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永田誠一

脳機能と身体機能の向上へ導くリハビリのプロ

永田誠一(ながたせいいち) / 作業療法士

久留米脳梗塞リハビリサービス

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コラム

リハビリ難民200万人時代|リハビリ難民の定義・実態・解決策は?

2023年11月15日

テーマ:リハビリについて

コラムカテゴリ:医療・病院



リハビリ難民200万人という衝撃

リハビリ難民200万人時代という報道

リハビリ難民200万人という報道を聞いたことがあるでしょうか?
同じような内容の本が出版され、大きな話題となりました。

リハビリ難民とは一体何でしょうか?
現在では、どこの病院にもリハビリ専門職である理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が在籍していることが多く、介護保険の通所リハビリ(デイケア)や老人保健施設などにもスタッフが複数いることも珍しくありません。
前述の本では、東京都新宿区などの都会の様子が描かれています。
区内には、多くの医療機関があるにもかかわらず、その受け皿となる介護施設には十分なリハビリスタッフが不足しているということが書かれています。




厚生労働省 医療従事者の需給に関する検討会 理学療法士・作業療法士分科会(第1回)

作業療法士を取り巻く現状

図は、少し古い資料ですが、2014年時点での人口10万人当たりのOT数を都道府県ごとに示したものです。
赤い線が全国平均です。
東京や神奈川、千葉、埼玉などで軒並み平均を下回っています。
大阪、愛知なども同じです。
一方で、西日本は平均を大きく上回る県が目立ちます。
四大都市の福岡も同様です。

このように、リハビリ専門職の数が地域によって偏在しているという事実は否めないでしょう。
しかし、一方で、PTやOTの数は今や需給バランス的には供給過多となりつつあります。
リハビリ専門職の給与が低いと言われる事の理由の一つは、このような需要と供給のバランスの問題があると言えます。
リハビリ専門職の絶対数自体は足りているため、地域による偏在が是正されればリハビリ難民問題は解消するという見解も成立するのかもしれません。
ただ、私はそれでもリハビリ難民問題はやはり存在するのだと思います。
私も、ある種のリハビリ難民を救済する必要性は高いと考えています。
そのことを十分に論議する必要があります。
それと同時に、リハビリ難民とは一体何なのかを明らかにする必要もあるでしょう。

リハビリ難民の背景にある国の政策の問題

次に、リハビリ難民とその背景にある国の政策の問題について考えてみましょう。
東京や関東をはじめとする都市部におけるリハビリ難民は、リハビリを受けられる機関やリハビリ専門職の絶対数の不足という面があります。




内閣府 高齢化の推移と将来設計

高齢化の状況

図は、内閣府による高齢化の推移についてのグラフです。
一目で分かるように、日本の人口は徐々に減少しつつあることに対して、医療や介護が必要な高齢者は増加の一途を辿りつつあります。
高齢化率は、現在でも30%程度ですが、2065年には40%に近づきます。
それに加えて、次の図をご覧ください。



内閣官房 医療・介護サービスの需要と供給(必要ベッド数)の見込み

社会保障改革に関する集中検討会議

図は、2011年時点での病院の病棟数の削減計画を示しているものです。
①は2011年度時点での一般病床は、107万床ということがわかります。
②では、そのままの状況を続けると2025年度には、一般病床数は129万床となる予想です。
③と④は、それに対する改革案とされているものです。
細かい内容は異なりますが、③も④も病床を削減するシナリオが描かれています。

国は、社会保障改革と称して、病院の病棟の数を削減してきたのです。
これは、高齢化の波とあまりに逆行するものです。
普通に考えれば、病棟数を増やすのが本当ではないでしょうか?

この背景には、日本社会が抱えると言われる国の借金問題があると言われています。
もう30年間近くも続いている、政府の緊縮財政政策が根本にあります。
公的制度で運用される医療や介護が、国の財政政策の影響を受けることは間違いありません。
この問題は、社会保障以外にもさまざまな影響を日本に与えています。
最たる例は、国の経済力の低下や実質賃金の低下などです。
これでは、リハビリ難民が生まれるのも仕方がないのではないでしょうか?

地方の問題はさらに深刻です。
過疎化により、交通インフラなどの利便性の低下などが加わります。
リハビリが必要な患者にとっても、通院などに制約が生じます。
一般に、地方の方が少子高齢化の影響は早く進みます。
頼みの家族も高齢者となり、周囲の助けも手薄となりがちでしょう。


リハビリ難民200万人時代の現状

リハビリ難民をどう定義するか?

一般論的には、全国でリハビリ難民が生じていることは間違いないと言えるでしょう。
都市部では、まだまだ退院後の全体的な受け皿の不足は続いているといえます。
しかし、国も介護保険制度を充実させることによって手を打ってきた側面もあります。
地方では、比較的に介護保険サービスが充実している地域も多いと思います。
しかし、その中でも、やはりリハビリ難民問題は存在すると考えます。
それは、一体どのような方々でしょうか?

本当の難民は誰か?

ここでは、以下の2つに絞って難民問題を論じたいと思います。

  • 都市部や過疎地区など、絶対的なリハビリ資源が不足している地域における難民問題
  • リハビリ資源の絶対数は確保されながらも、介護保険リハビリでは不十分と考える方々が存在するという意味での難民問題


前者については、先に述べたように、東京や関東圏を中心とした都市部と全国の過疎地域における問題です。

後者については、医療や介護のリハビリ自体は受けられる環境にいながらも、病院を退院後に移行するデイケアなどの介護保険リハビリでは不十分と考えておられる方々における問題です。

この件に関する問題は以下に集約されます。

医療のリハビリには、疾患別の日数制限が定められており、例えば脳卒中などの脳血管疾患の場合は180日以内とされている。
しかし、この医療リハビリの日数制限が不適切と思えるケースが一定数存在する。
そして、医療リハビリから移行する介護保険リハビリのリハビリ提供時間が十分とはいえない場合が少なくない。


ということです。





図は、医療リハビリにおける疾患別標準算定日数です。
赤が脳卒中などの脳血管疾患です。





こちらの図は、介護保険リハビリの代表と言えるデイケアの個別リハビリ時間を示したものです。
ご覧のように、一部の加算については、3月以内40分間という時間規定があります。
しかし、その他は20分間や時間規定なしも多い状況です。
そして、大多数を占める加算終了後では、大半が20分間という実情があります。

要約すると、

脳卒中後後遺症へのリハビリは、発症後半年以内で医療リハビリは終了し、発症後9ヶ月程度で介護リハビリによる20分間のみとなる。


ということになります。
つまり、発症から1年間も経たないうちに十分なリハビリが受けられなくなるということなのです。

これについては、
リハビリ難民の現状が現在も無視されつづける本当の理由|脳卒中
という記事が参考になります。
よろしければ、一読されてください。
また、
福岡県久留米周辺のリハビリ施設|脳梗塞への自費リハビリとは?
というコラムでも触れています。
よろしければ、こちらもご覧になってください。

個人的には、全てのケースにおいて、医療リハの日数制限や介護保険でのデイケアのリハビリ時間が不十分だとは思いません。
しかし、一方で明らかに不十分と思えるケースも間違いなく一定数は存在すると考えています。

具体的に言うと、

  • 脳梗塞などの脳卒中後遺症を抱えるケース
  • その中でも60代以下などの比較的若いケース
  • 全年齢層において、意欲が高く、発症2〜3年以内などで回復の可能性があるケース


などです。
もちろん、病気や障害には個人差が大きいため、一概に上記の条件が全てとは思いません。
しかし、あえて、そのように主張するには根拠があります。

個人的なことで僭越ですが、私はリハビリ日数制限が導入された平成18年前よりリハビリ専門病院に勤務していました。
当時のリハビリ病院では、2〜3年間入院されていたケースはそれほど珍しくありませんでした。
私が、所属していた地方の病院では、他のリハビリ病院から転院してこられた方も多かったと記憶しています。
今で言えば、慢性期や維持期などと呼ばれるステージの方々です。
しかし、上記の3要素に合致するような方々は、濃厚なリハビリにより確実に改善を遂げられたケースも多かったです。
ある40代の脳梗塞のケースは、10年間を経て驚くような回復を遂げられました。
そのようなケースを沢山見てきた身としては、現在の医療リハはあまりに短期間で終了するという思いを無くすことができません。

60代以下のリハビリ難民救済が必要な理由

それは、現在から未来にかけての少子高齢化の問題と関係があります。
少子高齢化問題の本質的な一面は、現役世代と呼ばれる生産年齢人口の割合の低下です。
つまり、たとえ今後の日本において人口が徐々に減少したとしても、経済や社会福祉を支える現役世代が確保できれば、高齢化自体は大きな問題ではありません。
しかし、現実は、人口減少に伴い現役世代も減少し、高齢者数だけが高止まりすると考えられていることに大問題があります。

患者調査などでは、60代以下の脳卒中患者は全体の2割程度と言われています。
60代以下であれば、多くのケースでは発症前は何らかの形で就労していた可能性が高いと思われます。
若い世代の脳卒中患者が復職をして、社会復帰することは、本人のみならず社会全体にも良い影響を及ぼします。
一方で、脳卒中患者の復職率は、40%程度と言われていますが、これは20年間も変化していないそうです。
この間、法律で定められた障害者の法定雇用率や実際の雇用率は上昇傾向にありますが、上昇率が高いのは精神障害者や知的障害者などです。
20年前に比べて、ICTやAIが進んだ現在においては、身体障害を伴いやすい脳卒中後遺症患者についても、少しは復職率が向上しても良いのではないでしょうか?
それが、今後の日本における生産年齢人口の減少を少しでも緩和することになればとても良いことだと思います。

この件については、
脳卒中の復職へのリハビリで重要なこと65歳未満の復職率の向上
という記事が参考になりますので、よろしければご一読ください。


リハビリ難民200万人時代の解決策とは

コロナ禍で忘れられた本当の難民達

2001年からのコロナ禍の間は、様々な影響がありました。
ステイホームやテレワークなど、それまでと働き方や生活の様式が大きく変化しました。
医療や介護の現場においても、長期間に渡る面会の制約、可能な限り人同士の接触をさけるような工夫など・・・・・。
それ以前であれば、対面での丁寧な説明を受けられたものを、電話や書面による伝達のため不確実な情報伝達へと変わりました。
実は、病院からの退院患者の中には、この間に重要な情報を受けとることが出来なかったケースも存在します。
それは、要介護認定に関する説明です。
平時であれば、通常は退院前に要介護認定に関する説明があり、入院中に認定を受けるケースが多いものです。
しかし、コロナ禍では、この重要な過程が難しくなった患者が多かったようです。
そのため、退院はできたものの、デイケアなどの介護保険へのリハビリへ円滑に移行できなかった事例が少なくありません。
緊急時で、やむを得ない側面があったと言え、このような場合も新たなリハビリ難民を作ってしまったのかもしれません。

公的制度にこれ以上期待できない現状

以上のように、様々な原因によるリハビリ難民が、現在も取り残されていると言えます。
リハビリ難民解消への解決策はあるのでしょうか?
残念ながら、公的制度へ期待しても難しいかもしれません。
前述のように、リハビリ難民は、国の財政問題や制度設計の結果生じてしまったとも言えます。
しかし、財政問題に関しては、今のところはこれからもけっして劇的に良い方向へ進むことは無さそうです。
仮に、総理大臣や政権与党が変わっても無理かもしれません。
では、何か手段があるのでしょうか?

発症2年程度までは自費リハを併用する

国に期待できないのは、大変残念なことです。
しかし、だからと言って、早期に機能改善を諦めることは出来るものではありません。
私の立場で、ご提案できることは自費リハビリの利用を検討することです。
自費リハビリは保険外サービスです。
そのため、保険内サービスよりも大幅に費用がかかります。
しかし、考えてみていただきたいのです。
先ほどご説明したように、脳卒中の発症から2〜3年程度は、比較的に改善の可能性が残されています。
しかし、さらに時間が経過すると改善の可能性も小さくなります。

それは、脳の可塑性(かそせい)が時間経過とともに低下するからです。
脳の可塑性とは、脳卒中などでダメージを受けた脳細胞が新たな神経ネットワークを構築して機能を再生するようなことです。
この脳の可塑性は、発症から早いほど活発です。
発症から数年を経過した場合でも、けっして可塑性が無い訳ではありません。
しかし、早ければ早いほど可塑性が高いとも言えます。

個人的には、発症から約半年程度で退院した後、1年から2年程度は自費リハビリを併用することで機能改善の効果が期待できると思います。
もちろん、それ以降も継続しても問題はありません。
ただ、経済的な理由などで長期継続が難しければ、限られた期間内だけでも自費リハビリの併用を検討する価値はあると思います。
もし、ご興味がある場合は、いつでもご相談ください。


リハビリ難民200万人時代|リハビリ難民の定義・実態・解決策


リハビリ難民200万人という衝撃のまとめ

リハビリ難民が、200万人も存在するという報道は大きな衝撃を与えました。
実際に、これに関する本も書かれています。
リハビリ難民が増えつつある背景には、国の政策の問題があると言わざるを得ません。

リハビリ難民200万人時代の現状のまとめ

リハビリ難民には様々なケースが存在します。
中でも、60代以下などの比較的若いケースへの救済は、国家的な課題でもあると考えます。

リハビリ難民200万人時代の解決策とはのまとめ

残念ながら、リハビリ難民問題の解決を公的制度に期待することは難しいかもしれません。
この問題の根底には、国の財政問題があるからです。
対策として、一度ご検討いただきたいのは、自費リハビリの併用です。
発症から2〜3年間程度、自費リハビリの併用を検討することは、大変価値があることだと考えます。

この記事を書いたプロ

永田誠一

脳機能と身体機能の向上へ導くリハビリのプロ

永田誠一(久留米脳梗塞リハビリサービス)

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