ソープが摘発された|客は逮捕される?売春防止法と客の立場
風俗店とのトラブルで金銭を求められ、話の途中で「近くのATMまで一緒に行きましょう」と言われる。店を出てスタッフと並んで歩き、コンビニや銀行のATMの前に立つ。ここから先は、店内でのやり取りとは局面が変わっています。
インターネット上には「その場で払ってはいけない」という助言があふれています。ただ、実際にATMへ向かって歩いている人が知りたいのは、もう少し手前のことのはずです。同行を断ってよいのか。断ったら何が起きるのか。すでに下ろしてしまった場合に、まだできることは残っているのか。
この記事では、「移動(同行)」と「引き出し」という2つの行為を分けて整理します。支払いを免れるための記事ではなく、その場で決めきらないための整理としてお読みください。
この記事が想定している状況
次のような前提で書いています。
- 成人同士のトラブルであること。
- 利用した側(客側)の立場からの整理であること。
- すでに逮捕されている、警察から呼出しを受けているという場合は、この記事ではなく個別の相談が必要であること。
- 自分の側に落ち度があると感じている場合も含めて書いていること。
請求されている金額そのものが妥当かどうか、店の誓約書や規約の条項がどこまで効くか、分割にできるかといった論点は、それぞれ別の整理が必要になります。ここでは、その場の移動と操作に絞ります。
「店内での請求」と「ATMへの同行」は同じではない
同じ相手から同じ金額を求められていても、話が「移動」を含んだ時点で、状況は次の3つの意味で変わります。
- 場所を決める主導権が相手側に移ります。どのATMに行くか、どの経路で行くかを相手が決めれば、周囲の状況も相手が選んだものになります。
- 支払いの手段が現金に寄っていきます。現金は、後から取り戻す道が細くなりやすい手段です。
- 「一度応じた」という事実が積み上がります。歩き出す、下ろす、渡す、と段階が進むほど、後から振り返って「ここでやめておけばよかった」と思う地点を通り過ぎていきます。
同行を求める権限は、店の側にはありません
店のスタッフやキャストは、捜査機関ではありません。仮にその場で犯罪が行われたと考えている場合でも、私人にできるのは現行犯人を逮捕して直ちに警察官に引き渡すことまでで、そこには持ち物を調べたり、どこかへ連れて行ったりする権限は含まれていません。
「任意同行」という言葉は警察官の場面で使われるものであって、店の側が客に移動を求める法的な根拠になるものではありません。求めること自体は自由ですが、応じるかどうかは応じる側が決めます。
断ることは、不誠実な態度ではありません
話し合いを拒むことと、その場で移動と支払いまで完結させないことは別です。「支払うかどうかを含めて、今日は決めません」と伝えるのは、責任から逃げる態度ではなく、内容を確認してから決めるという、ごく普通の対応です。
どこからが「帰れない」状態か
次のような状況は、後から振り返ったときに、単なる話し合いとは別の評価を受ける可能性があります。
- 複数人に前後を挟まれた状態で歩かされている。
- 車に乗せられ、降りたいと言っても停まってもらえない。
- 財布・スマートフォン・身分証・カバンを相手が預かったままになっている。
- 「払うまで帰さない」「終わるまでここにいてもらう」と告げられている。
- 出入口の前に人が立っていて、通ろうとすると体で塞がれる。
人の移動の自由を奪う行為は、鍵をかけるといった有形的な方法に限られず、脅すなどして事実上その場から離れられなくする方法も含むと説明されています。走行中の車から降ろしてもらえない状態も、その一場面として論じられてきました。あわせて、害を加えると告げて金銭を交付させる行為や、義務のないことを強いる行為も、それぞれ別の犯罪類型として定められています。
それでも、優先するのは安全です
その場で相手に法律論を説くことが、良い結果につながるとは限りません。走って逃げることも、転倒や追いかけられるといった別の危険を生みます。人通りのある場所、店員のいる店内、交番の近くなど、第三者の目がある場所へ移動しながら話す、誰かとの通話をつないだままにする、110番する。こうした選択肢を順番に考えることになります。
なお、「警察に行く」「訴える」と相手が告げること自体は、それだけで直ちに違法とは限りません。この点は正当な権利行使との境界の問題として、別の整理が必要です。
ATMの前で求められることを分けて考える
ATMの前で求められる操作は、ひとまとまりに見えて、性質が違います。
| 求められること | その場で起きること | 後から問題になりやすい点 |
|---|---|---|
| 自分で現金を引き出す | 引き出しの日時・場所・金額が記録に残る | 「引き出した事実」は残るが「なぜ下ろしたか」は残らない |
| 引き出した現金を渡す | お金の所在が相手に移る | 領収書がないと、誰にいくら渡したかを示しにくい |
| キャッシュカードを預ける | 操作を相手に委ねることになる | いくら引き出されたかを自分で確認できない |
| 暗証番号を伝える | 相手がいつでも操作できる状態になる | 口座の管理上の落ち度を問われやすくなる |
| キャッシング枠から借りる | その場で新たな借入契約が成立する | 店との争いとは別に、返済義務が残る |
「引き出す」ことと「渡す」ことは別の行為です
引き出しただけの段階では、お金は自分の口座から自分の財布に移っただけです。相手に渡した時点で、状況は大きく変わります。求められて下ろしてしまった後でも、「今日は渡しません」と伝える余地は残っています。
カードと暗証番号は、渡す・伝える対象ではありません
金融機関のカードは、他人に渡したり暗証番号を教えたりしないことが利用の前提とされています。偽造されたカードや盗まれたカードによる引き出しについては預金者を保護するための法律がありますが、これは本人以外が使った場面の枠組みです。自分でカードを渡し、暗証番号を伝えて引き出された場合には、この枠組みで補われることは期待しにくく、管理上の落ち度を指摘した裁判例もあります。
キャッシング・カードローンは、話が二重になります
手持ちの残高が足りず、キャッシング枠やカードローンで工面した場合、その借入は自分と金融機関との契約です。後日、店との間で「支払う義務はなかった」という整理ができたとしても、金融機関への返済義務がそれで消えるわけではありません。その場の数分の判断が、数か月から数年の返済として残ることになります。
どの手段で払ったかで、後から争える余地が変わる
すでに支払ってしまった場合でも、支払いの手段によって、その後にとれる手が変わります。
| 支払った手段 | 記録の残り方 | 後から手がかりになるもの |
|---|---|---|
| 現金(領収書なし) | 自分の側にほとんど残らない | 引き出しの明細と時刻、周辺の記録に頼ることになる |
| 現金(領収書あり) | 相手方の名称が書面に残ることがある | 請求の名目と相手方を特定する出発点になる |
| クレジットカード | 決済明細に加盟店の情報が残る | カード会社への申告と明細の開示という窓口がある |
| 銀行振込 | 振込先の口座名義と金融機関が残る | 金融機関や警察への申告により、口座の取引停止が検討される場合がある |
| 電子マネー・送金アプリ | サービスによって残り方が異なる | 運営会社が窓口になるが、回復の枠組みは限られる |
振込には、現金より道が残ることがあります
金融機関の口座に振り込んだ場合、振り込め詐欺救済法と呼ばれる法律の枠組みが関係することがあります。この法律が対象としているのはいわゆる振り込め詐欺だけではなく、詐欺その他の人の財産を害する罪の犯罪行為であって、財産を得る方法として振込みが利用されたものとされており、金融庁や金融機関の説明では、恐喝による被害も対象として挙げられています。
口座が凍結され、残っている残高から被害回復分配金が支払われるという仕組みですが、相手が引き出してしまった後では支払を受けられません。気づいた時点ですぐ金融機関と警察に連絡する意味が、大きく出る場面です。
なお、クレジットカードで決済した後にカード会社とどう争うかは、それだけで別の整理が必要な話題です。ここでは「窓口がある」という点までにとどめます。
ATMは、記録が残る場所でもある
ATMコーナーには、防犯カメラが設置されていることが一般的です。利用明細や通帳にも、日時・場所・金額が残ります。これは、後から事実を確かめるときの手がかりになります。
ただし、覚えておきたいことが2つあります。
1つは、記録に残るのは「引き出した」という事実であって、そのときどのような言葉をかけられていたかまでは残らないということです。映像に複数人で立っている様子が映っていたとしても、それだけで事情が説明されるわけではありません。
もう1つは、その映像を自分で手に入れるのは容易ではないということです。防犯カメラの映像は、本人であっても閲覧や取得ができないのが通常で、警察が捜査の過程で確認するという形になります。弁護士を通じた照会という手段もありますが、相手方が応じるかどうかには限界があり、必ず得られるとは限りません。
加えて、映像は一定期間で上書きされます。保存期間は設置者によって異なり、1週間程度から1か月程度とされることが多いようです。記録が残っているうちに動けるかどうかで、後から確かめられる範囲が変わります。
自分が当事者として参加している会話を録音することは、一般に、それだけで違法とされるものではありません。安全に配慮できる範囲で、ポケットの中で録音を始めておく、時刻の分かる写真を残しておくといった記録が、後から役に立つことがあります。
引き出す前に伝えられること
その場で言える現実的な言い方を挙げます。強い言葉である必要はありません。
- 「金額と内訳を書面でいただけますか。確認してから対応します」
- 「今日は現金を用意できません。連絡先をお伝えするので、後日改めさせてください」
- 「同行はしません。この場で話せる範囲でお願いします」
- 「弁護士に相談してから返答します」
- 「支払うかどうかを含めて、今は決められません」
全部は断れなかったときの、次善の選択
その場の力関係で、すべてを断りきれないこともあります。それでも、全部かゼロかではありません。金額を一部にとどめる、現金ではなく振込にする、領収書を求める、相手の氏名と店名を確認する、渡した直後に金額と時刻をメモに残す。こうした一つひとつが、後から使える手がかりになります。
渡してしまった後の動き
すでに引き出して渡してしまった場合でも、できることは残っています。
- 記憶が新しいうちに、日時・場所・金額・相手の人数・言われた言葉を、思い出せる範囲で書き出します。
- 利用明細、レシート、領収書、移動の経路が分かるもの(交通系ICカードの履歴、地図アプリの履歴)を集めます。
- 警察に相談します。被害届がその場で受理されないことはありますが、相談した事実が記録に残ること自体に意味があります。
- 振込やカード決済で支払った場合は、金融機関やカード会社に連絡します。
- その後の連絡窓口を一本化します。追加の請求が続く場合は、個別に応答せず、対応をまとめてから返します。
畏怖した状態で行った意思表示については、後から取り消しを主張する余地が民法上認められています。違法な方法で金銭を交付させられたのであれば、損害賠償として返還を求める構成も考えられます。ただし、主張できることと、現実に回収できることは別です。相手方を特定できるか、資力があるか、そのときの事情を示す資料が残っているかによって、見通しは大きく変わります。だからこそ、渡した直後の記録が効いてきます。
自分の側に落ち度があると感じている場合
店のルールに反する行為をしてしまった、後ろめたいことがある。そうした事情があると、「言われたとおりにするしかない」と感じやすくなります。ただ、次の2点は分けて考える必要があります。
1つは、支払うべき何かがあるとしても、求め方まで自由になるわけではないということです。正当な請求であっても、その方法が社会通念上許される程度を超えた場合には、別の評価を受けうると考えられています。
もう1つは逆方向の話で、その場で金銭を渡したからといって、自分の行為についての刑事的な問題が当然になくなるわけではないということです。私人の間の取り決めと、捜査機関が判断することは、別の線路を走ります。この点は示談や被害届の扱いとして、あらためて整理が必要です。
弁護士に相談すると変わること
- 相手方との連絡窓口を代理人に移せるため、直接の接触が止まりやすくなります。
- 請求されている金額について、内訳と法的な根拠を書面で示すよう求める形に整理できます。
- すでに支払った分について、回収を試みる価値があるかどうかの見通しを立てられます。
- 刑事的な問題が並行している場合に、どちらから手をつけるかの順序を決められます。
まとめ
- 店の側に、客を別の場所へ同行させる法的な権限はありません。
- 同行を断ることは、話し合いそのものを拒むことと同じではありません。
- 「払うまで帰さない」という状態は、単なる交渉とは別の評価を受けうる状況です。
- ATMの前で求められる操作は、引き出す・渡す・カードを預ける・暗証番号を伝える・借りる、と性質が分かれます。
- カードと暗証番号は、渡す・伝える対象ではありません。
- キャッシングやカードローンで工面した分は、店との争いとは別に返済義務が残ります。
- どの手段で払ったかによって、後から争える余地が変わります。現金は手がかりが残りにくく、振込やカードには窓口が残ります。
- 記録は時間とともに消えます。渡してしまった後でも、早く動けるほど、確かめられる範囲は広くなります。
当事務所では、初回のご相談を無料でお受けしています。


