【親子問題】子が配偶者から暴力を受けていると気づいた|親にできること

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、2026年10月時点の配偶者暴力防止法(令和6年4月1日施行の改正を反映)と、2026年4月1日に施行された改正民法(離婚後の親権などに関する改正)にもとづいて解説しています。


「帰省した娘の腕にあざがあったのに、尋ねても『ぶつけただけ』としか言わない」「孫の前で怒鳴られていると一度だけ聞いたが、その後は何も話してくれない」。親子の問題に関するご相談の中には、子が配偶者から暴力を受けているのではないかと心配される親御さんからのものもあります。

 DVを解説したページの多くは、被害を受けているご本人に向けて書かれています。保護命令や離婚の手続を説明したうえで、「申立てができるのは被害者本人に限られる」と結ばれているのが一般的です。その説明は正確ですが、そこで話が終わると、親として何ができるのかが見えにくくなります。

 この記事では、成人した子が配偶者から暴力を受けていると気づいた親御さんに向けて、相談や通報ができる窓口、保護命令で親自身が守られる場面、実家に避難させるときの注意点、相手方が実家に来たときの対応を整理します。離婚の進め方や慰謝料の金額は扱いません。親が成人した子の問題に関われる範囲の全体像は、【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で解説しています。

子のDVに気づいたとき、最初に確かめたいこと

暴力は殴る・蹴るに限られない

 配偶者暴力防止法は「配偶者からの暴力」を、身体に対する暴力と、これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動と定めています(配偶者暴力防止法1条1項)。怒鳴る、人格を否定する、生活費を渡さない、交友関係を制限するといった行為も、DVとして相談の対象になります。親御さんが気づくきっかけとしては、次のようなものがあります。

  • 説明のつかないけがやあざがあり、理由を尋ねると話をそらす。
  • 連絡の回数が急に減り、返信が配偶者のいない時間帯に限られている。
  • 自由に使えるお金がほとんどなく、実家に来る交通費にも困っている様子がある。
  • 友人や親族と会うことを配偶者に止められていると話す。
  • 配偶者の機嫌を過度に気にし、帰宅時間や行き先を細かく報告している。


 一つ当てはまるだけでDVと決まるわけではありません。ただ、いくつかが重なり、長く続いている場合は、本人と落ち着いて話す機会をつくることを考えてよい段階です。

本人が否定するのは珍しいことではない

 暴力を受けている本人が、親に尋ねられても否定することはよくあります。子どものこと、生活費のこと、「自分にも悪いところがある」という思い、親に心配をかけたくない気持ち、話したことが相手に知られたときの不安など、理由はさまざまです。

 ここで「なぜ別れないのか」と問い詰めると、本人は親にも話しにくくなります。まずは責めずに話を聞き、「いつでも話していい」「家に来てかまわない」と伝えておくことが、次の一歩につながります。家を出るか、相手とどう向き合うかを決めるのは子ども本人であり、親の役割は、本人が決めたときにすぐ動ける選択肢を手元に用意しておくことです。

すぐに警察へ連絡したい場面

 首を絞められた、刃物を向けられた、「殺す」と言われた、妊娠中に暴力を受けている、孫にも暴力が及んでいる。こうした場面では、本人の同意を待たずに110番することが考えられます。夫婦の間であっても、暴行罪(刑法208条)や傷害罪(刑法204条)は成立します。家族の間の暴力が刑事事件としてどう扱われるかは、家庭内で手が出た|家族間の暴行・傷害とDV法の関係で解説しています。

親が相談・通報できる窓口と、申立てができる人の範囲

家族からの相談に応じる窓口

 全国の警察が取り扱った配偶者からの暴力事案の認知件数は、令和6年に94,937件でした(警察庁)。相談先としては、都道府県や市区町村の配偶者暴力相談支援センター、最寄りのセンターにつながる「DV相談ナビ(#8008)」、24時間対応の「DV相談+(0120-279-889)」、警察の相談専用電話(#9110)などがあります。窓口によっては、本人だけでなく家族からの相談にも応じています。

 親御さんが先に相談しておくと、本人が動こうと決めたときにどこへ連れて行けばよいかが分かります。窓口ごとの役割の違いは、【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担も参考になります。

通報できる立場と、本人の意思との関係

 配偶者からの身体に対する暴力を受けている人を見つけた人は、配偶者暴力相談支援センターまたは警察官に通報するよう努めることとされています(配偶者暴力防止法6条1項)。親もこの「見つけた人」に含まれ、通報すること自体は法律が想定している行動です。

 一方で、通報を受けた警察などが本人に事情を聴いたとき、本人が暴力を否定すれば、その後に取れる対応は限られます。命に関わる場面でなければ、通報する前に本人と話し、本人が窓口に相談することに納得したうえで動くほうが、結果として本人を守ることにつながる場合があります。

保護命令を申し立てられるのは本人だけ

 裁判所が相手方に接近の禁止などを命じる保護命令は、暴力を受けた本人が申し立てるものであり、親が代わりに申し立てることはできません(同法10条1項)。また、申立ての前に配偶者暴力相談支援センターか警察へ相談しておく必要があり、相談していない場合は公証人の面前で宣誓供述書を作成することが求められます(同法12条)。

 本人がセンターや警察に相談した記録は、後に保護命令を申し立てるときの前提になります。親ができるのは、本人がその相談に行くことに付き添い、日時や対応した部署を一緒に控えておくことです。相談記録の意味については、【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続をご覧ください。

保護命令で親自身が守られる場面

保護命令の6つの種類

 保護命令には次の6種類があります。このうち2番目から5番目は、本人への接近禁止命令と同時か、すでにその命令が出ている場合にしか発令されません。

命令の種類内容と期間
本人への接近禁止命令1年間、本人へのつきまといや、住居・勤務先などの付近のはいかいを禁止する
本人への電話等禁止命令接近禁止命令の期間中、面会の要求、連続した電話やSNSの送信、GPSによる位置情報の取得などを禁止する
子への接近禁止命令本人と同居する子へのつきまといなどを禁止する(子が15歳以上の場合は子の同意が必要)
子への電話等禁止命令本人と同居する子への連続した電話やSNSの送信などを禁止する
親族等への接近禁止命令本人の親族など、生活上密接な関係にある人へのつきまといなどを禁止する(その人の同意が必要)
退去等命令2か月間(一定の場合は6か月間)、共に暮らす住居から退去することなどを命じる


親族等への接近禁止命令が使える場面

 相手方が実家に押しかけて乱暴な言動をしているなど、本人が親のことで相手方と会わざるを得なくなるおそれがある場合には、本人の申立てにより、親への接近禁止命令を求めることができます(同法10条4項)。申し立てるのはあくまで子ども本人であり、対象となる親の同意が必要です。

 この命令を求める場合は、本人がセンターや警察に相談する段階で、親への押しかけなどの事情も伝えておく必要があります。親が受けた押しかけや電話の内容を記録しておくと、子が親族等への接近禁止命令を求めるときの資料になります。

命令に違反した場合

 保護命令に違反すると、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金が科されることがあります。命令が出た後に相手方が実家の周辺に現れた場合は、ためらわずに警察へ連絡してください。DV防止法とストーカー規制法のどちらで守られるかの違いは、ストーカー規制法とDV防止法の違い|自分のケースはどっちで守られる?で整理しています。

実家に避難させるときに考えておきたいこと

実家は相手方に知られている場所でもある

 子が家を出ると決めたとき、実家は最初に思い浮かぶ避難先です。一方で、実家の住所は相手方も知っていることが多く、相手方が真っ先に探しに来る場所でもあります。危険が大きい場合には、配偶者暴力相談支援センターを通じた一時保護など、相手方に知られていない場所を選ぶことも考えられます。

 どこに避難するのがよいかは、暴力の程度や相手方の行動によって変わります。本人と一緒にセンターへ相談し、実家に身を寄せる場合とそうでない場合のそれぞれについて意見を聞いておくと判断しやすくなります。避難の手順の考え方は、交際相手から避難したい|安全な別居・避難と保護の手続きも参考になります。

住民票などから避難先を知られないための手続

 本人が実家以外の場所に住民票を移す場合、市区町村に申し出て、相手方からの住民票の写しや戸籍の附票の写しの交付請求などを制限してもらう支援措置があります。申出は本人が行い、警察や配偶者暴力相談支援センターなどの意見を踏まえて判断されます。転居の前後のどの時点で申し出るかによって効果が変わるため、手続の順番は窓口で確認しておくと安心です。

孫を連れて家を出る場合

 婚姻中の父母は共同で親権を行うのが原則で、子の住む場所を変えるといった重要な事柄は、2026年4月1日に施行された改正民法のもとでも父母が共同で決めることとされています。ただし、子の利益のため急迫の事情があるときは、父母の一方が単独で親権を行うことができます(民法824条の2第1項3号)。法務省の解説では、DVや虐待からの避難が必要な場合がその例として示されています。

 避難の理由と経緯を記録に残しておくことが、後に子の監護をめぐる手続になったときの備えになります。けがの写真、受診の記録、窓口に相談した日時などは、本人と相談のうえで実家でも控えを保管しておくとよいでしょう。

相手方が実家に来たとき・連絡してきたとき

居場所は伝えず、その場で交渉しない

 子が家を出た後、相手方が実家を訪ねてきたり、電話で居場所を尋ねてきたりすることがあります。親としては一言言いたい気持ちになるかもしれませんが、居場所や連絡先は伝えず、話し合いにも応じないことが基本です。「本人から話を聞いていないので答えられない」と短く伝え、それ以上のやり取りは控えます。

記録の取り方と、警察に連絡する目安

 訪問や電話があった日時、相手方の言葉、そのときの様子をメモに残し、可能であれば録音や玄関の防犯カメラの映像も保存しておきます。帰るよう求めても居座る場合は不退去罪(刑法130条)、親や子に危害を加えると告げられた場合は脅迫罪(刑法222条)にあたる可能性があり、警察に相談できます。身の危険を感じたときは、その場で110番してください。

親の窓口を弁護士に代える

 相手方からの連絡が続くと、親御さん自身が疲れ切ってしまうことがあります。弁護士が親御さんの代理人となり、相手方に対して今後の連絡は弁護士にするよう通知することで、直接のやり取りを減らせる場合があります。子の保護命令や離婚の手続は本人からの依頼が必要ですが、親が受けている押しかけや連絡への対応は、親からの依頼として進めることができます。

親が控えたほうがよい行動と、できる支え方

関係を悪くしかねない行動

 子を守りたい気持ちから、かえって本人の立場を難しくしてしまう行動もあります。次のような行動は控えたほうがよいでしょう。

  • 相手方に直接会って抗議したり、謝罪を求めたりすること。
  • 本人に「今すぐ別れなさい」と期限を切って決断を迫ること。
  • 本人の了解なく、相手方の勤務先や親族に事情を伝えること。
  • SNSや知人との会話の中で、相手方の実名や家庭の事情を広めること。
  • 相手方のスマートフォンやアカウントを無断で調べること。


 直接の抗議は相手方の怒りが本人に向かうきっかけになることがあり、勤務先への連絡やSNSでの投稿は名誉毀損(刑法230条)として親自身が責任を問われるおそれがあります。他人のアカウントへの無断ログインは、不正アクセス禁止法に触れる可能性があります。

証拠を預かる場所としての実家

 本人が撮ったけがの写真、診断書、日記やメモは、相手方に見つかって消されることがあります。本人の了解を得て、コピーや印刷したものを実家で預かっておくと、保護命令や離婚の手続で役立つことがあります。家族で共有しているクラウドや端末に保存すると相手方に見られるおそれがあるため、保存先にも注意が必要です。記録の残し方は交際関係のモラハラ・精神的DV|証拠の残し方と法的対応も参考になります。

お金の面での支え

 生活費を相手方に管理されている場合、家を出る決断の妨げになるのはお金の問題です。当面の生活費や転居費用を親が用意できると、本人が選べる道は広がります。なお、別居後の生活費は、婚姻中の夫婦が分担する婚姻費用として相手方に請求できる場合があります(民法760条)。親の援助はそれまでのつなぎと考え、本人が自分の生活を立て直せるよう支えることが大切です。

よくあるご質問

成人した子のDVについて、親だけで弁護士に相談できますか

 親御さんだけでのご相談も可能です。相手方からの押しかけや連絡への対応など、親自身の立場で取れることは親からのご依頼として進められます。子の保護命令や離婚の手続は本人の意思が前提となるため、本人が相談を望んだ段階で、本人と直接お話しすることになります。ご相談の前に整理しておくとよい情報は、【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報にまとめています。

息子が妻から暴力を受けている場合も同じですか

 配偶者暴力防止法は加害者と被害者の性別を問わず、保護命令や相談窓口の仕組みも同じです。警視庁が令和7年に受理した配偶者からの暴力の相談のうち、男性からの相談は2,162人で23.2%を占めています。男性は周囲に打ち明けにくい傾向があるため、親が話を聞く場をつくることには意味があります。

一度家を出た子が相手方のもとへ戻ってしまいました

 いったん避難した後に戻ることは、珍しいことではありません。生活の見通しが立たない、子どもへの影響を考えた、相手方に謝られたなど、本人なりの理由があります。戻ったことを責めると、次に助けを求めにくくなります。連絡を取り続け、本人がもう一度動こうとしたときに頼れる場所であり続けることが、親にできる大切な支えです。

まとめ


  1. 配偶者からの暴力には、身体的な暴力のほか、心身に有害な影響を及ぼす言動も含まれます(配偶者暴力防止法1条1項)。
  2. 配偶者からの身体に対する暴力を見つけた人は、親も含め、配偶者暴力相談支援センターや警察に通報するよう努めることとされています(同法6条1項)。
  3. 保護命令を申し立てられるのは暴力を受けた本人であり、親が代わりに申し立てることはできません(同法10条1項)。
  4. 本人への接近禁止命令とあわせて、親の同意のもとで親族等への接近禁止命令を求めることができます(同法10条4項)。
  5. 申立ての前にセンターか警察へ相談しておく必要があり、相談していない場合は宣誓供述書が求められます(同法12条)。
  6. 孫を連れた避難は、子の利益のため急迫の事情がある場合として、単独での親権行使が認められることがあります(民法824条の2第1項3号)。
  7. 相手方が実家に居座る場合や危害を告げる場合は、不退去罪(刑法130条)や脅迫罪(刑法222条)として警察に相談できます。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。お子さんが配偶者から暴力を受けているのではないかと心配されている親御さんからのご相談にも対応しています。

相手方から実家への押しかけや連絡が続いている場合は、弁護士が親御さんの代理人として窓口となり、直接のやり取りを減らす方法をご一緒に考えます。お子さんご本人が相談を望まれたときには、ご本人と直接お話ししたうえで、取れる手続を整理します。おひとりで抱え込まず、早めにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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