処分保留で釈放された|終わったわけではない状態
犯罪の被害に遭い、相手の処罰を求めたいと考えたとき、手続の入口になるのが告訴です。ところが、いざ告訴状を作ろうとすると、警察署に用紙が置かれているわけではなく、何をどこまで書けばよいのかで手が止まってしまう方は少なくありません。
インターネット上には書式の見本が多く出回っていますが、様式そのものよりも、書面から何が読み取れるかのほうが実務では重く働きます。体裁を整えることに時間をかけたのに、窓口で「これでは判断ができない」と言われてしまうこともあります。
この記事では、告訴状の骨組み、中心となる告訴事実の書き方、添付資料の整え方、そして書いた情報がその後どこへ渡っていくのかまでを、順に整理します。
様式は決まっていない。それでも見られているものは決まっている
告訴とは、犯罪の被害者などが捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示です(刑事訴訟法230条)。書面でも口頭でも行うことができますが(同法241条1項)、内容を正確に伝えられることから、告訴状という書面で行うのが通例です。
用紙の大きさ、項目の並べ方、文体について、法律上の決まりはありません。そのかわり、書面を受け取る側が確かめているのは、おおむね次の二つに整理できます。
- 相手の処罰を求める意思が、書面のうえではっきり示されていること。
- どのような犯罪があったのかが、日時・場所・行為・結果のレベルまで特定されていること。
逆にいえば、見た目が整っていても、この二つが読み取れない書面は、判断に時間がかかります。書き方に迷ったときは、この二つに向かって書くと決めておくと、残すべき記述と削ってよい記述の区別がつきやすくなります。
告訴状の骨組み
実務で使われている告訴状は、おおむね次の項目で構成されています。項目名に決まりはありませんが、見慣れた並びにしておくと、読み手の負担が軽くなります。
| 項目 | 書く内容 | 迷いやすい点 |
|---|---|---|
| 表題と作成年月日 | 表題を「告訴状」とし、年月日を記載する | 日付欄の扱いは窓口によって運用が分かれるため、事前に確認する |
| 宛先 | 「○○警察署長 殿」「○○地方検察庁 検察官 殿」など | 告訴は検察官または司法警察員に対して行うものとされている |
| 告訴人 | 氏名を書き、署名押印を添える | そのほかにどこまで書くかは、提出先に確認しておく |
| 被告訴人 | 分かる範囲で氏名や住所など | 分からなければ「不詳」とし、特定につながる情報を添える |
| 告訴の趣旨 | 処罰を求める意思を短く記載する | 長い説明は求められておらず、1文から2文で足りる |
| 告訴事実 | 犯罪事実そのもの | 書面の中心。次の章で取り上げる |
| 立証方法と添付資料 | 証拠の一覧と、添える書類の名称 | 資料名と通数を並べる |
告訴事実は、犯罪の成り立ちから逆算して書く
告訴事実は告訴状の中心です。ここで求められているのは読みやすい文章ではなく、犯罪として成り立つ事実が抜けなく書かれていることです。
いつ・どこで・誰が・何を・どうしたか
日時、場所、相手の行為、その結果を、分かる範囲で具体的に書きます。日時をはっきり特定できないときも、「令和7年5月頃」「同月中旬の夜」という程度までは絞り込みます。公訴時効の起算点にかかわるため、日時の記載は重い意味を持ちます。
被害が何度も重なっている事案では、本文に「別紙一覧表のとおり」と記載し、番号・日時・場所・被害額などを並べた一覧表を別紙として添えると、全体像が伝わりやすくなります。
罪名によって、抜けやすい要素が変わる
どの罪を念頭に置くかによって、書き落とすと事実として足りなくなる部分が変わります。
| 想定する罪名 | 抜けやすい要素 |
|---|---|
| 窃盗 | その物が誰の管理のもとにあったか、持ち去られたときの状況 |
| 詐欺 | どのようなうそを言われ、それを信じて何を渡したのか |
| 傷害 | どの部位にどのようなけがを負い、受診したかどうか |
| 名誉毀損 | どこに何を書かれ、それを誰が見られる状態だったか |
罪名や条文を書くことは法律上の要件ではありませんが、記載しておくと、どの罪を念頭に置いた申告なのかが伝わります。当てはまる罪が判断できないときは、罪名を無理に決めるより、起きた事実を丁寧に書くほうが結果として伝わります。
事実と、評価や気持ちは分けて書く
告訴事実の欄には、実際に起きたことだけを書きます。相手と知り合った経緯、それまでの関係、被害を受けたときの気持ちは、「告訴に至る事情」といった別の項目や、陳述書に回します。
分けて書く理由は二つあります。一つは、評価や心情が混ざるほど、肝心の事実の輪郭がぼやけてしまうことです。もう一つは、確認できる事実と、本人の受け止めとを、読み手が切り分けられるようにするためです。
あわせて、推測を断定の形で書かないことも大切です。相手がしたと考える理由があるのなら、その根拠になった、自分が見聞きした事実のほうを書きます。事実と異なる内容を申告した場合には申告した側の責任が問題になる場面もあるため、確認できていない部分は、確認できていないと分かるように書いておくほうが、後の行き違いが起きにくくなります。
相手が分からないときの書き方
被告訴人が特定できていなくても、告訴はできます。氏名の欄を「不詳」としたうえで、身長や体格、当日の服装、話し方、使われていた電話番号やアカウント名など、特定の手がかりになる情報を書き添えます。
相手が複数いる場合は、甲・乙・丙のように分けて記載し、それぞれの行為が告訴事実の中で区別できるようにしておきます。
添付資料は、量よりも対応関係
資料は多ければよいというものではなく、告訴事実のどの部分を裏づけるのかが分かる形で並んでいることが大切です。
目録をつけ、番号で本文とつなぐ
添付する資料に番号を振り、「資料1」「資料2」のように本文から引けるようにします。目録には、資料名・作成者・日付・通数を並べ、その資料が何を示すためのものかを一言添えておくと、読み手が突き合わせやすくなります。
原本は手元に残す
提出するのは写しとし、原本は自分で保管しておくのが基本です。原本を求められたときは、返還の可否を確かめてから渡します。あわせて、いつ、どこの窓口に、何を出したのかを記録に残しておきます。
電子のやり取りは、形にしてから
メッセージやメールは、画面を写した画像だけでなく、日時と相手の表示名が分かる形で残します。通話履歴、送金の記録、投稿の内容などは、時間の経過とともに残らなくなることがあります。手元にあるうちに印刷するか、別の場所に保存しておきます。
第三者の情報が入っているとき
資料に、事件と関係のない人の情報が写り込んでいることがあります。事実関係に影響しない部分であれば、その旨を目録に注記しておくと、後から説明を求められたときに整理しやすくなります。
実際に添えられることが多いのは、次のような資料です。
- 相手とのやり取りの記録(メッセージ、メール、通話履歴など)。
- 被害の状況が分かる写真や動画。
- けがをした場合の診断書や、通院の記録。
- 金銭が動いた事案での契約書、領収書、振込明細。
- 出来事の順序をまとめた時系列のメモ。
告訴状に書いた情報は、その後どこへ行くのか
書式の解説ではあまり触れられませんが、告訴を検討している方から実際によく尋ねられるのがこの点です。
告訴状と添付資料は、受理されれば捜査書類として記録に残り、事件が起訴された場合には、証拠として取り調べられることがあります。そのため、書面に記載した情報が、手続の進み方によっては相手方の側に伝わることもあります。
この点については、性犯罪など一定の事件を対象として、被害者の氏名や住所といった情報を被疑者や被告人に対して秘匿する仕組みが、捜査の段階から判決後にかけて設けられています(刑事訴訟法201条の2など)。対象となる事件や場面は限られていますが、記載の仕方や連絡の方法に不安があるときは、書面を出す前に窓口や弁護士に相談しておくことができます。
日付と署名押印の扱い
公務員以外の者が作る書類には、年月日を記載して署名押印することとされています(刑事訴訟規則60条)。署名ができない事情があるときは他人に代書させること、押印ができないときは指印によることも定められています(同規則61条)。
告訴状は、持参したその場で受理されるとは限らず、いったん預かりになることもあります。日付欄をどう扱うかは窓口の運用によって差があるため、持参する前に確認しておくと行き違いが減ります。
出す前に考えておきたいこと
動ける期間には区切りがある
名誉毀損罪や器物損壊罪のように、告訴がなければ起訴できない罪(親告罪)では、犯人を知った日から6か月を過ぎると告訴ができなくなります(刑事訴訟法235条)。それ以外の罪に告訴期間の定めはありませんが、公訴時効があるほか、防犯カメラの映像や通信の記録は一定の期間で残らなくなります。
取り消すと、もう一度は出せない
告訴は、起訴されるまでの間は取り消すことができます。ただし、いったん取り消した人が、同じ事件について改めて告訴をすることはできません(同法237条)。相手との話し合いが並行している事案では、この点が判断の分かれ目になります。取り下げることを前提に出すという進め方は、慎重に考えたい場面です。
提出したあとの流れ
告訴が受理されると、書類と証拠物は検察官に送付されます(刑事訴訟法242条)。処分がされたときは、請求しておけばその結果の通知を受けられ、不起訴となった場合には理由の告知を求めることもできます(同法260条、261条)。
もっとも、どのような捜査をいつ行うかは捜査機関の判断に委ねられており、受理されればすぐに動くと決まっているわけではありません。提出は区切りではあっても終わりではなく、その後のやり取りが続く前提で準備しておくほうが、負担が軽くなります。
提出前に見直したい点
- 処罰を求める意思が、書面のどこかにはっきり書かれているか。
- 告訴事実に、日時・場所・行為・結果がそろっているか。
- 評価や気持ちが、事実を書く欄に混ざっていないか。
- 確認できていないことを、断定の形で書いていないか。
- 資料の目録があり、本文と番号でつながっているか。
- 原本を手元に残し、控えを取ってあるか。
- 親告罪にあたる場合、期間の点で問題がないか。
- 連絡先の書き方やその後の連絡方法について、確認したいことを整理してあるか。
まとめ
- 告訴状に法律上の様式はなく、処罰を求める意思と犯罪事実の特定が読み取れるかが実質的な中心になる。
- 告訴事実は、日時・場所・行為・結果を具体的に書き、罪名によって抜けやすい要素を補う。
- 経緯や気持ちは別の項目や陳述書に回し、確認できていないことを断定の形では書かない。
- 添付資料は量よりも対応関係で、目録と番号で本文とつなぎ、原本は手元に残す。
- 書いた情報の行き先、期間の区切り、取消しの効果まで見たうえで、出す時期を決める。
告訴状の作成は、起きた出来事を法律の枠組みに合わせて言葉にしていく作業です。何をどこまで書けばよいか判断がつかないとき、資料の整理の段階で迷っているときは、書面を出す前にご相談ください。当事務所では初回のご相談を無料でお受けしており、24時間ご連絡を受け付けています。


