【親子問題】ひきこもりの子のことを、親の勤務先に知られずに相談できる?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

成人したひきこもりの子のことで誰かに相談したいと思っても、「仕事を休んで相談に行けば職場で理由を聞かれるのではないか」「相談先から会社に連絡が行くことはないか」と考え、一歩目を踏み出せない親御さんは少なくありません。とくに、管理職として働いている方や、家族の事情を職場に持ち込みたくないと考えている方にとっては、相談そのものより「知られること」のほうが心配になりやすいものです。
 結論からいえば、弁護士や公的な相談窓口に相談しただけで、その内容が勤務先に伝わる仕組みはありません。ただし、相談の連絡を受ける時間帯や手段、相談のための休みの取り方によっては、相談先とは関係のないところから職場に気づかれるきっかけが生まれることがあります。この記事では、相談先ごとの秘密の扱いと、勤務先に知られずに相談を進めるために先に決めておきたいことを整理します。

相談しただけで勤務先に伝わる仕組みはない

まず、相談先が相談者の勤務先に連絡を入れることは、通常の運用ではありません。相談先ごとの秘密の扱いは次のとおりです。

弁護士への相談

弁護士は、職務上知り得た秘密を保持する権利を持ち、義務を負っています(弁護士法23条)。相談者の氏名や勤務先、相談した事実そのものも秘密に含まれるため、ご本人の了承なく勤務先や子に伝えることはありません。依頼に進まず、相談だけで終わった場合も同じです。
 守秘義務の範囲や例外の考え方については、相談内容は誰にも知られないのか|守秘義務の範囲と例外の考え方で詳しく解説しています。子に伝わるかどうかが気になる方は、【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方もあわせてご覧ください。

ひきこもり地域支援センターなど公的な窓口

都道府県や政令指定都市のひきこもり地域支援センター、保健所、精神保健福祉センター、市区町村の相談窓口の職員には、公務員としての守秘義務があります(地方公務員法34条)。家族だけでの相談を受け付けている窓口が多く、相談したことが勤務先に伝えられることは通常ありません。ただし、受付時間が平日の日中に限られる窓口もあるため、時間の確保が課題になりやすい点は意識しておくとよいでしょう。
 公的な窓口の役割については、【親子問題】ひきこもり地域支援センターでできること・できないことで整理しています。

家族会・民間の支援団体

家族会や民間の支援団体は、法律上の守秘義務を負う立場とは限りません。多くの団体は参加者のプライバシーに配慮した運営をしていますが、参加者どうしが同じ地域や同じ業界の人である可能性もあります。気になる場合は、参加前に会のルールや、本名を名乗る必要があるかを確認しておくと安心です。家族会の役割については、【親子問題】家族会・当事者会の役割|弁護士に頼む前にできることをご参照ください。

勤務先に気づかれるきっかけになりやすい場面

相談先が秘密を守っていても、親御さんの側の動き方によって職場に気づかれることがあります。よくある場面と、先にできる工夫をまとめると次のとおりです。

場面気づかれるきっかけ先にできる工夫
勤務時間中の電話席で相談先からの電話を受ける、折り返しの会話を聞かれる連絡してよい時間帯をあらかじめ伝えておく
会社のメール・パソコン業務用のアドレスで予約する、会社の端末で相談先を検索する私用のアドレス・端末だけを使う
相談のための休み平日日中の休みが続き、理由を尋ねられる夜間・土日やオンラインの相談を組み合わせる
資料の持ち歩き相談先の書類を職場の机に置く、社内で印刷する自宅で保管し、印刷も私用の機器で行う
子からの連絡子が親の勤務先に電話をかける、職場に来る子との連絡の窓口を弁護士に代える


 この中で、親御さんだけでは防ぎにくいのが最後の「子からの連絡」です。ほかの場面は、相談の進め方を工夫することでかなりの部分を避けられます。

相談のための時間をどう確保するか

平日の日中に相談へ行く場合、年次有給休暇を使う方が多いと思われます。年次有給休暇をどのように利用するかは労働者の自由とされており、取得の理由を会社に詳しく説明する義務は一般にありません(最高裁昭和48年3月2日判決)。会社の書式に理由の欄があっても「私用」と書くことで足りるのが通常です。なお、事業の正常な運営を妨げる場合には、会社が休暇の時季を変更することが認められています(労働基準法39条5項)。
 休みを取ること自体に気が引ける場合は、夜間や土日の相談、電話やオンラインでの相談を組み合わせる方法もあります。自宅で話すと子に聞かれるおそれがあるときは、車の中や外出先から電話をかけるなど、場所の工夫も必要です。オンライン相談の進め方については、遠方の弁護士に依頼できるか|オンライン相談と出張・日当の関係と【親子問題】遠方でも依頼できるのか|全国対応の実際で解説しています。
 なお、子に病気や障害があり、2週間以上にわたり常に介護が必要な状態にあたる場合は、介護休暇や介護休業の対象になることもあります。ただし、これらの制度を使う場合は、勤務先に一定の事情を伝えることになります。知られたくない気持ちが強い段階では、年次有給休暇や時間外の相談で足りるかを先に検討するとよいでしょう。

連絡の取り方は最初の相談で決めておく

勤務先に知られずに相談を続けるうえで、もっとも効果があるのは、相談先との連絡方法を最初に決めておくことです。弁護士に相談する場合は、次のような点を最初の段階で伝えておくと、行き違いを防げます。

  • 連絡先として使う電話番号とメールアドレス(私用のもの)。
  • 連絡してよい曜日と時間帯、避けてほしい時間帯。
  • 留守番電話に事務所名を残してよいかどうか。
  • メールの件名に事務所名や事件名を入れてよいかどうか。
  • 書類を郵送する場合の宛先と、封筒の差出人の表記。


 これらは子に知られないための配慮とも重なります。自宅への郵送物を子が開けてしまうおそれがある場合は、受け取り方を別に相談することもできます。相談を始めたことが子に知られてしまった場合の対応は、【親子問題】相談を始めたことを子に知られた|その後の接し方で取り上げています。

子が親の勤務先に連絡してくる場合

ひきこもりの子がお金の無心や不満を親にぶつけ、親が応じないと勤務先に電話をかけてくる、というご相談もあります。この場合、親御さんがどれだけ相談の秘密に気を配っても、子の行動によって職場に知られるおそれが残ります。
 弁護士が親の代理人として入ると、子との連絡の窓口を弁護士に一本化し、親や勤務先へ直接連絡しないよう求めることができます。弁護士が窓口になったことで、子の連絡先が親の勤務先から法律事務所へ移り、職場への連絡がやむ場合もあります。もっとも、子がどう受け止めるかは家庭ごとに異なり、結果を約束できるものではありません。勤務先への電話や訪問が繰り返され、業務に支障が出るような状態になっている場合は、警察への相談も含めて対応を考えることになります。窓口を代えることの意味については、【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で詳しく説明しています。

勤務先に伝えるかどうかは、親御さんが決めてよい

子の問題を職場に伝えるかどうかに、決まった正解はありません。誰にも伝えずに相談を進めることも、信頼できる上司や人事担当者にだけ必要な範囲で伝えることも、どちらも選べる選択肢です。
 子からの連絡が職場に及びそうなときや、急な休みが重なりそうなときは、あらかじめ限られた範囲で事情を伝えておくほうが、結果的に仕事を続けやすくなる場合もあります。会社によっては、産業医や外部の相談窓口(従業員支援プログラム)が設けられていることもあります。こうした窓口を使う場合は、相談内容が会社にどこまで共有されるかを事前に確認しておくと安心です。職場に伝える場合の考え方は、【親子問題】子の家庭内暴力を職場に相談できるか|親が仕事を続けるためにで整理しています。
 また、仕事と子の問題を一人で抱え続けると、親御さん自身が先に疲れきってしまうこともあります。気持ちや体調に余裕がなくなってきたと感じたら、【親子問題】子の問題で親自身が限界|親が先に休むための手配もご覧ください。

相談の前に整理しておくと話が早いこと

相談の時間が限られている方ほど、事前に情報を整理しておくと、一度の相談で多くのことを確かめられます。子の年齢や生活の状況、暴力や金銭の要求の有無、これまでに相談した窓口などをメモにまとめておくとよいでしょう。整理の仕方は、【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報で紹介しています。
 当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子と向き合い、自立支援カウンセラーが子の生活の立て直しを支える形で、ひきこもりや家庭内暴力の問題に取り組んでいます。ご相談から自立までの流れは、【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問をご覧ください。

まとめ

  • 弁護士や公的な窓口に相談しただけで、その内容が勤務先に伝わる仕組みはありません。
  • 職場に気づかれるきっかけは、勤務時間中の電話や会社のメール、相談のための休みなど、相談先の外にあることが多いです。
  • 連絡先や連絡してよい時間帯、郵送の方法は、最初の相談で決めておくと行き違いを防げます。
  • 子が勤務先に連絡してくる場合は、弁護士に窓口を代えることで、職場への連絡を減らせることがあります。
  • 勤務先に伝えるかどうか、伝えるなら誰にどこまで伝えるかは、親御さんが状況に応じて決めることができます。


 職場に知られたくないという気持ちは、相談をためらう理由として自然なものです。相談の方法や時間を工夫することで、仕事を続けながら子の問題に向き合う道は残されています。まずは、どの連絡方法なら安心して話せるかを決めるところから始めてみてください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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