調書に署名・押印を求められた|訂正を求める権利
ご家族が起訴され、保釈を請求することになったとき、弁護人から「身元引受人になっていただける方はいらっしゃいますか」と尋ねられることがあります。ところが「身元引受人」という言葉は、刑事訴訟法のどこにも出てきません。資格も登録も要らない一方で、誰に頼んでもよいというわけでもない、という分かりにくさがあります。
この記事では、起訴後の保釈を念頭に、身元引受人になれるのはどのような人か、引き受けた人には何が期待されるのかを整理します。あわせて、2024年5月に始まった「監督者」という法律上の制度にも触れます。役割は身元引受人と似ていますが、お金の負担という点で性質が異なる制度です。
身元引受人とは、法律上の資格ではありません
身元引受人は、刑事手続の中で使われている実務上の呼び名です。刑事訴訟法に「身元引受人」という条文はなく、なるための年齢や資格、届出の制度もありません。書面の名称も「身元引受書」「身柄引受書」など、警察署や事務所によって呼び方が分かれます。
では、なぜ弁護人が身元引受人を探すのかというと、保釈を認めるかどうかの判断に関係するからです。裁判所は、逃亡や証拠を隠すおそれの程度などを考えて保釈を判断します。釈放後に生活を共にし、期日に出頭するよう働きかける人がいるという事情は、そのおそれを見立てるうえでの具体的な材料になります。身元引受人は法律上の要件ではありませんが、実務では保釈請求の際に用意するのが通例です。
就職のときの「身元保証書」とは別のものです
インターネットで検索すると、就職時に会社へ提出する身元保証書の記事が多く出てきます。こちらは身元保証ニ関スル法律や民法に根拠があり、本人が会社に損害を与えた場合に保証人が金銭を負担する契約です。刑事手続の身元引受人は、これとは別のものです。署名したこと自体でお金を負担する仕組みにはなっていません。
保釈の場面で身元引受人に求められる役割
書面に署名して終わり、という理解をされている方が少なくありませんが、実際には釈放の当日から判決までの間にいくつかの場面が出てきます。
| 場面 | 引受人がすること | 位置づけ |
|---|---|---|
| 保釈が許可された日 | 拘置所や警察署へ迎えに行き、制限された住居まで連れて帰る | 書面に書いた内容の実行 |
| 裁判の期日 | 期日を把握し、本人が出頭できるよう声をかける、付き添う | 出頭の確保 |
| 日常の生活 | 同居や連絡を通じて生活の様子を把握し、就労や通院の状況を見守る | 逃亡や証拠隠滅のおそれを下げる |
| 保釈の条件 | 旅行や転居の予定が出たときに弁護人へ伝える | 条件違反を避ける |
| 法廷 | 情状証人として、監督の方針や生活の受け皿を述べる | 量刑の判断材料 |
このうち、当日の引取りと期日への声かけは、どなたが引き受けても共通して出てくる部分です。反対に、法廷で証言するところまで頼むかどうかは事件の内容によって変わります。引き受けていただく段階で、どこまでをお願いしたいのかを具体的に伝えておくと、後で行き違いが起きにくくなります。
誰がなれるのか|法律上の制限はありません
なれる人の範囲に法律上の制限はありません。実務では、次のような方が引き受けています。
同居している家族が中心になります
多いのは、同居している親、配偶者、子どもなど、生活を共にしている家族です。同居していれば日々の様子が分かり、保釈の際に指定される住居も、そのまま同居先になることが多いためです。裁判官の側からも、身元引受書に加えて引受人の住民票や運転免許証の写しなど、身元の分かる資料が添えられていると引受けの確からしさが示されやすい、と指摘されています。
同居していない方、家族以外の方でも引き受けられます
家族が遠方にいる、頼れる家族がいないという場合には、同居していない親族のほか、勤務先の経営者や上司、長く付き合いのある友人、交際相手、住まいの大家などが引き受ける例もあります。監督といっても、四六時中そばにいることを求められているわけではありません。連絡が取れる関係にあり、生活の変化に気づける距離であれば、同居していないことがそのまま不適格につながるわけではないと考えられています。
もっとも、日常の接点が多い人ほど、書面に書ける内容が具体的になります。同居の家族に頼める場合はその方を中心に据え、勤務先の上司には就労の受け入れについて別に書面を作る、といった組み合わせで用意することもあります。
一人に限られず、お金を出す人と同じである必要もありません
身元引受人を複数立てても差し支えありません。また、保釈保証金は、保釈を請求した人以外の方が納めることも認められています。「引き受ける以上、保釈保証金も自分が用意しなければならないのか」と心配される方がいますが、生活を見守る役割と、お金を用意する役割は切り離して考えることができます。
適していないと見られやすい立場
資格の制限がない一方で、立場によっては引受人として想定しにくい場合があります。次のような関係にある方です。
- 同じ事件の共犯者や、事件の関係者として取調べを受けている方。
- 被害者やその家族など、保釈の条件で接触を禁じられる可能性のある方。
- 連絡手段が限られ、期日や急な事情に対応しづらい遠方や海外にお住まいの方。
- 本人と生活上の接点がほとんどなく、状況を把握できる関係にない方。
- 本人が事件に至った人間関係の中心にいる方。
ここで働いている判断は、人柄が良いかどうかではありません。保釈には制限住居や接触禁止などの条件が付きますから、その条件と両立する立場にいるかどうかが問われている、と考えると整理しやすくなります。たとえば被害者側の方は、どれほど本人を心配していても、接触禁止の条件と正面からぶつかってしまいます。
2024年5月から加わった「監督者」という制度
2023年に成立した改正刑事訴訟法により、保釈や勾留の執行停止の際に、裁判所が「監督者」を選任できる制度が新設され、2024年5月15日から施行されています。従来の身元引受人と役割は重なりますが、法律に位置づけられた制度である点が異なります。
| 項目 | 身元引受人 | 監督者 |
|---|---|---|
| 根拠 | 法律に定めのない実務上の呼称 | 刑事訴訟法98条の4以下の制度 |
| 決まり方 | 本人側が依頼し、弁護人が書面を提出する | 裁判所が、選任する相手の同意を得て選任する |
| お金 | 引き受けたこと自体による金銭の負担はない | 監督保証金を納める |
| 義務 | 法律上の義務は定められていない | 出頭への同行や、生活・身分に関する事項の報告を命じられる |
| 守られなかったとき | 保釈の取消しや保釈保証金の没取という形で問題になる | 監督保証金が没取されることがある |
監督者に命じられること
監督者は、被告人の逃亡を防ぎ、公判期日への出頭を確保するために必要な監督をする立場とされています。そのうえで裁判所は、被告人が出頭すべき日時と場所に一緒に出頭すること、住居や就労・通学の状況、身分関係といった事項について報告することのいずれか、または両方を命じます。裁判所は、同意を得るにあたって、これらの責務や監督保証金が没取される仕組みについて、あらかじめ説明することとされています。
保釈の判断が広がる余地と、まだ少ない運用例
監督者を立てると、保釈保証金と監督保証金の双方が納付されて初めて保釈の決定が実行されます。金銭の裏づけがある分、これまで保釈が認められにくかった事案で判断の幅が広がる制度と説明されています。もっとも、運用が始まって日が浅く、選任された例はまだ多くないとされ、監督保証金の金額の目安もはっきりしていません。現時点では、まず身元引受人を用意し、それだけでは足りないと見込まれる事案で監督者の選任を検討する、という進め方が一般的です。
引き受ける側が気になること
署名しただけで責任を負うのですか
身元引受書に署名したからといって、本人が逃げたときに引受人が処罰されたり、賠償を求められたりする仕組みにはなっていません。ただし、逃げる手助けをした、居場所を隠したという事情があれば、それは別の問題として犯人蔵匿・隠避の罪が検討されることになります。求められているのは、本人をつなぎ止める保証ではなく、生活の受け皿になることです。
断ることはできますか
引受けは任意の協力ですから、断っても差し支えありません。同居の状況や仕事の都合から「自分では見きれない」と感じる場合に、無理に引き受けることはお勧めしません。実際には見守れないのに書面だけ整えても、生活の実態と食い違えば、かえって説明が難しくなります。引き受けた後に事情が変わったときも、その旨を弁護人に伝えて交代を検討することができます。ただし、代わりの方がいないまま降りると本人の立場に影響しますので、早めの相談が大切です。
保釈保証金は用意しなければなりませんか
身元引受人だからといって、保釈保証金を負担する義務が生じるわけではありません。ご家族が用意することも、別の親族が納めることもあります。なお、監督者に選任された場合の監督保証金は、保釈保証金とは別に納めるものです。
頼める人が見つからないとき
身近に頼める方がいない場合でも、道が閉ざされるわけではありません。勤務先の経営者や上司が就労の受け入れとあわせて引き受けてくださることもありますし、事件の内容によっては弁護士が引受人となる余地もあります。
注意していただきたいのは、保釈保証金の立替えや保証書の制度と、身元引受人とは別の話だという点です。前者はお金を工面する仕組み、後者は釈放後の生活を支える人の話ですから、立替えを利用しても引受人の代わりにはなりません。どちらが足りていないのかを分けて考えると、次に何を準備すべきかが見えてきます。
法廷で話すことになった場合
身元引受人が、そのまま情状証人として証言することは少なくありません。法廷では、本人との関係、これまでの生活の様子、判決後にどのように関わるつもりかといった点を尋ねられます。話すのは、実際にできることに限るのが基本です。同居して家計を管理する、通院に付き添う、勤務先との連絡を取り持つなど、日常の中で続けられる内容のほうが、抽象的な決意より受け止められやすいといえます。
まとめ
- 身元引受人は法律上の資格ではなく、なれる人に制限は設けられていません。
- 実務では同居の家族が中心ですが、同居していない親族、勤務先の関係者、友人、交際相手などが引き受ける例もあります。
- 共犯者や被害者側の方など、保釈の条件と両立しない立場は想定しにくくなります。
- 役割は、釈放当日の引取り、期日への出頭の確保、日常生活の見守り、条件に関わる予定の共有、法廷での証言に分かれます。
- 署名したこと自体で金銭の負担や処罰が生じる仕組みではありません。
- 2024年5月から、裁判所が同意を得て選任し、監督保証金を納める「監督者」の制度が加わりました。
- 保釈保証金を用意する人と、身元引受人とは別に考えることができます。
保釈をご検討中の方へ
誰に身元引受人を頼むかは、起訴されてから慌てて決めるより、身柄が拘束された段階で候補を挙げておくほうが選択肢が広がります。書面の内容も、生活の実態に合わせて組み立てるほど具体的になります。
弁護士法人若井綜合法律事務所は、池袋と新橋に事務所を構え、刑事事件のご相談を24時間受け付けています。ご本人だけでなく、ご家族からのご相談にも対応しており、初回のご相談は無料です。身元引受人をどなたにお願いすべきか、監督者の選任まで検討すべき事案かどうかも含め、状況をうかがったうえでお答えします。


