被害届を出された|示談で何を取り決めるのか
保釈が認められそうだと聞いたとき、次に出てくるのが「いくら納めるのか」「そのお金は戻ってくるのか」という疑問です。金額は事件ごとに幅があり、インターネットで見かける相場の数字を眺めても、自分の場合にいくらになるのかは分かりません。
保釈保証金は、罰金のように国に納める刑罰ではなく、裁判に出頭することを担保するために裁判所へ預けるお金です。預けたものである以上、原則として戻ってきますが、戻ってこない場面も法律に書かれています。この記事では、金額が何によって決まるのか、どういう出来事が起きたときに返ってくるのか、そして返ってこないのはどのような場合かを、条文に沿って整理します。
この記事で扱う範囲と、言葉の整理
保釈は、起訴されて被告人となった後の制度です。逮捕・勾留されている段階では、保釈を請求することはできません(刑事訴訟法207条1項ただし書)。この記事は、保釈が認められる場合のお金の部分に絞って説明します。
保釈そのものが認められるかどうかは、権利保釈の除外事由を定めた89条と、裁量保釈を定めた90条という別の枠組みで判断されます。ここでは扱いません。
用語も先に整理しておきます。保釈保証金は、日常的には「保釈金」と呼ばれます。また、条件に違反した場合などにこのお金を国庫に帰属させる処分は、刑罰である「没収」と区別して「没取」と表記されます。読み方は「ぼっしゅ」ですが、混同を避けるために「ぼっとり」と読むこともあります。
金額を決めているのは、相場ではなく条文
保釈を許す場合、裁判所は保証金額を定めることになっています(93条1項)。その金額をどう決めるかを示しているのが93条2項です。
条文は、保証金額について「犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない」と定めています。考慮する要素が四つ挙げられ、そのうえで「出頭を保証するに足りる」という目的が示されている、という構造です。
| 考慮要素 | 何をみているか | 金額が上がる方向に働きやすい場面 |
|---|---|---|
| 犯罪の性質及び情状 | 想定される刑の重さと、事案の内容 | 重い刑が見込まれる事件 |
| 証拠の証明力 | 証拠関係がどの程度固まっているか | 争いがあり、働きかけの余地が残る事件 |
| 被告人の性格 | 生活の安定の度合いや、これまでの経緯 | 同種の前科がある場合など |
| 被告人の資産 | 同じ金額でも負担の重さが人によって違うこと | 収入や資産が多い場合 |
金額の意味は、この表の右端に表れています。保証金は、失うことが本人にとって痛手になる水準でなければ、出頭を担保する働きをしないという考え方で設計されています。資産が多い人ほど金額が上がりやすいのは、罰として重くしているからではなく、担保としての働きをそろえるためです。
よく見かける相場の数字は、どう位置づけるか
一般的には150万円から300万円程度と紹介されることが多い金額です。ただし、法律には下限も上限も定められておらず、裁判所が金額の一覧表を公表しているわけでもありません。同じ罪名でも、資産や争い方によって動きます。相場は目安であって、当てはめの結論ではないという位置づけになります。
金額を決めるのは裁判所
弁護人は、保釈請求書に希望する金額を書いたり、裁判官との面接で意見を述べたりすることができます。ただし決めるのは裁判所です。あわせて、住居の制限その他の適当と認める条件を付けることもできます(93条3項)。金額と条件は、出頭をどう担保するかという同じ目的のもとで組み合わせて考えられています。
納め方によっても、後の扱いが変わる
保釈を許す決定は、保証金の納付があった後でなければ執行できません(94条1項)。許可が出ても、納めるまでは釈放されないということです。
納めるのは本人でなくても構いません。裁判所は、保釈を請求した人以外の者が納めることを許すことができます(94条2項)。家族が用意し、弁護人を通じて納めるという形が取られることもよくあります。
さらに、現金に代えて、有価証券や、被告人以外の者が差し出した保証書をもって保証金に代えることを許すこともできます(94条3項)。保釈保証書の制度は、この規定に基づくものです。
保証書や立替えを使った場合、「返ってくるお金」はない
保証書を提出して保釈された場合、現金を裁判所に納めていないため、後で還付される保証金もありません。立替えの制度を使った場合は、還付された保証金をそのまま返済に充てることになります。いずれの場合も、保証料や手数料は戻りません。「どうせ返ってくるのだから負担はない」という理解にはならない点に注意が必要です。
また、誰の名義で納めたかが、後で誰に返るかにつながります。納付の際には保管金提出書という書面を提出し、還付先の口座を記入しておくのが通常です。
2024年5月からは、もう一つの保証金がある
2023年の法改正で監督者制度が設けられ、2024年5月15日から施行されています。裁判所が必要と認めるときは、同意を得たうえで監督者を選任することができるという制度です(98条の4)。
監督者が選任される場合、裁判所は保証金とは別に監督保証金の額を定めます(98条の5)。そして、保証金と監督保証金の両方が納付された後でなければ、保釈の決定を執行することができません(98条の6)。監督者が命じられた義務に違反したときは、監督保証金が没取されることがあります(98条の8)。
監督者は、事実上の呼び方である身元引受人とは別に、法律上定められた制度です。用意すべき金銭が一つとは限らないという点は、資金の見通しを立てるうえで押さえておきたいところです。
返ってくる引き金は、「判決が出たこと」ではない
保証金がいつ返るのかを定めているのは、刑事訴訟規則91条1項です。次のいずれかに当たるときに、没取されなかった保証金を還付しなければならないとされています。
- 勾留が取り消され、又は勾留状が効力を失ったとき。
- 保釈が取り消され又は効力を失ったため、被告人が刑事施設に収容されたとき。
- 保釈が取り消され又は効力を失った場合に、収容される前に新たな保釈の決定があって保証金が納付されたとき、又は勾留の執行が停止されたとき。
ここで気づいておきたいのは、「判決が言い渡されたとき」とは書かれていないことです。判決は、この三つの出来事を引き起こす原因にすぎません。そのため、判決の内容によって還付までの道筋が変わります。
| 判決の内容 | 身体拘束の扱い | 保証金の扱い |
|---|---|---|
| 無罪、執行猶予付きの判決、罰金・科料など | 勾留状がその場で効力を失う(345条) | 1号に当たり、還付される |
| 拘禁刑以上の実刑判決 | 保釈が効力を失い、もとの勾留に戻る(343条1項) | 刑事施設に収容されて2号に当たり、還付される |
| 実刑判決の後に控訴し、あらためて保釈が認められた場合 | 新しい保釈に切り替わる | 3号に当たるか、新しい保証金に充当される |
実刑判決の場合に、判決の日ではなく収容された時点が基準になっているのは、保釈が失効しても、身柄の扱いが確定するまでは担保の役割が終わっていないためです。
実際に振り込まれるまでの流れ
実務では、判決の言渡しから数日から1週間程度で、納付時に指定した口座へ振り込まれる例が多いとされています。判決が確定するのを待つ必要はありません。保管金提出書に還付先を記入していれば、あらためて手続をしなくても振り込まれるのが通常です。弁護人の口座で受け取り、そこから精算するという形になることもあります。
返ってこない場合(1)保釈が取り消されたとき
保証金が戻らない典型は、保釈が取り消されて没取される場合です。取消しの事由は、96条1項に六つ挙げられています。
- 召喚を受け、正当な理由がなく出頭しないとき。
- 逃亡し、又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
- 罪証を隠滅し、又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
- 被害者などやその親族の身体・財産に害を加え、加えようとし、又は畏怖させる行為をしたとき。
- 正当な理由がなく、裁判所の報告命令に対する報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき。
- 住居の制限その他、裁判所の定めた条件に違反したとき。
五番目の報告命令は、2023年の改正で加わったものです(95条の4)。住居や就労・通学の状況など、逃亡のおそれの判断に影響する事項について報告を命じることができる制度で、報告を怠ったこと自体に刑罰はありませんが、保釈の取消しと没取につながる位置づけになっています。
この場合の没取は、「保証金の全部又は一部を没取することができる」と定められており(96条2項)、常に全部が失われるわけではありません。取り消された後に出頭命令にも応じない、あるいは逃亡したという場合も同じ扱いです(96条3項)。
返ってこない場合(2)没取が「しなければならない」に変わる場面
2023年の改正で、没取が裁判所の裁量ではなく義務になる場面が広がりました。改正前の条文だけを紹介している解説では触れられていないことがあるため、確認しておきたい部分です。
まず、実刑判決の宣告を受けた後に逃亡したときは、裁判所は保釈を取り消さなければならず(96条4項)、その場合には保証金を没取しなければならないとされています(96条5項)。取り消された後に出頭命令に応じなかった場合なども、同じ扱いになります(96条6項)。
また、実刑や拘留の判決の宣告を受けた後、刑の執行のため呼出しを受けたのに正当な理由なく出頭しないとき、あるいは逃亡したときも、没取しなければならないとされています(96条7項)。実刑判決によって保釈が失効したものの、まだ収容されていないという状態では、検察官が出頭を命じることができ(343条の2)、この命令に応じない場合も同様です。
いずれの場面でも、全部か一部かは裁判所が決めます。ただ、判決の日を過ぎれば保証金の心配はなくなる、という理解は正確ではありません。担保としての役割は、身柄の扱いが決着するまで続いていると考えておくほうが実態に近いといえます。
没取されなくても、そのまま手元に戻るとは限らない
条件を守っていても、納めた人の手元にそのままの金額が返るとは限りません。次のような事情が挟まることがあります。
- 罰金や追徴が確定した場合に、還付される金額から充てられることがある。
- 還付を受ける権利が、債権者によって差し押さえられることがある。
- 立替えの制度を利用した場合は、還付金から立替金と手数料が精算される。
- 家族や知人が用意した場合は、還付先の名義と、最終的に誰の負担にするかの取り決めが必要になる。
最後の点は、後から親族の間で行き違いが生じやすいところです。誰がいくら出したのか、返ってきたお金を誰のものとして扱うのかを、納める前に書き留めておくと、後の整理がしやすくなります。
保釈中に確認しておきたいこと
保釈には、住居の制限をはじめとする条件が付けられます(93条3項)。条件は保釈を許可する決定に記載されており、どこに住むか、旅行や宿泊にどのような手続が必要か、誰に連絡してはいけないかといった内容が具体的に定められます。
- 決定に書かれた条件を、本人と同居する家族の双方が読んで把握しておく。
- 住居を離れる予定ができたときは、動く前に弁護人へ相談する。
- 呼出しや通知を受け取れる状態にしておき、郵便物を放置しない。
- 事件の関係者と偶然にでも接触しそうな場面を、あらかじめ避ける。
- 報告を命じられている事項がある場合は、その期限と方法を確認しておく。
条件は事件ごとに異なります。「一般的にはこうらしい」という情報ではなく、手元の決定に書かれた文言を基準にしてください。
金額を用意できないときの選択肢
現金をすぐに用意できない場合でも、方法が閉ざされているわけではありません。94条3項に基づく保釈保証書の発行や、保証金の立替えを行う仕組みがあります。
ただし、いずれも審査があり、申し込めば利用できるというものではありません。保証料や手数料の水準、利用できる金額の上限、対象となる事件の範囲は、運営する団体ごとに定められており、見直されることもあります。検討する場合は、その時点の条件を弁護人を通じて確認しておくことをおすすめします。
親族から借りて納めるという形を取ることもあります。この場合は、還付されたお金をどう扱うかまで含めて、あらかじめ話し合っておくと後の負担が減ります。
判断に迷ったときは早めにご相談ください
保釈保証金をめぐっては、金額の見通し、誰の名義で納めるか、付けられた条件の意味、還付の受け取り方まで、いくつもの判断が短い期間に重なります。しかも、判断の材料になる条文は改正を重ねており、インターネット上には改正前の内容のまま残っている説明も少なくありません。
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まとめ
- 保釈保証金は刑罰ではなく、出頭を担保するために裁判所へ預けるお金である。
- 金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力、被告人の性格、被告人の資産という四つの要素を考慮して裁判所が決める(93条2項)。
- 現金のほか、有価証券や保証書で代えることも認められている(94条3項)。監督者が選任される場合は監督保証金も必要になる。
- 還付の引き金は判決そのものではなく、勾留状の失効や収容といった出来事である(刑事訴訟規則91条1項)。
- 条件に違反して保釈が取り消されると、全部または一部が没取されることがある(96条1項・2項)。
- 実刑判決の宣告後に逃亡した場合など、没取が義務とされる場面が2023年の改正で広がっている(96条4項から7項)。


