恋人から暴力を受けた|暴行罪・傷害罪と慰謝料請求
本記事は2026年10月1日時点の法令(民法、刑法、弁護士法)に基づいて作成しています。令和5年の刑法改正により、旧強制性交等罪・旧強制わいせつ罪はそれぞれ不同意性交等罪・不同意わいせつ罪に改められており、本記事では改正後の罪名で記載しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は専門家にご相談ください。
「今から事務所に来てください」「今夜中に来なければ警察に行きます」。風俗店を利用した後、夜遅くになって店からこうした連絡を受けたというご相談は少なくありません。呼び出された方からは「行かないと、もっと悪い方向に進むのではないか」という声が聞かれる一方で、「言われるまま深夜に出向き、その場で書面に署名してしまった」というご相談も寄せられます。
「店に呼び出されても行く必要はない」という説明は、多くの法律事務所の記事で目にします。それ自体は誤りではありませんが、行かないと決めた場合に朝まで何もせずに待ってよいのか、逆に夜のうちに手を打っておいたほうがよいのはどのような場面なのかは、あまり整理されていません。「店に行くかどうか」と「今夜のうちに何をするか」は、分けて考えたほうが判断しやすくなります。
この記事では、深夜に呼び出しを受けた時点での判断の軸に絞って整理します。支払期限を切られたときの言い回し、その場での支払いの是非、身分証の扱いといった個別の論点は、それぞれの記事に委ねています。
深夜の呼び出しに、その場で答えを出さなくてよい理由
夜遅くの呼び出しには、「今すぐ」「今夜中に」という時間の区切りがついてくることがほとんどです。まず、この区切りにどこまで従う必要があるのかを確認しておきます。
相手が決めた「今夜中」に、法律上の期限の効力があるわけではない
店が「今夜中に来い」「朝までに返事をしろ」と告げても、その時刻を過ぎたことで請求の中身が変わったり、こちらが何らかの権利を失ったりするわけではありません。請求に根拠があるかどうか、金額が妥当かどうかは、呼び出しに応じた時刻とは関係なく、事実関係と法律に照らして判断されるものです。
相手が一方的に決めた時刻は相手の都合による区切りであり、こちらの判断の期限ではありません。期限を示されたときの具体的な伝え方は、【風俗トラブル】支払期限を切られた|『今日中に』に応じないための伝え方で扱っています。
深夜の面談は、確認できることが少なくなりやすい
深夜に呼び出される場所は、営業を終えた店の事務所や、相手が指定する車内など人目のない場所であることが少なくありません。そうした場では、次のような事情が重なりがちです。
- 相手が複数人で、こちらは一人という構図になりやすい。
- 第三者の目がなく、やり取りを記録しにくい。
- あらかじめ用意された示談書や借用書への署名を、その場で求められやすい。
- 終電の後で帰る手段が限られ、話を切り上げて帰りにくい。
- 疲れや飲酒の影響で、落ち着いて内容を確かめる余裕がない。
請求しているのは店なのかキャスト本人なのか、何の名目で、金額にどのような根拠があるのか。こうした点を確かめないまま合意すると、後になって「あれで終わったはずなのに」という事態を招くことがあります。相手に囲まれた場面での言動が後にどう評価されるかは、複数の店員に囲まれた場面|その場での言動が後に持つ意味もあわせてご覧ください。
その場で交わした書面は、後から覆すのが容易ではない
脅されて署名した書面については、強迫による意思表示として取消しを主張する余地があります(民法96条1項)。ただし、脅された状況を後から示すことは簡単ではなく、取消しには期間の制限もあります(同法126条)。取消しや無効を主張できる場合でも、そのための手間と時間は、署名しなかった場合と比べて大きくなります。この点は脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違いで詳しく解説しています。
深夜の呼び出しに応じないことは、請求から逃げることではありません。落ち着いて事実関係と請求の中身を確かめられる状況を、こちらで選び直すということです。
「行かない」と「何もしない」は別の判断
深夜の呼び出しに今夜は応じない、という判断は多くの場面で成り立ちます。ただし、それは朝まで何もせずに待つことと同じではありません。呼び出しに応じるかどうかと、今夜のうちに打っておく手があるかどうかは、分けて考える必要があります。
朝まで待っても支障が生じにくい場面
金銭の支払いを求める連絡だけで、所持品を預けておらず、身の危険を感じるような言動もない場合には、今夜のうちに店へ出向く必要性は高くありません。店との金銭の話し合いは、翌日以降に落ち着いて進めても、それだけで不利になるものではないからです。
この場合でも、着信やメッセージを記録し、翌日の早い時間に相談できるよう準備しておくと、朝からの動きが速くなります。
夜のうちに動いたほうがよい場面
一方で、次の表のような事情があるときは、店に出向くかどうかとは別に、夜のうちに手を打っておいたほうがよいことがあります。ここでいう「動く」とは、店に行くことではなく、安全の確保や記録、弁護士への相談を指します。
| 今夜の状況 | 店に出向くか | 今夜のうちにしておきたいこと |
|---|---|---|
| 金銭の支払いを求められているだけ | 出向く必要性は高くない | 着信・メッセージの記録と、翌朝の相談の準備 |
| 身分証・財布・スマートフォンなどを店に預けたまま | 一人では取りに行かない | 預けた物と経緯の記録、夜のうちの相談 |
| 自宅や職場に来る、家族や職場に知らせると言われている | 出向かない | 言われた内容の記録、夜のうちの相談、身の危険を感じるときは110番 |
| キャストが通院した、警察に相談すると言われている | 出向かない | 事実関係の書き出し、夜のうちの相談 |
| すでに警察から連絡が来ている、警察官が来た | 店より警察への対応が先になる | 弁護士への速やかな相談 |
夜のうちに相談したほうがよい4つの事情
表の中でも、夜のうちに動く意味が特に大きいのは次の4つの事情です。
身分証や所持品を店に預けたままになっている
トラブルの場で運転免許証や財布、スマートフォンを預けさせられ、「返してほしければ今夜取りに来い」と言われることがあります。所持品が相手の手元にあると、それ自体が交渉の材料として使われやすく、時間がたつほど返還の話が請求と結びつけられていきます。
とはいえ、一人で深夜に取りに行けば、返還と引換えに署名や支払いを求められる場面にそのまま入っていくことになります。何を、どのような経緯で預けたのかを記録したうえで、返還の求め方を夜のうちに相談しておくほうが安全です。所持品の返還については【風俗トラブル】財布やスマホを店に預けさせられた|所持品を返してもらう方法、身分証を求められた場面については身分証の提示・撮影を求められた場合|応じる義務と拒否の帰結で整理しています。
自宅や職場への訪問、家族・職場への連絡を予告されている
「今夜来ないなら家に行く」「家族に連絡する」といった言葉が添えられている場合、呼び出しに応じなければ予告が実行されるのではないかという不安から、出向いてしまう方が少なくありません。しかし、予告に押されて深夜に出向くと、不安の中で判断を迫られることになります。
家族や職場に知らせることをほのめかして金銭を求める行為は、その態様によっては恐喝や脅迫の問題になり得ます(刑法249条・222条)。予告を受けたときこそ、応じる前に言われた内容をそのまま記録し、連絡の窓口を弁護士に移すことを検討する価値があります。どこからが問題になるのかは店の請求が恐喝に変わる線引き|正当な権利行使との境界をご参照ください。実際に自宅の前に来られるなど身の危険を感じるときは、ためらわずに110番通報してください。
キャストが通院した、警察に相談すると言われている
「キャストが病院に行った」「警察に被害を相談する」と告げられている場合は、店との金銭の問題とは別に、刑事手続が動く可能性を視野に入れる必要があります。不同意性交等罪や不同意わいせつ罪は、被害者の告訴がなくても捜査が進められる罪です。刑事手続がどのように始まるかは風俗トラブルで警察が動くきっかけ|被害届・通報・摘発から捜査が始まる流れで解説しています。
この場合も、深夜に店へ出向いて事情を説明することには、あまり意味がありません。店に対してその場で話した内容が、後に事実関係が争われたときにどう扱われるかを見通せないからです。事実と異なる内容まで認める形の謝罪や書面は避け、何があったのかを記憶が新しいうちに書き留めておくことが大切です。
すでに警察から連絡が来ている
警察から電話があった、警察官が訪ねてきたという段階では、店への対応よりも警察への対応が先になります。この段階の動き方は店からの呼び出しとは考え方が異なりますので、「警察から電話が来た」|折り返す前に確認したい3つのことや深夜・逮捕直後の緊急対応|今すぐ動くべき初動と連絡先をご覧ください。
今夜のうちにしておきたいこと
呼び出しに応じないと決めた後、夜のうちにできることは多くありません。ただ、この時間にしておいたことが、翌日以降の話し合いの土台になります。
相手に返す言葉を短く決めておく
電話やメッセージに応じる場合は、長く説明しようとせず、今夜は伺えないことと、あらためて連絡することだけを伝えれば足ります。たとえば「今夜は伺えません。内容を確認したうえで、明日あらためてご連絡します」といった言い方です。
その場で事実関係を認めたり否定したりする必要はなく、金額や条件の話に入る必要もありません。相手が話を続けようとしても、同じ内容を繰り返して通話を終えてかまいません。応答しないまま時間が過ぎた場合に何が起こり得るかは、店からの電話・LINEを無視し続けるとどうなるか|放置の先に起きることの時系列で時系列に沿って整理しています。
着信・メッセージ・言われた言葉を記録する
夜のうちにしておきたいのが記録です。記憶は時間とともに曖昧になり、相手から受けた言葉の細部ほど早く失われます。
- 着信の日時と回数が分かる画面を保存する。
- メッセージは消さずに、画面を撮影して残しておく。
- 電話で言われた内容を、日時とともにメモにしておく。
- 預けた物、署名した書面、支払った金額があれば、その内容を書き出す。
- 店での出来事を、自分の記憶に沿って時系列で書き留める。
夜のうちに残した記録は、翌日以降に相手の言い分と食い違いが生じたときの拠り所になります。通話を録音しておくことも、後にやり取りの内容を確かめる材料になります。記録の整理の仕方は【風俗トラブル】自分側の記録をどう作るか|相談の前に整理しておく材料で詳しく扱っています。
夜間でも電話で相談できる
「弁護士に相談するのは朝になってから」と考える方も多いのですが、呼び出しを受けたその夜に電話で相談することもできます。当事務所では夜間のお電話でもご相談を受け付けており、今夜どう返事をするか、朝まで待ってよい状況かといった判断を、状況を伺いながら一緒に整理します。急ぎの相談の伝え方は夜間・土日・即日の相談は可能か|急ぎの場合の伝え方もご参照ください。
ご依頼を受けた場合は、弁護士が店との連絡の窓口になります。当事務所の【解決事例】デリヘル利用後に「50万円を深夜に持って来い」と要求されたが、支払い0円で解決した事例では、店から「今夜のうちに現金で持って来い」と求められたご相談者が、その日のうちにご依頼くださいました。弁護士が受任当日から店との交渉にあたったことで、深夜に現金を持参させる要求は立ち消えとなり、支払いのないまま終結しています。すべての事案が同じ経過をたどるわけではありませんが、夜のうちに窓口を移しておくことで、深夜に一人で相手と向き合う場面そのものを避けられることがあります。
すでに向かっている、呼び出された場所にいる場合
この記事を読んでいる時点で、すでに店へ向かっている方や、呼び出された場所にいる方もいるかもしれません。その場合は、次の点を意識してください。
引き返すことはいつでもできる
向かう途中であれば、引き返してかまいません。「行くと言ってしまったから」という理由で出向き続ける必要はなく、行けなくなった旨を短く伝えれば足ります。どうしても出向く場合は、行き先と戻る予定の時刻を信頼できる人に伝えておく、スマートフォンの充電を確保しておく、といった備えをしてください。
反対に、店のスタッフのほうがホテルの部屋を訪ねてくる場面については、【風俗トラブル】ホテルの部屋に店のスタッフが来た|ドアを開ける前に考えることで扱っています。
その場では署名も支払いもしない
すでに相手と対面している場合でも、その場で示談書や借用書に署名したり、金銭を支払ったりする必要はありません。「持ち帰って確認します」と伝え、話を切り上げて帰ることを優先してください。即時払いを求められた場面の判断は、【風俗トラブル】「今すぐ払えばこの場で終わる」と言われた|即時払いを求められたときの判断で整理しています。
帰ろうとしても出入口をふさがれる、ATMまでの同行を求められるといった状況では、判断の順序が変わります。不当に部屋から出られない状態に置くことは監禁罪にあたり得ます(刑法220条)。身の危険を感じるときは、その場を離れることと110番通報を優先してください。この場面についてはその場から帰してもらえない|監禁と不退去の境界とその場でATMに連れて行かれた|同行と引き出しの強要で詳しく扱っています。
よくあるご質問
「今夜来なければ警察に行く」と言われました。行かなければ不利になりますか。
警察に相談するかどうかは相手が決めることで、深夜に店へ出向いたからといって、その判断を止められるわけではありません。店との間でその夜に交わした約束が、捜査機関の判断を拘束することもありません。反対に、通報をほのめかして不相当な金額を求めることは、恐喝の問題になり得ます。この場面の考え方は「金を払わなければ通報する」と脅されたら|風俗トラブルにおける恐喝罪への対処法で扱っています。出向くかどうかよりも先に、刑事の面での見通しを弁護士に相談しておくことをおすすめします。
店長から「店として話をつけたい」と言われました。店と話を進めてよいのでしょうか。
キャストが被害を訴えている場合、慰謝料などを請求できるのは原則としてキャスト本人です。弁護士でない店が、報酬を得る目的で、業として本人に代わって示談交渉をすることは、弁護士法72条が禁じる行為(いわゆる非弁行為)にあたる可能性があります。2026年2月には、宮崎市の風俗店の店長らが、客との示談交渉などをめぐって弁護士法違反の疑いで逮捕されたと報じられました。
もっとも、店に交渉の資格がないからといって、請求そのものがなくなるわけではありません。誰と、何を約束すれば区切りがつくのかを確かめたうえで進めることが大切です。詳しくは店がキャストに代わって示談交渉をしてよいのか|非弁行為という視点をご覧ください。
電話に出ないまま朝を迎えても大丈夫でしょうか。
一晩応答しなかったことそれ自体で、請求の中身が変わったり、法的な手続がすぐに進んだりすることは通常ありません。ただし、応答しない状態が長く続くと、連絡の経路が自宅や勤務先へ広がるおそれがあります。朝になったら、自分で応答するか、弁護士に窓口を移すかを早めに決めることをおすすめします。
まとめ
- 店が一方的に決めた「今夜中」という時刻に法律上の期限の効力があるわけではなく、請求の当否は事実関係と法律に照らして判断されます。
- 深夜の面談は、複数人に囲まれる、記録が取りにくい、その場で署名を求められるといった事情が重なりやすく、確認できることが少なくなります。
- 脅されて署名した書面は取消しを主張する余地がありますが、立証の難しさや期間の制限があり、後から覆すのは容易ではありません(民法96条1項・126条)。
- 「行かない」ことと「何もしない」ことは別の判断で、所持品を預けたまま、訪問や連絡を予告された、キャストの通院や警察への相談を告げられたといった場合は、夜のうちの相談を検討します。
- 家族や職場に知らせることをほのめかして金銭を求める行為は、恐喝や脅迫の問題になり得ます(刑法249条・222条)。
- その場から出られない状態に置かれた場合は監禁罪が問題になり得るため、身の安全と110番通報を優先します(刑法220条)。
- 弁護士でない店が報酬を得る目的で本人に代わって示談交渉をすることは、非弁行為にあたる可能性があります(弁護士法72条)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。深夜に店から呼び出されて今夜どうするか迷っている方、すでに出向いて書面に署名してしまった方、いずれの立場からのご相談にも対応しています。
呼び出しを受けたその夜のうちでも、お電話でご相談いただけます。今夜のうちにしておくべきことと朝まで待ってよいことを、状況を伺いながら一緒に整理します。


