【親子問題】壁や家具を壊された|器物損壊として扱えるか
本記事は2026年9月時点で公表されている厚生労働省「ひきこもり支援ハンドブック~寄り添うための羅針盤~」(令和7年1月)および関係資料の記載に基づいて整理しています。資料の内容や支援体制は改定されることがありますので、最新の情報は厚生労働省やお住まいの自治体の公表資料をご確認ください。
「市の窓口で、国の指針が新しくなったと言われました。何がどう変わったのか、うちに関係があるのかが分かりません」。同居しているお子さんのことでご相談にみえたご家族から、このようなお尋ねを受けることがあります。一方で、「考え方が変わったと聞いたけれど、暴力やお金の問題を抱えている家庭のことまでは書かれていないのではないか」という声もあります。
厚生労働省は令和7年1月に「ひきこもり支援ハンドブック~寄り添うための羅針盤~」を公表しました。平成22年の『ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン』以来、およそ15年ぶりの指針です。紹介記事の多くは「自立ではなく自律」という言葉を軸に説明しており、その説明自体が誤りというわけではありません。ただ、ご家族の立場からすると、では自分は何をすればよいのか、窓口にどこまで求めてよいのか、という部分までは見えにくいところがあります。
この記事では、ハンドブックが示した考え方を、支援を受ける側であるご家族の視点から整理します。あわせて、家庭内暴力、金銭、親亡き後といった、弁護士がご相談を受けることの多い場面について、ハンドブックがどのように書いているのかを取り上げます。相談先の選び方や、通報・避難の具体的な手順については、関連する記事に譲ります。
約15年ぶりに示された国の指針
まず、このハンドブックがどのような位置づけの資料なのかを押さえておきます。
平成22年のガイドラインとの違い
平成22年のガイドラインは、厚生労働科学研究の中でまとめられたもので、ひきこもりを医療や精神保健の評価という視点からとらえる内容でした。これに対してハンドブックは、生きづらさを抱えた方々を広く対象としてとらえ、ソーシャルワークの視点を中心とした指針として作られています。
もっとも、従来のガイドラインが置き換えられたわけではありません。ハンドブックに付されたQ&Aでは、ガイドラインとハンドブックは併用することが想定されていると説明されています。医療的な見立てが必要な場面が減ったという趣旨ではない点は、押さえておいてよいところです。
「6か月以上」という区切りが外された
従来のガイドラインは、ひきこもり状態の期間を原則として6か月以上と定義していました。ハンドブックは、支援の現場でこの期間が厳密に運用された事例や、本人を連れてきて診断を受けないと支援できないという対応があり、家族支援の視点が十分に伝えられていないという指摘につながった、と振り返っています。
そのうえで、支援の対象者について、その状態にある期間は問わないとしました。「まだ半年経っていないので対象外です」という説明を前提としない形に整理された点は、相談を迷っているご家族にとって実務的な意味があります。
家族が読むことも目的に含まれている
ハンドブックは支援者向けの資料ですが、本人やその家族自身が確認することも目的の一つだと明記されています。支援の方法や内容、その意味を支援者と共有・確認し、対話を通じてよりよい支援を一緒に考えていくための材料として活用してほしい、という趣旨です。
つまりこの資料は、ご家族が窓口と話をするときの共通の土台として使うことが、はじめから想定されています。
支援の対象者と、目指す姿
ハンドブックの第2章では、誰を支援の対象とし、何を目指すのかが示されています。ここが今回の改定の中心部分です。
対象者は三つの状態で示されている
ハンドブックは、社会的に孤立し孤独を感じている方や、さまざまな生きづらさを抱えている状態の方を対象とし、具体的には次の三つの状態にある本人と、その家族(世帯)を挙げています。
- 何らかの生きづらさを抱え、生活上の困難を感じている状態にある。
- 家族を含む他者との交流が限定的(希薄)な状態にある。
- 支援を必要とする状態にある。
それぞれに補足が付いており、生きづらさはその人自身が感じている固有のもので、他者がその有無や大小を判断することはできないとされています。交流についても、インターネット上だけの交流や、趣味の用事のときだけ外出するといった形があり、その範囲や内容は支援者が判断できるものではないとされています。支援を必要とする状態には、自ら支援を求める声を発することができない場合も含まれます。
| ハンドブックが示した考え方 | ご家族にとっての意味 |
|---|---|
| 状態にある期間は問わない | 期間を理由に対象外とされることを前提としない |
| 生きづらさの大小は他者が判断できない | 「うちはまだ軽いほうだから」と遠慮する必要はない |
| 声を出せない場合も対象に含まれる | 本人が相談を望まなくても、家族が相談に行ってよい |
目指す姿は「自立」ではなく「自律」
ハンドブックは、目指すべき姿を、背景や心情をとらえずに社会参加や就労のみを求めることではなく、本人やその家族が自らの意思で、自身の目指す生き方や社会との関わり方を決めていけるようになることだと整理しました。ここでいう自律は、自身を肯定し、主体的な決定ができる状態を指すと説明されています。
誤解されやすいのですが、就労を否定する趣旨ではありません。自律に向けた具体的な取組の中に社会参加や就労も含まれる、と明記されています。本人の自律的な決断として就労が選ばれることは少なくない、という記載もあります。
また、家族は本人の自律を支える役割だけではなく、家族も自律することが望ましいとされています。ご家族自身の生活や健康を後回しにし続けることは、この指針の想定する形ではありません。
「自律したら支援は終わり」ではない
ハンドブックには、ある自治体で家族会と本人が集まる定例会において「自律」の考え方を意見交換したところ、自律したら支援は終わりという印象を持ったという声が出た、という事例が紹介されています。これに対し、困りごとがあれば第三者に相談できるなど、本人が安心して生活できるようになるまで伴走的に関わるという意味だと説明したことで、理解が深まったとされています。
支援者に求められる姿勢と、家族が受けてよい対応
第3章では、支援者が持つべき価値や倫理が示されています。ご家族の側から読むと、窓口でどのような対応が想定されているのかが分かる部分です。
四つの姿勢と六つの留意点
支援者に求められる姿勢として、敬意と労いは最大限に、尊重し共に考える、本質を見極め一歩ずつ支援する、家族は本人の生活を支え影響を与える存在である、という四つが挙げられています。
留意点としては、本人と家族の感じる課題や意向は違う、広く社会に働きかける視点をもつ、支援者は一人で抱えない、支援の強要に注意する、エンパワメントやコーディネートを、精神疾患や発達障害の正しい理解、という六つが示されています。
想定されていない対応が書かれている
ハンドブックは、本人を尊厳ある存在として認め、ひきこもらざるを得なかった背景を理解していれば、相談に来た家族に対してこれまでの関わりを責めるような対応や、本人を連れて来ないと支援できないという対応にはならないはずだ、という趣旨を記しています。就職することがゴールだという安易な提示も同様です。
窓口での対応に違和感を持ったときに、ハンドブックはご家族が説明を求めるための共通の土台になります。ただし、担当者を責めるための資料ではありません。ハンドブック自身が、支援者と本人・家族の双方で内容を確認し、対話の材料として使うことを想定しています。
支援が進まないことは失敗とは限らない
相談から状況把握まで数年かかる場合や、一度つながっても振り出しに戻る場合があるとしたうえで、それらが必ずしも支援の失敗を意味するわけではない、と書かれています。支援は本人の意向やペースに合わせて進めるものであり、緊急事態を除いて支援者の都合でスピードを速める必要はない、ともされています。
どこに相談すればよいのかを整理したい場合は、【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担もあわせてご覧ください。
家庭内暴力について書かれていること
ハンドブックの第4章には、支援の場面ごとの留意点が50項目にわたって整理されています。その中に、家族への攻撃的言動や家庭内暴力がある場合の対応という項目(ポイントその㊸)が置かれています。ご家族からのご相談で最も多い場面の一つですので、やや詳しく紹介します。
距離を置くこと、避難することが挙げられている
落ち着いた話し合いができない場合には、物理的に距離を置いたり避難したりすることを勧めるとよい、とされています。「暴力が続くなら一緒には暮らせない」と予告したうえでの短期間の避難が有効な場合があるとし、避難した場合は毎日電話連絡を入れながら1週間程度様子を見て、落ち着いたら帰宅するという進め方も示されています。
避難先をどう確保するかについては、【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択で扱っています。
警察への通報が選択肢として示されている
本人が家族に暴力をふるう場合、暴力の内容から危険性の評価を行い、命の危険がある場合には警察に対応を求めることが必要な場合があるとされています。支援者が警察への相談に同行したり、生活を分離するよう助言したりすることも挙げられています。
さらに、暴力が起きたら警察に通報すると家族から本人に予告しておくこと自体が抑止になる場合があるとし、それでも暴力が続く場合には予告どおり通報してよいかを家族に確認しておくように、と書かれています。通報がただの脅しになってはいけないので、暴力は嫌だという気持ちをしっかり伝える必要があるとされ、通報をためらうご家族が少なくないことにも触れられています。
国の指針が、家族から警察へ通報することを正面から選択肢として挙げている点は、ご家族が知っておいてよいところです。実際に110番するかどうかの判断については【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかを、安全の確保と記録については【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録をご覧ください。
受け手が高齢の親である場合
暴力の受け手が誰かを確認することも大切だとされ、受け手が高齢者である場合には高齢者虐待対応の窓口につなぐ場合もある、と書かれています。行政が動く仕組みについては【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで整理しています。
あわせて、攻撃的な言動や暴力に至った背景を知る必要もあるとされ、背景に疾患や障害が考えられる場合には医療機関や保健所への協力依頼が挙げられています。一方で、家庭内暴力は入院治療での改善があまり期待できず、まず家庭内でやれることを試みたうえで入院を検討することが望ましいという趣旨の記載もあります。本人だけを一方的に悪者にしない見立てが必要な場合もある、とも書かれています。
なお、支援の開始時の判断として、暴力行為があり家族を含む周囲の人の命に危険が及ぶ場合などは、本人の意向を優先するよりも支援者が介入する緊急対応の判断が必要になるとされ、警察や救急、保健所等への連絡を検討することもあるとされています。
お金と親亡き後、民間事業者について書かれていること
金銭の問題も、ハンドブックが正面から触れている領域です。
経済的な問題は法律の窓口につなぐとされている
経済的な問題にも発展する可能性がある場合の項目(ポイントその㊶)では、家族間の相続問題等への対応が必要になる場合について、自治体が実施する法律相談、法テラス、ファイナンシャルプランナー等の活用を検討し、必要な機関と連携して関わることを検討するように、と書かれています。ひきこもり支援の枠組みの中では相続問題等に対応できないことが、はっきり示されているわけです。
また、本人や親と離れて暮らすきょうだいから相談が入る場合について、親亡き後の相続の問題などの利害関係により家族間の関係が複雑になっている場合も少なくないとされています。そのうえで、きょうだいにはそれぞれの人生があり、自らの生活を犠牲にしてまで支援を継続することはないこと、経済的な支援については生活困窮者自立支援制度や生活保護制度の利用を検討することを勧める、という対応が挙げられています。
きょうだいの立場からのご相談は【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときで、扶養義務の範囲は【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで扱っています。
親亡き後の備えについて
親亡き後を見越したサポートをする場合の項目(ポイントその㉝)では、本人が親を亡くした後にどのようなことで困る可能性があるかをシミュレーションし、困ったときにどこに相談すればよいかを本人と確認しておくとよいとされています。ファイナンシャルプランナーの助けを借りてライフプランを作成しておくことも有意義だと書かれています。
ただし、本人に親亡き後を考える余裕がない場合には、確認すること自体が負担となり状況が悪化する可能性があるため留意するように、とも付け加えられています。備えの必要性と、本人の準備状況を見極める必要性が、両方書かれている点が特徴です。
自立支援をうたう民間事業者への注意喚起
ハンドブックには、ひきこもり等の自立支援をうたう複数の民間事業者について、高額な請求を行う、無理に家から連れ出して入所させる、入所させるだけで適切なサービスを提供しないといった事例が発生し、被害を受けた本人による民事訴訟等も行われてきた、という記載があります。厚生労働省は平成30年度に事務連絡を発出し、こうしたトラブルに関する相談を受けた場合には消費生活センター等の関係機関につなぐなどの対応を要請しています。
消費者庁も、ひきこもり支援を目的として掲げる民間事業の利用をめぐる消費者トラブルについて注意喚起を行い、消費者ホットライン188を案内しています。
もちろん、民間の支援団体が果たしている役割は大きく、ハンドブックも関係機関の一覧にNPO法人等の支援機関を挙げています。問題は事業者の形態ではなく、契約前に費用と解約の条件、提供される支援の中身を書面で確認できるかどうかです。説明を急がせる、契約書の控えを渡さないといった事情がある場合には、契約前に消費生活センターや弁護士にご相談ください。
ハンドブックが弁護士を挙げている場面
最後に、法律の専門職がこの指針の中でどう位置づけられているかを確認します。
連携先の一覧に士業が含まれている
ハンドブックには、ひきこもり支援に関係する機関の一覧が掲載されています。ひきこもり地域支援センター、福祉事務所、地域包括支援センター、精神保健福祉センター、自立相談支援機関、医療機関、地域若者サポートステーション、ハローワークなどと並び、弁護士、司法書士、社会保険労務士等による家族間のトラブルや相続等に関する相談が挙げられています。
ひきこもり支援の体制図の中に、法律の専門職が連携先として明示されているということです。福祉と法律は別の話だと考えられがちですが、指針上はそのような切り分けにはなっていません。
「家族以外からの介入がある場合」という項目
支援の実行に関する項目の中には、家族以外からの介入がある場合の対応(ポイントその㉞)が置かれています。その介入が支援を前向きに進ませるものではなく、支援者と本人との関係を阻害してしまう可能性がある場合には、介入者との話し合いが必要となる場合があるとされ、介入者がどのような思いで関わっているのかを把握し、本人や家族の意向とすり合わせる中で落としどころを見つけていくことが必要だと書かれています。
弁護士が親側の代理人として関わる場合も同じです。公的な支援がすでに入っているときは、何を目的に誰が何を担うのかを共有しておくことが、結果として双方の動きやすさにつながります。当事務所では、弁護士が親側の代理人として関わり、子側の日常的な生活の立て直しは民間の自立支援カウンセラーが担うという形で、役割を分けて対応しています。
弁護士が入ることで何が変わるのかは【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で、親が介入できる法的な範囲は【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で整理しています。
よくあるご質問
ご家族からお尋ねいただくことの多い点をまとめました。
ハンドブックは支援者向けの資料ですが、家族が読んでもよいのでしょうか
差し支えありません。ハンドブックには、本人やその家族自身が確認することも目的としている、と明記されています。記載されているような支援が行われていないと感じた場合には、支援者と双方で内容や意味を共有・確認し、対話を通じてよりよい支援を考える材料としてほしい、という趣旨も書かれています。全体版と概要版が厚生労働省や各自治体のサイトで公開されていますので、概要版から目を通すと全体像をつかみやすいと思います。
「自律」を目指すということは、就労を目標にしてはいけないということですか
そのような趣旨ではありません。ハンドブックのQ&Aでは、社会参加の実現や就労を目指して支援することも大変重要であるとしたうえで、本人の意思や回復する力を抜きにした支援では前に進めにくいこと、就労や社会参加が実現したことをもって支援が完結するものではないことが説明されています。就労を否定するのではなく、順序と、その後の続き方の話だと理解していただくとよいと思います。
本人が相談を拒んでいます。家族だけで相談に行っても意味がないのでしょうか
ハンドブックでは、本人よりも先に家族が相談に来ることが多いとしたうえで、家族への支援から先に行う場合や、家族への支援のみを行う場合もあると書かれています。家族支援の大きな目的の一つは家族と本人の関係修復であるとも述べられています。家族だけの相談から始めることは、指針が想定している進め方の一つです。相談前の整理については【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報をご覧ください。
まとめ
- 厚生労働省「ひきこもり支援ハンドブック~寄り添うための羅針盤~」は令和7年1月に公表された、平成22年のガイドライン以来およそ15年ぶりの指針である。
- 支援の対象者は、生きづらさ、交流が限定的、支援を必要とする状態という三つの状態で示され、その状態にある期間は問わないとされた。
- 目指す姿は「自立」ではなく「自律」とされ、社会参加や就労はその中に含まれる具体的な取組と位置づけられている。
- 家族の関わりを責める対応や、本人を連れて来ないと支援できないという対応は、この指針では想定されていない。
- 家庭内暴力については、距離を置くことや避難、警察への通報の予告と実行が、対応の選択肢として挙げられている(ポイントその㊸)。
- 相続を含む経済的な問題は、自治体の法律相談や法テラス等につなぐことが想定され、関係機関の一覧にも弁護士等の士業が挙げられている(ポイントその㊶)。
- 自立支援をうたう民間事業者をめぐるトラブルについては、ハンドブック本体にも注意喚起の記載があり、消費生活センター等につなぐ対応が要請されている。
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