マナーうんちく話92≪優雅さが自慢!和の作法≫
「一輪ほどの暖かさ」と言われ、百花に先だって春を告げた梅の実が熟す頃になり、最盛期を迎えております。
まだ青い実を、生のまま食べない方が良いとされる梅ですが、熟した梅の味はまた格別の旨さです。もっとも最近では食べ物が多すぎて、梅の実をかじる人も少ないと思いますが、少し寂しい気がします。
さて、前回、米は日本文化の形成に大変重要な役割を果たしてきたというお話をいたしましましたが、今回は食べ方に触れてみます。
先ず、日本の米の食べ方はとてもユニークです。
西洋料理では、米は野菜の一種として扱い、蒸したり炒めたりして、ピラフやリソットやバターライス等にして食しますが、日本は主食として食べますね。
だから、米は国の経済を左右する程、大切な食料で有ったわけです。
以前お話ししましたが、収穫した米を搗いて白米にし、これを洗って、すなわち米を研いで、炊飯して食べるわけですが、この食べ方は元禄時代に確立されたと言われております。
そうして炊きあがった米は、透き通ったような白さになり、美味しいご飯となるわけで、これに魚料理や野菜料理、そしてみそ汁と漬物が付き、日本の伝統的な食事のスタイルになり、ヘルシー食として脚光を浴びているのはご承知の通りです。
さらに、和食の食べ方には、「もてなしの心」が生きています。
配膳の仕方ですが、基本は箸と箸置きが一番前に位置し、その前に、食べやすいように、ご飯と汁ものが来ます。
この場合、ご飯茶わんが左で、汁椀が右になります。
ご飯が左に来るのは、昔から日本では左上位だったからです。
つまり、米は大変貴重品ですから、汁物より、上位に位置するわけです。
後は、おかずの内容や使用する器によりますが、持てる器は手で持って食べるのが和食のマナーです。
従って、手で持って食べる小鉢などは、箸を右手で持ちますから、左側に置けばいいでしょう。手でもてない器、つまり、てんぷらや焼き魚などは、右に置くと言うことになります。
さらに箸は、箸先を左に向けます。
明るい方、つまり南に向いて座ると、左が東になるからです。
昔の人は、太陽の方向に箸先を向けることで、太陽のエネルギーを吸収しようと考えたようですね。
ところで皆さんは、ファミリーレストラン等で食事をする際、例えば「ハンバーグステーキセット」を注文した時、「ライスにしますか?パンにしますか?」と聞かれたら、どちらを選びますか?
ある調査では、圧倒的にご飯を選ぶ人が多いそうで、この傾向は30年間ほとんど変化が無いそうです。
と、いうことは、米の消費量はかなり減少していますが、この調査結果から考えられることは、日本人が米を嫌いになったのではなく、米を研いで炊くのが面倒くさくて、手軽なパンにしているのではないということになりそうですが、如何でしょうか。
「テーブルマナー」は、食べると言う行為に、心の美しさを加味したものです。
つまり、食べるという動物の本能を、文化や思いやりの心や教養を加味して、「食べる」ことから「食事」に替えた、素晴らしい人間のなせる業です。
個々の自由な食べ方も良いでしょうが、自分の思い通りにはいかない、同時に他者を意識しないといけない、堅苦しさや不自由さも、今の日本の食卓には必要だと痛感します。
身だしなみを整え、姿勢を正し、感謝の心で持って、箸やフォーク・ナイフ・スプン等を正しく扱い、それでいて、楽しいコミュニケーションをも同時に味わう食事こそ、「飽食の国」日本には必要ではないでしょうか?
大人がその重要性を認識し、子に良き見本を示し、正しく伝授して頂きたいものです。