ダルク・依存症治療への参加|情状としてどう評価されるか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

薬物事件には、被害者との示談という手段がありません。そのため、ご本人やご家族からは「ダルクに行ったほうがよいのか」「依存症の治療を受ければ処分が軽くなるのか」というご相談を受けることが多くあります。インターネット上には「治療につながることが情状になる」という説明が並んでいますが、どの場面の、どの判断に、どのように関わるのかまで書かれているものは多くありません。

 この記事では、「情状」という言葉が手続の段階ごとに違うものを指していること、量刑の枠組みの中で治療への参加がどこに置かれているのか、そして公的な資料で確認できる支援の仕組みがどこまで届くのかを整理します。ご本人が読んでも、ご家族が読んでも判断の材料になるように、公表されている資料に沿って説明します。

「情状」という言葉は一つではない


 同じ「情状」でも、誰が、どの場面で判断するのかによって意味合いが変わります。まず、この違いを分けておくと、治療への参加が何に向けた材料なのかが見えやすくなります。

場面判断する人治療への参加が関わる位置
起訴するかどうかを決めるとき検察官刑事訴訟法二四八条が挙げる事情のうち、犯人の性格や境遇、犯罪後の情況などの一つとして
刑の重さを決めるとき裁判所量刑の判断材料のうち、行為そのもの以外の事情の一つとして
刑の全部の執行を猶予するかを決めるとき裁判所猶予を付けるかどうかを判断する際の情状の一つとして


 刑事訴訟法二四八条は、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができると定めています。捜査段階で治療につながっていることは、この判断に向けた事情の一つとして位置づけられます。

 一方、起訴されたあとの量刑には、後で述べるとおり事情の扱われ方に順序があります。同じ「治療を受けている」という事実でも、届く先は段階ごとに違います。

量刑の中で治療への参加はどこに置かれるか


 量刑の実務では、行為責任の考え方を前提に、事情を二つに分けて検討する枠組みが用いられています。一つは犯情と呼ばれるもので、行為そのものに関する事情を指します。薬物の種類や量、使用や所持の期間、営利の目的の有無、共犯者の存在、入手や譲り渡しの態様などが、ここに含まれます。もう一つは一般情状と呼ばれるもので、前科前歴の有無、反省の程度、監督する人の有無、生活環境の整備、再犯の可能性といった、行為の外側にある事情がここに入ります。

 この枠組みでは、まず犯情によって刑のおおよその幅が決まり、一般情状はその幅の中で刑を定めるための調整要素として働くと説明されています。依存の傾向や生活環境の改善は、この一般情状に位置づけられる事情です。つまり、治療への参加は、刑の幅そのものを作る側ではなく、その幅の中での位置づけに関わる事情ということになります。

 この点に関連して、最高裁判所平成二六年七月二四日判決は、これまでの量刑の傾向から踏み出して刑を決める場合には、具体的で説得的な根拠を示す必要があるという考え方を示しました。量刑の傾向そのものは法規範ではなく目安とされていますが、そこから離れた判断をするには相応の理由が要るという整理です。

 この二つを合わせると、次のように言えます。治療につながっていることは判断材料になりますが、それだけで結論が入れ替わるという性質のものではありません。犯情が重い事案では、治療への参加があっても見通しが大きく変わらないことがあります。逆に、犯情の面で幅のある事案では、一般情状の側の事情が結論を左右する場面が出てきます。ご自身の事件がどちらに近いのかを把握しないまま「とにかく施設に入る」という順序で動くと、労力が結果に結びつきにくくなります。

ダルクとは何か、似た仕組みとどう違うのか


 ダルクは、英語のドラッグ、アディクション、リハビリテーション、センターの頭文字を組み合わせた名称で、薬物依存からの回復を目的とする民間の施設です。多くの施設で、スタッフ自身が薬物依存の経験を持つ人によって構成されています。

 国の資料の中でも、ダルクは位置づけを与えられています。法務省と厚生労働省が平成二七年に策定した「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」は、民間支援団体を、更生保護施設、ダルク等の回復支援施設、ナルコティクス・アノニマス等の自助グループ、その他薬物依存からの回復を支援する民間の団体と定義しています。ダルクと自助グループは、同じ枠の中で並べられてはいますが、別のものとして書き分けられています

受け皿運営の性格主な内容
ダルク等の回復支援施設民間入寮や通所により、ミーティングを中心とした回復のプログラムに継続して参加する
自助グループ民間同じ問題を抱える当事者が集まるミーティング。入寮という枠組みは持たない
依存症の専門的な医療機関医療医師による診断と治療。都道府県等が選定した機関が公表されている
保護観察所のプログラム公的保護観察に付された場合に、その枠組みの中で受ける


診断がついていなくても対象になり得る


 同ガイドラインは、薬物依存者を「規制薬物等の乱用により、健全な社会生活に障害をきたしている者」と定義したうえで、必ずしも医師の診断を受けている場合に限らないと明記しています。「まだ病院にかかっていないから、自分は対象ではない」と考えて相談を先延ばしにする方がいますが、支援の仕組みの側は、そこまで狭く作られてはいません。

ダルクは全国一律の組織ではない


 ダルクは、各地の施設が緩やかにつながる形で広がってきた経緯があり、施設ごとの独自性が重視されてきました。そのため、受け入れの条件、プログラムの内容、費用、見学や体験の可否は、施設によって異なります。「ダルクに入る」と一言で言っても、地域や施設によって実際にできることは同じではありません。この点は、見通しを立てるうえで先に確認しておきたい部分です。

手続の段階ごとに、何ができて何が届くのか


捜査の段階


 身体を拘束されている間は、ご本人が施設に通うことはできません。この段階でできるのは、ご家族が公的な相談窓口や施設に問い合わせ、釈放された後の受け入れの見込みを確かめておくことです。在宅で捜査が進んでいる場合には、この段階から通所を始めることもできます。捜査段階の資料は、起訴するかどうかの判断に向けたものになります。

保釈が認められた後


 保釈にあたって住居が指定される場合、その住居として施設を挙げる形も考えられます。ただし、これは裁判所の判断と、施設側が受け入れられるかどうかの両方がそろって初めて成り立ちます。どちらか一方だけでは実現しないため、時間的な余裕を見ておく必要があります。

公判で何が資料になるのか


 実際に提出されるのは、受け入れの承諾を示す書面、通所や入寮の状況についての報告、医療機関の診断書といったものです。ここで注意しておきたいのは、施設や機関が、本人に関する情報を外部に出すには、原則として本人の同意が前提になるという点です。前記のガイドラインも、支援対象者の情報を他の機関や団体に提供する際は、法令上明らかな場合を除き、原則として本人の同意を得るものとしています。弁護人が施設に依頼すれば自動的に書面が出てくる、という仕組みではありません。

評価を分けるのは、参加した事実そのものではない


 資料が整っていても、そこに書かれている内容が薄ければ、判断材料としての働きは限られます。実務上、次のような点が見られていると考えられます。

・どのくらいの期間、続いているのか
・これから続けられる見込みが具体的か(通う手段、費用、仕事や住まいとの関係)
・状況を第三者が確認できる形になっているか
・ご本人が、何が起きて何につまずいたのかを自分の言葉で説明できるか
・薬物と結びついていた人間関係や場所から、実際に距離が取れているか

 判決の直前に一度だけ足を運んだ、という形は、続く見込みの説明が難しくなりがちです。短い期間であっても、始めた時期と続いている事実を積み重ねておくほうが、説明としては通りやすくなります。

処分や判決のあと、どこにつながるのか


保護観察が付く場合


 保護観察に付された場合、保護観察所が実施する薬物再乱用防止のプログラムや、簡易薬物検出検査の対象となることがあります。この検査は、規制薬物等の使用をやめようとする意志を強め、それを持続させることを目的とするもので、プログラムの一環として、あるいは本人の自発的な意思に基づいて実施されると説明されています。

 また、前記のガイドラインに基づき、保護観察所は地域の医療機関や民間支援団体と連携し、必要と判断した場合には、回復支援施設や自助グループへの入所や通所を指示することがあります。この場合も、本人の意向の確認と、施設側との事前の協議が前提とされています。

保護観察が付かない場合


 薬物事件では、起訴猶予、罰金、保護観察の付かない執行猶予、満期での釈放といった形で手続が終わることもあります。この場合、保護観察という枠組みは使えません。ここで知っておきたいのが、更生緊急保護という仕組みです。

 更生保護法は、刑事上の手続による身体の拘束を解かれた人のうち、満期釈放者、保護観察に付されない執行猶予者、起訴猶予となった人、罰金または科料の言渡しを受けた人などを対象として、宿泊場所の提供や、住居への帰住、医療、就職などの援助を行う制度を置いています。期間は原則として身体の拘束を解かれた後の六か月以内です。検察庁の側でも、こうした橋渡しの取組を入口支援と呼び、各地の検察庁に社会復帰の支援を担当する部署が置かれています。

 押さえておきたいのは、この制度は本人からの申出があって初めて始まるという点です。手続が終われば自動的に支援につながる、という作りにはなっていません。釈放の直後に動けるよう、あらかじめ確認しておく価値があります。

 なお、実刑と全部の執行猶予の中間にあたる刑の一部の執行猶予という制度もあり、薬物使用等の罪については特則が置かれています。この制度が選択された場合には保護観察が付きますので、社会に戻った後も一定の期間、公的な関与が続くことになります。

誤解されやすいところ


・依存症の診断があることと、責任能力をどう評価するかは、別の問いとして扱われます
・治療への参加は、行った行為そのものの評価を変えるものではありません
・施設に入ったという事実が、そのまま処分や判決の結論に結びつくわけではありません
・「病気だからやめられない」という説明だけでは、これから続けられる見込みの説明にはなりません

 特に四つ目は、法廷での説明の組み立てに関わります。困難さを伝えることと、その困難さにどう対処するのかを示すことは別で、後者が示されていないと、材料としての働きが弱くなります。

相談の入口として使える公的な窓口


 どこに連絡すればよいか分からない段階では、お住まいの地域の精神保健福祉センターや保健所が入口になります。ご本人が同行できない状況でも、ご家族だけで相談できる窓口が用意されています。医療につなぐか、回復支援施設につなぐかを最初に決めておく必要はありません。

弁護士に確認しておきたいこと


・今回の事件が、行為そのものの面でどのあたりに位置づくと考えられるか
・治療への参加が、どの場面の判断に向けた材料になるのか
・身体拘束の状況から見て、いつから何を始めるのが現実的か
・施設や機関からどのような書面が出せるのか、本人の同意はどのように取るのか
・手続が終わった後、どの制度につながる見込みがあるのか

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、薬物事件についてのご相談を初回無料でお受けしています。ご相談の受付は二十四時間対応しており、身体を拘束されている場合には即日の接見にも対応しています。出頭や自首に弁護士が同行する対応は全国で可能ですが、移動にかかる費用は別途となります。深夜や早朝についても、状況により対応できる場合があります。ご本人からのご連絡が難しい状況では、ご家族からのご相談も承ります。

まとめ


・「情状」は一つの言葉で、起訴の判断、量刑、執行猶予の判断という別々の場面にまたがっています
・量刑では、行為そのものに関する事情でおおよその幅が決まり、治療への参加はその幅の中での調整に関わります
・ダルクは民間の回復支援施設で、自助グループや医療機関とは国の資料の上でも書き分けられています
・医師の診断がなくても、支援の対象から外れるわけではありません
・受け入れの条件や費用は施設ごとに異なるため、早い段階での確認が要ります
・施設や機関が状況を外部に伝えるには、原則として本人の同意が前提となります
・保護観察が付かない場合でも、更生緊急保護という入口がありますが、申出をして初めて始まります

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼