『選ばれる税理士ファッションとは?』―ダサきゃおしまい!スタイリストからのきついメッセージ―Ⅲ(
昔から着るものに関してはおかしなことばかりやっている。
いいな、と気に入って買ったものの、ちょっとサイズが大きかったか、と思えば、グラグラに沸かしたお湯をぶっかけて、長時間乾燥機にかけるとかはまだ序の口で、もっと手の込んだリフォームみたいなことも、これまで散々やってきた。
そのバカげたあれこれを取り上げるだけでも本が一冊書けるくらいである。(まあ、書きませんけど)
今朝、愛用のGパンを洗濯していてふと思い出したことがある。
かなり昔の話だが、まだ学生だった頃、当時の若者向け雑誌(ポパイorホットドッグ?)にこんなことが書いてあった。
― ジーンズというのは、まずリジッドのまっさらで濃いインディゴの奴を買うこと。で、それをすぐ穿く奴はアホである。
これを、見た目いい感じにまで育て上げなければならない。ついては、こいつを屋根の上に放置するか、日の当たる軒下かにつるし、何カ月も雨ざらしにして最初の濃いブルーがいい感じに褪めるまで穿いてはいけない。
それが本当にジーンズを愛する人間のやり方だ。―
まあこの通りだったかどうか自信はないけれど、とにかくそんな風なことを先輩ジーニストが書いていたので、私もそれを忠実に実行しなければ、と思ったのである。
しかし、東京の狭いアパート暮らしだった私には、そんな屋根もなければ軒先もなかった。
そこで、私は当時遠距離交際中だったカミさんに頼むことにした。
忘れもしない。あれは確か吉祥寺だったと思う。東急デパートだかパルコだかでビッグジョンのまっさらなリジッドのジーンズを購入した。
当時、リーバイスがどうのリーがどうのとか全く知らない時代だったので、Gパン素人の私が一番良く耳にしたり目にしていたビッグジョンの一本を購入したのだった。
そしてこれを夏休みだったか春休みだったか忘れたけれど、田舎に帰ったときにカミさんに渡した。そして
「これを君んちの庭に放置して、ずっと雨ざらしにしてくれ。」
と頼んだのである。
カミさんは、もともと私のことを『おかしな人だ。』とは思っていたようだったが、いよいよ
「この人はいったい何を言っているんだ!?」
と、怪しんだみたいでキョトンとしていた。
私は、雨ざらしにしていい感じに仕上げたい旨、一生懸命伝えようとした。
しかし、男のそんな拘りなどわかるはずもない。
おそらく100%は理解していなかったと思うけれど
「まあ、あなたがそう言うんだったらとにかくやってみるわ。でも、そんな乱暴なことして、せっかくのGパンがどうなっても知らないわよ。」
と、こんなことしている私の未来の旦那は大丈夫かいな、と疑問を抱きつつ引き受けてくれたのである。
さて、ここからはカミさんに聞いた話である。
庭に広げて放置した私のジーンズは、ずっとそのままでは表にした一方だけが灼けてしまう。
カミさんはときどき裏返したりして、そうならないように気をつけてくれたらしい。
雨ざらしにすることが目的だから、雨が降ってもかまわず放置しておく。逆にお天気がずっと続いたりすると、雨ざらしにしたい、という私の意図が達成できないことになる。
そこでカミさんは、ときどきそのGパンにホースで水をかけたりしていたらしい。
まあ、遠くに住む婚約者に頼まれたこととはいえ
『なんて馬鹿みたいなことをやっているのかしら私。』
と思ったことだろう。
ところが、この一連の行為を見ていて、カミさん以上に疑問を持つ人がいた。
それが、カミさんの家の隣りに住むおばさんだった。最初は
「あら洗濯物を取り込み忘れたのかしら」
くらいに思っていたのだが、ときどき裏返したりしているところを見るとそうでもなさそうだ、と気が付いた。それだけでなく、たまに水をかけたりしている。
いったいどういうことだ?!おばさんは俄然興味の炎を燃やし始めた。
それでも、かなり奇妙な行為なので、初めは声をかけかねていたらしい。
しかし、とうとうある日我慢できなくなった。
「ねえ、Y子ちゃん何やっているの?」
小さな頃からカミさんのことを知っているおばさんは、心配になったのだった。
これに対して、カミさんもその年配のおばさんに
「実はGパンの味出し作業なんですよ。」
というのをかいつまんで教えるのも難しく、ちょっと四苦八苦したようだが、何とか説明したらしい。それでも隣のおばさんの疑問が完全に消えることはなかっただろう、と推察する。
で、そうやって何カ月もかけて育てた(育ててもらった)Gパンがどうなったかと言うと、なんか思ったようにはいかなかった。期待したほどいい感じに色落ちすることはなく、逆にものすごく硬くなって、その履き心地たるやお世辞にもいいとは言えない状態になったのである。
冒頭の
「ジーンズはこうやって育ててから穿くものだ。」
という、先輩ジーニストの言説を私は少し恨んだ。
「なんだ、話が違うじゃねーかよ!」
と、思ったのである。
とはいえ、これも極めて身勝手な話で、一番文句を言いたかったのはカミさんだったであろう。
おそらく
「せっかく、日々丹精込めて世話したのに履き心地が悪い、とは何事よ!」
と言いたくなったのではないか。
しかし、カミさんはそんなことは言わなかった。
『どうせあの人の考えることなんて、そんな着地点がいいとこだろう。』
と踏んでいたみたいだったのだ。
で、まあその後結婚してからの人生においても似たようなことは多い。私が
『うっしっし、今度こそうまくいくに違いない。』
と、甘い予測を立てた他のいろいろなことに関しても、大抵の場合カミさんはクールに構えている。
「まあやってごらんなさい。上手くいくかどうかはわからないわよ。」
と極めて冷静なのだ。
しかし、である。
どんなアホなことでも、やってみなきゃわからないことだって、世の中にはいっぱいあるのだ。ただ、尻ぬぐいというかリカバリーばかりやらされるのはゴメンですからね、というのがカミさんの言い分なのだろう。
まあ、できるだけそんな羽目に陥らないよう気をつけながら、これからもときどきアホなことをやり続けるんだろうな、俺は。

実はそれでも洗いざらしに今もチャレンジしているのでして…


