満員電車で誤解された|否認事件で何が証拠になるのか
「身元引受書を書いてください」と言われたものの、何をどこまで書けばよいのか分からず、手が止まってしまう方は少なくありません。身元引受書は一枚の紙にすぎませんが、警察署でその場で署名する場合と、弁護人が検察官や裁判所に提出する場合とでは、用紙を用意する人も、書き込む中身も変わります。
この記事では、身元引受書を誰の名義で作るのか、何を記載するのか、場面ごとにどこが変わるのかを、文例を示しながら整理します。あわせて、書かない方がよいことや、署名した人がどのような立場に置かれるのかについても触れます。
身元引受書とは何を約束する書面か
身元引受書は、身柄を拘束されている人や、在宅のまま捜査を受けている人について、「私がこの人の身元を引き受け、逃げたり証拠を隠したりしないように気を配り、呼出しがあれば出頭させます」という趣旨を記した書面です。身柄引受書と呼ばれることもありますが、実務上は同じものとして扱われています。
まず押さえておきたいのは、身元引受人という資格が法律に定められているわけではないという点です。刑事訴訟法に「身元引受人」という言葉は出てきません。捜査機関や裁判所が、逃亡や証拠隠滅のおそれをどう見るかを判断するとき、その判断材料の一つとして事実上用いられてきた書面、というのが実際の位置づけです。したがって、決まった書式も、法定の記載事項もありません。
就職や施設で求められる「身元保証書」とは別の書面
同じ「身元」という言葉がつくため混同されやすいのですが、入社時などに求められる身元保証書は、本人が勤務先に損害を与えた場合に保証人が賠償責任を負う契約書です。身元保証に関する法律により、期間を定めなければ原則3年、定めても5年を超えられず、民法465条の2第2項により賠償額の上限(極度額)を定めなければ効力を生じないとされています。
これに対して、刑事手続で作成する身元引受書は、金銭の賠償を約束する契約書ではありません。書いた人が本人の代わりに罰金を払うとか、損害を肩代わりするといった性質のものではない、という点をまず確認しておいてください。
どの場面で求められるのか
身元引受書が登場する場面はひとつではありません。場面によって、書面を出す先も、用紙を用意する人も変わります。
| 場面 | 書面を出す先 | 用紙を用意するのは |
|---|---|---|
| 取調べを受けた後にその日のうちに帰る場合 | 警察署 | 警察 |
| 事件を検察官に送致せずに終える場合 | 警察署 | 警察 |
| 逮捕された後に勾留を避けたい場合 | 検察官・裁判官 | 弁護人 |
| 勾留の決定に不服を申し立てる場合 | 裁判所 | 弁護人 |
| 起訴された後に保釈を求める場合 | 裁判所 | 弁護人 |
| 裁判で情状として示す場合 | 裁判所 | 弁護人 |
警察が用意した用紙に署名する場面
取調べを受けた本人を家族が迎えに行き、その場で用紙に署名して連れて帰る、という流れがあります。この用紙にあらかじめ印刷されている文言は、今後このようなことがないよう指導すること、呼出しがあれば出頭させること、といった短いものであることが多く、書き込むのは住所・氏名・本人との関係・連絡先程度です。
これに近い場面として、犯罪の内容が軽微で、あらかじめ指定された類型にあたる事件について、警察が検察官に送致せずに処理することがあります。この場合、犯罪捜査規範200条2号は、親権者や雇主など本人を監督する立場にある人を呼び出して注意を与え、その請書を徴することを定めています。この請書が、実質的に身元引受書にあたる書面です。法令に根拠のある形で監督者からの書面が求められる、数少ない場面といえます。
弁護人が中身を組み立てて提出する場面
一方、逮捕後に勾留を避けたい場面、勾留の判断に不服を申し立てる場面、起訴後に保釈を求める場面では、こちらから書面を作って提出します。この場合、定型文だけの一枚では、伝わる情報がほとんどありません。何をどこまで書くかを自分で決められる代わりに、書き方によって伝わる中身が変わるのがこの場面です。
なお、起訴される前の段階に保釈という制度はありません(刑事訴訟法207条1項ただし書)。保釈を前提とした書きぶりは、起訴された後の場面に限られます。
誰の名義で書くのか
身元引受書は、引き受ける本人、つまり身元引受人となる人の名義で作成します。弁護人が文案を用意することはありますが、名義人が弁護人になるわけではありません。
署名は名義人自身が行う
文案を弁護人が整え、内容を確認したうえで名義人が署名する、という進め方が一般的です。家族が代わりに署名することは避けてください。捜査機関から、書いた人が本当に内容を理解しているのかを確かめられる場面があり、代筆はその点で説明が難しくなります。押印を求められることも多いため、認印を用意しておくと手続が滞りません。
家族でなくても、同居していなくてもよい
親や配偶者が名義人になることが多いものの、法律上の制限はありません。職場の上司や雇主、長く付き合いのある知人が引き受けることもあります。同居していることが条件でもありません。ただし、同居していない場合は、どのくらいの頻度でどう連絡を取り、どのように様子を把握するのかを具体的に書いておかないと、実際に見守れる関係なのかが伝わりにくくなります。
引受人として適さないと見られる場合
本人と長く連絡が途絶えている、本人が引き受けてもらうこと自体を拒んでいる、事件の相手方が同居の家族である、といった場合は、名義だけ整えても実質が伴いません。身近に頼める人がいないときは、弁護士が引受人となる形をとることもありますので、行き詰まったら弁護人に相談してください。
記載事項
提出用の身元引受書に盛り込む項目は、おおむね次のとおりです。
- 表題(「身元引受書」または「身柄引受書」)。
- 作成した年月日。
- 宛先(検察庁、裁判所など、提出する先)。
- 本人の特定(氏名、生年月日、住所、事件の内容)。
- 引受人の住所、氏名、本人との関係、連絡先。
- 身元を引き受ける旨の記載。
- 監督としてどのようなことをするのかの具体的な内容。
- 署名(求められれば押印)。
連絡先と本人の特定は省略しない
連絡先は、日中につながる番号を書いてください。捜査機関や裁判所から確認の電話が入ることがあり、つながらないままだと、書面の裏づけが取れない状態になります。本人の特定についても、同姓同名の可能性を考えれば、氏名だけでなく生年月日まで書いておきましょう。
文例(捜査段階で提出する場合)
実際の書面は、次のような形になります。宛先や誓約する内容は、事案に合わせて弁護人と調整してください。
身元引受書
令和○年○月○日
○○地方検察庁 検察官 殿
住所 東京都○○区○○一丁目2番3号
氏名 ○○ ○○ (署名)
本人との関係 父
連絡先 090-0000-0000(日中も連絡可)
私は、○○○○(平成○年○月○日生、上記住所に同居)の父です。同人が○○の疑いで取調べを受けていることについて、弁護人から事件の内容の説明を受けたうえで、同人の身元を引き受け、次のとおり申し上げます。
- 同人を上記住所において同居させ、日々の生活の状況を確認します。
- 捜査機関または裁判所から呼出しがあったときは、私が同行して出頭させます。
- 同人が転居し、または長期間住居を離れる必要が生じたときは、あらかじめ弁護人を通じて連絡します。
- 同人が本件の関係者と連絡を取らないよう注意し、そのような動きを知ったときは弁護人に連絡します。
- 同人の勤務先である○○株式会社との連絡については、必要な範囲で私が窓口となります。
以上
保釈を求める場合に書き替える部分
起訴された後の保釈では、捜査への影響よりも、公判に出てくるかどうか、裁判所が付けた条件を守れるかどうかが問われます。そこで、誓約する内容を次のように置き替えます。
- 保釈が許可された場合、同人を上記住所に居住させ、居住の状況を確認します。
- 公判期日その他裁判所が指定した日時には、私が同行して出頭させます。
- 裁判所が定めた住居の制限その他の条件について、同人が守るよう注意し、これに反するおそれのある事情を知ったときは弁護人に連絡します。
- 同人が事件の関係者と接触しないよう注意します。
- 保釈保証金は私が用意し、納付します。
最後の項目は、保証金を引受人が用意する場合にだけ書きます。引受人が保証金を負担しなければならない決まりはありませんので、誰が納めるのかは、あらかじめ弁護人と整理しておいてください。
文例を自分の事情に合わせるときの考え方
文例をそのまま写せばよい、というものではありません。書き替えるときの視点を三つ挙げます。
実際にできることだけを書く
外出のたびに付き添う、家にいる間はずっと様子を見ている、といった書き方をする方がいますが、仕事や家庭の事情を考えれば続かないことがほとんどです。続けられない約束を並べるより、続けられることを具体的に書いた方が伝わります。毎朝一緒に家を出る、夕食は同じ時間にとる、週に一度は電話で話す、といった実際の生活に沿った記載で構いません。
書面の役割を分けて考える
身元引受書だけで全部を伝えようとすると、かえって焦点がぼやけます。実務では、次の三つの書面を役割分担させることがあります。
| 書面 | 署名するのは | 中心になる内容 |
|---|---|---|
| 誓約書 | 本人 | 逃げない、出頭する、関係者に接触しないという本人の約束 |
| 身元引受書 | 引受人 | 身元を引き受けることと、監督の骨格となる事項 |
| 陳述書 | 引受人 | 本人の生活ぶり、事件との関わり、勤務の様子などの説明 |
本人の人柄や日頃の様子、事件が起きた前後の家庭の状況といった、事情を細かく述べたい部分は、身元引受書ではなく陳述書に書く方が読みやすくなります。裁判の場で情状として示す場合も、この分け方は変わりません。
添える資料で書面の重みが変わる
書面だけを出すのと、引受人の身分を確かめられる資料を添えるのとでは、受け取る側の見え方が変わります。運転免許証などの本人確認書類の写し、住民票、在職証明書などが用いられ、保釈の場面では実印を押したうえで印鑑登録証明書を求められることもあります。裁判官の側からも、身分関係を示す書類が添えられていると引受けの確かさが伝わりやすい、という指摘がなされています。
書かない方がよいこと
書き足せば足すほどよい、というわけではありません。次のような記載は、意図と違う受け取られ方をすることがあります。
- 事件そのものへの評価(本人は悪くない、被害者にも落ち度がある、といった記載)。
- 被害者や事件関係者に対して、こちらから働きかける趣旨と読める記載。
- 実行できない監督内容(外出時に常に付き添う、行動を常時確認するなど)。
- 事実と異なる同居予定や就労予定。
- 今後二度とこのようなことは起きないと言い切る記載。
身元引受書は、事件の中身について争う書面ではありません。争点に関わる評価は弁護人が別の書面で述べる部分ですので、引受人の書面は「これから何をするか」に絞る方が、書面としての役割がはっきりします。
署名した人はどのような立場に置かれるのか
引き受けることをためらう方が多いのは、この点が分からないためです。
書いたこと自体で責任を負う仕組みではない
身元引受書に署名したからといって、本人が約束どおりに行動しなかった場合に、引受人が捜査機関や裁判所から罰を受けるという仕組みにはなっていません。書面に違反したときの罰則も定められていません。もっとも、本人が逃げるのを手助けしたと見られる行為に及んだ場合は、犯人蔵匿・隠避(刑法103条)の問題が生じます。親族については刑を免除することが「できる」と定められていますが(同105条)、当然に免除されるわけではありません。
保釈保証金を出した場合と、条件に違反した場合
引受人が保釈保証金を負担している場合には、本人が逃げたり条件に違反したりすると、保釈が取り消され、納めた保証金が没取されることがあります(刑事訴訟法96条)。裁判所が定めた住居の制限などの条件に違反したときも、取消しの理由に挙げられています。金銭的な負担が生じ得るのは、身元引受書そのものではなく、この保証金の場面です。
2024年5月から始まった監督者制度とは別のもの
保釈に関して、裁判所が監督者を選任する制度が設けられています。この監督者は、本人ではなく監督者自身が同意したうえで裁判所に選任され、保証金とは別に監督保証金を納めることになります。名称は似ていますが、実務上の呼称である身元引受人とは、成り立ちも負担も異なる別の制度です。混同しないようにしてください。
迷ったときは早い段階で確認を
身元引受書は、提出できる時期が限られています。勾留の判断は逮捕から数日のうちに行われ、保釈の場面でも期日との関係で余裕がないことがあります。書き方で迷って提出が遅れるより、書ける範囲で早めに形にし、足りない部分を陳述書や資料で補う方が現実的です。
弁護士法人若井綜合法律事務所は、池袋と新橋に事務所を構え、刑事事件のご相談を初回無料でお受けしています。ご家族からのご相談にも対応しており、お問い合わせは24時間受け付けています。身元引受書を求められたが何を書けばよいか分からない、自分が引き受けてよいのか判断がつかない、といった段階でもご相談ください。
まとめ
この記事の要点を整理します。
- 身元引受人は法律上の資格ではなく、身元引受書にも法定の書式はない。
- 就職などで求められる身元保証書とは異なり、賠償を約束する契約書ではない。
- 警察が用意した用紙に署名する場面と、弁護人が中身を組み立てて提出する場面がある。
- 名義は引受人本人で、署名は本人が行う。家族以外や同居していない人でも引き受けられる。
- 記載するのは、宛先、本人の特定、引受人の情報、引き受ける旨、監督の具体的な内容。
- 続けられない約束を並べるより、実際にできることを具体的に書く。
- 事情を詳しく述べたい部分は陳述書に分け、本人確認書類などの資料を添える。
- 署名しただけで責任を負う仕組みではないが、保釈保証金を負担した場合は別に考える必要がある。


