薬物事件に「示談」はない|それでも弁護士に依頼する意味

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

覚醒剤や大麻の事件でご家族が逮捕された、あるいはご自身が捜査を受けている。そうした状況で「示談」という言葉を調べ、薬物事件に示談はないと書かれた説明にたどり着いた方は少なくないと思います。

 結論から言えば、薬物の所持や使用そのものについては、示談という手段はほとんど使えません。ただし、それは打つ手がないという意味ではありませんし、薬物事件だから示談は一切関係ない、と言い切れるわけでもありません。

 この記事では、示談ができないと言われる理由をいったん分解したうえで、示談の代わりに何が見られるのか、弁護士が関わることで何が変わるのかを、被疑者・被告人とそのご家族の立場から整理します。

「示談ができない」と言われるのはなぜか


示談とは何を取り決めるものか


 示談は、犯罪の被害を受けた人との間で、損害の賠償や謝罪、その後の取扱いについて合意する私的な取り決めです。刑事手続では、検察官が起訴するかどうかを判断する際に「犯罪後の情況」を考慮すると定められており(刑事訴訟法248条)、示談の成立はその代表的な材料になります。起訴された後も、量刑を判断する事情のひとつとして扱われます。

薬物の所持・使用には「賠償を求める相手」がいない


 これに対して、覚醒剤の使用や大麻の所持といった行為は、特定の誰かの身体や財産を直接侵害する形をとりません。守られているのは公衆衛生や社会の秩序といった、個人に割り振りにくい利益だと説明されます。そのため、謝罪と賠償を受け取り、許すかどうかを決める立場の人が観念できないというのが、示談がないと言われる理由です。

 もっとも、これは法律上の被害者がいないという意味であって、誰も傷ついていないという意味ではありません。ご家族が受けた負担は現実のものですし、後で触れるとおり、それをどう受け止めているかは手続の中で意味を持ちます。

示談の周りにある手段も、そのままでは使えない


 示談ができないときの代わりとして紹介されることのある方法も、薬物事件では前提を欠くことがあります。

  • 被害届や告訴の取下げ……薬物事件は、職務質問や捜索、情報提供などから捜査が始まることが多く、そもそも被害届や告訴を出した人がいません。取り下げてもらうという発想が入る余地がありません。
  • 供託……賠償すべき債務があるのに相手が受け取らないときに使う制度です。賠償の相手方がいない以上、供託で解決できる場面ではありません。
  • 宥恕(ゆうじょ)の文言……許すという意思を示せる立場の人がいないため、示談書に入れるような文言も作れません。


 この三つが使えないことが、薬物事件は手詰まりだと感じられる一因になっていると思います。ただ、これはあくまで「被害者を相手にした手続」が使えないという話にとどまります。

それでも「示談」が問題になる場面はある


 薬物事件だからといって、事件全体に示談の余地がないとは限りません。実際には、薬物の罪と一緒に別の罪が問題になることがあります。

同時に問題になり得る場面関係し得る罪
薬物を使った状態で人にけがをさせた、物を壊した傷害、器物損壊など
捜査の現場で警察官ともみ合いになった公務執行妨害、傷害など
薬物を買う資金を得るために盗んだ、勤務先の金を使い込んだ窃盗、業務上横領など
薬物を使った状態で運転して事故を起こした過失運転致傷など
他人の住居や建物に立ち入った住居侵入など


 これらの罪には、被害を受けた人がいます。薬物の部分について示談ができなくても、この部分は示談の対象になり得ます。複数の罪がまとめて処理される事件では、そこでの被害回復が全体の処分や量刑に影響することもあります。

 したがって、事件をひとまとめに「薬物事件」と呼んでしまう前に、被害者がいる部分が混ざっていないかを切り分けることが、最初の作業になります。

お金の話が出てくるもう一つの場面


 譲渡や密売が問題になっている事件では、示談とはまったく別の理由で金銭が問題になります。薬物の譲渡などによって得た財産は薬物犯罪収益として没収の対象とされ、没収できないときはその価額が本人から追徴されます(麻薬特例法11条、13条)。

 これは被害者への賠償ではなく、犯罪によって得た利益を国が取り上げる仕組みです。払えば評価されるという性質のものではありませんから、示談金と混同しないよう注意してください。

贖罪寄付という選択肢と、その限界


 示談ができない事件で用いられることがあるのが贖罪寄付です。弁護士会などが受け付けており、寄付をすると証明書が発行され、検察官や裁判所に提出することができます。

 ただし、寄付をすれば処分が軽くなると決まっているわけではありません。金額の大きさが評価に直結するものでもなく、次に述べる再犯防止の取り組みが伴っていなければ、形だけのものと受け取られることもあります。位置づけとしては、中心ではなく補助的な材料と考えたほうが実態に近いと思います。

示談がない事件で、何が見られているのか


変えられない部分と、これから作れる部分


 起訴するかどうかの判断でも、量刑の判断でも、まず見られるのは行為そのものの内容です。薬物の種類と量、所持か使用か譲渡か、営利目的があったか、同種の前科や繰り返しがあるか。こうした事情は、事件が起きてしまった後の努力では変えられません。

 一方で、事件の後にどう行動したかは、これから作れる部分です。示談という分かりやすい材料がない薬物事件では、この部分の比重が相対的に大きくなります。

中心にあるのは「再び使わない状態が続くか」


 薬物事件で問われるのは、反省の言葉そのものよりも、同じことが繰り返されにくい状態になっているかどうかです。依存があるのかないのか、あるとしてどの程度か、それに見合った手当てがされているか、支える人がいるか。こうした点が、具体的な事実として示されているかが問われます。

環境は「整えた」ではなく「続いている」で見られる


 実際に取り組まれることの多い内容を挙げます。

  1. 医療機関を受診し、依存の有無や程度について医師の評価を受ける
  2. 都道府県の精神保健福祉センターや保健所など、公的な相談窓口につながる
  3. 継続して通える回復支援の場を確保する
  4. 同居のしかたや連絡の取り方を含め、家族がどう関わるかを具体的に決める
  5. 薬物と結びついていた交友関係、生活時間、住まいや仕事を見直す
  6. 受診記録や参加記録を残し、家族や支援者の書面・証言として整理する


 注意したいのは、判決の直前にまとめて作った体制は、それだけでは説得力を持ちにくいということです。いつから、どのくらいの頻度で続いているか、本人がどこまで自分の言葉で説明できるかといった点まで見られます。早い段階から動き出すことに意味があるのは、このためです。

薬物事件に固有の制度=刑の一部の執行猶予


 薬物事件を考えるうえで避けて通れないのが、刑の一部の執行猶予です。言い渡された刑期のうち一部だけを実際に服し、残りの部分の執行を一定期間猶予する制度で、刑法27条の2に定めがあります。

 この制度は、通常は初めて刑務所に入る人などに対象が限られます。ただし、薬物の使用や単純所持といった罪については特則があり、それに当たらない場合でも対象になり得ます(薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律3条)。3年以下の拘禁刑が言い渡される場合に、刑事施設での処遇に続けて社会の中でも依存の改善に向けた処遇を行うことが、再犯を防ぐために必要かつ相当と認められるとき、という要件です。

 この特則によって一部の執行猶予が言い渡されるときは、猶予の期間中の保護観察が必ず付きます(同法4条1項)。保護観察では、薬物再乱用防止プログラムの受講が特別遵守事項として義務づけられることがあり、簡易薬物検出検査もその中で行われます(更生保護法51条2項)。

 つまりこれは、単に軽く済む判決ではなく、刑務所を出た後も関わりが長く続く仕組みです。裁判でこの制度を視野に入れるのであれば、社会の中で受け入れる態勢が実際にあることを示す必要があり、その準備は起訴の前から始まります。

示談ができないからこそ、弁護士が関わる意味


何をどこまで認めるかを、証拠を見てから決める


 薬物事件は証拠がはっきりしていることが多いと言われますが、すべてが明白とは限りません。持っていた物が薬物だと分かっていたのか、複数人で持っていた場合に誰の所持といえるのか、営利目的があったといえるのか、手続に問題はなかったのか。争点になり得る部分は残ります。

 取調べの早い段階で口にした説明は、後から動かしにくくなります。証拠の状況を確認しないまま方針を固めてしまわないことが大切です。

入手先や関わった人についての説明を整理する


 薬物事件では、入手先や一緒に関わった人について繰り返し尋ねられます。ここでの説明は、事件がどこまで広がるかにも、身柄の扱いにも関わってきます。何をどう話すかは、記憶と証拠の両方を見ながら決めるべき事柄で、その場の勢いで決めてよい部分ではありません。

身柄の扱いについて早い段階から動く


 薬物事件では、証拠を隠されるおそれや余罪の可能性を理由に、身体の拘束が長くなりやすい傾向があります。起訴の前から釈放に向けた準備を進めておくことが、その後の環境づくりの前提になる場面もあります。もっとも、どこまで可能かは事件ごとの事情によって大きく変わります。

取り組みを「立証できる形」にする


 再犯防止の取り組みは、やっているだけでは伝わりません。誰に、いつ、何を、どのくらいの頻度で続けているのかを記録し、書面や証言として提出できる形にする作業が要ります。示談書という一枚で説明できない事件だからこそ、この積み上げが中心になります。

家族の関わり方を設計する


 ご家族は、事実上もっとも影響を受ける立場でありながら、何をしてよいのか分からないまま時間が過ぎてしまいがちです。面会や差し入れ、監督を引き受けること、法廷で話すための準備など、関わり方には具体的な形があります。無理のない範囲で何ができるかを、早めに整理しておくとよいと思います。

気持ちは分かるが、避けたほうがよいこと


  • 売った相手や一緒に使った人に「示談したい」と連絡する……関係者への接触は口裏合わせを疑われる材料になり、身体の拘束を続けるかどうかの判断にも響きます。
  • 家族が本人の代わりに関係者を探して連絡を取る……同じ理由で、かえって本人の立場を悪くすることがあります。
  • 反省文を大量に書けば評価されると考える……量ではなく、何が起きたのかをどこまで具体的に捉えられているかが見られます。
  • 渡してくれた人をかばうために説明を変える……その場をしのぐための説明は、後で覆したときに全体の信用を損ないます。
  • 「もう二度としない」とだけ述べて具体策を示さない……言葉だけでは、再び使わない状態の裏づけになりません。


相談は早いほど、残せる選択肢が多い


 薬物事件では、逮捕から起訴までの短い期間に多くのことが決まっていきます。示談という手段がない以上、その間に何を積み上げられたかが、後の判断材料の中心になります。治療や支援につながるにも、家族の態勢を整えるにも、時間が要ります。

 当事務所では、初回のご相談を無料でお受けしており、24時間体制でご連絡を受け付けています。逮捕直後の接見にも即日で対応しています。出頭や自首に弁護士が同行するサポートは全国で対応可能です(移動にかかる費用は別途必要になります)。深夜や早朝についても、状況によって対応できる場合があります。

 ご本人が拘束されていて連絡が取れない状況でも、ご家族からのご相談をお受けできます。まず何が起きているのかを整理するところから、一緒に始めていただければと思います。

まとめ


  1. 薬物の所持・使用そのものには、賠償と許しを取り決める相手がいないため、示談という手段は使えない
  2. 被害届の取下げ・供託・宥恕の文言も、同じ理由で前提を欠く
  3. 一方で、傷害や窃盗など被害者がいる罪が同時に問題になっている場合は、その部分に示談の余地がある
  4. 譲渡などで得た金銭は、示談金ではなく没収・追徴の対象という別の問題として扱われる
  5. 贖罪寄付は補助的な材料であり、それだけで処分が決まるものではない
  6. 中心になるのは、依存への手当てと生活環境が実際に続いているかを、記録として示せるかどうか
  7. 薬物事件には刑の一部の執行猶予という固有の制度があり、その場合は保護観察が必ず付く
  8. これらの準備には時間がかかるため、できるだけ早い段階で相談することに意味がある

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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