日本人に必要な論点切り分けスキル

井上博文

井上博文

テーマ:小論文対策

ここのところ、
論点ずらし
うそ(冗談)のような本当の話
論点ずらしへの対処法
と、最近目に余る論点ずらしをトピックとしてコラムを書いてきました。同じような危惧を持っている人は少なくないと思いますが、学術会議問題に思う、日本人に必要な「論点の切り分けスキル」という記事は共感できる記事だと思いました。私も何度か言いましたが、学術会議問題は、論点を突き詰めると、「法律上、任命権を持つ総理大臣が、法律に則った学術会議から推薦を受けた6名の任命を拒否した理由」です。「予算」「学術会議のあり方」等のトピックは後付けで、主たる論点の目くらましとして、総理大臣応援部隊が出したものであって、本線の問題とは全く関わりのない問題です。仮に学術会議の運営に問題があるという主張をもっていたのなら、本件と関わりのないところで、あらかじめ主張していたのなら、説得力はありますが、そうであるならば、余計に本件と関わりのない問題であることが明白になります。総理大臣を擁護するために、違う問題を持ってきて、論点ずらしをする姑息さに辟易しますが、見ている人はきちんと見ていますし、学者に論点ずらしが通用するはずもありません。

個人的には、理由が妥当なものであるならば、任命がなされなくとも容認される余地はあると思います。似たような制度はたくさんありますが、文化勲章の場合、
「文化庁文化審議会に置かれる文化功労者選考分科会の意見を聞いて文部科学大臣が推薦し、内閣府賞勲局で審査したうえ、閣議で決定する。文化勲章受章候補者推薦要綱によると、文部科学大臣は、“文化の発達に関し勲績卓絶な者”を文化功労者のうちから選考し、毎年度おおむね5名を内閣総理大臣に推薦する」
だそうです。聞くところによると、交通違反をしていても、推薦されないのだとか。今ごろ、6名の方々は、以前文部科学事務次官が陥れられたような調査がなされていることでしょう。その先生方からすると本当に迷惑な話だと思います。

私が院生の時、学内の学会予備発表で、似たようなことをする人がいました。新しい本が出ると、その論点の派生として自分の論を組み立てるパターンです。言い換えると、新しい本がなければ、その論は生まれ得なかったわけです。当時とても厳しい先生がおられ、「そういうのを他人のふんどしで相撲を取ると言う」と、その発表者はこっぴどくしかられていました。当時、厳しいなと思いつつも「そりゃそうだ」と思いました。その下地になった新しい本に乗っかっても、批判しても、それは「とても恥ずかしいこと」だと習いました。その先生は最近なくなられたのですが、今も私の中にそう刻みこまれています。

記事の著者は、本件から「最大の問題は、この話を受け止める国民の意識でしょう」と指摘しています。議論を深めていき、事実にたどり着こうとする際、論点をできるだけ絞り込んで他の話をしないようにする必要があります。アカデミックスキルの基本です。総理大臣を擁護して、学術会議のあり方を批判する人は、大学でアカデミックスキルを学ばなかった(不勉強な)人たちだろうと思います。よく「それとこれは別問題」と指摘すると、「つながっている」「私の中では一緒」などと強弁する人はいますが、そういった人はやはりいろいろな意味で不安定です。

繰り返しになりますが、総理大臣の任命問題と学術会議のあり方や予算の問題は、何の関係もありません。前の大阪市長が、学術会議のあり方に問題意識を持っていたなどという話は聞いたことがありません。また学術会議のあり方に元々問題意識を持っていて、しかもこの6名は学術会議にふさわしくないと、思っていた人の存在も知りません。すなわち全部後出しじゃんけんです。本件を機に学術会議のあり方に問題意識を持って、議論すべきだと思うなら、もちろん、それは自由にやるべきです。どんな組織であっても、何らかの問題を持っていますから、いろいろな角度から議論することはむしろ良いことでしょう。もちろん、そうであっても総理大臣の任命の問題は何の関係もありません。「総理大臣に任命してもらうにふさわしい学術会議のあり方の議論」などあってはならないことですし、明白な憲法違反でしょう。要するに学術会議のあり方が如何様であれ、任命権者はそれほどの影響力を持たないのです。手続き上の問題であって、決して上下関係ではないのです。すでに権力者が暴走している証左です。
繰り返しですが、本件の論点は、「法律上、任命権を持つ総理大臣が、法律に則った学術会議から推薦を受けた6名の任命を拒否した理由」です。これを動かさずに、今、いろいろ言っている人を眺めて見ると、いろいろ面白い景色が見えます。論点をずらさない方が、多様かつ明確な事実が見えてくるものなのです。


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井上博文
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井上博文(塾講師)

株式会社コムニタス

塾長以下、スタッフが、全ての生徒の状態を正確に把握している。生徒をよく観察し、成長度合、どのような不安や悩みを抱えているか、をしっかりと観察し、スタッフ間で情報共有をしている。

井上博文プロは京都新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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