【ストーカートラブル】つきまといの加害者と、直接会わずに示談することはできる?

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

この記事は、2026年11月時点のストーカー行為等の規制等に関する法律(2025年12月30日施行の改正を反映)、民法、民事訴訟法、弁護士職務基本規程などに基づいて作成しています。個別の事情によって取れる手段は変わりますので、具体的な判断は弁護士にご相談ください。


「示談の話が出ているが、相手の顔は二度と見たくない」「会わずに済むとしても、住所や電話番号が相手に伝わるのではないか」。つきまといの被害を受けた方からは、示談そのものよりも、示談の進め方について不安の声をお聞きすることが少なくありません。

 結論からいうと、加害者と一度も顔を合わせずに示談を成立させることはできますし、ストーカー事案ではむしろそれが一般的な進め方です。加害者側の弁護士も、本人を被害を受けた方に会わせない方針をとるのが通例です。

 ただ、「会わない」で済ませたいことは、顔を合わせないことだけではないはずです。声を聞かない、文字のやり取りもしない、住所や連絡先を知られない。この記事では、こうした希望を保ったまま示談を最後まで終えるための流れを、話が届く入り口から署名・支払い・その後の連絡まで順に整理します。面会を求められた場合の考え方や、直接話し合うことのリスクは、【ストーカートラブル】相手が弁護士を通じて「会って謝りたい」と言ってきた|面会を断っても謝罪や示談の道は残ると【ストーカートラブル】加害者と直接話し合うのは危険?代わりに誰が話せばいい?で、示談に盛り込む条件の中身は【ストーカートラブル】示談に入れる条件|接触禁止・転居・違約金で解説しています。

会わずに結んだ示談も、効力は変わらない

 示談は、法律上は当事者が互いに譲歩して争いをやめる約束(和解契約)にあたります(民法695条)。合意が成り立つために、当事者が同じ場所に集まることや、対面で署名することは求められていません。書面を郵送でやり取りして署名した示談書も、対面で作ったものと同じように扱われます。

 また、こちらが弁護士に依頼していれば、相手方の弁護士は、正当な理由なくご本人と直接交渉することができません(弁護士職務基本規程52条)。弁護士を窓口にすることで、相手方の弁護士との連絡も含めて、やり取りのすべてをご自身の手から離すことができます。

「会わない」を3つの層に分けて考える

 示談の進め方を考えるときは、守りたいことを次の3つに分けておくと、弁護士と方針を共有しやすくなります。

守りたいこと具体的な中身主な方法
顔を合わせない面会・同席・示談の場への出席をしない書面の郵送や弁護士同士の受け渡しで署名する
直接やり取りしない電話・メッセージ・手紙を本人と交わさない連絡の窓口を代理人の弁護士に一本化する
情報を渡さない住所・電話番号・勤務先・口座を知られない代理人の事務所を連絡先にし、受取口座も代理人の口座にする


 2つ目と3つ目は、進め方によっては途中で崩れることがあります。たとえば、示談金を直接振り込んでもらう約束をすれば、口座の情報から氏名や利用している金融機関が伝わります。以下では、3つの層を最後まで保つための流れを見ていきます。

示談の話がどこから届くか|入り口ごとの流れ


加害者が捜査の対象になっている場合

 加害者が逮捕されている、または捜査を受けている場合、示談の申入れは、多くは加害者の弁護人から届きます。弁護人が被害を受けた方の連絡先を知らないときは、警察や検察官を通じて「連絡先を弁護人に伝えてよいか」と確認が入るのが一般的な流れです。

 このとき、承諾するかどうかはご自身で決められます。承諾する場合でも、伝えるのは電話番号だけにする、加害者本人には伝えないこと(弁護人限りの扱い)を求める、といった条件を付けることが考えられます。すでに弁護士に依頼していれば、ご自身の連絡先ではなく、弁護士の連絡先を伝えてもらう形にできます。逮捕後の連絡の流れは、【ストーカートラブル】ストーカーの加害者が逮捕された後、私に連絡は来る?で整理しています。

刑事手続になっていない場合

 警察に相談していない場合や、相談したものの事件として進んでいない場合は、被害を受けた方の側から、弁護士を通じて接触の中止と損害の賠償を求め、その延長で示談を目指すことになります。弁護士はまず受任通知を送り、今後の連絡は弁護士宛てにするよう求めます。受任通知の働きは、受任通知とは何か|送られると相手方との関係はどう変わるかで解説しています。

 相手に弁護士がついていない場合は、こちらの弁護士が相手本人と書面や電話でやり取りします。ご本人が相手と話す場面は生じません。請求できる損害の考え方は【ストーカートラブル】ストーカー被害の慰謝料|請求できる項目と組み立てで、弁護士の介入で接触が止まった例は【解決事例】元同僚からのストーカー被害|弁護士の介入により付きまといを停止させ解決金100万円を受領した事例で紹介しています。

相手の家族や知人が間に入ってきた場合

 加害者の家族や共通の知人から「本人の代わりに話をしたい」と連絡が来ることもあります。家族からの連絡であっても、その場で示談の条件に答える必要はありません。窓口を弁護士に移す意向だけを伝え、それ以上のやり取りは控えるのが無難です。被害届の取下げを求められた場合は、【ストーカートラブル】相手の家族から被害届を取り下げるよう迫られている|応じる前に考えることと、働きかけを止める順序もご参照ください。

顔を合わせずに示談をまとめる手順


  1. 弁護士に依頼し、連絡の窓口を弁護士に一本化します。
  2. 相手方からの提案を、書面またはメールで受け取ります。
  3. 条件の調整を、弁護士同士または弁護士と相手本人の間で進めます。
  4. 示談書の案を弁護士と確認し、修正を求めたい点を伝えます。
  5. 署名・押印した示談書を、郵送や弁護士同士の受け渡しで交わします。
  6. 示談金を、代理人の弁護士の預り金口座で受け取ります。
  7. 示談書の原本または写しを手元に保管し、その後の連絡の扱いを確認します。


 このうち、とくに「会わない」状態を崩しやすいのは、条件の調整、署名、支払いの3つの場面です。

具体的な条件のない提案には、こちらから条件を示してよい

 相手方の弁護士から「示談の意思があるか」だけを確認され、条件が示されないこともあります。条件は加害者側から示されるのを待つ必要はなく、ご自身の弁護士と整理したうえで、こちらから求める内容を示して交渉を始めることもできます。

署名は郵送や持ち回りで足りる

 示談書は、同じ内容の書面を2通作り、双方が順に署名・押印して1通ずつ保管する「持ち回り」の方法で作ることが多くあります。ご本人の署名は、弁護士の事務所でも、郵送で届いた書面にご自宅で署名して返送する形でもかまいません。

示談金は代理人の口座で受け取る

 加害者側から「弁護士を通さず、直接振り込みたい」と提案されることがあります。しかし、振込先を伝えれば、口座名義から氏名の読み方や利用している金融機関が伝わり、支払いをきっかけに連絡が再開するおそれもあります。代理人の弁護士の預り金口座で受け取り、弁護士からご本人に送金する形にしておけば、こうした情報は相手に渡りません。分割払いにする場合も、受け取りの窓口は同じにしておくことが大切です。

住所や連絡先を伝えずに示談書を作れるか

 示談書には当事者の氏名を記載しますが、被害を受けた方の住所を記載しない形や、代理人の弁護士の事務所の所在地を連絡先として記載する形で作ることも考えられます。加害者側の弁護人が被害を受けた方の氏名や住所を知っている場合でも、本人には伝えないよう約束を求め、その旨を書面で確認しておくと安心です。当事者の表示の考え方は、本名を明かさずに示談できるか|代理人限りでの合意の可否でも触れています。

 示談の後に、約束違反を理由として違約金を求める訴訟などを起こす場合、裁判の書類には原則として当事者の住所を記載します。ただ、住所などが相手に知られることで社会生活に著しい支障が生じるおそれがある場合には、裁判所に申し立てて、住所や氏名を相手に秘匿する決定を求める制度があります(民事訴訟法133条)。示談の段階から、後に裁判の手続を使う可能性も見据えて、住所の扱いを弁護士と決めておくことが大切です。

会わない状態を示談の後も保つための約束

 示談の後も「会わない」状態を保つために、とくに書面に残しておきたい約束は次のとおりです。

  • 被害を受けた方本人、その家族、勤務先に、直接・間接を問わず連絡や接触をしないこと。
  • 今後の連絡が必要になった場合は、代理人の弁護士を通じてのみ行うこと。
  • 住所や勤務先などを調べないこと、第三者に調べさせないこと。
  • 約束に反した場合の違約金の定め。


 注意したいのは、示談書に書いた約束は、あくまで当事者間の民事上の約束だという点です。違反があっても、それだけで相手が逮捕されるわけではありません。違約金を請求できるほか、違反の内容によっては、警察に申し出て警告や禁止命令を求めることになります(ストーカー規制法4条、5条)。示談書の約束と警察の手続は、別の仕組みとして並んでいると考えておくと整理しやすくなります。

 加害者側から「今後、警察には申し出ない」といった条項を求められることもあります。示談の後に行為が再び始まったときに身を守る手段を狭めるおそれがあるため、入れるかどうかは慎重に検討します。約束が破られた場合の対応は、【ストーカートラブル】示談した後に相手が約束を破った|違約金と刑事手続の両面で解説しています。

刑事手続との関係で決めておくこと

 加害者側が示談を求める理由の一つは、不起訴などの処分に向けて、被害を受けた方の意向を検察官に示したいという点にあります。そのため、示談書の案には「加害者を許し、処罰を求めない」という趣旨の条項(宥恕条項)や、被害届を取り下げる旨の条項が入っていることがよくあります。

 こうした条項を入れるかどうかは、示談金の額とは別に判断してよい事柄です。金銭の支払いと接触禁止の約束だけを定め、処罰についての意向は示さない形の示談もあり得ます。示談書の写しは加害者側の弁護人が検察官に提出するのが一般的で、被害を受けた方が検察庁や警察署に出向いて示談を報告する必要は、多くの場合ありません。

ご自身は弁護士を立てずに、相手の弁護士とやり取りする場合

 加害者側に弁護士がついていて、ご自身は弁護士に依頼せずに示談に応じたいという方もいます。弁護士を立てることは義務ではなく、相手方の弁護士と直接やり取りして示談を結ぶこともできます。

 その場合は、相手方の弁護士が加害者の代理人であり、中立の立場ではないことを前提にしておく必要があります。連絡手段を書面やメールに限る、ご自身の住所は伝えない、示談書の案はその場で署名せず持ち帰って確認する、示談金の受け取り方を確かめる、といった点を意識しておくと、「会わない」状態を保ちやすくなります。相手方の弁護士との話し方は、【ストーカートラブル】相手に弁護士がついた|相手方の代理人との話し方で解説しています。

よくあるご質問


一度も会わずに結んだ示談は、効力が弱くなりませんか?

 対面で結んだかどうかによって、示談の効力が変わることはありません。効力を左右するのは、条項の書き方や、約束に反した場合の取り決めが具体的に定められているかどうかです。

相手に弁護士がついておらず、本人が「直接会わなければ示談しない」と言っています

 会うことを示談の条件にされても、応じる義務はありません。会うことを繰り返し求める連絡そのものが、つきまとい等にあたることもあります(ストーカー規制法2条1項3号)。こちらの弁護士が書面で条件を伝え、相手が応じなければ示談が成立しないこともありますが、その場合でも、警察による警告・禁止命令や、裁判所の接近禁止の仮処分といった、相手の同意がなくても使える手段があります。使い分けは接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで解説しています。

示談が成立した後に、相手から謝罪やお礼の連絡が来たらどうすればよいですか?

 返信はせず、届いた日時と内容が分かる形で記録を残し、代理人の弁護士に伝えてください。示談書に直接の連絡をしない約束を定めていれば、その約束に反する行為にあたる可能性があります。

まとめ


  • 加害者と一度も顔を合わせずに示談を結ぶことはでき、ストーカー事案では一般的な進め方です。
  • 「会わない」は、顔を合わせない、直接やり取りしない、情報を渡さないの3つに分けて考えると、守りたい範囲を弁護士と共有しやすくなります。
  • 捜査中であれば、示談の話は加害者の弁護人から警察や検察官を通じて届くことが多く、連絡先を伝えるかどうかはご自身で決められます。
  • 署名は郵送や持ち回りで足り、示談金を代理人の口座で受け取ることで、住所や口座の情報を渡さずに済みます。
  • 示談書の約束は民事上のもので、警察による警告や禁止命令とは別の仕組みです。
  • 宥恕や被害届の取下げを入れるかどうかは、示談金の額とは別に判断できます。


 示談は相手と向き合う手続のように感じられるかもしれませんが、進め方を選べば、ご自身は一度も相手と接することなく終えることができます。示談の申入れが届いた段階でも、こちらから示談を求めたいと考えた段階でも、まずは何を守りたいかを整理するところから始めてみてください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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