交際相手から避難したい|安全な別居・避難と保護の手続き

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

 交際相手の言動が怖くて家にいたくない。けれど「どこへ行けばいいのか」「住所を知られたらどうするのか」「お金がない」——避難をためらう理由は、多くの場合こうした具体的な不安の積み重ねです。

 この記事では、暴力や脅しから離れて暮らすために、避難そのものをどう組み立てるかを順を追って整理します。とくに、避難した後に居所を守るための行政手続きは知られていないものが多く、ここを押さえておくかどうかで安心感が変わってきます。

この記事の要点

  • 避難の選択肢は「身を寄せる」「公的な一時保護」「転居」だけでなく、相手に家から出てもらうという道もある
  • 持ち出せなかったものは後から再発行できるものが少なくない。優先順位は安全の確保
  • 住民票の閲覧・交付を制限する「支援措置」に加え、健康保険情報の閲覧制限やマイナポータルの代理人解除まで手当てしておく
  • 法的な保護の枠組みは、同居していたかどうかで入口が変わる
  • 弁護士費用については、資力を問わず利用できる法テラスの相談制度がある

「避難」には4つの選択肢がある


 避難と聞くと施設に入ることを思い浮かべる方が多いのですが、実際に選ばれている形はもっと幅があります。

① 実家・知人宅・ホテルなどに身を寄せる
 もっとも多い形です。手続きが要らずすぐ動ける反面、行き先が相手に推測されやすい、受け入れ先に迷惑が及ぶおそれがある、といった弱点があります。相手が把握している親族・友人の連絡先や住所は、行き先を決める前に一度書き出してみてください。

② 公的な一時保護
 警察や配偶者暴力相談支援センターに相談すると、状況に応じて一時保護につながる場合があります。配偶者暴力相談支援センターの機能は都道府県の女性相談支援センターなどが担っており、一時保護については、女性相談支援センターが自ら行うか、一定の基準を満たす者に委託して行う仕組みとされています。交際相手からの暴力も相談・保護の対象として運用されています。

 なお、この仕組みの成り立ちから、実際に用意されている一時保護の受け入れ先は、女性と同伴する子どもを対象とするものが中心です。男性の場合は、自治体が設けている男性向けのDV相談窓口に相談しながら、実家・知人宅・ホテルなどへの避難と、後述の行政手続き・法的手続きを組み合わせていくのが現実的な選択になることが多いと考えられます。

③ 新しい住まいへ移る
 自分名義で部屋を借り直す形です。初期費用の負担はありますが、生活の再建まで見通しやすくなります。

④ 自分が出るのではなく、相手に出てもらう
 見落とされがちな選択肢です。DV防止法の保護命令には「退去等命令」があり、生活の本拠を共にしていた住居から相手を退去させ、その付近をはいかいすることを禁じる命令を、裁判所に申し立てることができます。期間は原則2か月で、住居の所有者または賃借人が被害者のみである場合は、申立てにより6か月とされています。
 ただし対象となる関係や要件は限定されています。

避難の前に決めておく3つのこと

行き先と、動くタイミング

 相手が留守にする時間帯、荷物を運ぶ手段、当日の連絡手段までを、できれば先に決めておきます。相手を説き伏せてから出ようとして話し合いがこじれ、かえって危険が高まることもあります。説明は後からでもできるという前提で組み立てるほうが安全です。

持ちだすもの

 優先度の高いものから挙げます。

  • 身分証明書、マイナンバーカード、健康保険の資格確認書類
  • 通帳・キャッシュカード・クレジットカード・印鑑、現金
  • 携帯電話と充電器
  • 服薬中の薬、診断書・通院記録
  • 子どもがいる場合は母子健康手帳、学校・保育園関係の書類
  • 暴力や脅しの記録(写真、録音、メッセージのバックアップ)

 すべて持ち出せなくても構いません。身分証や保険証、印鑑などは再発行できるものが多く、まず身の安全を確保するほうが優先されます。荷物を少しずつ運び出す方法もありますが、相手の持ち物や共有で買ったものにまで手を付けると、後から「持ち去られた」と主張される火種になります。自分のものに限るのが無難です。

相手が握っている情報を棚卸しする

 位置情報の共有設定、クラウドの共有アルバム、パスワードを知られているアカウント、車や荷物に取り付けられた紛失防止タグ。これらが残っていると、住所を隠す手続きをしても意味が薄れてしまいます。位置情報や紛失防止タグをめぐる規制は近年強化されており、令和7年12月30日施行の改正では、DV防止法・ストーカー規制法の双方に紛失防止タグに関する規定が加えられました。

 端末やアカウントの具体的な整理手順は「恋人に行動を監視される・スマホを覗かれる|プライバシー侵害と安全な別れ方」および「GPS・AirTagで位置情報を無承諾で取得された場合」で扱っています。

3. 避難した後、居所を守るための手続き

 ここが本記事でもっともお伝えしたい部分です。避難しただけでは、公的な書類を通じて新しい住所が伝わってしまう経路が残ります。

住民基本台帳事務における支援措置

 DV、ストーカー行為等、児童虐待およびこれらに準ずる行為の被害者は、市区町村に申し出て支援の必要性が確認されると、相手方からの住民基本台帳の一部の写しの閲覧、住民票(除票を含む)の写し等の交付、戸籍の附票(除票を含む)の写しの交付の請求を制限してもらえます(総務省「DV等支援措置」)。

 申出ができるのは、おおむね次のいずれかに当たる方です。

  1. DV防止法上の被害者で、暴力により生命または心身に危害を受けるおそれがある方
  2. ストーカー規制法上のストーカー行為等の被害者で、さらに反復してつきまとい等または位置情報の無承諾取得等をされるおそれがある方
  3. 児童虐待を受けた児童である被害者で、再び虐待を受けるおそれがある方など
  4. 1〜3に準ずる方

 手順は「先に相談、次に申出」です。 まず警察、配偶者暴力相談支援センター、児童相談所などの相談機関に相談し、その後、住民票のある市区町村に支援措置申出書を提出します。市区町村は相談機関の意見を聴くか、保護命令の決定書の写しやストーカー規制法に基づく警告等の実施書面の提出を求めるなどして、必要性を確認します。期間は、確認結果の連絡日から1年です。終了1か月前から延長の申出ができ、忘れると制限が切れてしまうため、更新時期は控えておいてください。

 一方で、限界も知っておく必要があります。

  • 制限されるのは相手方からの請求であり、第三者による正当な目的の請求まで止められるわけではありません
  • 相手方の依頼を受けた第三者への交付を防ぐため、本人確認や請求理由の審査は厳格に行われる運用ですが、制度上ゼロリスクではありません
  • 対象となる場面や必要書類の細かい運用は自治体ごとに差があります(債権債務関係のみを理由とする場合は対象外とする、住民登録のない居所への避難中は受け付けないなどの例があります)
  • 自分自身も、住民票のコンビニ交付やオンライン申請、代理人・委任状による請求が使えなくなるなど、日常の不便が生じます

健康保険情報の閲覧制限

 見落とされやすいのがこちらです。オンライン資格確認やマイナポータルを通じて、相手方に自分の情報が閲覧されるおそれがある場合、加入している保険者(協会けんぽ、健康保険組合、共済組合、市区町村など)に届け出ることで、「自己情報提供不可フラグ」「不開示該当フラグ」を設定してもらえます。避難元にマイナンバーカードを置いてきた場合や、相手方が医療従事者である場合などが想定されています。

 ただしフラグを設定すると、マイナンバーカードの保険証利用ができなくなり、マイナポータルでの健康保険情報・薬剤情報等の閲覧もできなくなります。安全と利便性のトレードオフになるため、紙の資格確認書の交付とあわせて窓口で確認するとよいでしょう。自治体の国民健康保険に加入していて支援措置を受けている場合は、庁内連携により届出が不要とされていることもあります。

マイナポータルの代理人設定の解除

 マイナポータルで相手方を代理人として登録したままだと、そこから情報が見られるおそれがあります。代理人設定の解除は本人の判断だけで行えますので、避難後の早い段階で確認しておいてください。

そのほか、後回しにしがちなもの

 郵便物の宛先変更、携帯電話の契約者・請求書送付先、公共料金やサブスクリプションの登録住所、SNSの投稿に写り込む景色。勤務先や学校については、ストーカー規制法の改正により、援助や配慮を求める相手として勤務先の雇用者や学校長が位置づけられました。事情を伝えて協力を得ることも選択肢になります。

4. 法的な保護につなげる——同居していたかで入口が変わる

 避難と並行して、相手の接近そのものを禁じる手続きを検討することになります。ここで分かれ道になるのが、生活の本拠を共にしていたかどうかです。

生活の本拠を共にしていた(同棲していた)場合

 DV防止法の「配偶者」には、生活の本拠を共にする交際相手が含まれます。関係を解消する前から引き続き暴力を受けている元交際相手からの暴力も対象です。裁判所に保護命令を申し立てることができ、接近禁止命令の期間は1年、命令に違反した場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金と定められています。

 暴力から逃れて一時的にホテルや実家に身を寄せている状態でも、「生活の本拠を共にする」場合に含まれ得ると整理されています。反対に、関係を解消した後に初めて暴力を受けた場合は対象外とされる点に注意が必要です。

同居していなかった場合

 非同居の交際相手は保護命令の対象外です。この場合はストーカー規制法に基づく警告や禁止命令、刑事事件としての対応(脅迫罪、暴行罪、傷害罪など)、民事の接触禁止や慰謝料請求といったルートを組み合わせます。

どちらか一方しか選べないわけではない

 二者択一ではなく、要件を満たせば併用も可能です。振り分けの考え方は「ストーカー規制法とDV防止法の違い|自分のケースはどっちで守られる?」で、手続の詳細は上記のデートDVの記事とストーカー関連の記事で解説しています。

5. 避難した後に起こりやすい3つの問題

置いてきた荷物

 取りに戻る場面が、実はもっとも危険が高まりやすいタイミングです。連絡を取らずに勝手に立ち入ると、名義や状況によっては住居侵入の問題が生じることもあります。逆に、相手が置いていった荷物を勝手に捨てたり売ったりすれば、相手方の行為として損害賠償や器物損壊の問題になり得ます。自力で解決しようとせず、第三者を介して日時と方法を決めるのが安全です。

賃貸契約と家賃

 自分が契約名義人なら、退去するまでの賃料や解約の手続きは名義人の責任として残ります。相手方が名義人なら、自分の荷物が残置物として扱われるおそれがあります。連帯保証人が付いている場合も含め、契約関係の整理は早めに着手してください。住まいの権利関係については、名義ごとの整理を別稿で扱っています。

相手からの連絡

 避難後に「話がしたい」と連絡が続くケースは少なくありません。直接やり取りをするほど、居所や勤務先の手がかりが伝わりやすくなります。窓口を弁護士などに一本化し、記録を残す形に切り替えるのが基本です。刺激を避けた接触の断ち方と記録の残し方は「ストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方」で詳しく述べています。

6. 費用が心配なときに使える制度

 避難には現実にお金がかかります。弁護士に相談したいが余裕がないという方に、まず知っておいていただきたい制度があります。

 **法テラスの「DV等被害者法律相談援助」**は、DV・ストーカー行為・児童虐待を受けている方、または受けるおそれのある方を対象とした法律相談の制度で、資力にかかわらず利用できます。処分可能な現金・預貯金から一定の費用を差し引いた額が300万円以下であれば相談は無料、これを超える場合は相談時間60分未満5,500円、60分以上11,000円と案内されています。民事・刑事を問わず、再被害の防止に関する内容であれば相談できます(法テラス 犯罪被害者支援ダイヤル 0120-079714)。

 依頼まで進む場合の費用については、収入・資産が基準以下であれば民事法律扶助による立替えの対象になり得ます。生活費や住まいの再建については、自治体の福祉窓口で各種手当・貸付・生活保護などの相談ができます。

よくあるご質問

Q. 暴力はありませんが、怖くて家を出たいです。勝手に出て責任を問われませんか。

 法律婚の夫婦には民法上の同居義務がありますが、婚姻していない交際関係にはこれが当てはまりません。同棲を解消して出ることも、原則として自由です。ただし賃貸契約や共有で買ったものの精算は別問題として残ります。

Q. 支援措置を申し出たことは、相手に伝わりませんか。

 支援措置は相手方からの請求を拒否する仕組みで、申出内容を相手方に通知する制度ではありません。一方、保護命令は裁判所の手続きであり、原則として相手方の意見を聴く手続き(審尋)を経て相手方に告知されます。手続きによって相手に伝わり方が違うため、順序と組み合わせを事前に検討する意味があります。

Q. 男性でも一時保護は受けられますか。

 前述のとおり、DV防止法上の一時保護は女性相談支援センターを軸とした仕組みで、施設も女性と同伴する子どもを対象とするものが中心です。男性の場合は、自治体の男性向けDV相談窓口への相談、自力での避難、そして住民票の支援措置や保護命令などの手続きを組み合わせることになります。保護命令や支援措置そのものは性別を問いません。

Q. 避難してから、どのくらいの期間で手続きを進めるべきですか。

 一律の答えはありませんが、位置情報や共有アカウントの整理は避難直後に、住民票の支援措置と保険情報の閲覧制限は転居先が決まった段階で、保護命令の検討は相談機関への相談歴を作りながら並行して、という順序が実務的です。相談歴がないと支援措置の確認や保護命令の申立てで手数がかかることがあるため、早い段階で公的窓口に一度相談しておくことが後の選択肢を広げます。

相談窓口

  • 緊急時:110番
  • 警察相談専用電話:#9110
  • DV相談ナビ:#8008(最寄りの配偶者暴力相談支援センターへ転送)
  • DV相談+(内閣府):0120-279-889(電話・メールは24時間、チャットは12時〜22時)
  • 女性相談支援センター全国共通短縮ダイヤル:#8778
  • 法テラス 犯罪被害者支援ダイヤル:0120-079714

 避難は、勢いだけで乗り切るものではなく、行き先・持ち物・書類・法的手続きを順番に埋めていく作業です。どこから手を付けるべきか分からない段階でのご相談でも構いません。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼