「未成年だった」と脅された|事実確認と恐喝への対応
「妻はもう夫から慰謝料を受け取っていると聞きました。それでも私が払わなければならないのでしょうか」。不貞相手として請求を受けた方から、こうしたご相談をお受けすることがあります。反対に、請求する側からは「夫からいくらか受け取りましたが、相手方にも請求してよいのでしょうか。二重取りだと言われないか心配です」というご質問をいただきます。
この点について、解説記事の多くは「一方から全額を受け取れば、もう一方には請求できない」と説明しています。この説明自体が誤っているわけではありません。ただ、実際の交渉では、その前提となるはずの「総額はいくらなのか」「配偶者が渡したお金は何の名目なのか」「支払があったことをどうやって示すのか」が決まらないまま話が進むことが少なくありません。仕組みは知っていても、目の前のやり取りで使える形になっていないのです。
この記事では、配偶者がすでに支払っている場合に、その支払が慰謝料にどのように反映されるのかを、請求する側と請求を受けた側の双方の視点から整理します。慰謝料の相場や増額・減額の事情、求償の要件と負担割合、消滅時効の数え方については、それぞれ別の記事で扱います。
「二重取りにならない」とはどういう仕組みか
不貞行為は、不貞をした配偶者と不貞相手が共同して行った不法行為として扱われます。数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負うとされており(民法719条1項)、この責任は不真正連帯債務と呼ばれています。
この関係のもとでは、請求する側は二人のどちらに対しても全額を請求できます。そして、一方が支払えば、支払われた金額の分だけ、もう一方の義務も同じだけ減ります。賠償の対象となる損害はひとつであり、二人が別々の損害をそれぞれ負っているわけではないからです。これが「二重取りにならない」と言われるときの中身です。
減るのは支払われた金額であって、責任の割合ではない
配偶者がすでに支払ったと聞くと、「では自分の負担は半分になったのか」と受け取られることがあります。しかし、減るのは実際に支払われた金額そのものです。二人の間の負担割合が仮に半分ずつであったとしても、それは二人の内部での分け方の問題であり、請求する側との関係では、残っている限り全額の義務を負い続けます。
請求すること自体が禁じられているわけではない
二重取りができないというのは、受け取ることのできる合計額に上限があるという意味です。二人の両方に請求書を送ること、両方を相手方として訴えを起こすこと自体が妨げられるわけではありません。誰に請求するかの選び方については、別の記事で扱います。
「すでに支払われている」といえるかは四つの点で決まる
| 確かめる点 | 何を見るか | 見落とされやすいところ |
|---|---|---|
| 総額はいくらか | 上限として評価される金額 | 交渉の段階では確定していない |
| 何のお金か | 不貞の慰謝料として渡されたのか | 離婚に伴う他の名目と混ざっている |
| いつ渡されたか | 請求や合意との前後関係 | 後から支払われることもある |
| どう確かめるか | 支払を裏づける資料 | 手元にない資料が多い |
この四つのうち一つでも空欄のままだと、「すでに支払われている」という説明は主張の形になりません。以下では、それぞれについて順に見ていきます。
総額が先に決まっているわけではない
解説記事でよく見かけるのは、総額200万円のうち配偶者が150万円を支払えば、不貞相手に請求できるのは残り50万円まで、という説明です。考え方としては分かりやすいのですが、この説明は「総額が200万円である」ということが先に決まっている場合の話です。
実際には、慰謝料の額に法律上の定めはありません。裁判になれば、婚姻期間、不貞の期間や態様、夫婦関係がその後どうなったかといった事情を総合して裁判所が判断します。交渉の段階では、その金額は誰にも確定できません。したがって、「配偶者が支払った額を引けば残りはいくら」という引き算は、交渉の場ではそのままの形では成り立たないことになります。
請求する側から見ると、先に決めた金額が後の枠を狭めることがある
配偶者と先に話をまとめ、その後で不貞相手に請求するという順序をとる場合、先の合意額が高いほど、後から求められる残りの幅は狭くなります。反対に、先に低い金額で合意しても、それによって総額の評価が上がるわけではありません。どちらに先に働きかけるかは、この点も踏まえて考える必要があります。
請求を受けた側から見ると、支払の事実だけでは足りない
請求を受けた側が「すでに支払われている」と述べるときは、いくら支払われたかに加えて、総額がその範囲に収まると評価されるべき理由まで示すことになります。支払があったこと自体は認められても、総額がそれを上回ると判断されれば、差額の支払義務は残ります。
配偶者が渡したお金が何のお金かで結論が変わる
夫婦の間では、不貞の慰謝料以外にもさまざまな名目でお金が動きます。渡された金額が同じでも、その名目によって、不貞の慰謝料が支払われたと評価されるかどうかは変わります。
| 渡されたお金の名目 | 不貞の慰謝料の支払として扱われやすいか | 注意しておきたいこと |
|---|---|---|
| 不貞の慰謝料と明記された支払 | 扱われやすい | 書面に金額と名目が残っているか |
| 離婚に伴う解決金で内訳の記載がないもの | 事情により分かれる | 何をまとめたものかの説明が必要 |
| 離婚したこと自体による精神的苦痛への慰謝料 | 別の枠として扱われることがある | 不貞の慰謝料とは判断の筋道が異なる |
| 財産分与 | 扱われにくい | 夫婦の財産を分ける手続である |
| 婚姻費用や生活費 | 扱われにくい | 夫婦の生活を支えるためのもの |
| 子どもの養育費 | 扱われにくい | 子のための費用である |
同じ家計から出ている場合
離婚をしない夫婦の場合、配偶者が支払ったお金は、同じ家計の中を動いただけという見方もできます。この点をどう評価するかは事案により、実務でも一律の答えがあるわけではありません。離婚しない場合には不貞相手に請求するという説明を見かけるのは、こうした事情が背景にあります。もっとも、これは請求先を選ぶ際の考え方であって、配偶者に請求できないという意味ではありません。
名目が書かれていない書面は、後から読み替えることが難しい
夫婦の間で作られる書面には、「解決金」とだけ書かれていることがあります。後から不貞相手との間で金額を調整する場面では、その解決金に不貞の慰謝料がいくら含まれているのかが争点になります。請求する側にとっても、請求を受けた側にとっても、名目と金額が書き分けられているかどうかは大きな違いになります。
「すでに払われている」は自分の側で示す必要がある
支払があったことは、それを主張する側が示すのが原則です。請求を受けた側が「配偶者から受け取っているはずだ」と述べるだけでは、そのとおりに扱われるとは限りません。ところが、夫婦の間で作られた示談書や振込の記録は、請求を受けた側の手元にはないのが通常です。ここが、この問題のもっとも実務的な部分です。
| 確かめる手立て | 使える場面 | 限界 |
|---|---|---|
| 相手方に開示を求める | 交渉の段階から | 応じるかどうかは相手方次第 |
| 不貞をした配偶者から写しを受け取る | 連絡が取れる場合 | 関係が切れていると難しい |
| 求釈明を求める | 訴訟になった後 | 説明を促す手続で強制力はない |
| 文書提出命令の申立て | 相手方が書面を持っている場合 | 対象となる文書かどうかが争点になる |
| 文書送付嘱託の申立て | 第三者が書面を持っている場合 | 個人には応じる義務がないとされる |
訴訟になった後は、裁判所が当事者に対して事実上および法律上の事項について問いを発し、立証を促すことができるとされています(民事訴訟法149条1項)。書面そのものを出させる手続としては、文書提出命令(同法223条1項)と文書送付嘱託(同法226条)があります。ただし、文書送付嘱託は任意の送付を求める手続であり、個人に対しては応じる義務がないと解されています。夫婦間の示談書は個人が持っている書面ですから、この手続だけで取り寄せられるとは限らないと考えておくほうがよいでしょう。
振込の記録だけでは足りないことがある
通帳や振込明細で分かるのは、いつ、いくら動いたかまでです。そのお金が何の名目で渡されたのかは、記録の上には残りません。名目が争いになる場面では、書面の有無が結論を左右します。
順番が入れ替わったとき
自分が先に支払い、後から配偶者も支払った場合
請求を受けた側が先に支払い、その後で配偶者からも支払がなされることがあります。合計が総額を超えている場合、超えた分をどう扱うかが問題になりますが、後から支払った側が返還を求められるかどうかは、支払の時点でどこまで分かっていたかによって判断が分かれます。支払ったお金を後から取り戻すことは、一般に簡単ではありません。この点は、一部だけ支払った場合の記事で詳しく扱っています。
二つの交渉が同時に進んでいる場合
配偶者との話し合いと不貞相手との話し合いが並行して進むことは珍しくありません。片方の合意額が決まると、もう片方で求められる金額の幅もそれに応じて動きます。同時に進める場合には、先に決まったほうの内容を、もう一方の交渉でどのように説明するかをあらかじめ決めておくことになります。
配偶者が支払っても、自分の負担が消えるとは限らない
配偶者が全額を支払えば、請求する側との関係では不貞相手の義務は残りません。ただし、それで話が終わるとは限りません。自分の負担部分を超えて支払った側が、もう一方に対してその分の負担を求めることがあるためです。これを求償といいます。
つまり、請求する側との関係で支払わずに済むことと、最終的に自分の負担がなくなることは、別の問題です。示談の際に求償に関する条項が置かれることがあるのは、この先の展開まで含めて決着させるためです。求償の要件や負担の割合については、別の記事で詳しく扱っています。
よくあるご質問
配偶者がすでに支払ったと言われましたが、金額を教えてもらえません
まずは、支払の有無と金額、その名目について、書面で説明を求めるところから始めることになります。交渉の段階で応じてもらえない場合、訴訟になれば裁判所を通じて説明を促す手続や、書面の提出を求める手続があります。ただし、いずれも相手方の対応や書面の性質によって結果が変わりますので、開示が得られることを前提に方針を組み立てるのは避けたほうがよいでしょう。
配偶者と不貞相手の両方から受け取ってしまいました。返す必要がありますか
受け取った合計が、慰謝料として評価される総額を超えている場合、超えた部分については返還を求められる余地があります。もっとも、支払った側が支払う義務のないことを知りながら渡したときには、返還を求めることができないとする規定もあり、結論は事情によって分かれます。受け取った時点で内訳と名目を書面に残しておくことが、後の説明を助けます。
配偶者が払ったお金に離婚の解決金が含まれています。全額が差し引かれますか
解決金という名目だけでは、そのうちいくらが不貞の慰謝料に当たるのかが分かりません。合意に至るまでのやり取りや、夫婦の間で何が問題になっていたかといった事情から判断されることになります。金額の大きい合意ほど、内訳を書き分けておく意味が大きくなります。
まとめ
- 不貞行為は共同不法行為として扱われ、二人がそれぞれ全額の賠償義務を負います(民法719条1項)。
- 一方が支払えば、支払われた金額の分だけもう一方の義務も減ります。これが二重取りにならないと言われる仕組みです。
- 減るのは支払われた金額であり、内部の負担割合によって当然に半分になるわけではありません。
- 総額は交渉の段階では確定しておらず、裁判では事情を総合して判断されます。差し引きの計算はその前提を欠いたまま行われがちです。
- 配偶者が渡したお金の名目によって、不貞の慰謝料の支払として扱われるかどうかの評価が変わります。
- 支払があったことは、それを主張する側が示すのが原則です。求釈明(民事訴訟法149条1項)、文書提出命令(同法223条1項)、文書送付嘱託(同法226条)といった手立てはありますが、それぞれに限界があります。
- 請求する側との関係で支払わずに済むことと、求償を含めて最終的な負担がなくなることは別の問題です。
慰謝料の二重取りについてお悩みの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。配偶者と不貞相手のどちらにどのように請求するかは、順序や書面の書き方によって後の展開が変わる場面です。すでに一方から受け取っている方も、これから請求を考えている方も、動く前にご相談いただければ、選べる道筋を一緒に整理することができます。
請求を受けた側の方も同じです。「配偶者がもう支払っているはずだ」というお話は、そのままでは主張の形になりません。何を確かめ、どの順序で伝えるかによって、結論が変わることがあります。お手元に届いた書面と、分かっている範囲の事情をお持ちのうえ、お早めにご相談ください。


