店側の顧問弁護士は何をしているのか|客が知っておくべき店側の動き方
店から金銭を求められている場面で、まず気になるのは金額だと思います。ただ、その請求が法律上どう評価されるかは、金額の大小だけで決まるわけではありません。同じ金額でも、請求の中身に裏づけがあるかどうか、求め方が節度を保っているかどうかによって、正当な権利行使として扱われることもあれば、恐喝として問題になることもあります。
この記事では、その分かれ目がどこにあるのかを、法律の予備知識がない方にも追えるように整理します。あわせて、「恐喝にあたるかどうか」と「自分に支払う義務があるかどうか」は別の問題である、という点にも触れます。ここを混ぜてしまうと、判断を誤りやすいためです。
この記事が想定している状況
- 成人同士のやり取りであること。
- 性風俗店を利用したあとに、店またはキャストから金銭を求められている立場であること。
- すでに逮捕されている、警察から呼び出しを受けているなど、刑事手続が動いている場合は、一般論よりも個別の相談が優先されること。
- 自分の側に落ち度がある場合も、ない場合も含むこと。
請求額そのものが妥当かどうか、請求書の名目(罰金・違約金・慰謝料など)をどう読むか、誓約書の条項がどこまで効くかといった論点は、それぞれ別の記事で扱っています。この記事は「求め方が線を越えているかどうか」という一点に絞ります。
また、支払いを免れるための説明ではありません。実際に損害が生じている場合には、正面から清算するほうが結果として早く終わることが多いという前提で書いています。
支払義務があっても、求め方によっては恐喝になりうる
恐喝罪は、大まかにいえば「相手を怖がらせるような害を告げて、金銭などを差し出させる」行為を処罰するものです。実際に受け取っていない段階でも、未遂として扱われることがあります。
ここで見落とされやすいのが、相手に本当に支払義務がある場合でも、恐喝の問題は生じうるという点です。「払わなければ困ったことになる」と伝える行為は、それ自体としては相手に不利益を予告する行為であり、正当な請求であっても形のうえでは同じ構造を持っています。だからこそ、どこまでが認められる求め方なのか、という線引きが必要になります。
この点について最高裁は、権利の範囲内であり、かつその方法が社会通念上一般に忍容すべき程度を超えない限りは違法ではないが、その程度を逸脱するときは恐喝罪が成立する、という考え方を示しています。さらに、逸脱したと評価される場合には、もともとの債権額がいくらであったかにかかわらず、受け取った金額の全部について恐喝罪が成立しうるとされています。「10万円分の請求権があるのだから、10万円までは何をしても問題ない」という理解にはならない、ということです。
境界を分ける2つの軸
裁判所の判断の枠組みを整理すると、大きく二つの軸に分かれます。どちらか片方だけを見ても、答えは出ません。
軸1 請求の中身に裏づけがあるか
一つ目は、請求する側に本当に権利があるか、少なくとも権利があると信じるだけの相当な理由(裏づけとなる資料)があるかという点です。過去には、請求権を裏づける相当な資料がないまま相手の弱みを突く形で圧力をかけた事案について、権利行使として認められる範囲を超えていると判断されたものがあります。
風俗の場面に置き換えると、「店が主張している事実(本番があった、撮影があった、けがをさせた、といった内容)について、店の側に何らかの裏づけがあるのか」という問いになります。裏づけが何もないまま金額だけが動いているのであれば、請求そのものの土台が揺らぎます。
もっとも、これは裏返せば、裏づけがある請求は、金額が大きくても直ちに不当とはいえない、ということでもあります。
軸2 求め方が節度を保っているか
二つ目は、実際の求め方です。請求の範囲内にとどまっているか、その方法が社会通念上一般に受け入れられる程度を超えていないか、という点が見られます。連絡の時間帯や回数、話をする場所、言葉づかい、その場に何人いたか、帰ろうと思えば帰れる状態だったか。こうした事情が積み重なって評価されます。
二つの軸は、それぞれ独立して働きます。裏づけのある請求でも求め方が行き過ぎれば刑事の問題になりえますし、裏づけの乏しい請求でも穏当に伝えられている限りは、「支払う義務があるのかどうか」という民事の争いにとどまります。
| 請求の中身の裏づけ | 求め方(態様) | 評価が向かいやすい方向 |
|---|---|---|
| ある | 節度が保たれている | 正当な請求として扱われやすい |
| ある | 節度を超えている | 請求権があっても恐喝が問題になる余地が生じる |
| 乏しい | 節度が保たれている | 支払義務の有無をめぐる民事の争いにとどまりやすい |
| 乏しい | 節度を超えている | 恐喝として問題になりやすい |
この表は評価の傾向を示したものにすぎません。実際には、事案ごとの細かい事情を含めて判断されます。
「金額が高いから恐喝」とは限らない
インターネット上の解説では、「相場を大きく超える請求は恐喝にあたる」という説明を見かけます。ただ、これは正確ではありません。金額は、先ほどの二つの軸のうち「請求の中身」に関わる事情の一つではありますが、それだけで結論が決まるものではないからです。
実際には、次のような組み合わせが起こりえます。
- 金額は大きいが、けがや休業など具体的な損害を裏づける資料があり、伝え方も節度が保たれている場合。
- 金額は大きくないが、深夜に何十回も電話をかけ、家族に知らせると繰り返し告げている場合。
前者は正当な請求として扱われる余地があり、後者は金額が小さくても求め方の面で問題になりえます。金額の妥当性は、請求に応じるかどうかを決めるうえで重要な材料ですが、恐喝かどうかの答えを直接出してくれるものではありません。
なお、提示された金額が妥当かどうかを検討する視点については、示談金の水準を扱った記事で別に整理しています。
境界線の上に並ぶ言動
| 評価の傾向 | 店側の言動の例 | そう考えられる理由 |
|---|---|---|
| それ自体では直ちに違法とはいいにくい | 被害届を出すと伝える/弁護士に相談すると伝える/書面で請求する/出入り禁止にすると伝える | いずれも法律や契約で認められている手続・対応の予告にあたるため |
| 事情によって評価が変わりやすい | 深夜や早朝の連続した電話/極端に短い支払期限/内訳を示さないまま金額だけを繰り返す/家族や勤務先に知らせると示唆する | 回数・時間帯・言い方・請求の裏づけなど、周辺の事情とあわせて判断されるため |
| 線を越えたと評価されやすい | 支払うまで帰さない/その場から別の場所へ連れて行く/暴力をふるう、物を壊す/請求とは関係のない不利益を持ち出す | 請求の内容とは切り離された圧力にあたり、権利行使の範囲を超えていると見られやすいため |
一段目について補足します。「被害届を出す」「弁護士に相談する」と伝えること自体は、法律上認められた手続をとる旨の予告であり、それだけで直ちに違法になるものではありません。この点は、権利行使の予告と脅迫の境界を扱った記事で詳しく整理しています。恐怖を感じたからといって、そのまま「脅された」と評価されるわけではない、という理解が出発点になります。
他方で、同じ言葉でも、請求とまったく無関係な要求と結びついている場合には評価が変わります。たとえば「支払わなければ被害届を出す」という予告は請求と結びついていますが、「支払わなければ勤務先に何度も連絡する」という予告は、請求を実現する手段としての必要性が説明しにくくなります。
三段目のうち、その場からの移動や退出を認めない対応については、金銭を求める行為とは別に、身体の自由に関わる問題として扱われることがあります。実際にその場面に置かれている場合の対応は、別の記事で具体的に扱っています。
自分の側に落ち度がある場合
ここが、多くの解説で曖昧になっている部分です。ネット上の記事は「落ち度がなければ恐喝、落ち度があれば示談」という二分法で書かれていることが多いのですが、実際の評価はそう単純ではありません。
整理すると、次の二点になります。
- 自分の側に落ち度があっても、店の求め方まで自由になるわけではありません。落ち度の有無は、請求の中身に裏づけがあるかどうかに関わる事情であって、求め方の限界を消してしまうものではないからです。
- 逆に、店の求め方が行き過ぎていたとしても、自分の民事上の責任がそれによって消えるわけではありません。求め方の問題と、支払義務の有無は、別々に判断されます。
この二つを混同すると、「相手のやり方がひどいのだから、自分は一切払わなくてよい」という誤った見通しを立ててしまいます。求め方が問題であることと、清算すべきものが残っていることは、同時に成り立ちます。
「恐喝だ」と言い返す前に確認したいこと
相手の言動が行き過ぎていると感じたとき、その場で「それは恐喝だ」「訴える」と言い返したくなることがあります。ただ、その前に確認しておきたい点がいくつかあります。
- 自分の行為も、並行して評価の対象になりえます。刑事手続に持ち込むということは、その場で何があったかが双方向に調べられるということでもあります。落ち度がある場合には、この点を踏まえたうえで進め方を決める必要があります。
- 根拠が乏しいまま「告訴する」「訴える」と告げることは、自分の側の問題として扱われる余地があります。手続をとる意思がないのに相手を怖がらせる目的で告知した場合について、権利行使の範囲を超えると判断された古い裁判例もあります。
- 恐喝と評価されることと、支払ったお金が戻ってくることは、別の話です。怖がらされた状態で支払った場合に、その支払いを争う余地はありますが、実際に回収できるかどうかは相手の資力や記録の残り方に左右されます。この点は、支払い後の回復可能性を扱った記事で整理しています。
- その場で法的な結論を言い切らないほうが、あとの選択肢が残ります。「持ち帰って確認します」で十分です。
線を越えられていると感じたときの動き方
その場にいる段階では、法的な議論よりも安全の確保が優先されます。
- 身の危険を感じる状況では、抵抗や説得よりもその場を離れることを優先し、必要に応じて110番通報を検討してください。
- その場では支払わない、署名しない、暗証番号を入力しない、という三点を守るだけでも、後から取れる選択肢が変わります。
- やり取りの記録を残してください。日時、場所、誰がいたか、言われた内容。自分が当事者として参加している会話を録音することは、原則として問題ありません。
- 店から示された書面(請求書、誓約書、念書など)は、内容を確認できる形で手元に残しておいてください。写真でもかまいません。
- 連絡の窓口を弁護士に一本化すると、直接のやり取りが止まり、請求の中身を書面で確認する段階に進めやすくなります。
なお、警察に相談するかどうかは、自分の側の事情によって考え方が変わります。落ち度がある場合には、相談によって自分の行為も検討の対象になりうるため、順序を含めて弁護士に確認してから決めるほうが安全です。
正当な請求まで否定しないために
最後に、逆方向の注意点を書いておきます。
店やキャストの側に、実際の損害が生じていることはあります。治療が必要になった、出勤できなくなった、といった事情があれば、それは請求の裏づけになりえます。「請求されている=おかしなことをされている」という前提で対応すると、本来なら穏当に終わったはずの話をこじらせ、結果として自分の立場を悪くすることがあります。
請求の根拠と内訳を書面で示してほしいと求めることは、値切りでも、争う姿勢でもありません。何について、いくらを、どういう理由で清算するのかを確定させる作業です。この確認を経たうえで、応じるべき部分には応じ、根拠が示されない部分は保留する。この順序が、結果的にいちばん早く終わることが多いと感じています。
まとめ
- 恐喝かどうかは、金額の大小だけでは決まりません。
- 判断は、請求の中身に裏づけがあるかという軸と、求め方が節度を保っているかという軸の二つに分かれます。
- 支払義務がある場合でも、求め方が社会通念上受け入れられる程度を超えれば、恐喝の問題は生じえます。
- 逸脱したと評価される場合には、もともとの請求権の額にかかわらず、受け取った金額の全部が問題になりうるとされています。
- 「被害届を出す」「弁護士に相談する」といった予告そのものは、直ちに違法とはいえません。
- 自分の側に落ち度があっても店の求め方が自由になるわけではなく、店の求め方が行き過ぎていても自分の支払義務が消えるわけでもありません。
- その場では、安全の確保と、支払わない・署名しない・記録を残すという行動が優先されます。
- 正当な請求である可能性も含めて、根拠と内訳を確認したうえで判断してください。
早く動いたからといって良い結果が保証されるわけではありませんが、選べる手段が多く残っている段階のほうが、検討の幅は広くなります。判断に迷う場合は、早い段階で弁護士にご相談ください。


