どこから勉強すればいいですか?
昨日「なかなか他人に聞けない研究計画書の疑問」を開催しました。多くの方に参加いただきありがとうございました。イベントをする際に、よく質問をいただくのは、「論述の仕方」についてです。また遠からず論述の仕方に関してワンポイントアドバイスができるイベントをしようと企画しています。
まずは単文から
京都コムニタスの生徒の方々、あるいは相談に来られる方で、論述が苦手という人は多いですが、生まれつき論述が得意な人はいないはずです。論述は、単に文章を書くのが上手、あるいは得意なだけでは書けるようにはなりません。文章作成力と論述力は必ずしも比例しません。論述の文章を書く時のコツの一つは、単文で書くことです。日本語文章には、単文、重文、複文とありますが、単文とは要は主語と述語だけの文です。「●●は△△である」だけの文を連ねるのです。味も素っ気もありませんが、わかりやすいことは間違いありません。論述を書く時に、まず気を付けておかねばならないことは、わかりやすさです。読みにくい、わかりにくいと思われてしまうと、それだけで不利になってしまいます。将来、大きな論文を書く時には、わかりやすければいいというものではありませんが、研究計画、志望理由書、小論文や、論述ではわかりやすさが重要なのです。単文で書くという意識を持つだけでもかなり違ってきますので、一度実践してみてください。
フレームも考えましょう
次に、フレームについてですが、フレームとは「枠」で、一定の枠を決めて書くということです。小学生くらいの年齢で、作文を書くことは誰でもあったと思いますが、そこで一番よくないのは、
「思ったことを書きなさい」
「好きなことを書きなさい」
「自由に書きなさい」
「書きたいことを書きなさい」
こういった類は論述をする際には大きな阻害要因となります。一定の枠を決めて、そのパーツごとに書く練習をすることです。ただし、よく起承転結という枠が言われますが、これも少し違います。起承転結で書けと誰が言い始めたのかは知りませんが、起承転結は、漢詩の構成枠です。とくに四行形式の「絶句」と呼ばれるものです。確かに終戦以前の日本の教育は、漢文の知識を教えていましたので、20代の若者が漢詩をよむということは珍しくありませんでした。そんな関係もあり、文章を構成するにあたり起承転結を意識したのは理解できなくもないのですが、漢詩など見たこともない世代に、起承転結という言葉だけ教えても何もなりません。生徒にとっても意味不明でしょうし、おそらく教えている方も理解できていないのではないかと思います。こんな関係で、文章を構成する力を我々は教育で養成されていない人が多いのではないかと思います。
また起承転結は別に論理的な文章を書くためのものと限っていませんから、仮にそのように書いたとしても論理的になるわけではありません。
論述は論理的に書く
論述は、論を述べると言うくらいですから、論理的に書くのが基本です。少なくとも読み手が論理的だと思わなければ意味がありません。論理的に書くには、まず筋が通っていることが重要です。筋が通っていないと、読み手は読み返さないといけなくなります。書き手は、読み手が一回読んで意味がわかるようにするのが基本です。そのためには筋道を通す方法を練習しておく必要があります。これも訓練で身につきます。私が京都コムニタスで推奨している筋道の「枠」は、このコラムでも書きましたが、必修のいろはのいです。すなわち、問い→回答→根拠の三点セットです。問いは論述問題の場合は、すでに出ている場合もあり、それに対する回答と証拠だけの時もあります。回答は仮説でもいいです。完全な回答がないこともたくさんあります。例えば、問いで、「いじめはどうしたらなくなるか」と設定した(しちゃった)場合、「●●すればいじめはなくなる」というのはすべて仮説です。確実にいじめをなくす方法があるならもう世の中からなくなっているからです。ただ、このようなテーマの場合は、そうならざるを得ない部分もありますので、間違いではありません。この場合、重要ポイントになるのは、根拠です。根拠次第でその文章が生きるかどうかが決まると言っても過言ではありません。根拠は情報提供でもあります。この部分で知識が問われているのです。またその根拠のもとに書き手が、なぜそう考えたかのプロセスも重要です。そして、読み手に情報を提供するという意思が必要です。自分で設定した筋道の中でも、自分の中で「ここを見てください」と主張できるポイントがあるならば、是非強く書いておくべきです。そうすることによって、筋道もより生きることになるのです。
論述力を磨くには筋道を通すことに加えて、「説得力」が必要です。これまでもこの説得力については何度か書いてきました。論述でもやはり読み手を説得する力が必要です。説得力はやはり根拠次第で強くもなりますし、弱くもなります。根拠を出す時にはできるならば、何らかの数字のデータが良いでしょう。例えばGDPとか、成長率とか、いじめの件数など具体的であればある程良いと思います。また数字以外には、根拠が、自分で出した問いに対する回答と合っているかどうかも重要です。答えは出したものの、根拠が合っていないと単なる残念な回答ということになってしまいますので注意が必要です。場合によっては根拠に合わせて、回答を変えることもあり得ます。またさらに問いごと変えるということもあり得ます。そこは柔らかく考えて、最も説得力があるという文章を作ることに意識を向けなければなりません。そのためには、問い、回答、根拠の3つのパーツごとにしっかりメモを取りながら進めていくのが良いでしょう。
論述問題で見たこともない問題が出た場合
仮に、わからない論述問題、全く知識のないトピックに関する小論文の問題が出たときにどうするのか、という問題は、大学院受験や編入受験をする際に極めて重要な問題と言えます。悪い言葉で言えば、いかにミスをごまかすか、あるいは、いかにミスと思われないようにするか、あるいは、いかにミスをリカバーするか、このあたりのテクニックは知っていて損はありません
このテクニックを使うための基本ルール五種として
①文章をわかりやすくする
②問いに答えきれていなくても間違ったことを書かない
③拙くても根拠を出す
④カミングアウトをしない
⑤他人を攻撃したり、誹謗中傷をしない
としましたが、しばらくこの五種について解説を加えます。
①文章をわかりやすくする
文章をわかりやすくするには、主語と述語の関係を明確にした上で、単文で書くことが基本です。複文は極力使わないようにすると良いでしょう。複文とは、英語で言う関係代名詞のある文の和訳のような文です。「私は、父が医者である少年を知っている」といった感じです。絶対に使ってはいけないわけではありませんが、あまりたくさんあると、読み手は読みにくいです。読みやすい文章とは、一回で理解できて、戻って読み直さなくても良い文章です。その上で重複が少なく、適度に代名詞を使って、コンパクトにするということも大切なことです。
また、無理に難しい言葉を使わないことも大切です。例えば「異なる」と書けばいいのに「相違する」とわざわざ難しい言い方をするのは余計な行動です。もっと言えば、自分が知らない言葉を使わない方が無難です。とりわけ本番では極力難しい言葉の使用を避けようという意識があるとちょうど良いと思います。
難しい言葉を難しく言うのは誰でもできる。
難しいことを簡単に説明できる人は人材である。
簡単なことを難しく言うのはバカである。
とある先生の言葉ですが、その通りだと思います。
次に、読み手を意識することも重要です。本当にその人が読むかどうかはわかりませんが、この人に読ませてみたいと思って書くと、意外に読みやすい文章はできます。私も常に読んで欲しい人を意識して書いています。その際、できるだけ、焦点を定めます。不特定多数に向けると、やはり薄い文章になります。こういった点は志望理由書に出ます。例えば、私は、必ず「○○大学(院)△△学科でなければならない理由」を書くように指導しています。これが「大学院(編入)志望理由書」といった形で、どこの学校にも通用しそうなフォーマットを作って、あとは大学に合わせる、といったものになってしまうと、その内容は中味の薄い不適切なものになってしまいます。誰に読んで欲しいかを常に考えておくことは重要なのです。よく「ラブレター」と表現されるのは、こういった側面があるからです。読み手に自分の伝えるべきことを、できるだけ全部伝える。これが基本です。
テクニックその②「問いに答えきれていなくても間違ったことを書かない」
マークシートの場合、問題に何かしらのミスがない限り、加点は正解しかないのが基本です。しかし、大学院受験や編入受験は答えは一つとは限っていません。あるいは求められていることが正解というよりは、情報量であることもよくあります。要するに、ピンポイントの正解の単語を一つだけ書くよりも、間違っていない回答を、周辺知識も統合して、豊富な情報量で書く方が良い場合もあります。仮に、フロイトについて、知るところを述べよ、という問題が出たとします。(最近はあまりないと思いますが)しかし、フロイトについて、ほとんど知識がないとします。(あまりないと思いますが)しかし、ユングのことなら詳しいとします。そういった場合、フロイトとユングのつながりや交流についてであればユングを中心に書くこともテクニックとしてはあり得ますし、必ずしも正解ではありませんが、とくに間違いであるとも言えません。屁理屈を言えば、ユングでもってフロイトを説明したと言えなくもありませんから。もちろん、これは苦肉の策であって、望ましいことではありませんが、これは勉強のことと言うよりは、本番で困ったときの戦略として保存しておくのがよかろうと思います。あきらめてしまえば、そこまでですが、まずはあきらめない姿勢をしっかりもっておくことが重要です。また、そういった時には情報量は必ず多めにしましょう。スペース一杯に書くことを心がけるのが妥当です。
③「拙くても根拠を出す」
論述でも小論文でも、自分が述べたことに対して、必ず何かしらの客観的根拠をつけなければなりません。またインターネットだけをこねくり回して、独自調査などと言ってそれを根拠にするようなことはあってはなりません。しかし、自分で足を運んで何かしら調査したことがあるならば、これは立派な情報になりますので、小論文の場合は、是非出しましょう。小論文の場合、自分なり調査や経験値はある程度根拠として見なしてもらえます。学術論文の場合は、これは場合によっては参考資料扱いになります。今年も、街頭インタビューをして情報を集めている人がいます。本当に感心します。できれば、自分の経験及びそこで感じた問題意識、あるいはそこで経験したことを客観的に数値化しておくと、いざと言う時に使えますので、是非用意しておきたいものです。また、論述の場合は、書籍や論文の知識があると、非常に書きやすくなります。フロイトの事例で言えば、彼の代表作の知識やそれが後継にどう影響を与えたかの系譜を知っておけば、それだけで良い情報が提供できます。根拠を出すということは、読み手に質の良い情報を提供しようという意識があってできることでもあります。是非その意識を持っておきたいところです。
④「カミングアウトをしない」
最近減ったと思うのですが、筆記でも面接でも、答えに窮すると自分の抱える問題をカミングアウトする人がいます。これは適切とは言えません。臨床心理士指定大学院の場合、面接において、たまに、
「自分の問題を知っていて、それをもう解決していますか?」
という少し刺激的な質問をされる場合がありますが、こういった時にはある程度自分のことを語る必要はありますが、そうでもない限りあまり自分の問題に関することをカミングアウトする必要性はありません。もちろん、自分の仕事において、感じた問題意識や他者の問題を解決した経験などは、うまく言葉にしておくと、有効な武器となり得ますが、それとこれとは別問題です。カミングアウトをする時、人はかなり主観的になり、むしろ客観を忘れがちです。こういった時、論述や面接の基本を忘れてしまいます。その基本とは情報提供意識であって、読み手、及び聞き手に対して、求められた情報を正確な形で提供するという意識を手放してはならないのです。もちろん、試験以外の場において、
「あなたの個人的な情報を聞きたい」
というシチュエーションがないとは言えませんので、その時には、カミングアウトもいいかもしれませんが、試験における情報提供で、個人的な問題はそれほど重要ではありません。その個人の経験や蓄積をどの程度客観化して、それをより多くの人に提供すべく普遍化できているかということの方が重要です。出題者が何を知りたくて、こちらに何を求めていて、どういった情報を望んでいるのかということを常に考えておけば、安易なカミングアウトは自然と減少していくはずです。
⑤「他人を攻撃したり、誹謗中傷をしない」
これは本当に重要です。時々自分の不安ややましさを他人のせいにして、他者を攻撃するという、ロクでもない人がいますが、これを公式の文章に書いてしまうと、読み手に嫌悪感を与えてしまいます。小論文などの文章を書く時は、基本的に全ての責任は書き手にあります。言い換えれば、(よくも悪くも)他者のせいで、自分の文章ができあがるということはないということでもあります。自分の力で、自分の足で、自分の能力で調査したものを、数値化したり、文字化したりして、形にすべくまとめあげ、その情報を読み手に提供することが仕事です。決して小論文の場で誰か個人を批判したり、誰かの論を否定したりしてはなりません。批判のつもりが、単なる否定になったり、下品な攻撃になってしまうと読み手に不快感を与えてしまうということです。
時事問題の勉強も有効です
よく小論文対策や面接対策として、時事問題を学んでおくことが指摘されます。その点については異論はありません。やはり時事問題、社会情勢について無関心であってはならないと思います。他人事ではなく当事者意識をもつことは適性を示す際にも有効です。ただし、よく新聞を読めば、小論文対策になるというフレーズを聞きますが、私が認識する限り、新聞を読んで論文を書くのが上手になるとは思えません。情報収集は、論壇紙、かつてあった『日本の論点』に類する書籍は有用です。また最近は、インターネットで、ニュースサイトがたくさんあります。これはものによりますが、有用だと思います。スマホでニュースを見るのは今や当たり前の時代です。とにかく、ポイントは質より量の意識で、時事問題についてはたくさん収集して読むくせをつけておきましょう。
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