「任意同行」は断れるのか|断った場合に起きること
覚醒剤取締法違反の事件では、逮捕から起訴までの身体拘束が続きやすく、起訴された後も保釈がすぐには認められにくい傾向があるといわれます。ご家族から「他の事件では保釈が認められたと聞いたのに、なぜ本人は帰ってこられないのか」というご相談を受けることも少なくありません。
この違いは、担当した弁護士の熱意や運の問題というより、保釈の可否を決める法律上の枠組みが、覚醒剤事件の特徴と重なりやすいという構造から生じています。逆にいえば、どの条文のどの部分が問題になるのかが分かれば、起訴される前の段階から準備できることが見えてきます。
この記事では、覚醒剤事件で勾留・保釈が厳しくなりやすい理由を刑事訴訟法の条文に即して整理し、起訴前にできる準備を確認します。
起訴されるまで、保釈という手続は動かない
覚醒剤取締法違反で逮捕されると、警察は48時間以内に検察官へ事件を送致し、検察官は24時間以内に勾留を請求するかどうかを判断します(刑事訴訟法203条1項、205条)。勾留が認められると原則10日間、延長が認められればさらに10日間まで拘束が続きます(同法208条)。
ここで前提として押さえておきたいのが、保釈を請求できる時期です。刑事訴訟法207条1項は、勾留の請求を受けた裁判官が裁判所または裁判長と同一の権限を持つと定めていますが、そのただし書で「保釈については、この限りでない」としています。起訴される前の段階には、保釈という制度そのものが用意されていません。保釈を請求できるのは、起訴されて「被告人」という立場になった後です。
したがって、起訴前にできるのは保釈の請求そのものではなく、起訴後すぐに請求できる状態を整えておくことです。この準備にどれだけ時間を使えたかが、起訴直後の見通しに影響します。
覚醒剤事件で身体拘束が長引きやすい事情
入手先の解明が供述に依存しやすい
覚醒剤事件では、本人の身体や所持品から証拠が得られたとしても、それだけで捜査が終わるとは限りません。誰から、いつ、いくらで入手したのかという流通経路の解明は、関係者の供述に頼る部分が大きく、捜査機関としては本人と関係者の接触を避けたいと考えます。この関心は、後で述べる罪証隠滅のおそれの評価にも影響します。
別の事実で拘束が続くことがある
使用と所持のように複数の事実がある場合、一つの事実で勾留期間が満了しても、別の事実で再逮捕・再勾留がされ、結果として拘束が続くことがあります。追起訴が予定されている間は、先に起訴された事実について保釈が認められても、身体の拘束が直ちに解けるとは限りません。
「被害者との示談」という枠組みがない
多くの刑事事件では、被害者との示談が身体拘束や処分の判断に影響します。一方、覚醒剤の使用や単純所持には特定の被害者が存在しないため、示談という手段を取ることができません。その代わりに、再び手を出さない環境をどう作るかという点が、判断材料として比重を持ちやすくなります。
保釈は二段構えで判断される
保釈には、大きく分けて二つの入口があります。
- 権利保釈(刑事訴訟法89条)……請求があったときは、除外事由に当たる場合を除いて許さなければならないもの
- 裁量保釈(同法90条)……除外事由に当たる場合でも、裁判所が適当と認めるときに職権で許すことができるもの
覚醒剤事件で「保釈が厳しい」と語られる場面の多くは、89条の除外事由のいずれかに当たり、権利保釈の枠から外れて90条の判断に委ねられている状態を指しています。まずは、自分の事件がどの除外事由に引っかかっているのかを整理することが出発点になります。
89条の除外事由を、覚醒剤取締法の罪ごとに当てはめる
89条は、除外事由を1号から6号まで定めています。このうち1号は「死刑または無期もしくは短期1年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき」です。ここでいう短期とは法定刑の下限を指します。覚醒剤取締法の主な罪に当てはめると、次のように分かれます。
| 覚醒剤取締法の主な罪 | 法定刑 | 89条1号(短期1年以上) |
|---|---|---|
| 使用(41条の3第1項1号) | 10年以下の拘禁刑 | 当たらない |
| 所持・譲渡し・譲受け(41条の2第1項) | 10年以下の拘禁刑 | 当たらない |
| 営利目的の所持・譲渡し等(41条の2第2項) | 1年以上の有期拘禁刑 | 当たる |
| 輸入・輸出・製造(41条1項) | 1年以上の有期拘禁刑 | 当たる |
| 営利目的の輸入・輸出・製造(41条2項) | 無期または3年以上の拘禁刑 | 当たる |
つまり、使用や単純所持で起訴された場合、1号だけを理由に権利保釈が外れるわけではありません。1号が正面から問題になるのは、営利目的が付いた場合や、輸入・輸出・製造といった類型の場合です。
2号は「前に死刑または無期もしくは長期10年を超える拘禁刑に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき」です。使用や単純所持の法定刑の上限は10年であり、「10年を超える」には当たりません。そのため、過去に使用や単純所持で有罪の宣告を受けているというだけでは、2号には当てはまらないことになります。
このように条文に当てはめていくと、使用や単純所持の事件で権利保釈が外れる主な入口は、3号と4号に絞られてきます。
3号の「常習として」は、初犯かどうかだけで決まらない
89条3号は「常習として長期3年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき」を除外事由としています。覚醒剤の使用も単純所持も法定刑の上限は10年ですから、「長期3年以上」という条件は当然に満たします。残るのは「常習として」に当たるかどうかの一点であり、ここが認められれば、それだけで権利保釈が外れます。
「常習として」の意味については、一定の犯罪を反復して行う習癖を持つ者が、その習癖の表れとして犯罪を実行することを指すと解されています。ここで注意したいのは、同種の前科があることが必須の条件とは考えられていない点です。起訴された行為と同じ性質の行為が繰り返されている状況があれば、前科がなくても常習性が問題にされ得ると説明されています。
インターネット上の解説には「初犯であれば常習性はない」という趣旨の記述も見られますが、実際の判断はもう少し複雑です。逮捕の対象となった行為が1回でも、使用の時期や回数について本人が供述している場合、押収された物や身体から複数回の使用がうかがわれる場合など、常習性が検討される材料は前科以外にもあります。この点をどう説明するかは、起訴前の取調べ対応とも無関係ではありません。
4号の罪証隠滅のおそれをどう見られるか
89条4号は「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」を除外事由としています。覚醒剤事件では、先に述べた流通経路の解明という捜査上の関心があるため、入手先とされる人物や共犯とされる関係者との接触可能性が問題にされやすい傾向があります。
この点については、住居や生活環境が関係者から離れていること、連絡手段や生活を監督する人がいることなど、接触の可能性が低いといえる具体的な事情を示せるかどうかが問われます。抽象的に「もう連絡しません」と述べるだけでは、判断材料としては弱くなります。
裁量保釈では何が考慮されるのか
89条の除外事由に当たる場合でも、保釈の道が閉ざされるわけではありません。刑事訴訟法90条は、裁判所が「保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる」と定めています。
条文が挙げているのは、おそれの程度と、拘束が続くことによる不利益の程度の比較です。ここから、裁量保釈を求める側が示すべき材料は、次の二方向に整理できます。
- 逃亡・罪証隠滅のおそれが高くないといえる事情(帰る先、同居する家族、就労状況、関係者との距離、監督する人の存在など)
- 拘束が続くことによる不利益が大きいといえる事情(治療や通院の必要、雇用の維持、扶養する家族の生活、公判の準備に必要な作業など)
なお、保釈を請求できるのは本人と弁護人のほか、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹です(同法88条1項)。保釈の判断にあたっては検察官の意見が聴かれます(同法92条1項)。
保証金額はどのように決まり、どう用意するか
保釈を許す場合、裁判所は保証金額を定めなければなりません(刑事訴訟法93条1項)。金額の決め方について、同条2項は「犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額」と定めています。
条文が資産を考慮要素に挙げていることからも分かるとおり、金額は事件の類型だけで一律に決まるものではありません。インターネット上には罪名ごとの相場を示す記述もありますが、同じ罪名でも事情によって幅があり、目安として受け取る程度にとどめるのが安全です。また、住居の制限その他の条件が付されることもあります(同条3項)。
用意の方法についても、条文に手当てがあります。同法94条2項は請求者以外の者が保証金を納めることを許せると定め、同条3項は裁判所が適当と認める被告人以外の者が差し出した保証書をもって保証金に代えることを許せると定めています。この規定を前提に、弁護士会の関連団体や民間の支援団体が保釈保証書の発行や保釈金の立替えを行っています。
ここで押さえておきたいのが、こうした制度では薬物事案が別扱いとされている場合があるという点です。一般の事案より保証料の料率が高く設定されていたり、保証する金額の一部を自己負担金としてあらかじめ預ける取扱いが求められたりすることがあります。利用できる金額の上限が事案の種類によって異なる例もあります。条件は見直されることがあるため、利用を検討する場合は弁護人を通じて最新の内容を確認してください。
起訴前から資金の相談を始めておきたい理由は、まさにこの点にあります。起訴された後に一から調べ始めると、条件の確認と手続だけで数日が過ぎてしまうことがあります。
2023年の改正で加わった監督者制度
保釈をめぐる仕組みは、2023年(令和5年)の刑事訴訟法改正で見直されました。段階的に施行されており、監督者制度は2024年5月15日から運用されています。
従来から実務では「身元引受人」という言葉が使われてきましたが、これは法律上の制度ではなく事実上の取扱いでした。新設された監督者は、法律に根拠のある仕組みです。おおまかな内容は次のとおりです。
- 裁判所が適当と認める者を、その同意を得て監督者に選任する(刑事訴訟法98条の4第1項)
- 監督者の責務は、逃亡を防ぎ、公判期日への出頭を確保すること(同条3項)
- 本人と共に出頭することや、生活上・身分上の事項の報告を命じられることがある(同条4項)
- 監督者は監督保証金を納付し、保証金と監督保証金の納付後でなければ保釈の決定は執行されない(同法98条の5、98条の6)
- 監督者が義務に違反した場合、監督保証金の全部または一部が没取されることがある(同法98条の8)
- 監督者を解任した場合や監督者が死亡した場合、原則として保釈を取り消さなければならない(同法98条の9)
監督者が付されると、保釈にあたって用意すべき金銭が保証金だけではなくなります。誰に監督者を頼めるのか、その方が金銭を差し出せるのかという検討は、起訴前から始めておく価値があります。
このほか、改正では裁判所が本人に生活状況の報告を命じることができる報告命令の制度が設けられ、正当な理由なく公判期日に出頭しない行為、許可を受けずに指定期間を超えて制限された住居を離れて帰らない行為などについて罰則が置かれました。いずれも2年以下の拘禁刑と定められています。位置測定端末を用いる仕組みも設けられましたが、開始の時期は別に定められることとされ、対象も国外への逃亡のおそれがある場合に限られています。
判決が言い渡された後の保釈
覚醒剤事件では、判決の見通しを踏まえた検討も必要になります。刑事訴訟法343条は、拘禁刑以上の刑に処する判決(全部の執行猶予が付されたものを除く)の宣告があったときは、保釈はその効力を失うと定めています。実刑の判決が言い渡されると、それまで保釈されていた場合でも、その時点で身体の拘束が生じます。
判決の宣告後は89条が適用されず(同法344条1項)、保釈は90条の裁量によることになります。2023年の改正で新設された344条2項は、この場合の裁量保釈について、90条に規定する不利益その他の不利益の程度が著しく高い場合でなければならないとしたうえで、逃亡するおそれの程度が高くないと認めるに足りる相当な理由があるときはこの限りでない、と定めています。この規定については、従来の判断の在り方を条文上明確にしたものであり、裁量保釈の範囲を殊更に狭めようとするものではないと説明されています。
起訴前にできる準備
ここまで見てきた条文を踏まえると、起訴前の準備は「起訴された当日に保釈請求書を提出できる状態にしておく」という一点に集約されます。具体的には、次のような作業が考えられます。
- どの除外事由が問題になりそうかを整理する(罪名から1号・2号の当てはまりを確認し、3号の常習性と4号の罪証隠滅のおそれのどちらが焦点かを見極める)
- 帰る先を確定する(誰と住むのか、関係者との距離が保てるか、住居の制限に耐えられるか)
- 監督者または身元を引き受ける方の候補を探し、内容を説明して同意を得る
- 監督保証金を含めた資金の見通しを立て、保証書や立替えを使う場合は条件と必要書類を確認する
- 雇用や治療など、拘束が続くことの不利益を示す資料を集める
- 再び手を出さないための環境(通院、相談機関、回復を支援する場への参加など)を具体化する
このうち、監督者への説明と資金の確認は、相手の都合や審査に時間がかかる部分です。起訴の直前に着手すると、書類がそろわないまま日数が過ぎることになりかねません。
なお、起訴前の勾留に対しては保釈とは別の対応方法があります。そちらは事件の状況によって取り得る手段が変わりますので、弁護人と個別に相談してください。
まとめ
覚醒剤事件で保釈が厳しいといわれる背景には、次のような事情があります。
- 起訴前には保釈という制度がなく、請求できるのは起訴された後である(刑事訴訟法207条1項ただし書)
- 使用や単純所持では89条1号・2号は問題になりにくく、焦点は3号の常習性と4号の罪証隠滅のおそれに移りやすい
- 3号の「常習として」は、同種の前科があることを必須としないと解されており、初犯かどうかだけで決まらない
- 89条の除外事由に当たっても、90条の裁量保釈では、おそれの程度と拘束による不利益の程度が比較される
- 保証金額は資産を含む事情を考慮して定められ、薬物事案では保証書や立替えの条件が異なる場合がある
- 2024年5月から監督者制度が始まり、監督保証金の準備という新たな検討事項が加わった
これらはいずれも、起訴されてから調べ始めると間に合いにくい項目です。逮捕の連絡を受けた段階で、どの条文が問題になり、誰に何を頼む必要があるのかを整理しておくことが、その後の見通しを変えていきます。ご本人やご家族だけで抱え込まず、早い段階で弁護士にご相談ください。


