マナーうんちく話553≪「和の作法」と「一回一動作」のお勧め≫
11月は霜が降りる季節ですから和風月名は「霜月」です。
しかし実際に霜が降りるのは地域により異なりますが、おおむね12月中頃のところが多いと思います。
ちなみに雪も霜も水分が凍って結晶化したものですが、それが空で出来た雪は「降る」と表現しますが、地下の空気中で発生した霜は「降りる」と言います。
そして早く降りる霜は「早霜」といい、晩秋から初夏にかけて降る遅い霜は「遅霜」といい、いずれも農作物に大きな被害をもたらします。
特に「八十八夜の忘れ霜」といわれるように、忘れた頃に霜にあうと悲しくなることがあります。
私も何度も経験しましたが、油断大敵ということですね。
ところで11月になると、稲刈りを終えた田んぼがしっとりと落ち着いた佇まいを見せるようになり、心地よさの中にも寒さの訪れを実感できるようになります。
いよいよ冬の受け入れが始まるわけですね・・・。
冬支度が本格的に始まり、農作物にも霜対策を施しますが、同時に11月は一年の中でも最も多くの食べ物に恵まれる時でもあります。
新米、新蕎麦、河豚もうれしいですが、我が家の畑では11月になるとサツマイモを収穫します。
サツマイモは育て方が簡単で、しかも沢山収穫できるので、江戸時代から飢餓や凶作時対策として奨励されてきましたが、甘みが強く触感が良く、料理も簡単で今でも人気の高い食べ物です。
中でも「焼き芋」はいいですね。
「九里よりうまい十三里」と呼ばれ、1800年頃になると江戸の町に「焼き芋屋」が登場しますが、身分に関係なく大うけしていたようです。
話は変わりますが、昔から日本では「躾の基本は食礼にあり」といわれています。
そして、食事の初めと終わりに感謝の言葉を発する習慣があります。
世界でもとてもユニークな文化だと思います。
最近は美しい箸使いができる人はめっきり減りましたが、まだまだ食前・食後に「いただきます」「ご馳走様」の感謝の言葉を発する人は多いですね。
とてもいいことだと思います。
「マナーうんちく話」で何度も触れましたが、改めてその意味に触れておきます。
「いただきます」は「私の命を長らえるために、牛さん、豚さん、卵さん、ダイコンさん、白菜さん、サツマイモさん、あなたの命をいただきます」という意味です。
牛にせよ豚にせよ、白菜や大根にせよ、どんな生き物でもこの世に生を受けた以上、命の限り生きたいと思うのはごく自然な気持ちです。
しかし地球上の約78億人の人類が生きていくためには、牛や豚や魚を食べなければいけません。
だから人間以外の生き物の思いに、しっかり寄り添い、「あなたの命を決して無駄にはしませんよ」という気持ちが「いただきます」の言葉の意味です。
これはSDGsにも通じる「勿体ない文化」の基本的精神でもあり、相手を思いやる気持ちの表れでもあるわけです。
東京オリンピックの開催中に、箸もつけられてない弁当が大量廃棄されましたが、「いただきます」の言葉も聞けなかった弁当は本当にかわいそうでしたね。
「いただきます」の言葉の発し方ですが、食事の前に「両手を合わせいただきます」というのがいいとおもいます。膝に手を置いて言葉を発してもいいでしょう。
箸を胸の高さで、両手で持って「いただきます」いう人を見かけますが、箸を持ち上げる必要はないと考えます。
箸を持ったら、左側の人に箸先が向くので威圧感を与えるからです。
また「ご馳走さま」は料理を作ってくれた人などへの感謝の言葉です。
「食事のマナー」といえば食べ方ばかりに重きが置かれがちですが、食べ終えた時こそ、その人の品格が出るものです。
食材を調達してくれた人、器、食事を作ってくれた人、サービスを担当してくれた人、全てのものに「ありがとう」の思いを込めて、「ご馳走様」がいえる人は素敵な人だと思います。
自分も充実した食事だったと、満足感に浸れるし、それを周囲で聴いている人も心地よくなります。
加えて目の前の食卓も美しくしてくださいね。
箸やフォークナイフはきちんとそろえ、器なども見た目を美しくしてください。
「終わった後の食卓」の姿はとても大切です。
最後に、日本ではコメやパンを「主食」と言い、おかずは「副食」と言いますが、漢字では副食のことを「御数」と書きます。
宮中で生まれた言葉といわれていますが、御は敬語で、数は何種類かの数を揃えているという意味です。
世界屈指の贅沢な食生活を謳歌できる日本には素晴らしい食文化が存在します。
「神人共食文化」もしかりですが、そこに込められた先人の思いはSGDsに寄与できるものが非常に多いように思います。
次世代にもしっかり伝えたいものですね。