家族をかくまった|犯人蔵匿罪と親族の特例

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

家族が事件に関わっているらしいと分かったとき、最初に動くのは損得の計算ではなく、どうにかしてやりたいという気持ちであることがほとんどです。家に置く、車で送る、警察から電話が来たときに言葉を濁す。いずれも重い決断としてではなく、その場の流れで起きます。

 もっとも刑法は、罪を犯した人をかくまう行為を犯人蔵匿罪・犯人隠避罪として定めています。その一方で、犯人の親族が身内のためにこれを行った場合について、刑を免除することができるという特例も置いています。二つは矛盾するようにも見えますが、特例は「家族ならかくまってよい」と認めた規定ではありません。

 ここでは、家庭の中で起きやすい場面を手がかりに、どの行為がどの条文で扱われるのか、そして親族の特例がどこまで届き、どこから届かないのかを整理します。

この記事で扱う場面


 次のような場面を想定しています。

・警察に追われていると聞いた家族を、自宅に泊めた
・家族を車で送った、あるいは移動や生活のための費用を渡した
・警察から連絡があり、家族の居場所や当日の行動について説明した
・捜査の様子や自宅に警察が来たことを、離れている家族に伝えた
・家族本人から、しばらく置いてほしい、話を合わせてほしいと頼まれた

 いずれも、行為そのものは日常の延長線上にあります。だからこそ、どこからが刑法の問題になるのかが見えにくい領域だといえます。

「かくまう」を定めているのは刑法第百三条


 犯人蔵匿等罪は、次のように定められています。

 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する(刑法第百三条)。

 なお拘禁刑は、二〇二五年六月一日に施行された改正刑法により、従来の懲役刑と禁錮刑が一本化された刑罰です。古い解説では懲役と書かれていることがありますが、現在の条文は拘禁刑です。公訴時効は三年とされています(刑事訴訟法第二百五十条第二項第六号)。

蔵匿と隠避は別の言葉


 条文は「蔵匿」と「隠避」を並べています。判例上、蔵匿は発見や逮捕を免れるための場所を提供してかくまうことをいい、隠避はそれ以外の方法で発見や逮捕を免れさせる行為一般を指すと理解されています。隠避のほうが射程が広く、家庭の中で問題になりやすいのはむしろこちらです。

区分内容
蔵匿発見や逮捕を免れるための場所を提供してかくまうこと。自宅や所有する部屋に泊める行為が典型とされる。
隠避蔵匿以外の方法で、発見や逮捕を免れさせる行為の全般。移動や資金の援助、身代わりを立てる行為、捜査に関する情報を伝える行為などが挙げられている。


「犯人」といえるのはどの範囲か


 条文が対象としているのは、罰金以上の刑に当たる罪を犯した者拘禁中に逃走した者です。前者は、法定刑に罰金以上の刑が定められている罪を意味します。拘留や科料しか定められていない罪については、この罪の対象外と解されています。

 注意が必要なのは、有罪が確定した人に限られていないという点です。最高裁は、この規定が捜査から刑の執行までを含む広い意味での刑事司法の働きを守るものであるとしたうえで、犯罪の嫌疑を受けて捜査の対象となっている人も含まれるとしています(最高裁昭和二十四年八月九日判決)。その後の判例では、犯人として逮捕・勾留されている人も対象に含まれるとされました(最高裁平成元年五月一日決定)。

 したがって、身内は本当はやっていないと信じていた場合でも、罪の成立が否定されるとは限りません。無実であればかくまってよいということになると、その人が本当に無実なのかを確かめる手続そのものが妨げられてしまう、という説明がされています。

 また、この罪は危険が生じれば足りる犯罪と理解されており、結果として捜査に影響が出なかった場合や、捜査機関が既に居場所を把握していた場合でも、成立が認められた裁判例があります。

家庭の中で問題になりやすい四つの場面


自宅に泊めた


 場所を提供する行為は、蔵匿の典型として挙げられます。もっとも、同居している家族が普段どおり自宅にいることと、追われている家族を隠すために置くことは、外形が似ていても意味が異なります。実務では、どのような説明を受けて受け入れたのか、外から見えないようにする配慮があったか、といった事情が問われます。

移動や費用を助けた


 移動の手段や当面の費用を渡す行為は、隠避の例として古くから挙げられてきました。生活費の援助という形をとっていても、居場所を知られないための行動を支えるものであれば、同じ枠組みで見られる可能性があります。

警察から説明を求められた


 家族が参考人として事情を聴かれることは珍しくありません。ここで問題になりやすいのが、あらかじめ話を合わせておくという行動です。最高裁は、身柄拘束を続けることに疑いを生じさせる内容の口裏合わせをしたうえで、それに沿った虚偽の供述をした事案について、隠避に当たると判断しています(最高裁平成二十九年三月二十七日決定)。話を合わせるという相談そのものが、供述の評価を左右する事情として扱われた点が重要です。

捜査の状況を伝えた


 離れている家族に、自宅の様子や捜査の動きを知らせる行為も、判例では隠避の一場面として扱われてきました。古い大審院の判決には、留守宅の状況や家族の安否、捜査の形勢を伝えた事案を隠避と評価したものがあります。安否を知らせるつもりの連絡が、結果として逃走の助けと評価されることがある、という点は知っておいてよいと思います。

通報しなかっただけの場合


 では、何も言わずにいた場合はどうなるのか。刑事訴訟法は、犯罪があると思うときは誰でも告発をすることができると定めています(第二百三十九条第一項)。私人に通報の義務を課した規定ではありません。第二項が義務を定めているのは、職務上犯罪を知った公務員についてです。

 このため、家族が届け出なかったこと自体を犯人蔵匿等罪として扱うのは難しいと一般に解されています。ただし、これは「黙っていれば問題にならない」という意味ではありません。前項のとおり、積極的に事実と異なる説明をしたり、説明の内容をあらかじめ合わせたりする行為は、別に評価されます。何もしないことと、外形を作ることの間には、条文上はっきりした差があります。

親族の特例(刑法第百五条)が定めていること


 刑法第百五条は、前二条の罪、すなわち犯人蔵匿等罪と証拠隠滅等罪について、犯人または逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができると定めています。身内が身内をかばう行動を思いとどまるよう求めるのは酷である、という考え方に基づく規定と説明されます。

 条文を分解すると、次の三つが備わってはじめて問題になります。

・行為をしたのが、犯人または逃走した者の親族であること
・その本人の利益のために行われたこと
・対象が第百三条または第百四条の罪であること

親族の範囲は民法で決まる


 ここでいう親族は、民法第七百二十五条が定める範囲を指します。六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族です。親子や兄弟姉妹、祖父母、配偶者の父母などが含まれます。

 逆にいえば、生活の実態が家族に近くても、民法上の親族に当たらない関係は、この特例の枠の外です。内縁関係にある相手や交際相手、同居しているだけの友人は、条文の文言上は親族に含まれません。実際の事件では、この点が見落とされたまま話が進んでいることがあります。

「その者の利益のために」という条件


 あまり触れられませんが、条文は「これらの者の利益のために」と限定しています。身内をかばう意図ではなく、たとえば親族ではない共犯者のために動いた場合には、この特例は及ばないと解されています。誰のために行った行為なのかが、後から問われることになります。

特例が届く範囲と、届かない範囲


 親族に関する特例は刑法のいくつかの場所に置かれていますが、効果は同じではありません。財産犯の特例が「刑を免除する」と言い切っているのに対し、第百五条は「免除することができる」という書き方です。前者は要件を満たせば免除される決まりであるのに対し、後者は裁判所の判断に委ねられています

規定対象となる罪条文上の効果
刑法第百五条犯人蔵匿等罪・証拠隠滅等罪刑を免除することができる(裁判所の判断による)
刑法第二百四十四条第一項配偶者・直系血族・同居の親族との間の窃盗罪など刑を免除する
刑法第二百五十七条第一項配偶者・直系血族・同居の親族などとの間の盗品等に関する罪刑を免除する
特例の定めがない罪証人等威迫罪、偽証罪など親族であることを理由とする免除の規定はない


本人が家族に頼んだ場合


 罪を犯した人が自分で逃げ隠れしても、犯人蔵匿等罪には問われません。自分の身を守ろうとするのは避けがたい、という理解によるものです。ただし判例は、他人に頼んで自分をかくまわせた場合には、頼んだ本人に教唆犯が成立するとしています(最高裁昭和四十年二月二十六日決定など)。自ら逃げるところまでは放任されていても、他人を巻き込むところまでは許されない、という説明です。

 そして第百五条は、あくまで親族が行った場合の規定です。頼んだ本人がその効果をそのまま受けられるわけではありません。かばう側とかばわれる側で、立場が分かれる場面です。

「刑の免除」で変わること、変わらないこと


捜査は行われる


 第百五条は、捜査をしてはならないという規定ではありません。事情の聴取や自宅の捜索、事案によっては逮捕・勾留といった手続は、親族であっても行われます。免除は、手続の入口を止めるものではないという点は押さえておく必要があります。

起訴するかどうかの判断


 もっとも、裁判になれば刑が免除される見込みが高い事案について、検察官が起訴を選ばないという判断はあり得ます。実務でも、親族による蔵匿・隠避が不起訴で終わる例は少なくないとされています。ただしこれは運用上の傾向であり、事案の重さや関与の程度によって結論は変わります。

免除は無罪とは違う


 刑事訴訟法は、刑を免除するときは判決でその旨を言い渡すと定めています(第三百三十四条)。刑の免除は、有罪の判断を前提としたうえで刑を科さない、という形の判決です。罪の成立そのものが否定されるわけではない、という点で無罪とは異なります。

いま整理しておきたいこと


 既に何らかの形で関わってしまった場合、次の点を時系列で整理しておくと、弁護人が方針を立てやすくなります。

・家族の事件について、いつ、誰から、どこまで聞いていたか
・自宅に来たのはいつからいつまでか、こちらから求めたのか、来訪を受け入れたのか
・渡した金銭や物があるか、その趣旨は何だったか
・警察や検察に対して、これまでどのような説明をしたか
・その説明について、事前に誰かと相談したことがあるか

控えたい対応


・記憶があいまいなまま、その場をおさめるために断定的な説明をすること
・家族と口裏を合わせてから話をすること
・やり取りの記録を消したり、書き換えたりすること
・自分の関与について、家族の弁護人だけに任せて自分では確認しないこと

 最後の点は見落とされがちです。かくまったとされる側とかくまわれた側は、説明が食い違えば利益が対立します。同じ弁護人が両方を代理できない場面があることは、早い段階で知っておいたほうがよいところです。

まとめ


・刑法第百三条は、場所を提供してかくまう行為(蔵匿)と、それ以外の方法で発見や逮捕を免れさせる行為(隠避)を対象としている。
・対象となる「犯人」は有罪が確定した人に限られず、嫌疑を受けて捜査の対象となっている人も含まれると解されている。
・移動や費用の援助、捜査の状況を伝える行為、口裏を合わせたうえでの説明は、隠避として扱われた例がある。
・届け出なかったこと自体には通報義務の規定がなく、それだけで罪に問うのは難しいと解されている。
・第百五条の特例は、民法上の親族が、その本人の利益のために行った場合に限られる。
・効果は「免除することができる」であり、財産犯の特例のように当然に免除されるものではない。
・免除は有罪判決の一種であり、捜査そのものを止める規定でもない。

 家族の事件と、自分が問われるかもしれない立場は、別々に考える必要があります。どこまでが日常のやり取りで、どこからが手続上の問題になるのかは、行為の外形だけでは決まりません。心当たりがある段階で、事実関係を整理したうえで弁護士に相談されることをおすすめします。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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