【親子問題】浪費が止まらない子|保佐・補助を検討する場面
本記事は、2026年9月時点の法令(2024年5月15日施行の改正刑事訴訟法による「監督者」制度を含む)に基づいて解説しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応はご相談のうえでご判断ください。
「警察署から『息子さんを迎えに来てください。書類に署名をお願いします』と言われた。署名したら、この先息子が何かしたときに自分が責任を負わされるのではないか」。「娘の保釈のために身元引受人になってほしいと弁護人から頼まれた。けれども、娘の暴力から離れるために別居したばかりで、また一緒に暮らせる自信がない」。子が刑事手続にかかわったとき、親御さんからはこのようなご相談が寄せられます。
身元引受人について調べると、「法律上の責任はない」「断ってもよい」という説明が多く見つかります。それ自体は誤りではありません。ただ、親の立場から見ると、見えにくい部分が二つあります。一つは、法律上の義務がないことと、負担がないこととは同じではないという点です。保釈保証金を出す、同じ家に子を迎え入れるといった判断には、書面とは別の重みが伴います。もう一つは、場面によっては親に法律上の地位や義務が生じるという点です。保釈の「監督者」に選任された場合や、子が20歳未満で少年事件になった場合がこれにあたります。
本記事では、親が子の身元引受人を求められる場面に絞って、法律上の義務があるもの・ないもの、署名によって生じること・生じないこと、そして親子の問題を抱えるご家庭が引き受ける前に考えておきたいことを整理します。身元引受人になれる人の範囲や保釈の場面での役割、書面の書き方は、次の記事で解説しています。
保釈の身元引受人になれる人・求められる役割
身元引受書は誰が何を書くのか|記載事項と文例
「身元引受人」の中身は、場面によって違う
「身元引受人」は法律の用語ではなく、実務で使われている呼び名です。そのため、同じ言葉でも、どの手続のどの段階で求められているかによって、根拠も親の立場も変わります。親が子について求められやすい場面を並べると、次のようになります。
| 場面 | 求められる立場・書面 | 根拠 | 親の法律上の義務 |
|---|---|---|---|
| 微罪処分で、事件が検察に送られずに終わる | 警察に呼ばれ、将来の監督について請書を出す | 犯罪捜査規範200条 | なし(警察官の処置を定めた規則) |
| 逮捕後に釈放され、在宅での捜査に切り替わる | 身柄請書・身元引受書を出して迎えに行く | 法律上の定めなし | なし |
| 勾留を避けたい・保釈を請求する | 身元引受書を出し、情状証人になることもある | 法律上の定めなし(裁判所が判断する際の材料) | なし |
| 保釈の際に監督者に選任される | 監督者として監督保証金を納める | 刑事訴訟法98条の4以下 | あり(選任に同意した場合に限る) |
| 服役中の子の仮釈放を目指す | 帰住先の引受人になる | 更生保護法82条(生活環境の調整) | なし(調整への協力を求められる) |
| 20歳未満の子の少年事件 | 保護者として手続にかかわる | 少年法2条2項 | 法律上の地位がある |
警察で求められる「請書」は、警察の側の決まり
比較的軽い事件で、警察限りで手続を終える微罪処分の場合、警察は本人に訓戒を加えるほか、親権者や雇主など本人を監督する立場の人を呼び出し、将来の監督について注意を与えて請書を受け取ることとされています(犯罪捜査規範200条)。子が成人していても、同居している親が呼ばれることは珍しくありません。
もっとも、犯罪捜査規範は、警察官が捜査にあたって守るべき事項を定めた国家公安委員会の規則です。親に新たな義務を課す法律ではありません。請書への署名は、今後の生活を見守るという意思を示す協力の一つと考えておくとよいでしょう。
法律上の義務が生じるのは「監督者」と「保護者」
表のうち、法律に根拠のある立場は二つです。一つは、2024年5月15日に施行された改正刑事訴訟法による保釈の「監督者」です。裁判所が、選任される人の同意を得て選び、監督者は被告人の逃亡を防ぎ、公判期日への出頭を確保するために必要な監督を行う立場とされています(刑事訴訟法98条の4)。もう一つは、少年事件における「保護者」です。こちらは後の章で取り上げます。
これ以外の場面での身元引受人は、法律上の義務を負う立場ではありません。引き受けるかどうかは、親が選べる事柄です。
署名した親に生じること・生じないこと
身元引受書に署名した後で親御さんが心配されるのは、主に「処罰されないか」「お金を払わされないか」という点です。順に整理します。
子が再び事件を起こしても、親が処罰されることはない
釈放された子が約束を破って行方をくらませたり、再び事件を起こしたりしても、身元引受人であったことを理由に親が処罰される仕組みはありません。ただし、親が子の逃亡を手助けしたり、居場所を隠したりすれば、引受けとは別の問題として、犯人蔵匿罪や犯人隠避罪が検討されることになります(刑法103条)。親族についての特例(同法105条)は、刑を免除することが「できる」という規定であり、必ず免除されるわけではありません。
家族をかくまった|犯人蔵匿罪と親族の特例
署名しただけで、子の賠償や借金を引き受けるわけではない
身元引受書は、お金の支払いを約束する保証契約ではありません。成人した子が起こした事件の損害賠償や、子が抱えている借金を、署名したことを理由に親が支払う義務は生じません。
注意したいのは、同じ時期に別の書面への署名を求められる場合です。たとえば示談書に「連帯して支払う」「連帯保証人となる」と書いて署名すれば、その書面に基づく責任が生じます。身元引受書と示談書は、同じ時期に並んで出てくることがあっても、性質がまったく異なる書面です。
なお、子が未成年の場合は考え方が変わります。責任能力のない子が他人に損害を与えたときは、親が監督義務者として責任を負うことがあります(民法714条)。責任能力のある年齢の子であっても、親の監督義務違反と損害との間に相当因果関係があれば、親自身の不法行為として責任を問われることがあります(最高裁昭和49年3月22日判決)。いずれも、身元引受人になったこととは別の理由によるものです。
お金を出した場合は、その範囲で影響が及ぶ
負担が現実のものになるのは、親がお金を出した場合です。保釈保証金は、誰が納めたものであっても、子が逃亡したり保釈の条件に違反したりすれば、全部または一部が没取されることがあります(刑事訴訟法96条)。監督者に選任された場合は、保釈保証金とは別に監督保証金を納め、監督者としての責務が果たされなかったときには、これが没取されることがあります。
また、法律上の責任とは別に、引受人が本人の逃亡や証拠隠滅を防げなかった場合には、捜査機関や裁判所からの信用を失い、その後に身元引受人として受け入れられにくくなるとも指摘されています。書面に書いた約束は、罰則ではなく「信用」によって支えられていると考えると分かりやすいでしょう。
保釈保証金は何で決まるのか|返ってくる条件と返ってこない場合
親に事実上期待されていること
法律上の義務はないとしても、捜査機関や裁判所が身元引受人に期待していることはあります。親として引き受けるのであれば、その中身を具体的に把握しておくことが、無理のない約束につながります。
期待されているのは「見張り」ではなく「生活の受け皿」
身元引受人に期待される監督は、四六時中そばで見張ることではありません。逃亡や証拠隠滅のおそれを下げるという観点から見られているのは、住む場所があること、連絡が取れること、生活の変化に気づける人がいること、そして呼出しや裁判の期日に出頭するよう働きかける人がいることです。具体的には、次のような事柄が挙げられます。
- 釈放や保釈の当日に迎えに行き、決められた住居まで連れて帰ること。
- 警察や裁判所からの呼出し、裁判の期日を把握し、出頭するよう声をかけること。
- 転居や長期の外出など、生活に大きな変化があるときに弁護人へ伝えること。
- 起訴された場合に、情状証人として今後の関わり方を法廷で述べること。
親だからこそ、約束しすぎないことが大切
親御さんは、子の将来を案じるあまり、「毎日すべての行動を把握する」「必ず仕事に就かせる」といった約束をしがちです。しかし、成人した子の行動を親が強制できる手段は限られており、実行できない約束は、守れなかったときに本人の信用も親の信用も損ないます。法廷で述べる監督の内容も、同居の有無、親の年齢や体力、仕事の状況を踏まえて、日常の中で続けられる範囲に絞るほうが受け止められやすいと考えられます。
【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲
親子の問題を抱えるご家庭が、引き受ける前に考えること
身元引受人をめぐる一般的な解説は、引受人と本人との関係が落ち着いていることを前提にしていることが多いように見受けられます。一方で、家庭内暴力や金銭の要求、長期のひきこもりといった事情を抱えるご家庭では、同じ「引受け」でも意味合いが大きく変わります。
親自身が被害を受けている場合
子が親への暴力で逮捕された場合、身元引受人になることは、多くの場合、被害を受けた家に子を迎え入れることを意味します。保釈の場面では被害者との接触を禁じる条件が付されることが多く、被害者である親の自宅を子の住居とすることは、この条件と両立しにくくなります。警察での釈放の場面でも、引取りを求められたときにご自身の安全に不安があれば、その事情を伝えて断ることは差し支えありません。
「親なのだから引き受けるべきだ」と考える前に、まず親自身の安全を確保することを優先してください。被害届を出すかどうかや、避難先の確保については、次の記事で整理しています。
【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えること
【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択
同居と金銭の援助が長く続いてきた場合
暴力がなくても、長年の同居の中で生活費や借金の肩代わりを続けてきたご家庭では、引受けがそのまま元の生活に戻ることにつながる場合があります。見方を変えれば、事件は親子の距離を見直すきっかけにもなりえます。当事務所がこれまで取り組んできたケースでも、親子の間に物理的な距離を置くことで、双方に変化が見られることがありました。結果を保証できるものではありませんが、「引き受けるか、突き放すか」の二択で考える必要はありません。
親が引き受けない場合の受け皿
親が身元引受人にならない場合でも、釈放や保釈に向けた環境を整える道はあります。帰る場所のない人のための更生保護施設や自立準備ホーム、勾留中から釈放後の住居や就業先を調整する仕組みなどです。親は身元引受人にはならず、住まいの初期費用など限られた形で関わる、という分担を検討する場合もあります。
【刑事事件】家族が身元引受人になれない|代替の環境調整
当事務所では、弁護士が親御さんの代理人となり、民間の自立支援カウンセラーとチームを組んで、子の住まい探しや仕事探し、生活保護の申請のサポートなど、子の側の生活の立て直しを支える取組みを行っています。
【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応
子が20歳未満の場合|「保護者」としてのかかわり
子が20歳未満で少年事件になった場合、親は「身元引受人」というより、少年法上の「保護者」として手続にかかわることになります。
保護者は法律上の地位を持つ
少年法は、保護者を「少年に対して法律上監護教育の義務ある者及び少年を現に監護する者」と定めています(少年法2条2項)。家庭裁判所の審判期日には少年とともに保護者が呼び出され(少年審判規則25条2項)、家庭裁判所は、保護者に少年の監護に関する責任を自覚させるため、訓戒や指導などの措置をとることができます(少年法25条の2)。成人した子の身元引受人とは異なり、「引き受けるかどうかを選ぶ」という性質のものではない点に違いがあります。
18歳・19歳の子の場合
18歳・19歳の子は、民法上は成年ですが、少年法の上では「特定少年」として家庭裁判所の手続の対象になります。成年に達した子について、親が少年法上の保護者にあたるかどうかは見解が分かれています。もっとも、家庭環境の調整や今後の生活の見通しを示すうえで、親の協力が重視されることに変わりはありません。
【親子問題】少年事件の流れ|家庭裁判所送致から審判まで
よくあるご質問
病院や施設から求められる「身元引受人」も同じものですか
名前は同じでも、性質は異なります。子の入院や施設への入所、賃貸住宅の契約などで求められる身元引受人や身元保証人は、病院や施設との間の契約です。書面に、未払いの費用を連帯して支払うという保証の条項が含まれていることも少なくありません。個人が継続して生じる債務をまとめて保証する契約は、上限額(極度額)を定めなければ効力を生じないとされています(民法465条の2)。署名する前に、支払いの範囲と上限を確認しておくことが大切です。
【親子問題】保証人になってしまった後にできること
身元引受人になると、子の示談金も払わなければなりませんか
払う義務はありません。示談金は、罪を犯したと疑われている本人が被害者との間で合意して支払うものです。親が用意することはできますが、それは親の判断による援助です。ただし、示談書に親が連帯保証人として署名すれば、その約束に基づいて支払う責任が生じます。援助として出すのか、貸すのかも含めて、書面にする前に整理しておくと、後の行き違いを防げます。
【親子問題】子の借金を親が返す義務はあるのか
引き受けた後、子が約束を守らないときは警察に知らせなければなりませんか
身元引受人に、子の行動を警察や裁判所へ報告する法律上の義務はありません。監督者に選任され、裁判所から報告を命じられた場合は別です。保釈中の子が条件に反する行動をとっているように見えるときは、まず弁護人に伝えて対応を相談するのが一般的です。ただし、暴力を振るわれそうなときなど身の危険がある場合は、ためらわずに110番通報をしてください。
【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるか
まとめ
- 「身元引受人」は法律上の用語ではなく、微罪処分・釈放・保釈・仮釈放など、場面によって中身が異なります。
- 微罪処分の際の請書は、警察官の処置を定めた規則(犯罪捜査規範200条)に基づくもので、親に新たな義務を課すものではありません。
- 法律上の義務が生じるのは、同意して選任される保釈の監督者(刑事訴訟法98条の4以下)と、少年事件の保護者(少年法2条2項)です。
- 身元引受書への署名だけで、親が処罰されたり、子の賠償や借金を負担したりすることはありません。ただし、示談書などで連帯保証をすれば、その書面に基づく責任が生じます。
- 親が納めた保釈保証金は、子の逃亡や条件違反があれば没取されることがあります(刑事訴訟法96条)。
- 期待されているのは見張りではなく生活の受け皿であり、約束は続けられる範囲に絞ることが大切です。
- 親自身が被害を受けている場合は、引き受けないという選択も含めて、安全の確保を優先して判断してください。
子の身元引受人を頼まれて迷っている方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。子の刑事事件や少年事件への対応とあわせて、釈放後の住まいや生活の受け皿をどう整えるか、親御さんがどこまで関わるかという点から、一緒に整理します。
身元引受人を引き受けるべきか迷っている方も、すでに引き受けたものの子との生活に不安を感じている方も、まずはお気軽にご相談ください。


