マナーうんちく話569≪泥より出でて、泥に染まらず≫
厳しい寒さの中で春を待ちわびる気持ちは、草木や鳥や魚の名前からもヒシヒシと伝わってきます。
コラムで何度も登場しましたが、ウグイスが「春告げ鳥」で、ニシンが「春告げ魚」なら、「春告げ草」は梅でしょうか。
奈良時代に留学生、つまり遣隋使や遣唐使が中国から持ち帰り、以後、貴族の間では、自分の屋敷の庭に梅の木を植えるのが一種のステータスで有ったとか。
また、万葉集には100種以上の花が登場しますが、梅は萩に続き沢山読まれています。ちなみに梅を詠んだ歌は122首ですが、さくらを詠んだ歌は40首ですから、当時の「花見」と言えば、桜より梅だったかもわかりませんね。
冬になり「山眠る頃」になると花が乏しくなるわけですが、そんな中、椿と共に品の良い香りや白や赤の花、つまり両方合わせて「紅白」のお目出度い花を咲かせてくれるのが梅です。
だから、梅が今でも多くの日本人に、庭木や盆栽、さらに切り花としても多くの人に愛されているわけですね。
加えて、花を楽しんだ後は、「梅干し」や「梅酒」として実を大切に味わいます。
特に江戸時代になると、各藩は非常食用に梅を奨励しました。
その名残が、現在各地に存在する梅林です。
さらに、日本の古い医学書には、「梅は三毒を断つ」と記載されています。
食中毒や水あたり等に効くと言う事のようです。
そういえば、梅干しをご飯の中に入れた「梅干し弁当」は現在でもおなじみですね。白飯の中央に赤い梅干しを載せた弁当の事で、日章旗、つまり日の丸に見立ててこのような名前が付けられました。
以上のように、梅は日本人にとっては、「見て良し、食べて良し、薬に良し」と、まさにオールマイティーです。
「梅は咲いたか、桜はまだかな・・・」
日本人では、知らない人はいない位有名な、いわゆるお座敷小唄です。
この後は、「柳ゃなよなよ風次第、山吹きゃ浮気で色ばかり・・」と続きます。
梅や桜や山吹の花が登場し、如何にもうららかな春を謳歌する、日本人ならではの風流な歌のように感じますが、梅と桜と山吹を女性に例えた、いわば男女関係の歌です。
日本は世界屈指の四季が美しい国ですが、中でも百花繚乱の春と、紅葉の秋は特別です。
西洋にはユーモアに富んだ歌が多々ありますが、これは季節を愛でる優雅な心に、富と教養に満ちた上流階級の殿方の、粋な心が加味された歌です。
ところで、梅は桜のように華やかさはありませんが、厳寒の中にひっそりと咲き、凛とした美しさが感じられます。
花言葉は「厳しい美しさ」ですが頷けますね。
そして、中国では梅と竹と松を「歳寒三友(さいかんサン有)」として重宝しています。
竹と松は冬の厳しい寒さにもかかわらず緑を保つからで、梅は厳寒の頃百花に先駆け花を咲かせるから、このように呼ばれています。
「三友」とは、友達としてふさわしい人の事です。
松は根を強く張るから、忍耐強く真心の有る人を例えています。
竹は一本筋の通った人で正直な人です。
梅は厳しさの中にも笑顔で答えてくれる人でしょうか。
厳しい寒さが当分続くようですが、松・竹・梅を想い浮かべ、勇気と希望を持って前向きに進みたいものです。
そして、「歳寒三友」にあやかりたいですね。
そのためには、素敵なマナーを発揮する事をお勧めします。