マナーうんちく話483≪現代の上座と下座②「和室編」≫
マナーの世界でも本来はとても美しい言葉なのに、それが正しく理解されず、忘れ去られてしまっている言葉も少なくありません。
今回はかつて日本人に大変なじみが深かった「粗茶でございます」に触れてみます。
講演に呼ばれると講師控室に案内され、お茶をいただくことが多々あります。
お茶を出していただくときに、どのように声をかけられるか、いつも気にしていますが、最近では「粗茶でございます。お召し上がりください」などといわれることがめっきりなくなりました。
では「粗茶」とはどのようなお茶でしょうか?
「粗茶」という銘柄も品種もありません。
しかし「まずいお茶」という意味でもありません。
日本独特のいい方で謙譲表現です。
へりくだって自分を下げ、相手を上げる謙譲語なのです。
つまり「粗茶でございますが、お召し上がりください」という言葉の意味は「あなたにおいしいお茶を味わっていただきたいとの思いで、心を込めていれましたが、身分が高く、お金持ちのあなたにとっては粗茶かもしれません」という意味です。
煎茶や玉露のような上等なお茶でも、目上の人に対しては、この様にへりくだった言い方をするわけです。
では「粗茶ですがどうぞ」といわれたらどうこたえるか?
「有り難うございます。頂戴します」がいいでしょう。
ちなみに粗茶といわれても、飲んでみればだいたいわかります。
いいお茶は比較的甘みがあります。
今ではお茶をお客様に出す場合は、「失礼します」といって出すのが一般化しているようですが、明らかに目上への人や年長者に対しては「粗茶でございますがどうぞ」のいい方がお勧めです。
品物を差し上げる時に、年配の人には「心ばかりですが」といって渡しますが、このことばも美しい言い方です。
「つまらないものですが」ともいいますね。
※「マナーうんちく話446」を参考にして下さい。
最近何かと自己主張する人が多くなりましたが国際化の影響でしょうか。
お客様にお茶を差し上げる時に「玉露でございます」といって出したらどのように思われるか?
日本人の多くは良い気がしないのではないかと思うのですが、年齢も関係あるかもしれませんね。
将棋の棋士のいろいろなインタビューを聞くのが好きですが、感謝と謙虚な態度が目立ちます。
いくら強くても、謙虚な態度は、ひとえにその人の人間性のなせる業でしょうか。
つねに落ち着いた様子で、おごることなく、ひたむきに上を目指す姿勢には教えられることが多々あります。
まさに「実るほど首を垂れる稲穂かな」ですね。
お客様にお茶を出す場合に「いらっしゃいませ」とか「失礼します」とか「どうぞ」といってだしても、お客様には通じるとは思いますが、いずれのいい方もあいまいな表現です。
「粗茶でございますが、どうぞ」と、奥ゆかしい言い方で出せれば、お客様から好感を持たれるかも。
ただ人によっては、粗茶なんかいりませんと思われるかもしれませんね。
文化の異なる外国の方にはほかの表現がいいかもしれません。
客人として他社や他家を訪問して、「粗茶ですけどどうぞ」といってお茶をだされたら、くれぐれも粗茶なんてと気分を悪くせず、謙虚な言い方に感謝しながら、「ありがとうございます。頂戴します」と答えて、できれば早めに口をつけて下さい。
ここまで出来れば素敵なマナーを発揮できたと思いますが、さらに帰り際に「お茶、とてもおいしかったです。ご馳走さまでした」とお礼を述べて頂ければ完璧でしょう。
マナーというのは「もてなし」をする側と、される側が、互いに心を交流させることが大事ということです。
運悪く、お客様が来られても、ペットボトルのお茶しかない場合もあるでしょう。
このようなときには、湯飲み茶わんにペットボトルのお茶を入れて、温めて出せば格好がつきます。
最後にお客様にお茶を出すとき「お茶くみなんて」と卑下しないで下さいね。
私も家に来客があれば率先して、お茶やコーヒーや紅茶を出しますが、この行為はお客様ののどを潤すばかりでなく、心も潤すとてもいいことです。
満身の笑顔で対応して下さいね。