勝負の綾とあきらめない心

井上博文

井上博文

テーマ:雑感

以前箱根駅伝絡みで勝負の綾と想像力というコラムを書きましたが、私にとっては、この綾という言葉をとても重視しています。私はたいていのものは仏教とスポーツになぞらえて考える思考を持っていますので、駅伝と仏教をからめて受験について考えます。特に箱根駅伝は、実は全国大会ではなく、関東学連の大会に過ぎないのですが、最も価値が高い駅伝と皆が暗黙で考えており、全日本大学駅伝よりも格上大会になっています。これだけでも、十分に特殊です。しかし、それを目指して、全国から俊才が関東の大学に集まります。高校の有望選手がどの大学に行くかも皆が注目するところで、ネットにも陸上雑誌にも進路は記載されます。高校生も、強い大学に行くべきか、立教のような新興勢力に行くべきか、リスクとベネフィットを様々考えて進学していきます。これだけでも大変な綾です。また当日もとても複雑です。実は全チームが最初から優勝を目指しているわけではありません。駒沢大学のように三大駅伝を全部制してやろうという学校や青山学院のように箱根連覇を目指す大学もあれば、東京国際のように強力な大砲がいて、展開次第で優勝が狙える学校、早稲田のようにどんなチーム状況でも常に優勝がイメージされる大学、立教のように新しく強化し始めて、いきなり箱根に出場できたものの、多分その壁に跳ね返されるであろう大学、箱根の連続出場が途絶え、そこから復活し、「上位」を狙う大学、とにかくシード権(10位以内)を狙う大学・・・似ても似つかない様々な思いと戦略が交錯するのです。
決して、足の速い人がただ走っているわけではありません。無数の人たちの有形無形の思いも交錯しています。おそらく、選ばれた選手や監督は、ケガで出走できないことはあっても、身内の不幸があっても出走する人が大半なのではないかと思います。その善し悪しは、そこに絡んでいない人には口出しすることさえかなわないものがあると思います。
当日の戦略も、何も12月くらいから練るわけではなく、例えば、箱根は山上りと下りという超がつく特殊区間があります。これは1万メートル最速の学生が走ることはまずない区間です。走力よりも適性が問われる区間です。だから、チームは早い時期からこの山の適性を見極めて、選手を育てます。私の知っている人で、山上りをした人はいないのですが、下った人はいます。その人は高校で全国優勝したこともあるほどの人ですが、箱根では1回出走しただけです。山を下って、そのダメージでその後は走れなくなったそうです。それくらいダメージが大きい区間もあります。その分スペシャリストのような人もでます。上りだと「山の神」というフレーズも出るくらいです。
こういった無数の間接要因があいまって、一つの大会を作っていくのですが、それでも結局、出場するのも、勝つのも「強い」チームです。特に最後まであきらめない心の強いチームが勝つのだろうと思います。最後は人の思いの強さが、綾の完成を生むのだと思っています。


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