盗撮・性的画像で脅された場合の対処法|「撮影そのもの」が犯罪にあたることがあります
社内での交際や不倫が発覚した場合、問題は一つではありません。相手の配偶者からの慰謝料請求という民事の問題と、会社からの処分や異動という労働の問題が、同時に進行することが少なくないためです。
とくに悩ましいのが、示談書で「今後一切接触しない」と約束したのに、翌日も同じフロアで働かなければならない、という状況です。ここを整理しないまま署名すると、守れない約束を抱えたまま毎日出社することになりかねません。
この記事では、社内不倫・職場恋愛のトラブルについて、接触禁止条項の作り方、会社の配置転換や退職勧奨への向き合い方を、男女いずれの立場の方にも共通する形で解説します。
トラブルは3つの層に分かれる
社内で関係が発覚したとき、次の3つが同時に走ります。混ぜて考えると判断を誤りやすいため、まず切り分けてください。
- 相手の配偶者との民事の問題……不貞慰謝料の請求、示談書・合意書の締結(民法709条・710条)
- 会社との労働の問題……懲戒処分、配置転換・異動、退職勧奨
- 職場の人間関係の問題……噂の拡散、暴露、ハラスメントとしての申告
重要なのは、この3つが連動しないことです。慰謝料を支払っても会社の処分がなくなるわけではありませんし、会社が何の処分もしなかったとしても、慰謝料の支払義務が消えるわけでもありません。それぞれ別の判断枠組みで動きます。
同じ職場での接触禁止条項|「一切接触しない」は守れない
不貞慰謝料の示談では、再発防止のために接触禁止条項が盛り込まれるのが一般的です。これは当事者の合意によって初めて効力を持つもので、裁判所が判決で接触を命じることはできません。
問題は、当事者が同じ職場にいる場合です。「面談、電話、メール、SNS、その他いかなる方法でも一切接触しない」という定型文をそのまま入れると、出社した瞬間に違反状態になります。守れない条項は抑止力にならないばかりか、違約金を請求する口実として使われかねません。
そこで実務では、「業務上必要やむを得ない場合を除き、私的な連絡・面会をしない」といった限定を付ける形が用いられます。ただし、この一文だけでは「業務上必要」の範囲をめぐって後日争いになります。署名前に、次の点を具体的に詰めておくことをおすすめします。
- 業務上の接触の範囲……会議への同席、業務メールの同報、社内チャットや共有ツール上のやり取りを含むのか
- 二人だけになる場面の扱い……個別の打ち合わせ、出張、懇親会への同席をどう位置づけるか
- 相手から連絡が来た場合……受信しただけでは違反としない旨、業務上の返信は違反としない旨を明記できるか
- 偶然の接触……通勤経路や社内で行き会った場合を違反から除外するか
- 求償権の行使に関する連絡……支払後の負担の清算のために連絡が必要になる場面を除外するか
違約金は「上限」としても働く
違約金の定めは、別段の記載がない限り損害賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。そのため、違反によって違約金を上回る損害が生じても、超過分を別途請求することは原則としてできないと考えられています。請求する側は超過分を排除しない旨を併記するかを検討し、請求される側は逆にこの点が金額交渉の材料になります。
なお、2020年4月施行の改正民法により、「裁判所はその額を増減することができない」とする旧420条1項後段は削除されました。もっとも、これで当然に減額されるわけではなく、著しく過大な違約金について公序良俗違反(民法90条)として全部または一部が無効とされる余地がある、という整理です。
会社は処分できるのか|懲戒は当然には認められない
不倫は原則として私生活上の行為であり、それだけで直ちに懲戒処分が有効になるわけではありません。職場外・職務遂行に関係のない行為であっても、企業秩序に直接関連するものや企業の社会的評価を損なうおそれのあるものは規制の対象となり得る、というのが従来の判例の考え方です。
そのうえで、懲戒処分は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合には、権利濫用として無効となります(労働契約法15条)。就業規則に懲戒事由の定めがあること、処分の重さが行為に見合っていること、弁明の機会が与えられていることが問われます。就業規則に「社内不倫を禁じる」と書かれているだけで、直ちに重い処分が有効になるわけではありません。
一方で、次のような事情があると、処分が肯定されやすくなります。
- 勤務時間中に私的なやり取りを重ね、職務専念義務に反していた
- 社内で口論や紛議が起き、周囲の業務に具体的な支障が生じた
- 人事評価や配置に関与する立場を利用していた
- 取引先や社外に知られ、会社の信用に影響が及んだ
配置転換・異動は「処分」ではなく「調整」として行われる
会社が最初に取りやすいのは、当事者を引き離す配置転換です。これは懲戒ではなく職場環境の調整として行われるため、当事者としては「処分ではないなら仕方ない」と受け入れがちですが、実質的な不利益を伴うこともあります。
配転命令の有効性については、最高裁が、①業務上の必要性がない場合、②不当な動機・目的による場合、③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合には権利濫用となる、という枠組みを示しています(東亜ペイント事件・最判昭和61年7月14日)。勤務地や職種を限定する合意があるかどうかも出発点になります。転居を伴う異動については、育児や介護の状況への配慮を求める規定(育児・介護休業法26条)もあります。
実務的には、異動が接触禁止条項を現実に守るための手段として機能する面もあります。異動を受け入れることで、示談交渉における「関係を清算した」という説明がしやすくなる場合もあり、労働の問題と民事の問題は完全には切り離せません。
退職勧奨に応じる義務はない
会社の規模によっては配置転換の余地がなく、退職勧奨に進むことがあります。ここは最も冷静さが必要な場面です。
退職勧奨は、自発的な退職の意思を形成するよう説得する事実行為にすぎず、解雇のように一方的に労働契約を終わらせるものではありません。応じるかどうかは自由であり、拒否したこと自体を理由に不利益を課すことは認められません。
もっとも、説得には限界があります。最高裁は、退職勧奨を受けた側の自由な意思形成が妨げられたかどうかで違法性を判断するとし、立会人を認めたか、勧奨者の数、優遇措置の有無などを総合的に勘案すべきとしました(下関商業高校事件・最判昭和55年7月10日)。拒否の意思を明確にした後も繰り返し呼び出す、長時間拘束する、退職しなければ懲戒解雇だと告げる、といった対応が続く場合は、違法な退職強要として損害賠償の対象になり得ます。
その場で退職届を書かない
面談の場で退職届や退職合意書に署名すると、後から撤回することは容易ではありません。持ち帰って検討したい旨を伝えて構いません。応じる方向で検討する場合も、次の点は書面で確認しておくのが安全です。
- 離職理由の扱い(会社都合か自己都合か)
- 退職金・解決金の有無と金額、支払時期
- 退職日と引き継ぎの範囲
- 口外禁止条項・清算条項の有無と、その対象範囲
なお、退職勧奨を断ったことへの報復として行われた配転や降格は、不当な動機・目的による人事権の行使として無効と判断される余地があります。
職場での噂・暴露と、ハラスメントとしての申告
相手の配偶者が会社に事実を知らせる、同僚が噂を広めるといった事態も起こります。内容が真実であっても、伝え方や範囲によっては名誉毀損やプライバシー侵害となり得ます。この点は「不倫が会社・家族にバラされた|情報を広めた相手への法的対応」で扱っていますので、そちらをご覧ください。ただし、こちらから広める側に回ると立場が入れ替わりますので、社内で反論を拡散することは避けてください。
もう一つ注意が必要なのが、上司と部下のように力関係がある場合です。相手が「断れる状況ではなかった」と説明すれば、恋愛関係の問題ではなくハラスメントの問題として扱われ、会社は事業主としての措置義務に基づき調査を行うことになります。ヒアリングでは、私生活の詳細よりも業務への影響という観点で聞かれることが多く、事実関係を整理せずに感情的に答えると、後の処分判断に影響します。
初動で押さえておきたいこと
避けたいこと
- 示談書・退職届・退職合意書にその場で署名する
- 「一切接触しない」という条項を、同じ職場のまま安易に受け入れる
- 会社や相手方に、事実関係を確認しないまま包括的に認める発言をする
- 社内のやり取りやメッセージ履歴を自分から削除する
- 相手や情報を広めた人に直接抗議する
しておきたいこと
- 請求書や通知書の内容(誰が、何を、いくら、いつまでに)を整理する
- 会社との面談の日時・出席者・内容を記録に残す
- 就業規則の懲戒事由と配転に関する条項を確認する
- 回答期限が示されていても、期限前に弁護士に相談する
おわりに
社内不倫のトラブルが重いのは、慰謝料の問題が片付いても、翌日から同じ職場で働き続けなければならないからです。接触禁止条項をどこまで受け入れるか、会社の異動提案にどう応じるか、退職勧奨をどう扱うかは、いずれも相互に影響します。個別に場当たり的に対応すると、守れない約束と不利な退職条件だけが残ることもあります。
当事務所では、不貞慰謝料の請求・被請求、示談書の条項交渉について、全国どこからでも無料でご相談いただけます。示談書を前にして判断に迷っている方、会社から面談を求められている方は、署名や回答の前にご相談ください。


