家族としてできること|身元引受・治療・監督体制の組み立て

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

ご家族が薬物事件で逮捕されたという連絡を受けたとき、多くの方が最初に口にされるのは「私たちは何をすればいいのですか」という問いです。示談の相手がいる事件と違い、薬物事件には「被害者に謝りに行く」という分かりやすい行動がありません。そのぶん、何をしてよいのか分からないまま時間が過ぎていきます。一方で捜査機関や裁判所からは「身元を引き受けてもらえますか」「戻ったあとはどなたが見るのですか」と、家族の役割を前提とした質問が向けられます。

 この記事では、薬物事件でご家族ができることを、家族に認められている法律上の立場・身元引受・治療の受け皿・監督体制の具体化という順に整理します。あわせて、よかれと思ってしたことが裏目に出やすい場面にも触れます。読み終えたときに、今日から手をつけられることが二つか三つ見つかる、という状態を目指しています。

家族には性質の違う二つの役割が同時に求められる


 最初に見取り図をお伝えします。薬物事件でご家族が置かれる立場には、性質の異なる二つの側面があります。

刑事手続の側から求められること


 刑事手続の側から見れば、家族に期待されているのは「逃げたり証拠を隠したりしないよう見ておく人」「呼び出しに応じさせる人」「戻ったあとの生活を引き受ける人」です。身元引受書や情状証人という形で、その中身が書面や証言になります。

回復の側から見たときの「監督」


 ところが、依存の問題が背景にある場合、同じ「監督」が別の意味を持ちます。厚生労働省が家族向けに作成している冊子(家族読本)は、家族が借金を肩代わりしたり、起こした問題の後始末をしたりすることをイネイブリング行動と呼び、結果として本人が事態の深刻さに気づく機会を奪ってしまうと説明しています。叱責や説教、交換条件の提示も、一時的には効果があるように見えて長続きしにくいとされています。

 つまり、刑事手続が求める「しっかり見ておく体制」と、回復の観点から勧められる「抱え込まない関わり方」は、そのままでは重なりません。「これからは私が二十四時間見張ります」と書面に書けば、実行できない約束になります。この記事で「監督体制の組み立て」と呼んでいるのは、見張ることではなく、本人が回復に取り組める場所と時間を確保し、その状況を第三者が確認できる形にしておくことです。

家族に認められている法律上の立場


 ご家族は部外者ではありません。刑事訴訟法は、配偶者や親などの近い親族に、本人とは別個の権限をいくつか認めています。

場面家族ができること根拠
逮捕・勾留の段階本人とは独立して弁護人を選任する刑事訴訟法30条2項
勾留の段階勾留の理由の開示を請求する刑事訴訟法82条2項
起訴後保釈を請求する刑事訴訟法88条1項
起訴後補佐人となる(審級ごとに届出)刑事訴訟法42条
公判情状証人として証言する証人尋問の一般の規定


弁護人の選任は家族の側からできる


 刑事訴訟法30条2項は、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹が独立して弁護人を選任できると定めています。本人が留置施設にいて連絡が取れない段階でも、家族の側から依頼できるということです。また、弁護人を選任できる者から依頼を受けた弁護士は、正式な選任前でも本人と接見できます。あまり知られていませんが、起訴後については、家族が届出をして補佐人となり、本人が明示した意思に反しない範囲で訴訟行為をすることも法律上は認められています(42条)。

家族に通報の義務はあるのか


 よく受ける質問です。刑事訴訟法239条1項は「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる」と定めています。できる、であって、しなければならない、ではありません。一般の私人であるご家族に、身内の犯罪を届け出る法律上の義務は定められていません。ただし、通報しないことと、後で述べるように出てきた物を動かすこととは別の問題です。

「身元引受人」は法律上の制度ではない


呼ばれ方と実質


 捜査機関や弁護人から「身元引受人になってください」と言われることがあります。ただ、身元引受人は法律に定義のある資格ではありません。実務上の呼び方であり、事実上のものです。誰がなれるかの決まりもなく、同居の家族に限られるわけでもありません。

 資格の話ではないため、「誰がなるか」より「何ができる人か」が見られます。同居しているか、連絡が取れるか、通院や出頭に同行できるか、金銭の管理に関われるか。こうした事情が書面や証言の中身として問われます。

身元引受書に書くこと


 決意表明を並べるのではなく、実際にできることを具体的に書くのが要点です。

  • 本人との続柄と、これまでの同居や交流の状況
  • 釈放後にどこで生活するのか(住居と部屋の状況)
  • 生計をどうするのか(就労の見込み、当面の生活費の出どころ)
  • 呼び出しや期日にどう対応するか(同行の可否、連絡の手段)
  • 通院や相談機関の利用に、誰がどう関わるのか
  • これまでの関わり方を振り返って、何を変えるのか


 なお、起訴後の保釈については、2023年の刑事訴訟法改正により、裁判所が同意を得た人を監督者として選任し、監督保証金の納付を求める制度が設けられています(2024年5月施行)。事実上の呼び方である身元引受人とは別の、法律上の制度です。実際に選任されるかは事案によりますので、保釈を検討する段階で弁護人にご確認ください。

治療の受け皿はどこから探すか


 ここが、家族が最も動きにくく、しかし家族にしかできない部分です。順番を間違えると空振りが続きます。

まず保健所と精神保健福祉センターへ


 いきなり近所の精神科に電話をかけると、病院によっては薬物と聞いた時点で対応が難しいと言われることがあります。厚生労働省の家族読本も、まずは最寄りの保健所か、各都道府県・指定都市に置かれている精神保健福祉センターに相談することを勧めています。これらの窓口は地域でどの医療機関が薬物関連の問題を扱っているかを把握しており、本人が来なくても家族だけで相談できる点が大きな違いです。家族教室や家族相談を行っているところもあります。

依存症専門医療機関という枠組み


 医療機関については、厚生労働省の通知に基づき、都道府県と指定都市が選定基準を満たす機関を依存症専門医療機関、その中で地域の中心となる機関を依存症治療拠点機関として選定し、名称を公表する仕組みがあります。自治体のホームページで一覧を確認できることが多く、「どの病院なら扱ってくれるのか」という段階を飛ばせます。

相談に行くと通報されるのか


 これも非常によく聞かれます。厚生労働省の家族読本は、家族が相談に行ったからといって警察に通報されるようなことはまずないと明記しています。窓口をためらう理由がここにあるのなら、その心配のために時間を使うのは惜しいところです。ただし、本人が興奮して周囲に危害が及びそうな状況では、警察への連絡をためらうべきではないとも書かれています。安全の確保は別の判断軸です。

窓口本人の同行主に期待できること
保健所・精神保健福祉センター不要相談、地域の医療機関の情報、家族教室
依存症専門医療機関必要診断、外来・入院での治療、専門プログラム
民間の回復支援施設必要通所・入所による回復プログラム
自助グループ・家族会家族のみでも可同じ経験をした人とのつながり


「監督体制」として具体化するもの


 「二度とさせません」という言葉は、それだけでは中身がありません。監督体制として説明できる形にするには、次の要素を具体的な事実に落とし込む作業が必要です。

  1. 住む場所。誰と、どの部屋で暮らすのか。以前と同じ環境に戻るのかどうか。
  2. 生計と金銭。収入の見込みと、当面の生活費を誰がどう管理するのか。
  3. 予定。通院や相談機関の利用、就労や通学の予定が、週単位でどう入るのか。
  4. 連絡。日中どのように所在を確認するのか。無理のない方法かどうか。
  5. 関係の整理。入手先や使用の場となっていた交友関係、住まいや連絡先をどう扱うか。
  6. 記録。同行した日、参加した回、相談した窓口を、家族の側でも残しておく。


 実務上よく感じるのは、直前に用意した体制は説得力を持ちにくいということです。急ごしらえにしないためにも、着手は早いほうがよいと考えています。

よかれと思ってしたことが裏目に出る場面


尻ぬぐいをしてしまう


 借金の肩代わり、トラブルの後始末、求められるままにお金を渡すこと。厚生労働省の家族読本は、これらが結果として本人の薬物使用を支えてしまうことがあると指摘しています。「今回だけ」のつもりでも、繰り返されるうちに、本人が自分の問題に向き合う機会が先送りされていきます。なお、本人の借金について、保証人になっていない限り家族に返済の義務はないとも説明されています。

出てきた物を預かる、処分する


 本人の部屋から薬物らしきものが出てきたとき、とっさに預かる、隠す、捨てるという行動を取ってしまう方がいます。しかしこれは、家族自身が所持の罪に問われかねない行為です。覚醒剤取締法や麻薬及び向精神薬取締法は、自分で使う目的があるかどうかにかかわらず所持を処罰の対象としています。

 また、他人の刑事事件に関する証拠を隠滅する行為は刑法104条の対象になります。刑法105条は、犯人の親族がその利益のために犯したときは刑を免除することが「できる」と定めていますが、これは当然に免除されるという意味ではありません。処分した事実そのものは残ります。家族読本も、薬物らしきものを見つけたときは慎重な対応が求められることがあるとして、相談窓口の利用を勧めています。動く前に弁護士か公的な窓口にご確認ください。

関係者に連絡する、供述の中身を伝える


 誰から手に入れたのか、一緒にいたのは誰か。家族としては知りたいところですが、共犯関係が問題になり得る事件で、ご家族が関係者に連絡を取ることは、罪証隠滅を疑わせる事情として受け取られることがあります。確認したいことは弁護人経由にしてください。

 「認めて早く帰ってきなさい」「それは言わないほうがいい」といった伝言も避けたいところです。手紙も面会も、内容を確認されることを前提とした場ですし、本人にとって何が有利かは証拠を見たうえでの判断になります。家族が伝えるべきなのは、待っている人がいること、戻る場所があることのほうだと考えています。

家族自身が持ちこたえるということ


 厚生労働省の家族読本は、回復のために家族ができることとして三つを挙げています。依存について学ぶこと、本人への適切な関わり方を身につけること、そして家族自身が元気を取り戻すことです。三つ目が最も大切だとされているのは、心身が消耗していると、解決の方法を見つけたり行動を起こしたりすることができなくなるからです。同じ経験をした人と出会える場として、家族教室や家族の自助グループがあります。

 現実の負担も軽視できません。家族全員がこの一件だけを目標に動くようになると、それぞれの生活が立ち行かなくなります。全部を背負う必要はない、という前提で分担を決めてください。

法廷で証言することになったら


 公判で情状証人として証言する場合、証人は法律に基づいて宣誓をしたうえで話すことになります。宣誓した証人が記憶に反する陳述をすれば、偽証罪(刑法169条)の問題が生じます。法定刑は3月以上10年以下の拘禁刑です。しかも、証拠隠滅について定められている親族の特例は、偽証罪には及びません

 脅かすための話ではありません。要するに、法廷では実際にできることだけを述べる必要がある、ということです。「毎日、必ず一緒に病院へ行きます」と述べるより、「週に一度の通院には同行できます。日中は仕事があるので、夜の連絡で確認します」と述べるほうが、実行可能性として伝わります。何を述べられるかは、事前に弁護人と整理しておく事柄です。

判決が出た後も家族の役割は続く


 薬物事件では、判決の日が終わりではありません。むしろ本番は社会に戻ってからだ、というのが支援の現場で繰り返し言われていることです。制度の側にも、これに対応する仕組みがあります。

生活環境の調整


 更生保護法82条1項に基づき、保護観察所は、刑事施設などに収容中の段階から、釈放後の帰住地の状況を調べ、住居や仕事を確保したり、福祉・医療や家族から必要な協力が得られるよう協議したりしています。これを生活環境の調整といいます。仮釈放を許す処分にあたっては、この調整の結果に基づいて居住すべき住居が特定されるものとされており、家族が帰住先を引き受けられるかどうかは、この場面で意味を持ちます。

 また法務省は、勾留されている被疑者であって検察官が罪を犯したと認める人について、本人の同意を得て、釈放後の住居や就業先などの生活環境を調整する取組も行っています。判決を待たずに動き出せる部分がある、ということです。保護観察が付く場合には、薬物事犯を対象とした専門的な処遇プログラムの受講が義務づけられることもあり、家族の役割は、そこに通い続けられる生活を保つことに移っていきます。

早い段階で弁護士に相談する意味


 ご家族だけで動く場合、最も困るのは情報が入らないことです。弁護人が入ると、接見を通じて状況が分かり、家族側で準備すべきことの優先順位がつきます。身元引受書や医療機関の記録も、ただ提出すればよいものではなく、どの事実を、どの時期に、どの形で示すかという判断が必要になります。証言の準備も含め、弁護人と家族が役割を分けたほうが、家族の負担は軽くなります。

 当事務所では、刑事事件について初回無料相談をお受けしており、24時間の相談受付に対応しています。ご家族からのご相談で、即日の接見に向かうことも少なくありません。出頭や自首に同行する場合は全国への対応も可能です(移動にかかる費用は別途となります)。深夜・早朝についても、状況により対応できる場合があります。まだ何も決まっていない段階でも、そこから整理していけば大丈夫です。

まとめ


  1. 刑事手続が求める「監督」と、回復の観点から勧められる関わり方は、そのままでは重ならない。実行できることに絞って組み立てる。
  2. 家族には、独立した弁護人選任権(刑訴30条2項)、勾留理由開示の請求(82条2項)、保釈請求(88条1項)、補佐人(42条)といった立場が認められている。
  3. 家族に通報の義務はない。刑事訴訟法239条1項は「告発をすることができる」と定めている。
  4. 身元引受人は法律上の資格ではない。決意ではなく、住居・生計・同行・連絡といった具体的な事実で説明する。
  5. 治療の入口は、まず保健所と精神保健福祉センター。本人が来なくても家族だけで相談でき、通報されることはまずないとされている。医療機関は都道府県・指定都市が選定した依存症専門医療機関から探せる。
  6. 出てきた物を預かる・捨てる行為は、家族自身が所持や証拠隠滅の問題を負いかねない。動く前に確認する。
  7. 情状証人は宣誓のうえ証言する。実際にできることだけを述べる。
  8. 判決後も、生活環境の調整という形で家族の関わりが続く。準備は早いほど無理がない。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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