被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶ

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

 つきまといや執拗な連絡、「ばらすぞ」といった言葉に悩まされているとき、警察に相談すべきかどうかで迷う方は少なくありません。そして、いざ動こうとすると次の疑問が出てきます。「被害届を出すのか、告訴をするのか、どちらがよいのか」。

 この二つは似た手続きに見えますが、法律上の位置づけも、その後に生じる取扱いも異なります。ここでは両者の違いを整理したうえで、ストーカー被害や脅迫の場面で、どのような考え方で選べばよいのかを解説します。

1.被害届と告訴は、何がどう違うのか

被害届

 被害届は、犯罪の被害に遭った事実を捜査機関に申告する届出です。犯罪捜査規範61条1項は、警察官は犯罪による被害の届出をする者があったときは、管轄区域の事件であるかどうかを問わずこれを受理しなければならない、と定めています。同条2項では、届出が口頭による場合には、被害届に記入を求めるか警察官が代書するものとされています。

 ここに含まれているのは「こういう被害がありました」という事実の申告であり、犯人の処罰を求める意思表示までは含まれていません。

告訴

 告訴は、犯罪事実を申告したうえで、犯人の処罰を求める意思表示をすることをいいます。刑事訴訟法230条は、犯罪により害を被った者は告訴をすることができると定めています。

 告訴は書面(告訴状)で行うのが実務上一般的ですが、法律上は口頭でも可能です(刑事訴訟法241条1項)。口頭で告訴を受けた場合、捜査機関は調書を作成しなければならないとされています(同条2項、犯罪捜査規範64条1項)。

共通点と違いの整理


被害届告訴
内容被害事実の申告被害事実の申告+処罰を求める意思表示
主な根拠犯罪捜査規範61条刑事訴訟法230条以下
できる人法律上の定めはなく、実際上は被害者本人が中心被害者本人のほか、法定代理人など法律で定められた者(刑事訴訟法230条〜232条)
提出後の取扱い捜査を開始するかどうかは捜査機関の判断書類・証拠物の検察官への送付、処分結果の通知などの定めがある
撤回法律上の制度はなく、実務上の取扱いによる実務上の取扱いによる公訴提起まで取消し可。ただし取り消すと再度の告訴はできない(刑事訴訟法237条)

 いずれも「捜査のきっかけ(捜査の端緒)」になるという点では共通しています。違いは、処罰を求める意思が正面から示されているかどうか、そしてそれに伴って捜査機関側の取扱いが法律で定められているかどうかにあります。

2.「告訴のほうが重い」と言われる理由

 告訴が被害届より重く扱われる、と説明されることがあります。その中身を具体的に見ると、次のような定めに由来しています。

  • 検察官への送付:司法警察員は、告訴を受けたときは速やかに書類および証拠物を検察官に送付しなければならない(刑事訴訟法242条)
  • 迅速な捜査への配慮:告訴のあった事件については特に迅速な捜査に努めるものとされている(犯罪捜査規範67条)
  • 処分結果の通知:検察官は、告訴のあった事件について起訴・不起訴の処分をしたときは、速やかにその旨を告訴人に通知しなければならない(刑事訴訟法260条)
  • 不起訴理由の告知:告訴人の請求があるときは、不起訴とした理由を告げなければならない(同261条)

 もっとも、注意しておきたい点が二つあります。

 一つは、犯罪捜査規範67条が定めているのは「努める」という表現であり、告訴を受理すれば捜査が必ず進むことまでが保証されているわけではない、ということです。「告訴すれば捜査義務が発生する」という説明を見かけることがありますが、実際の運用はもう少し幅のあるものと理解しておいたほうが、後で落胆せずに済みます。

 もう一つは、同条が「誣告(ぶこく)、中傷を目的とする虚偽または著しい誇張によるものでないかどうか」に注意すべきことも同時に定めている点です。告訴は処罰を求める重い意思表示であるため、捜査機関の側も慎重に扱います。告訴の受理に時間がかかったり、事実関係の説明を細かく求められたりする背景には、この構造があります。

 なお、不起訴処分に不服がある場合の検察審査会への審査申立ては、告訴人だけの権利ではありません。検察審査会法30条は、告訴・告発をした者に加えて「犯罪により害を被つた者」も申立てができると定めています。ただし、告訴人以外の被害者が処分結果を知るには、検察庁の被害者等通知制度を利用して通知を希望しておく必要があります。

3.ストーカー・脅迫では「親告罪だから告訴」という基準が使いにくい

 被害届と告訴の選び方として最もよく紹介されるのが、「親告罪なら告訴が必要」という基準です。親告罪とは、被害者などの告訴がなければ起訴できない犯罪をいいます。

 ところが、ストーカー・脅迫の場面では、この基準がそのままでは使えません。

  • ストーカー行為罪は、かつては親告罪でしたが、平成28年の法改正(平成28年法律第102号)で非親告罪となりました
  • 脅迫罪(刑法222条)、強要罪(同223条)、恐喝罪(同249条)も、いずれも親告罪ではありません

 つまり、これらの罪については、告訴がなくても捜査や起訴を行うことは法律上可能です。「告訴をしなければ何も動かない」という関係にはありません。

 一方で、被害者が処罰を望んでいるかどうかは、実務上、処分の判断において重視される要素です。被害届の段階でも処罰を望む意向は聴取されますが、その意思を明確な形にしておきたいのであれば、告訴という選択に意味が出てきます。

4.見落とされやすいのは、周辺の行為に親告罪が混ざる場面

 ストーカーや脅迫のケースで注意したいのは、中心となる行為が非親告罪でも、同じトラブルの中で起きた別の行為が親告罪にあたることがある、という点です。たとえば次のような罪が親告罪とされています。

  • 名誉毀損罪(刑法230条)、侮辱罪(同231条)……刑法232条1項
  • 器物損壊罪(同261条)……刑法264条
  • 過失傷害罪(同209条)……同条2項

 ストーカー・脅迫の場面では、SNSや掲示板への書き込みで名誉を傷つけられた、自宅の玄関や自動車を壊された、といった行為が並行して起きることがあります。こうした行為について刑事責任を問うことを考えるのであれば、告訴が必要になる可能性があります。

 そして親告罪には期間の制限があります。刑事訴訟法235条本文は、親告罪の告訴は犯人を知った日から6か月を経過したときはできない、と定めています。

 被害届だけを出して様子を見ているうちに、この6か月が過ぎてしまうことがあり得ます。中心にある行為が非親告罪だからと安心せず、一連の出来事の中に親告罪が含まれていないかを早い段階で確認しておくことをおすすめします。

5.「止めたいのか」「処罰を求めたいのか」で考える

 被害届か告訴かという二択で考える前に、自分が何を実現したいのかを整理すると、選ぶべき手続きが見えやすくなります。

行為をやめさせたい場合
 ストーカー規制法には、警察本部長等による警告(4条)、公安委員会による禁止命令等(5条)という行政的な手続きが用意されています。これは刑事処分とは別系統のルートで、令和7年の改正では被害者の申出がなくても警察の職権で警告ができる仕組みが設けられました。同居していた元交際相手であればDV防止法の保護命令が視野に入る場合もあります。民事では、弁護士名の通知や接触禁止を内容とする合意、面会強要禁止の仮処分といった手段もあります。

処罰を求めたい場合
 処罰を求める意思を明確にするという意味では、告訴が本来の手続きです。事実関係が特定でき、資料もある程度そろっている場合には、告訴という形を選ぶ実益があります。

まず記録を残しておきたい場合
 相手が特定できていない、証拠がまだ足りない、という段階では、警察相談専用電話(#9110)への相談や被害届によって、公的な記録を残しておくこと自体に意味があります。後に事態が悪化したときに、経過を示す材料になり得ます。

 この三つは互いに排他的なものではありません。行政的な手続きと刑事手続きを並行させることもできます。

6.実際の窓口では「自分で選ぶ」とは限らない

 もう一点、実務的な感覚として知っておいていただきたいことがあります。

 被害届は、口頭で申告した内容をもとに警察官が作成することもあるとされており(犯罪捜査規範61条2項)、相談の流れの中で被害届の作成に至ることが少なくありません。これに対して告訴は、いつ・どこで・誰が・どのような行為をしたのかを自分の側で特定して持ち込む性質が強く、準備の負担が大きくなります。

 その結果、「窓口で被害届か告訴かを選ぶ」というより、「相談 → 被害届 → 状況に応じて告訴」という順序で進むことが実際には多くなります。最初から告訴にこだわるより、まず記録を残しつつ、必要な段階で告訴に切り替える、という組み立て方のほうが現実的な場合があります。

 なお、被害届や告訴が思うように受理されないと感じた場合の対応については、別のコラムで扱っています。

7.時間の制約を意識しておく

 刑事手続きには期限があります。

  • 公訴時効:脅迫罪・強要罪・ストーカー行為罪は、いずれも法定刑の上限との関係で3年です(刑事訴訟法250条2項6号)。金銭の要求を伴い恐喝罪の問題になる場合は7年となります
  • 親告罪の告訴期間:犯人を知った日から6か月(刑事訴訟法235条本文)

 加えて、通信事業者やSNS事業者が保有する記録には保存期間があり、時間の経過とともに確認できなくなる情報があります。手続きをどう選ぶかを迷っている間にも、使える材料が減っていくことがあるという点は意識しておいたほうがよいでしょう。

8.迷ったときの進め方

 判断に迷う場合、次のような順序で考えると整理しやすくなります。

  1. 一連の出来事を時系列で書き出す……いつ、どこで、何をされたか。回数だけでなく、時間帯や場所、こちらが拒否の意思を示した経緯も含めて記録します
  2. 中心になる行為と、周辺の行為を分けて見る……周辺に親告罪が含まれていないかを確認します
  3. 目的をはっきりさせる……やめさせたいのか、処罰を求めたいのか、当面は記録を残したいのか
  4. 相談の記録を残す……#9110や警察署への相談は、それ自体が経過の記録になります
  5. 必要に応じて弁護士に相談する……告訴状の組み立て、事実の特定、資料の整理、窓口への同行といった形で関与することができます

 弁護士は受理そのものを確約できる立場にはありませんが、申告する事実をどの罪名の枠組みで、どの順序で説明するかを整えることで、話が伝わりやすくなることはあります。

まとめ

  • 被害届は被害事実の申告、告訴は処罰を求める意思表示を伴う手続きで、法律上の位置づけが異なる
  • 告訴には検察官への送付や処分結果の通知といった定めがあるが、捜査の進行が保証されるわけではない
  • ストーカー行為罪・脅迫罪・強要罪はいずれも非親告罪であり、「親告罪だから告訴」という基準はそのままでは当てはまらない
  • 一方で、名誉毀損や器物損壊など、周辺の行為に親告罪が含まれる場合があり、その告訴には犯人を知った日から6か月という期限がある
  • 「やめさせたい」のか「処罰を求めたい」のかによって、刑事手続き以外のルートも含めて選択肢が変わる

 どちらを選ぶべきかは、被害の内容、証拠の状況、相手方が特定できているか、何を実現したいかによって変わります。判断に迷う段階でも、経過を記録し、早めに相談先を確保しておくことが、その後の選択肢を広げることにつながります。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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