家族としてできること|身元引受・治療・監督体制の組み立て
路上で警察官に呼び止められ、「念のため尿を出してもらえませんか」と言われる。警察署で話を聞かれている途中に、採尿用の容器を渡される。そうした場面に立たされると、断ってよいのか、断ったら何が起きるのか、その場で判断するのは簡単ではありません。
この記事では、尿の提出を求められたときに法律上どこまで断ることができるのか、断った場合に何が起きるのか、そして「強制採尿」と呼ばれる手続がどのようなものかを、条文と最高裁の判断にそって整理します。応じることをすすめるものでも、断ることをすすめるものでもなく、判断の材料をそろえることを目的としています。
「尿検査」と呼ばれている場面はひとつではない
求められる場面は主に四つ
尿の提出を求められる場面は、大きく次のように分かれます。
- 職務質問の流れで、その場や近くの警察署で求められる
- 自宅などの捜索が行われている最中に求められる
- すでに逮捕・勾留されている中で求められる
- 警察ではなく、勤務先や病院で薬物の検査が行われる
いずれも日常の会話では「尿検査」と呼ばれますが、根拠となる法律も、断った場合に起きることも同じではありません。まず、自分がどの場面にいるのかを区別することが出発点になります。
断っても罰則のない検査と、断ると処罰される検査がある
あまり知られていないのは、警察官が求める検査でも、拒否に罰則があるものとないものが分かれている点です。
| 求められる場面 | 根拠 | 断れるか | 断った場合に起きること |
|---|---|---|---|
| 警察官が尿の提出を求める(令状なし) | 任意の捜査(刑事訴訟法197条1項) | 断ることはできる | 説得が続く。強制採尿の令状が請求されることがある |
| 強制採尿の令状が示された | 裁判官が発した捜索差押許可状 | 事実上、拒む余地はほとんどない | 医師のいる場所へ連行されることがある |
| 飲酒運転が疑われる場面の呼気検査 | 道路交通法67条3項 | 断ると処罰の対象になる | 3月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(同法118条の2) |
| 勤務先が薬物検査を求める | 就業規則や本人の同意 | 刑事手続とは別の問題 | 勤務先との労働契約上の問題として扱われる |
尿の提出については、拒否そのものを処罰する規定は置かれていません。この点は、拒否に罰則がある呼気検査と決定的に異なります。
令状がない段階の尿検査は、断ることができる
刑事訴訟法197条1項は、捜査については目的を達するため必要な取調べをすることができるとしたうえで、ただし書で、強制の処分は法律に特別の定めがある場合でなければすることができないと定めています。尿を強制的に採る方法は、後で述べる令状による手続しか用意されていません。
したがって、令状が示されていない段階で求められる尿の提出は任意であり、応じる義務はありません。「協力しないと不利になる」と言われたとしても、断ったこと自体を理由に罪に問われることはありません。
ただし「断れる」ことと「その場が終わる」ことは別
断る権利があることと、断ればその場が解散になることは、実務上まったく別の話です。多くの場合、警察官は説得を続け、その間はその場にとどまるよう求めます。この状態が長引くと、後で触れる「留め置き」の問題になります。
また、断ること自体は罪になりませんが、振り払って走り出す、警察官に手を出すといった行為は別に評価されます。警察官の職務執行に暴行や脅迫を加えれば公務執行妨害罪(刑法95条1項)にあたり、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が定められています。
「断ると疑いが深まる」と言われるのはなぜか
強制採尿について判断を示したのが、最高裁昭和55年10月23日決定です。体内からカテーテルを用いて強制的に尿を採ることは、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在といった事情に照らし、捜査上真にやむを得ないと認められる場合に、最終的手段として許されるとしました。
このうち「代替手段の不存在」は、本人が任意では出さない状況を指すことになります。そのため実務では、任意の提出を断ること自体が強制採尿の要件を満たす方向に働く、と説明されることが少なくありません。
もっとも、令状が必ず出るとも、出れば当然に適法とも限らない
最高裁令和4年4月28日判決は、この点で参考になります。覚醒剤事件の前科が多数あり、第三者が「本人から買った」と供述していた事案でしたが、警察官は本人に接触しないまま強制採尿の令状を請求していました。
最高裁は、これらの事情だけでは令状を発付するに足りる嫌疑があったとはいえず、また、過去に何度も任意の提出を断っていたとしても、令状請求に先立って任意提出の説得をしていない以上、適当な代替手段が存在しなかったとはいえないとして、令状の発付と、それに基づく強制採尿を違法と判断しました。
ただし同時に、警察官が疎明資料にありのままを記載していたことなどを挙げ、違法の程度は令状主義の精神を没却するような重大なものとはいえないとして、鑑定書などの証拠能力は認めています。「拒否すれば必ず強制採尿になる」とも「令状が出た以上、後から争う余地はない」とも言い切れないことを示した判断といえます。
強制採尿とはどのような手続か
用いられるのは捜索差押許可状
体内にある尿を証拠として取得する行為は、性質としては捜索・差押えにあたると整理され、裁判官が発する捜索差押許可状によって行われます。刑事訴訟法218条は、身体の検査について裁判官が適当と認める条件を付すことができると定めており、強制採尿の令状には、この規定を準用して「医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない」旨の条件が記載されます。
実際には医療機関で医師が行う
この条件が付されている以上、路上やパトカーの中で行われることはありません。医療機関などで、医師が尿道からカテーテルを挿入して採取する方法がとられます。
令状の効力で採尿場所まで連行される
最高裁平成6年9月16日決定は、身体を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能と認められる場合には、強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで連行することができ、その際に必要最小限度の有形力を用いることも許されるとしています。令状が示された段階では、拒む余地は事実上ほとんど残っていません。
令状が出るまでの時間に何が起きるか
令状の請求から発付までには時間がかかります。その間、その場にとどまるよう求められる状態が、いわゆる「留め置き」です。
先ほどの平成6年9月16日決定は、車の窓から手を入れてエンジンキーを引き抜いた行為を停止の方法として適法とした一方で、令状の発付を待つ約6時間半以上にわたる現場での留め置きについては、任意捜査として許容される範囲を逸脱し違法であると判断しました。もっとも、この事案でも尿の鑑定書の証拠能力そのものは否定されていません。
留め置きが違法かどうかは時間の長さだけで決まるものではなく、事案ごとの判断になります。その場で結論の出る問題ではないため、経過した時間ややり取りの内容を覚えておくことが、後の検討材料になります。
自分で提出する場合に実際に起きること
提出のしかたと書類
自分で提出する場合は、採尿容器を渡され、警察署のトイレなどで排尿します。すり替えを防ぐため、その様子を確認されるのが通常の運用です。提出した尿は任意提出書とともに領置され(刑事訴訟法221条)、鑑定に回されます。
簡易な検査と正式な鑑定は別のもの
その場で試薬による簡易な検査が行われることがありますが、これはあくまで目安であり、最終的には科学捜査研究所などによる正式な鑑定で判断されます。結果が出るまでの期間は、事案や時期によって幅があります。
結果が出るまでの間
尿を提出した時点で必ず逮捕されるわけではなく、いったん帰宅し、在宅のまま捜査が進むことも珍しくありません。一方で、簡易な検査の結果や他の証拠の状況によっては、その場で逮捕に至ることもあります。この時期に、自宅の捜索や携帯電話の押収が行われることもあります。
陽性反応が出た場合に問われ得る罪
覚醒剤を使用した場合は覚醒剤取締法41条の3第1項1号により10年以下の拘禁刑、大麻については2024年12月12日から施用が処罰の対象となり、麻薬及び向精神薬取締法66条の2第1項により7年以下の拘禁刑が定められています。いずれも罰金刑は定められていません。
服用している薬がある場合
簡易な検査では、市販の風邪薬や一部の漢方薬に含まれる成分に反応することがあると指摘されています。正式な鑑定では成分が区別されますが、誤解を残さないためにも、服用中の薬がある場合は早い段階で申告し、薬やお薬手帳を示しておくほうが説明はしやすくなります。
返事をする前に整理しておきたいこと
- 何の容疑で求められているのかを確認する
- 令状があるのか、まだ任意の段階なのかを確認する
- 服用している薬があれば申告する
- 事実と違う説明をしない(後から訂正するのが難しくなる)
- その場を離れようとしたり、実力で妨げたりしない
- 弁護士に連絡してから返事をしたい、と伝えることはできる
どれを選ぶにしても、その場で完結する判断ではありません。応じた場合も断った場合も、その後に手続が続いていきます。
警察以外から尿検査を求められた場合
勤務先から求められた
勤務先が行う薬物検査は捜査ではありません。根拠になるのは就業規則や本人の同意であり、応じるかどうか、応じない場合にどう扱われるかは、労働契約上の問題として別に検討することになります。刑事手続とは枠組みが違う、という整理がまず必要です。
病院で採られた尿
治療のために採取された尿から薬物の成分が検出された場合について、最高裁平成17年7月19日決定は、医師が必要な治療または検査の過程で採取した患者の尿から違法な薬物の成分を検出したときに、これを捜査機関に通報することは正当行為として許容され、医師の守秘義務に違反しないと判断しています。
また、麻薬及び向精神薬取締法58条の2は、医師が診察の結果、受診者が麻薬中毒者であると診断したときは、その者の居住地の都道府県知事に届け出なければならないと定めています。これは麻薬・大麻・あへんの慢性中毒についての届出義務であり、犯罪一般を警察に通報する義務とは別のものです。
後から争えること、争いにくいこと
令状の発付が要件を満たしていたか、留め置きが許される範囲だったかは、後の裁判で争われることがあります。証拠能力については、最高裁昭和53年9月7日判決が、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、証拠として許容することが将来の違法な捜査の抑制の見地から相当でないと認められる場合に否定される、という基準を示しています。
もっとも、先に紹介した令和4年の判決のように、手続が違法とされても証拠能力までは否定されないことがあります。違法だから当然に証拠が使えなくなる、というものではありません。
こうした点は、その場で本人が見極められるものではなく、後から資料をそろえて検討する作業になります。日時、場所、どのようなやり取りがあったか、どのくらいの時間その場にいたかを、覚えている範囲で書き留めておくことが役に立ちます。
早い段階で弁護士に相談する意味
尿の提出を求められる場面は、事件がまだ形になっていない段階であることも多く、そのぶん選べる対応が残っています。今後の見通し、家族への説明、勤務先への影響、身柄を拘束された場合の接見など、確認しておきたいことは検査の結果だけではありません。
当事務所では初回無料相談を実施しており、相談の受付は24時間行っています。逮捕された方への即日の接見にも対応しています。出頭や自首に同行する場合は全国対応が可能です(移動にかかる費用は別途となります)。夜間・早朝についても、状況により対応できる場合があります。
まとめ
- 令状がない段階の尿検査は任意であり、断ったこと自体で罪に問われることはない
- 一方で、断れば説得や留め置きが続き、強制採尿の令状が請求されることがある
- 強制採尿は捜索差押許可状によって行われ、医師が医学的に相当と認められる方法で行う条件が付される
- 令状が示されれば、連行を含めて拒む余地はほとんど残らない
- 令状の発付や留め置きが後に違法と判断されることはあるが、それで証拠が使えなくなるとは限らない
- 迷う場面では、返事をする前に弁護士に連絡したいと伝えることができる


