マナーうんちく話2154《「丼物」にも食べ方の作法はあるの?》

平松幹夫

平松幹夫

テーマ:和食テーブルマナー

日本の食料自給率は先進国ではワーストクラスですが、世界で最も贅沢な食生活を謳歌しているのではないでしょうか。

「コケッココ(鶏)症候群」といわれるような深刻な課題はあるにせよ、和食、洋食、中華料理を始め、多種多様なスタイルの食事が楽しめる食材や食器や調味料にも恵まれているのが日本の家庭の食卓だと思います。

そろそろ鍋料理が恋しくなってきますが、日本の食文化を代表する料理の一つである「鍋料理」だけでも、非常に沢山の種類があるのはご承知のとおりです。

「丼物」もしかりですね。
天ぷら丼、鰻丼、かつ丼、牛丼、親子丼、さらに海鮮丼のような贅沢な丼物も人気がいいようです。


ところで「和食」はユネスコの無形文化遺産にも登録されるとともに、ミシュランガイドの星も多くついており、世界の人に絶賛されている料理ですが、洋食に比べ、食べ方の作法が非常に難しい気がします。

また和食には豊かな精神文化が存在します。

しかし、気軽に食すことができる食べ物も結構あります。

鍋物や丼物はその典型的な例でしょう。

「マナーうんちく話」でもたびたび触れているように、日本は稲作を中心とした農耕文化で栄えた国です。

だから何千年もの長い間「米」を食べてきた国民ですから、ご飯と相性が良いものは当然好まれます。

「丼」とは、比較的深い器にご飯を入れ、そのご飯に他の料理を載せ、ご飯と一緒に食べる料理です。

昔のことですから水道ではなく、ほとんど井戸水を利用するわけですが、深い井戸に物を落とせば「ドボン」という音がするので「丼」になったとか・・・。

そして昔は身分制度が存在し、上流階級と庶民とでは、当然生活様式も異なります。

食生活も食事の作法もそうでしょう。

ごく一部の上流階級の人は、立ち居振る舞いや身だしなみも厳格だったようですが、庶民はそうでもありません。

特に江戸時代は独身の男性が多く、中でも職人や奉公人は上流階級のようにゆとりはなかったはずで、常に時間に追われ、せわしく働いたようです。

台所事情も充実していません。
従って外で食べるのが自然の成り行きです。
味醂や濃い口しょうゆなどの発明に加え、外食産業が発展するのが頷けますね。

ただし江戸っ子は短気で待つのが苦手です。
気軽に食べられ、美味しくて、さっとできるものが要求されてきます。

このようにして消費者と事業者間でいろいろやり取りがあり、多彩な料理が生まれ、やがて丼物などが定着したのだと考えます。

例えば「鰻丼」などは、熱々のご飯にウナギの蒲焼を載せタレをつけるので、ご飯との相性も良く、気軽に、手早く味わえ、しかも精が付くとなれば、これはもう階級を超えて誰からも愛されるようになります。


そもそも丼物は、室町時代に、僧侶が、ご飯に野菜を載せ、汁をかけて食したのが起源だといわれていますが、江戸時代に入りいろいろな料理とともに、本格的に流行したようです。

ホカホカのご飯に天ぷらや鰻を載せ、時間をかけずに、気軽に食べられるのが受けたのでしょう。

さらに明治に入り、文明開化と共に、牛丼や親子丼などといった肉系の丼が誕生し、今では海鮮丼のような、贅沢な丼物が登場するようになりました。


さてその食べ方ですが、本来は手早く、気軽に食べる目的で生まれた料理ですので、不必要に作法にこだわらず、気軽に、美味しく頂くのがベターだと考えます。

ただ昔から上流階級は、ご飯とおかずは別々に、交互に食べたので、そのようにしたければ、丼ではない料理を注文すればいいのではないでしょうか。

例えば海鮮丼を作法にのっとり食べるとすれば、丼物にしなくて刺身定食にすればいいとおもいます。
天丼なら天婦羅定食にしたらいいと思います。

とはいえ、どんな場合であれ「美しい食べ方」は存在します。

和食は、持てる器は手で持って食べるという世界でもユニークな作法がありますが、丼物も重箱も持てるようでしたら持って食べればいいと考えます。

はたから見て美しい食べ方は、丼物あれ、フレンチであれ、とにかく姿勢です。

姿勢を正し、口を食べ物に近づけるのではなく、食べ物を口に運ぶのがポイントです。特に犬食いにならないよう注意して下さい。

そしてできる限り、美しい盛り付けを崩さないよう心掛けて下さいね。

丼物でも重箱でも、手前の左側から食べると食べやすいでしょう。

ただ重箱は高級志向ですから、ゆっくり味わって食べたいものですね。
右手で箸を持ち、左手を箱に添え、手前部分を左から食し、箱の半分食べたところで、両手で180度回転させればいいと思います。

丼物は、あくまで気軽に食べればいいと思いますが、丼のふちに口をつけて、箸を使用して、駆け込むのはあまり感心しません。
(お茶漬けやトロロ丼などは例外です。)

丼物には箸とともにスプンが用意される場合もありますが、これを利用すればさらに気軽に食べられます。
まさに店側が、気軽に、食べ易い様に、美味しく食べて下さいとの思いでスプンを出されるのでしょうから・・・。

まして箸の扱いに慣れていない外国人にとっては助かるでしょう。

さらに大きくて重たい丼を女性が、テーブルに置いた状態で、左手を丼に添えて食べるとなると、箸よりもスプンの方が美しく食べることができるでしょう。


いま世界の人口は約79億人ですが、十人に一人は飢餓に苦しんでいるといわれています。

そんな中、私たち日本人は食べ物に恵まれすぎ、「今日は何を食べようか」と悩みます。

丼物にせよ、お茶づけにせよ、常に食べ物に真摯に向き合い、感謝の気持ちで戴きたいですね。

そして、たまには世界の飢餓にも目を向けたいものです。

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平松幹夫
専門家

平松幹夫(マナー講師)

人づくり・まちづくり・未来づくりプロジェクト ハッピーライフ創造塾

「マルチマナー講師」と「生きがいづくりのプロ」という二本柱の講演で大活躍。「心の豊かさ」を理念に、実践に即応した講演・講座・コラムを通じ、感動・感激・喜びを提供。豊かでハッピーな人生に好転させます。

平松幹夫プロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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