マナーうんちく話535≪五風十雨≫
この時期になると、いつの間にか梅雨らしくなり、あちらこちらで田植えの準備が始まります。
6月5日は二十四節季の一つ「芒種」です。
耳慣れない言葉ですが、米を主食にしている日本人にはとてもなじみの深い言葉ではないでしょうか。
ちなみにイネ科植物の穂先にある毛の様な部分を「芒(のぎ)」と言います。
「芒種」は芒の在る穀物の種を蒔く時期というのが本来の意味ですが、「田植え」の目安になる時期と認識して頂ければ良いでしょう。
米は世界中の至る所で栽培されていますが、日本は国土が狭いので田んぼに直接種を蒔きません。
苗代である程度育てて、それを、水を張った田んぼに植え替えて生産量を高める方法が主流です。
麦の収穫を終えたのもつかのま、一服する間もなく育てた苗を田植えする、非常に忙しい季節になったわけです。
加えて日本は「神道」の国です。
神道は万物の命を大切にするのが基本ですが、稲作に象徴される「稲の宗教」でもあります。だから花笠姿の早乙女が田植えをする行事を見かけた人も多いと思います。
現在では全国津々浦々で田植えが機械化され、合理的に行われますが、昔はそうはまいりません。
田植えは農家の一大事です。
水でドロドロになった田んぼに入って、中腰で数本ずつ束ねた苗を丁寧に植えていきます。しかも早朝から夜までの作業になり、かなりの重労働です。
さらにその後、稲刈りまで88の手間暇がかかります。
だから、そのようにしてできた米は一粒でも大切にしなければいけません。
一粒のコメでも無駄にしたらいけないので、「勿体ない精神」が産まれ、育まれるわけですね。
それが今でも日本人の心に脈々と生きているわけです。
ところで稲作を中心とした農耕的社会の大前提は平和です。
畑を開墾し、さらに水路を作り、常に水の管理が必要な田んぼは一人で管理する事は無理です。
多くの人達が心を合わせ、協働精神を発揮しながらでないと成り立ちません。
さらに自然とも仲良くする必要があります。
日本の「しきたり」はこのような環境の中で産まれたわけですが、芒種の時くらいは改めて、勿体ない文化と米のありがたさを再認識するのもお勧めです。