしない、弁償の話し合いがそのまま別れ話の続きになってしまう、といった事情が重なるため、一般的な説明だけでは次に何をすればよいかが決めにくいのが実際のところです。

 この記事では、別れ話の場面で物を壊された方に向けて、弁償額の考え方と、被害届・告訴を出すかどうかの判断材料を整理します。物の損壊に金銭の要求が絡む場面は別れ際に物を壊された・お金を要求された|器物損壊と恐喝で、物を壊してしまった側の対応は器物損壊で被害届が出された|修理費と示談で扱っていますので、あわせてご覧ください。

最初に確認したいのは「壊れた物が誰の物か」

 弁償を求められるかどうかも、刑事事件として扱えるかどうかも、壊された物の持ち主が誰かによって変わります。交際中は物の貸し借りや共同での購入が日常的に行われるため、この点が意外と曖昧になりがちです。

自分で買った物・贈られて自分の物になった物

 自分で購入した物は、当然あなたの物です。交際相手から贈られたプレゼントも、贈与によって所有権があなたに移っていれば、あなたの物として扱われます(民法549条)。相手が「自分が買ってあげた物だから」という気持ちで壊したとしても、贈与が済んでいれば他人の物を壊したことになり、弁償の対象になるとともに、器物損壊罪(刑法261条)の対象にもなりえます。

二人で費用を出し合って買った物

 同棲中に費用を出し合って買った家具や家電は、二人の共有と評価されることがあります。共有物であっても、壊した本人から見ればあなたの持分を含む「他人の物」にあたるため、器物損壊罪の対象になると一般に解されています。民事の弁償では、あなたの持分に相当する部分が請求の中心になり、どちらがいくら負担したのかを示すレシートや振込記録が意味を持ちます。共同で買った物の扱いは【男女トラブル】同棲を解消するとき、家具・家電はどう分けるのか|共同で買ったものの扱いもご参照ください。

相手が自分自身の物を壊した場合

 相手が自分の物を壊した場合は、差押えを受けている物や他人に貸している物などの例外(刑法262条)を除き、器物損壊罪にはあたらず、弁償の問題も生じません。ただし、あなたの目の前で物を壊して見せる行為が繰り返される場合には、物の損壊とは別に、威圧や脅しとして身の安全の問題が生じていることを意識しておく必要があります。この点は後半で触れます。

弁償額はどう考えるのか|修理費・時価・付随する費用

 故意または過失によって他人の物を壊した人は、それによって生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条)。賠償は金銭で行うのが原則で(同法722条1項・417条)、「同じ新品を買って返してほしい」という形が当然に認められるわけではありません。

修理できる物は修理費が基本

 画面が割れたスマートフォンやへこんだ家電など、修理で元の状態に戻せる物は、修理費が損害の基本になります。修理業者の見積書を取っておくと、金額の根拠を相手に示しやすくなります。

修理できない物・修理費が価値を上回る物は時価が目安

 修理ができない場合や、修理費が物の価値を上回る場合は、壊れた時点の価値(時価)が基準になるのが一般的な考え方です。時価は購入価格そのものではなく、使用期間や劣化を考慮した金額になるため、買って間もない物と数年使った物とでは評価が変わります。購入時期と価格の分かる資料や、同じ型の中古品の相場などが目安になります。

壊れた物の状態請求の中心になる項目手元に用意したい資料
修理できる修理費(見積額・実費)修理見積書、修理明細
修理できない/修理費が価値を上回る壊れた時点の価値(時価)購入時の領収書・購入履歴、中古相場の資料
二人の共有だった自分の持分に相当する額費用を出し合った記録(レシート・振込履歴)
修理中に代わりの物が必要になった合理的な範囲の付随費用代替品のレンタル費用の領収書など


思い出の品やデータ、気持ちの面の損害

 大切にしていた贈り物や記念の品を壊された場合、金額以上のつらさを感じるのは自然なことです。もっとも、物が壊されたことによる精神的な苦痛は、財産的な損害が賠償されれば回復されると考えられることが多く、慰謝料(民法710条)が認められるのは、故意による悪質な損壊や特別な愛着が明らかな物など、事情がある場合に限られる傾向にあります。スマートフォン内の写真やデータの消失も、金額に置き換えて立証するのは容易ではありません。請求額を組み立てる際は、修理費や時価といった裏付けのある項目を中心に据え、それを超える部分は交渉の余地として考えるのが現実的です。

弁償を求めるまでの手順

 弁償の請求は、記録を残すことから始まります。壊された直後は気持ちが動揺していることが多いものですが、片付けや処分をする前にひと呼吸おくことで、その後の選択肢が残ります。

壊れた直後に残しておきたい記録

 壊れた物は捨てずに、そのままの状態で保管しておきます。相手が壊したことを認めるメッセージは、後に「自分は壊していない」「もともと壊れていた」と争われたときの重要な資料になります。次のような記録は、弁償の交渉でも警察への相談でも共通して役立ちます。

  • 壊れた物の現物(修理に出す場合は、出す前の写真)。
  • 損傷部分と全体を写した写真や動画。
  • 壊された日時・場所・経緯を時系列で書いたメモ。
  • 相手が壊したことに触れたLINEなどのメッセージや録音。
  • 購入時の領収書や購入履歴、修理見積書。


 別れ話の場面での録音の残し方は、【男女トラブル】別れ話を録音しておくべきか|交際を終える話し合いでの記録の作り方で詳しく扱っています。

請求はできるだけ文書やメッセージで

 別れ話の延長で弁償の話をすると、話題が交際の経緯に戻り、再び感情的な衝突につながりやすくなります。請求は、壊された物・金額・その根拠・支払期限・振込先を簡潔に書いた文書やメッセージで伝え、直接会うことはできるだけ避けるのが無難です。相手が話し合いに応じない場合の進め方は、【男女トラブル】相手が話し合いに応じない|連絡が取れないまま清算する方法で整理しています。

支払われないときの手段

 請求しても支払われない場合は、裁判所の手続を検討します。請求額が60万円以下であれば、原則として1回の期日で審理を終える少額訴訟を利用できます(民事訴訟法368条1項)。また、損害賠償の請求権は、損害と加害者を知った時から3年間行使しないと時効によって消滅するため(民法724条1号)、時間をおきすぎないことも大切です。

被害届と告訴をどう考えるか

 弁償とは別に、相手に刑事上の責任を問うかどうかという判断があります。器物損壊罪には、他の多くの犯罪と異なる手続上の特徴があるため、まずその点を押さえておくことが判断の出発点になります。

器物損壊罪は告訴がなければ起訴されない

 器物損壊罪の法定刑は、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料です(刑法261条)。この罪は親告罪とされ、被害者などの告訴がなければ検察官は起訴できません(同法264条)。被害届は「被害に遭った」という事実を申告するものであり、処罰を求める意思表示である告訴とは法的な位置づけが異なります。刑事処分を求めるのであれば、被害届だけでなく告訴まで視野に入れる必要があります。両者の違いは被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶもご参照ください。

告訴には6か月の期間がある

 親告罪の告訴は、犯人を知った日から6か月を過ぎるとできなくなります(刑事訴訟法235条)。別れ話の相手が壊した場合、通常は壊された当日に犯人を知っていることになるため、期間はその日から進むと考えておくのが安全です。「弁償の話がまとまらなかったら告訴しよう」と考えている間に期間が迫ることもあり、民事の交渉と刑事の判断とでは、時間の流れ方が違うことを意識しておく必要があります。告訴は書面でも口頭でもできます(同法241条1項)。書面を用意する場合の書き方は、告訴状はどう書くのか|受理されやすい書き方と添付資料で解説しています。

出すかどうかを考えるための材料

 被害届や告訴を出すかどうかに、唯一の正解はありません。判断の際には、次のような点を整理しておくと考えやすくなります。

  • 壊された物の金額と、弁償で回復できる見込み。
  • 損壊が一度きりか、これまでにも繰り返されてきたか。
  • 物を壊す行為に、あなたへの威圧や脅しの意味合いがあったか。
  • 相手が今後も連絡や接触を続けてくるおそれがあるか。
  • 刑事手続に関わる時間や負担を、どこまで引き受けられるか。


 繰り返し物を壊されている、壊す行為とあわせて脅すような言動があったという場合は、弁償だけで区切りをつけるよりも、警察への相談を早めに検討したほうがよい場面といえます。警察と弁護士の役割の違いは、警察に相談すべきか、弁護士に相談すべきか|窓口の使い分け早見表で整理しています。

弁償と刑事手続をどう組み合わせるか|示談で決めること

 器物損壊罪が親告罪であることは、弁償の交渉にも影響します。被害を受けた側が刑事手続をどう扱うかを決められる分、合意の内容と時期をよく考えておく必要があります。

弁償を受けて告訴しないという選択

 相手が弁償に応じ、その内容で区切りをつけるのであれば、告訴をしない、あるいは告訴を取り消すことを合意の内容に含める形がよく見られます。相手にとっても刑事手続を避けられる意味があるため、弁償に応じてもらいやすくなる面があります。一方で、こうした合意は相手の処罰を求めないという判断でもありますので、金額だけで決めず、今後の接触を止められるかどうかとあわせて考えることが大切です。

告訴の取消は一度きり

 告訴は、起訴されるまでの間であれば取り消すことができますが、一度取り消すと同じ事件について再び告訴することはできません(刑事訴訟法237条1項・2項)。分割払いで弁償を受ける場合に、全額の支払いを待たずに告訴を取り消すと、その後支払いが止まっても刑事手続には戻れないことになります。取消の時期は、支払いの状況と結びつけて決めておくのが無難です。取下げや取消の書面については、被害届の取下げ・告訴の取消をどう書くかで扱っています。

合意書に入れておきたい項目

 弁償について合意ができたら、口約束で終わらせず書面にしておきます。別れ話の場面では、金銭の清算とあわせて今後の関わり方も決めておくことが、再びのトラブルを防ぐうえで意味を持ちます。

  • 壊された物の特定と、相手が損壊を認める旨。
  • 弁償額、支払方法、支払期限(分割の場合は回数と各回の金額)。
  • 支払いが遅れた場合の扱い(残額の一括請求など)。
  • 被害届・告訴の扱い(出さない、取り消す、その時期)。
  • 今後の接触の禁止や、相手の部屋に残っている荷物の受け渡し方法。
  • 合意書に定めたもの以外は互いに請求しないという清算条項。


 接触禁止の定め方は接触禁止条項の書き方|今後の連絡を止める設計、清算条項の働きは清算条項の意味|後から追加請求されないためにで詳しく解説しています。

物を壊す行為に身の危険を感じたとき

 物の損壊は財産の問題として扱われますが、別れ話の場面では、それが人に向けた威嚇の一部として起きていることがあります。弁償の話を進める前に、この点を確認しておくことが大切です。

物への行為でも、人に向けられれば別の問題になる

 投げつけられた物があなたのすぐそばに飛んできた、目の前で物を叩き壊して威嚇されたといった場合には、器物損壊とは別に、暴行罪(刑法208条)や脅迫罪(同法222条)として扱われる可能性があります。これらは親告罪ではありません。けがをした場合は傷害の問題にもなりますので、恋人から暴力を受けた|暴行罪・傷害罪と慰謝料請求もあわせてご覧ください。

弁償よりも先に安全の確保を

 その場で危険を感じたときは、物の弁償よりも身の安全を優先し、ためらわずに110番通報をすることが大切です。同棲している相手からの暴力や脅しが続いている場合には、配偶者暴力防止法の保護命令の対象となりうることもあります。避難や保護の手続は、交際相手から避難したい|安全な別居・避難と保護の手続きで解説しています。

よくあるご質問

交際中にもらったプレゼントを、相手が「返せ」と言って壊しました。弁償を求められますか。

 贈与が済んでいれば、そのプレゼントはあなたの物ですので、壊した相手に弁償を求めることができます。書面によらない贈与であっても、すでに引渡しが終わった部分は解除できません(民法550条)。相手が「貸しただけだった」と主張する場合には、贈られたときの経緯が分かるメッセージなどが判断材料になります。

先に被害届を出すと、弁償の話し合いがこじれませんか。

 被害届や告訴を出したことで相手が態度を硬くすることもあれば、逆に弁償に前向きになることもあり、一概にはいえません。ただ、告訴には6か月の期間があるため、話し合いの行方を見てから判断しようとして、期間が迫ってしまうことがあります。身の安全に不安がある場合は、交渉の進み具合にかかわらず、警察への相談を優先してください。

壊されてから時間が経っていても請求できますか。

 民事の弁償請求は、損害と相手を知った時から3年以内であれば行うことができます(民法724条1号)。一方、器物損壊罪の告訴は犯人を知った日から6か月が期限です(刑事訴訟法235条)。民事と刑事とで期限が大きく異なりますので、刑事手続も考えている場合は早めに方針を決めておくことをおすすめします。

まとめ


  1. 弁償や刑事手続の可否は、壊された物が誰の物かによって変わる。プレゼントも贈与が済んでいれば自分の物として扱われる(民法549条・550条)。
  2. 他人の物を壊した人は損害を賠償する責任を負い、修理費や壊れた時点の時価が請求の中心になる(民法709条・722条1項)。
  3. 物の損壊についての慰謝料は、悪質な損壊など事情がある場合に限られる傾向がある(民法710条)。
  4. 支払われない場合、60万円以下であれば少額訴訟を利用でき、請求権は損害と相手を知った時から3年で時効にかかる(民事訴訟法368条1項、民法724条1号)。
  5. 器物損壊罪は親告罪で、告訴がなければ起訴されない(刑法261条・264条)。
  6. 告訴は犯人を知った日から6か月以内に限られ、一度取り消すと再び告訴することはできない(刑事訴訟法235条・237条)。
  7. 物を投げつけられるなど身の危険があった場合は、暴行罪や脅迫罪の問題として、弁償よりも安全の確保を優先する(刑法208条・222条)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。壊された物の弁償の請求や合意書の作成、被害届・告訴を出すかどうかのご判断について、ご事情を伺ったうえで進め方をご提案します。

物を壊されて弁償を求めたい方も、別れ話の場で物を壊してしまい相手から請求を受けている方も、相手と直接やり取りを続けることに不安を感じたら、どうぞお早めにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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