マナーうんちく話483≪現代の上座と下座②「和室編」≫
「つぼみ膨らむ」「開花」「三分咲き」「五分咲き」「満開」・・・。
桜の開花情報が気になる時節ですが、桜のように大きな話題になる花はないでしょう。
しかしこれは何も今に始まったことではありません。
《世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし・・・》と今から約1200年も前に在原業平が桜を見ながら読んでいます。
本来春はのどかな季節であるのに桜があるので、気になってしょうがないという気持ちは、日本では古今東西変わらないようですね。
また松尾芭蕉は《さまざまのこと思い出す桜かな》と詠んでいます。
芭蕉に限らず、桜にまつわる思いは日本人なら多かれ少なかれあるのではないでしょうか。
さて千利休はもてなしの心得の中で「夏は涼しく冬暖かに」と説いています。
決して難しいことではありません。
ごく基本的なことだと思いますが、実はこれができていないことは多々あります。
もてなしの基本は客がいかに心地よく過ごせるかについて注意を払い、さりげなくふるまうことですが、たとえ心地よい環境が用意できない悪条件の状況下でも、最大限の心遣いが大切だと説いています。
特に日本は四季が豊かで昔から季節感を大切にしてきた国ですから、春夏秋冬において、それぞれ創意工夫が大切ですね。
装いから調度品や食べ物に至るまで、季節を感じさせる演出は大切にしたいものですね。
もともと日本は、夏は梅雨、高い湿度、強烈な太陽、熱帯夜で冬は木枯らし、雪、寒風など移り変わりが激しいので、快適さを感じてもらうのは大変だったと思います。
しかし現在は物が豊かでくらしがとても贅沢ですから、自然を満喫できる住環境は整っています。
従って物理的には、環境を整えることはそんなに難しいことではありません。
ただ「夏は涼しいように、冬は暖かいように、茶は呑み良きように・・・」という教えは、本質的には「たとえハード面が叶わなくても、何か工夫を凝らして、涼や暖を感じさせよ」と説いているわけです。
難しい点はいかにも仰々しくふるまうと相手に精神的負担をかけることになります。
「さりげなく」がポイントです。
一見当たり前と思うことほど実は難しいようですね・・・。
客をもてなすということは甘くはないのです。